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決戦準備③ 勇者が共闘を申し出てきた

 壮五をとがめる男の声を聞きつけ、周辺を行き来していた村人が集まってきた。


 ここにいるのはレンが調達してきた作業員だけではない。

 古城近くの村を追いやられ、ここで生活・作業してる者も多数いる。


 当然彼らは、勇者壮五がみなを見捨て逃亡したのを忘れているわけがなかった。


「この! ニセ勇者がなんの用だ!」


「ニセって! なに言ってやがる!

 どこからどう見ても、俺が本物の勇者だろうが!」


「うるせえ! 本物の勇者が村を見捨てて逃げるわけねーだろ!」


「あ、あれは逃げたんじゃねえ! 戦略的撤退をしただけだ!

 脳みそのカケラもねえクズゴミどもは黙ってやがれ!」


「知るか! てめえこそ黙りやがれ!

 王都では脳筋って言われて笑われていただろうが!」


「わたしたちにとっては、みんなが避難するまでたった数人で耐えてくれた……。

 全員を助けてくれたシュウさんこそがホントの勇者様よ!!!」


「なんだと!!!!!!?

 よりにもよって、この寄生虫野郎を勇者――」


「は? 寄生……チュウ?

 ひょっとしてシュウさんのことを言ってるのか?」


「知ってるぜ? こいつ結局、王都を追い出されたんだろ?

 今度はレンさん頼りにこの村へきたのか?」


「なんだよ、だったらお前こそ寄生虫じゃないか。

 勇者壮五」


「お、お、お、俺を、俺を寄生虫っ、だと!?

 こ、この、テメエ!!!! テメ――」


「そうだそうだ! ニセモノは王都にでも帰っちまえ!!!!」


「帰れ帰れ! 脳筋寄生チュウ野郎!」


 それから1人が帰れコールを発すると、それに村人が次々に続き。

 辺りは『帰れ』と『ニセ勇者』のコールが交互に満ちる。


 それを聞きつけ他の村人が集まり、コールが膨らんでいく。


「……クソが!!!」


 ヤバい。

 声にとてつもない殺気がこもっているのがわかる。


 もし奴がここでキレて暴れだせば。

 奴の力なら村人全員を血祭りにあげることも可能。


 オレはそれを警戒して構える。

 ないとは思うが、それでも頭に血が上るとなにをしでかすかわからない。


「……てめえらなんぞに構ってられるか」


 だが奴はオレたちに背を向け、逃げるように街道のほうへと歩き始めた。


 そして一瞬こちらを向く。

 奴の視線は『ついてこい』と言ってるように思えた。


 無視してもよかったが、確か奴は筆頭審問官の使いで来たんだよな。

 だったら話は聞いとかないとマズいか。


 ひょっとしたら、オレを一人にしたところで葬るつもりかもしれないけど……。


 いや、そのつもりなら人気のないところに誘うまでもないだろう。

 でもレンに見られたくないというのはあるかもか……。


 まあいいや。

 今なら、襲ってきてもどうとでもなるだろう。




「ったく、ゴミクズ同士が仲良くつるみやがって!

 冗談じゃないぜ!」


 村から街道へ出る丁字路まできて、勇者壮五は言葉をぶちまけた。


 口調こそいつもの調子だけど、奴にしては随分と弱いトーンだ。

 二人になったら、途端にオレを罵倒してくると思ったが……。


「……まあ、あんな連中に構っていても仕方がねえ。

 今は魔王だ。テメエもそれはわかってるだろ?」


 奴にしては、かなり真っ当な言葉が出てきて。

 正直、ちょっと驚いた。


「まあ、オレとテメエの間には今まで色々とあった。

 だが俺はテメエの行為なんざ水に流して忘れる。大事の前の小事ってやつだ。

 テメエに、俺のように大人になれ、とは言わないがな」


 ……いや、今までお前が一方的にガキみたいに突っかかってきていただけだろ。

 とは思ったが、敢えて黙って聞いてやる。


「だがテメエにとって、今は魔王を討伐してお姫様を救うのが最優先のはずだ。

 その点で俺とテメエは組めるはずだ、違うか?」


 一瞬、なにを言ってるのか理解が追いつかなかった。

 まさか、コイツがこんなことを口にするとは。


 奴が理性的に考えて共闘を申し出てくる可能性はあるかとは考えてた。

 けどオレと一緒に戦うなんて、口が裂けても言わないとも思ってたが……。


 正直、ここまでくると不気味だ。


「おやおや、お前にしては珍しいじゃないか。

 どっかに頭でもぶつけたか? それとも、筆頭審問官の思惑か?」

 

「うるせえ!!! このき──

 ……ホント、気に障ることしか言わねえな!!!!

 ただ俺は! あのクソ魔王を倒してえって、ただそれだけだ!!!

 でなければ、だれがテメエなんぞと!!!」


「まあ、そうだろうな。

 だけどいいよ、わかった。共闘しようじゃないか」


「ホントか!? まあ、断るわけねーよな!

 この俺様がお前の魔王討伐に協力してやるんだから、感謝しろよ!」


 正直、リスクのほうが大きいと思ってた。


 断れるなら断りたい。

 だが筆頭審問官が関わってるとなるとむげにもできない。


 それに、コイツの動勢がある程度わかるようにしておきたい、とも思ってた。


「ただ、今さらオレや龍介のパーティーに加えることはできない。

 お前とオレたちの力量差を考えれば連携もむずかしいだろうしな。

 お前はお前で単独で行動してくれ。

 なにか必要なものがあったら、こよりにでも言ってもらって構わない」


 村に居られるものならな――、という言葉は飲み込む。


「ああ、十分だ! それで構わないぜ! へへ、まあ、俺様に任せておけよ!

 一人でも倒そうと思えば倒せるんだからよ!」


 そう言いながら、奴はこんどこそ街道を下っていった。



 ……それにしても、なにを企んでるのかね。

 勇者壮五は。


 少なくとも、言葉通りのことを考えてるわけじゃないだろうな。



 振り返る直前、奴が一瞬見せた表情。


 それは学園に在籍していたとき、オレだけの前で何度も見せたもの。


 口元にわずかに浮かぶ、あざけりの笑み。

 

 オレでなきゃ、見逃しちゃうね。





「ねえ、結局、魔王討伐っていつ始める予定なの? シュウにい」


 義手Ver.βの最終調整をしている最中、こよりがそんなことを聞いてきた。


「そうだな、龍脈のシステムと義手の完成がどれくらいになるか、それ次第かな。

 勇者の遺産が見つかれば完璧だけど……。

 魔導砲は大体一ヶ月弱として……、義手がものになるのはどの辺りになる?」


「そうだね……。

 とりあえず、義手の機能実装が終わるのは魔導砲完成と同時期だと思う。

 けど、使いこなせるようになるのはだいぶ先になるんじゃないかな……。

 Ver.αの慣れ具合から考えると、半年くらいかかりそうな感じだけど……」


 判断の難しいところだ。


 例えばプランとしては

 『Wikiの情報で全員の戦闘力の底上げを行った上で作戦開始』

 というのもありではある。


 てか龍介パーティーには既に特訓を始めてもらっている。

 戦士系の2人には悠里との模擬戦にも参加してもらってもいた。


 成果はまずまずと言ったところ。

 ステータスの上では圧倒している悠里を、上手くさばけるようになってる。


 状況としては悠里vsバルドクルツのときと同じ構図。

 龍介たちはバトルスキルで、悠里はステータスの高さで拮抗。

 お互い攻撃をあてることができない感じ。


 それも、レベルが上がってくれば龍介たちが圧倒的に有利になるだろう。

 1年もあれば、龍介なら戦士としてのレベルもカンストできるはずである。

 そうなれば、今の勇者かそれ以上の戦力になっているはず。


 とはいえ仮にカンストした龍介やオレや悠里だけで魔王に挑んでも勝てない。

 龍脈の力を借りることは、どうあれ作戦の上で必須。

 この村を破壊されれば全てが終わるのだ。


 どこかのタイミングで村のことを感づかれる可能性は織り込み済みではある。

 だとしても、できる限り敵に準備の時間を与えず作戦を実行したいところ。


 気づかれないうちにできるだけ早い時期、決戦に挑むか。

 時間をかけて準備を整え、魔王を仕留める確率を上げて臨むか。


 どちらにもメリットとデメリットがある。


 ホントは完全に勇者を頭数に入れられればなあ。

 だけどそれは色々な意味であまりに危険だろうし……。




 こよりを奪還してアジトに戻ってから、2か月ほどが経過した。


 村としては主要な施設は整い、残ったところの工事もかなりすすんでいる。

 そして少し早いが既に旅人の受け入れをはじめていた。


 客足はけっこう好調。

 この街道を通って隣の町まで行く人々は大抵ここへ立ち寄り一泊。

 そしてここを発ち、再び街を目指すようになっている。


 事業として考えれば元を取れるようになるのはかなり先のことになるだろう。

 それでもまあスターティングとして期待が持てる展開って言えるにちがいない。


 そして今日、村人がいつもよりせわしなく動いている。

 ロナルド卿とマーガレット嬢がこの村にやってくるからだ。


 まあ、ホントはこっちから解呪のアイテムを送ってやれば済む話。

 それがマーガレット嬢たっての希望で、直接取りにくることになったのである。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] コレと共闘……? 魔王との戦いで足引っ張って姫をあんな目に遭わせて、話をここまで拗らせた原因だと記憶してましたけど違ったかな? 村人に気まぐれに危害加えるリスクもあるのに? [一言] …
2022/12/12 08:17 退会済み
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