バルドクルツ戦⑥ こよりがホントに恐れていたこと
こよりのピンチに現れたのは悠里だった。
飛んできたバルドクルツをかわし、急いでこよりの側に駆け寄った。
てか、なんでこっちに蹴ってくるんだ。
「ちぇっ、そっちで攻撃できるように飛ばしたのに」
あ、言われてみれば。
とっさのことで反応できなかった。
てか、
「お前! 一体なんでここに!?」
「助けを求める心の声が聞こえた」
「アホか」
「悠里ねえ!?
今の! ダイバーキックってなに!? なに!? なんかの必殺技!?」
早々に立ち直ったこよりがさっそく問い詰めたのがそこ。
いや、らしいといえばらしいけど。
「まあね。ほら、わたしの苗字、『台場』でしょ?
だからそれにかけて」
アホだ。
ちなみにケリをとっさに鑑定して視た限りあれは必殺技でもなんでもない。
ステータス頼りで力一杯喰らわせただけの、タダの跳び蹴りだ。
それにしても、ずいぶんと農民の加護のレベルが上がったな。
てか、もうカンスト間近じゃないか。
「……色々聞きたいことはあるけど、とりあえず助かった。
ありがとな」
どうあれ、ホントありがたい。
こよりのこともそうだし、なにより奴との戦い方の幅も広がる。
「よし、こうなったらとっとと2体をたおしてずらかろう。
他の転生者がこないとも限らない」
「いや、大丈夫じゃないかな。
王都に入るとき、わらわらとみんな寄ってきたから全員ぶちのめしちゃった。
それにしてもずいぶん強くなったよね、わたし。
もう、壮五と龍介とシュウ以外になら余裕で勝てるよ」
「ぶちのめしたって……。
! まさかあの城壁が破壊されたのって」
「うん。
門から入ったら、門番の人の立場が悪くなっちゃうからね」
『私よりもっと適役者が"現れた"ので、そちらに任せることにしました』
筆頭審問官が言ってたのはそういうことか。
「でも結界は?
なにか透明な壁みたいなものに阻まれなかったのか?」
「? そんなのあったかな?
少し迷ったけど、大きな音のする方へ向かったらすぐに来れたよ?」
改めて周りを確認したが、結界は未だに張られたままだ。
外からは自由に入れるのだろうか……。
「それで指令。
わたしにできること、ある?」
いや、そこはせめて参謀って言ってくれよ。
「……まあいいや。オレはこよりと作戦会議するから。
お前がさっき跳び蹴りを食らわせた奴を抑えて、少し時間を稼いでくれ。
ちなみに、奴の剣はどんなモノでも切断する剣だから。
下手に受けようとするなよ?」
「了解」
悠里は返事をすると、立ち上がろうとするバルドクルツに向けて歩を進めた。
「で、こより。
なにか渡すものがあるんだろ?」
「あ! うん!」
こよりは背負ってたカバンみたいなものをおろし、そのままオレに差し出す。
持ってみるとそこそこ重い。
中を覗き込むと、そこには大きめの神鋼製の盾が入ってた。
鑑定してみるが、結構なレアリティだ。
なにか魔力を充填して発動させるようなものっぽいけど。
……いや! こいつは、まさか!
「これ――」
「シュウにい! ゴメン!」
オレが盾のことを聞く間もなく、こよりがオレに頭を下げてきた。
「あたし、やっぱり怖がってたんだ!
でもそれは、バルドクルツにじゃなくて――」
「ああ、わかってるよ。戦いが怖かったんじゃないんだよな。
自分が加わって足を引っ張って、オレたちが傷つくのが怖かったんだろ?」
先代勇者の最後の戦い。
勇者に付き添っていた少女が、役に立つこともできず。
それどころか戦いが終わり、負傷した彼の文字通り重荷になってしまった。
多分、その記憶が影響を及ぼしてこよりにブレーキをかけてるんだろう。
実際のところ、彼女が邪魔になったのかどうかはわからない。
仮に戦いに参加できたところで、あの惨劇を防ぐことはできなかっただろう。
いや、むしろ彼女をかばうために苦戦、敗北したかもしれない。
戦いが終わったあとだって、どっちみち勇者は普通に動ける状況ではなかった。
むしろ彼女が心の支えになって彼は聖地までたどり着けたのかもしれない。
結局どうなっていたかなんて、誰にもわからないんだ。
だいたい行動が裏目にでて周りに迷惑をかけるなんて、オレもよくやらかす。
きっと、お互い様ってことなんだろう。
そう言ってやりたいけど、どう言葉にすれば――
「ボクのために動いてくれたことを邪魔に思うなんて、そんなことはないさ。
ボク自身がどうなったとしてもね」
オレの言葉じゃなかった。
考えがまとまらないうちに、ひとりでに出た言葉だった。
もし先代勇者が生きていたら、多分そんなことを言うんだろう……。
「とにかく、キミがいて、ボクはいつも助かっていた。
そういうことさ」
そういって、ポンポン、と手のひらで軽く頭を叩いてやる。
こよりが、まるで褒められたときのように目を細めニッコリ笑う。
目からは涙があふれていた。
オレはこよりから受け取った盾の入ったカバンを背負った。
こよりが託してくれたこの武具。
魔力を込めることによって発動する物らしい。
盾自体は直接アイツにダメージを与えるような代物じゃない。
とはいえ、あの宝石剣を防げるだけでもより大胆な攻めが可能になるだろう。
それに、この盾にはそれ以上に重要なポイントがある。
でもコイツ、かなりの魔力が必要になりそうだな。
戦ってる間に指輪と同じ要領でチャージするしかなさそうだ。
とりあえず、バルドクルツと悠里が戦っている方へ足を進める。
宝石剣で切りつけるバルドクルツ。
大鎌を振りかざす悠里。
両者が激しい接戦を繰り広げている。
戦況はほぼ互角。
一発当たればそこで終わり、そういうお互いの攻撃。
それをバルドクルツは技量、悠里はステータスの高さでかわしてる。
だけど、バルドクルツは持久戦を決め込んでるようだ。
その攻めや守りには、まだ余裕があるように見える
オレは覚悟を決めた。
素速くバルドクルツの背後へと回り込むと、神鋼翼を延ばし奴を突く。
奴は大きく動き、それをかわした。
その動きに違和感を覚える。
それの正体はすぐにわかった。
伸ばした先に、勢い余った悠里が奴と入れ替わるように飛び込んできたのだ。
同士討ちを狙ってたのか!
延ばした神鋼翼は止まらない。
それが悠里の身体を貫く――
なんてことにはならなかった。
ヒットした神鋼翼の尖端はまるでゴムのようにぐにゃりと曲がる。
悠里の身体には傷一つ付かない。
この情景を見て目を見開くバルドクルツ。
けど、驚いてる場合じゃないんだぜ、お前。
悠里は大鎌を片手に持ち替え、払うように振りだしていた。
その弧先は、バルドクルツの胴体を捕らえていた。
これはかわせないはず。
だけど、奴は人間ではありえない身体の曲げ方をした。
そんな予期しない動きで、悠里の攻撃はギリギリでかわされてしまう。
こちらが追い打ちをかける間もなく、バルドクルツはそのまま距離を取った。
惜しい。
人なら死んでた。
「そこまでの連携、他の転生者では見たことがない。
これは賞賛するしかないね」
バルドクルツが語りかけてくる。
だけど、別に連携なんてそんなもんじゃない。
アジトでの訓練中、悠里にはとにかく好きにやるようあらかじめ言ってあった。
オレはそんな彼女の動きを先読みしながら実際の流れに合わせて調整する。
それだけの話だ。
「こうなったら、僕も本気を出さないといけないね」
賞賛に続いて、バルドクルツがありがちな言葉を吐いた。
てか、まだ手があるのかよ。
奴は腰にぶら下げているもう1本の剣を抜き、宝石剣と同時に構える。
予備の剣だと思ってたが、まさかの2刀流。
その有効性については色々、特に懐疑的なニュアンスで多く語られている。
けど魔物の使うそれが、人が使うものと同じものだと断じる理由はない。
それに、
「気をつけて、シュウ。
あの2本、長さが微妙に違うよ」
「わかってる。
鑑定士にそんな心配、するだけムダだって」
宝石剣の間合いに慣れ、ギリギリ避けてるところにもう片方の剣で切り込む。
おそらく、そんなことを考えてるんだろう。ホントに面倒な相手だ。
有利に運ぶかと思った戦いは、思ったようにはいかなかった。
一人のときのように逃げ一方という展開にはなってない。
だけど、攻め手を欠くという状況はそのまんま。
そもそも洋剣を二本ぶん回すなんていうのが人間技じゃない。魔物だけど。
しかも人の形をしていながら、人ではありえない角度に腕が曲がる。
「ふふふ、大丈夫かな?
君たち人間には『疲れ』というものがあるんだろ?
僕らには無縁だけどね」
信じられない、てかハッタリか?
でも、それを当てにして持久戦を行うのもリスキーだろうな。
どっちにしても、長期戦が望ましくないのはその通り。
そろそろ準備もできたし、いよいよ賭けに――
「ボッとしてないでよ、シュウ!
なにか策は……」
バカ、集中しろ!
悠里にそう声をかける間もなく。
バルドクルツがバックステップを踏んだかと思うと、彼女に突貫してきた。
奴の剣先は悠里の胴を捕らえてる。
だが、それは悠里もわかってたようだ。
バルドクルツの剣を、大鎌の柄で横から叩く。
その勢いのまま刃の向きを変えながら、身体を一回転。
突っ込んできたバルドクルツを、今度は大鎌の刃が捕らえた。
悠里! やりやがった!
これは奴も――
そう思った矢先、そのバルドクルツの身体が、ブレて消える。
『マスター! 後ろです!』
まるで転移したかのように。
オレの斜め後ろ、そして悠里の真後ろにバルドクルツの姿があった。
迂闊すぎだ!
こんな自分にめまいがする。
瞬間転移みたいな技、先代勇者との戦いでも使ってたじゃないか!
オレはタイムストップの指輪のスローモードで、奴の動きを捕らえる。
だけど悠里は気づいてなかった。反応する様子がない。
とっさにオレは回転の指輪で自分を吹っ飛ばし、悠里と奴の間に割って入る。
だが、神鋼翼で奴の攻撃を受けるのが精一杯。それ以上の手が打てない。
神鋼翼を切り裂く、奴の宝石剣。
さっきまでの光景が走馬灯のように脳裏に次々浮かぶ。
このままなら、間もなくその剣筋がオレの身体を真っ二つにするだろう。
だとしても。
悠里がこんな状況なのだ。オレが奴の前に出るしかないだろ。
こんなチャンス。
逃すわけにはいかない。
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