表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/174

バルドクルツ戦⑤ ダイバーキック

 視界のどこにも、こよりの姿は見当たらない。


 オレはタイムストップの指輪を発動させた。


『マルチナ! こよりはどうした!?』


『彼女は、かなり前にここから離れています。筆頭審問官も一緒です。

 切羽詰まった状況でしたので、報告はあとでするつもりでした』


『そのときの彼女の様子は?』


『様子、ですか?

 少なくとも、逃げ出した感じではなかったように見えました。

 かなり引き締まった表情をしていたような気がします』


『そうか……わかった。

 とにかく、さらわれたんじゃないならいいか……』


 筆頭審問官がどう出るか。

 一抹の不安はあるけど、この場は信じるしかない。


 それに引き締まった表情、というのはなにか考えがあるんだろうか。

 状況判断してこの場から離れたのか、それともなにか秘策でも……。



 考えても仕方がない。

 今は戦いに集中するか。


 それにしてもホント、思ってた以上に相性の悪い相手だ。

 てか、今まで神鋼翼に頼りすぎてた。


 一応斬撃への対策はしていたつもりだったのに。

 翼の攻撃が効かないと、こうも打つ手がなくなるとは……。


 それでも、やつの攻撃はなんとかかわせる。

 それはいいけど、正直それだけじゃあどん尻だ。


 建物の中に誘い込んで、魔王戦でつかったあの爆発をつかうか……。

 いや現状、周りに住人が残ってない保証がない。


 『シロの中のシロ』を使うには、もう少し体力を削らないと。

 今のままでは奴の動きを抑えきるのは難しそうだ。

 

『マスター、提案します。

 未完成ではありますが――』 


『? ……ああ! あれか!?

 アレはまだ……』


 もともとバルドクルツの斬撃は回転の指輪で対応することを考えてた。

 けど、破られたときの想定もしてあったわけで。


 実際は間に合わなかったけど……。



 タイムストップの指輪の効力が切れる。


 けど、打つ手は定められないまま。

 オレは動き出すことができない。


「ぼうっとしているとは!

 わたしも見くびられたモノだね!」


 バルドクルツがこちらに詰め寄ってくる。

 未完成、とか言ってる場合じゃないな。


 オレは避けながら、右手の平に黒い魔法物質の球を生成する。


「黒の中の黒かい?

 もうそれは見切ってるんだけど?」


「だけど、これは体験してないだろ」


 オレはその黒い球体をおもむろに奴に向けて投げた。

 敢えてゆっくり。


 一瞬、魔王の雷撃の件を思い出したのだろう。

 奴は警戒心もあらわに動きを止める。

 そして、その球体から距離を取るようにうしろに飛び退いた。


 だけどその球体は、吸い込まれるようにバルドクルツを追尾。


 奴は観念するように動きを止めると、その黒い球体を横薙ぎに切り裂く――

 ことはできなかった。


 刃が触れた瞬間、その球体はまるでスライムのようにぐねぐねとうねる。

 そして宝石剣に絡まった。


 奴はそれを振り払うように剣を空振る。

 だけど、まとわりついた黒い魔法物質はうねるだけで剣から剥がれない。


「煩わしいね。

 だけど、だからどうしたの?

 このまま切れば――」


 そう言いながら、道路に刺さっていた杭を切り裂こうとする。

 だが、刃は表面に食い込んだところで止まってしまった。


 まとわりついた粘性の魔法物質。

 それがクッションの役目を果たし、著しく切れ味を落としているのだ。


「なるほど、キミらしい攻撃だね」


 硬いものはたやすく切れても、水や舞い散る木の葉を切り裂くことは難しい。


 よく漫画などで出てくるモチーフである。

 まあフィクションだったら特訓して滝などを切れるようになったりするけど。

 実際はムリなわけで。


 そのあたりを参考に生成したのが、この粘性の魔法物質。


 正直、ぶっつけ本番だ。

 いまのところ、液体の粘度とか調整が必要なシロモノだった。


 だけど思い切って使ってよかった。

 これで奴の宝石剣を無力化――


「だけど、僕の剣速にどこまで付いてこれるかな?」


 奴は突然、連続した高速突きを前方に繰り出す。

 オレは完全に間合いの外にいる。

 意味がないとしか思えない行為。


 だけど無意味じゃなかった。

 剣にまとわりつく魔法物質が大きく揺れ、いまにも剥がれそうになっている。


 ヤバい、このままだとせっかく無効化したのに無駄になりかねない。

 とにかく剥がされる前になんとか――。


 そう思い構えた矢先。

 眺望の指輪によって拡張されたオレの視界が、真横に人の姿を捕らえる。


 こよりが戻ってきていた。



 おい、避難したんじゃなかったのか!?


 そう怒鳴りたかった。

 けど、それをすればバルドクルツやバルドロールに気づかれるかもしれない。


『マスター。こより嬢は貴方になにか伝えようとしてるように見えます』


 マルチナがオレに指摘する。


 よく見ると、こよりが声をださずに口だけをぱくぱくと動かしてるようだ。

 彼女は、オレが唇を鑑定して読唇術みたいなことができるのを知ってたはず。


 『……こっ ち へ き て。 わ た し た い も の が あ る の……』


 どうやら、なにかをオレに渡したいらしい。


 なんだ? なにかあるのか?

 バルドクルツをなんとかできるような物が。


 確かにこよりなら、奴に対抗できるなにかをすでに作ってても不思議じゃない。

 でもだったら、戦いの前に渡してくれても良さそうなもんだと思うが……。


 なんにしても、今はそれを頼るしかない。


 彼女の側に寄るのはリスキーだが――


「ふふふ、絶好のチャンスを逃すなんて、君らしくないね。

 それとも、それもなにかの策略なのかな?」


 見ると、奴の剣にまとわりついていた魔法物質はすでに全て剥がれていた。

 素の剣身がさらされてる。


「さてね」


 単なる強がり。

 策略なわけはなかった。


 奴が魔法物質を振り払っている間になにかできたかもしれないけど……。


 まあ今は、こよりとコンタクトが取れただけで良しと考える。

 とりあえず、希望は出てきた。


 けど、今安易にこよりに近づくと、こよりを危険な目にあわせかねない。

 どうするか……。


『わたしが受け取ってきます! 勇者さま!』


 リタ!?

 じゃない、マルチナか。


 ポンと、ちびリタが出現して、とてとてとこよりに向かって走り始める。

 その身体に色はついておらず、光を透過する迷彩状態。


 しかし、なにゆえちびリタバージョン?


 とにかく、


「今度はこちらから行かせて貰うぜ!」

 

 オレはバルドクルツに向かってつっこむ。


 ちびリタは見えにくくなっているが、それでも完全な透明じゃない。

 こよりからなにか受け取るまで、気を引くのが今のオレの役目。


 オレは黒い魔法物質の球体を再び出して投げつける。

 これまでの間に、マルチナが裏で生成していたものだ。


「二度も受けると思う……。

 !?」


 バルドクルツは危険を感じたのか、バックステップ後に大きく宙に跳ね上がる。


 奴がさっきまで立ってた路面が、黒い物体から伸びた棘によって砕かれた。

 投げたのは剣を封じる粘液じゃなくて『黒の中の黒』。


 それにしても惜しい。

 粘液と思ってバックステップで避けてれば、奴を貫けるところだったのに……。


 大きく避けたのは感か、それとも、なにかの気配をとらえたのか。

 粘液も黒の中の黒も見た目は同じ黒い塊なのに。

 奴はやっぱり厄介だ。


 だけど今はそれで十分。

 オレは跳ね上がった奴に向けて、黒化した神鋼翼を棘状に延ばす。


 これでホントに貫ければいうことないが、難しいのはわかってる。

 とにかく今は、相手をこっちに集中させつつ時間を稼ぐ。


 敵に攻撃を当てながら、こよりのほうを探ってみた。

 ちびリタが、かなり接近してる。

 これなら――


「やっぱり、そっちのほうが面白そうかな」


 バルドクルツの言葉を理解するその前に、奴がオレの視界から一瞬消え。


 次に奴を真横の視界に捕らえたとき、その刃はちびリタを貫いていた。

 ほぼ透明だったその身体が魔法物質特有の白色に濁り、霧散して消える。


「リタ!!!!!!!!!!」


『心配いりません。あれは仮の体ですから。

 ですけど……』


 そうだった。

 あくまで本体はこっちのマルチナだった。


「こより嬢が戻ってきていたのはわかってたよ。

 でもまあ、とりあえず放置して大丈夫だと思ってたんだけどね。

 なにかが彼女に近づいていたから、ちょっと興味が湧いてさ」


 こよりはその場で腰を抜かしており、もはや動けない。

 それどころか、呼吸すらできていないかもしれない。


「わざわざ戻ってきたっていうのは、きっとなにか逆転の秘策でもあるのかな?」

 

 最悪だ。


「だとしたら、こよりクン。ここで君を始末しないといけなくなるけど」


 避けたかった、恐れていた事態。


 奴がこよりに手を伸ばす。

 

 鑑定で闘気を込めているのが見て取れる。


 アレに触れたらこよりはタダでは済まない。


 とっさに黒翼を延ばし、奴の腕めがけて集中させる。


 わかってる。ギリギリ届かない。それでも、オレは、ボクは――






「だぁーーいーーぶぁーーーーきぃーーーーーっ、くっ!!!!!!!!!!!」






 バルドクルツの手がこよりに届く直前。


 場違いな絶叫と共に何者かが飛来し。

 奴に横から跳び蹴りを食らわせて、オレの方へと吹っ飛ばす。


 その跳び蹴りの主は、悠里だった。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


もし、


・面白かった!

・続きが気になる!

・更新がんばって!

・応援するよ!


と思われた方


よろしければ

広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。


すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、

感じたままでかまいません。


また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ