バルドクルツ戦④ 有明こよりという少女
※有明こより視点
小さな頃は『自分が周りから浮いている』と自覚できる程度に頭がよかった。
同年齢の子のやってる幼稚な遊びに混ざるのが、ホント退屈で苦しくて。
だから一人家にいたり、図書館で本を読んでいたりすることが多くなった。
でも、それ以外は普通に学校に通い、普通に学校生活を送る。
そんな、普通の女子だったわけで。
ただ一つ、他の女子と違っていたのは。
その父がとんでもないオタクだったところ。
母は早くに亡くなり、父は仕事が忙しくほとんど家にいない。
そんな孤独なあたしを思いやってか。
あたしの部屋の棚には父が買って、勝手に置いていったブツがならぶ。
それは子供向けのオモチャ、漫画、アニメBD、ゲームソフト等々。
あたしの部屋の棚にはその手のグッズがところせましと並んでいる。
ゲーム機まで一通り揃っている。
それは娘のためを思って、なんてレベルを遙かに超えたラインナップで。
最初は拗ねてまったく手を付けなかった。
けど、一度気紛れで見てみたらもう止まらない。
そのうち、棚に並べられるラインナップはさらにコアになっていった。
あたしが夢中になり出しているのを察したにちがいない。
それらのアイテムは今思い返しても涎物の宝の山。
こうして、まんまと英才教育をほどこされてしまったってわけ。
でも、それだけじゃない。
それらのコンテンツは一見なんでもありのように見えて。
父の趣味がちょっと垣間見えて。
めったに見ない父と実際に会話してるような。
あたしにとって作品鑑賞してると、そんな気分になったんだ。
そんなわけで元の世界は寂しかったわけでもつまらなかったわけでもない。
けど、やっぱり多くの名作を知ってしまうと誰かに語りたくなるもの。
それができないのが残念、とか思ってたくらい。
転生する直前、向こうの世界でなにがあったのか。
正直あまりおぼえていない。
ていうか、転生した直後は記憶を失ってた。
それでも少しずつ前の世界のことを思い出してきて。
自分が転生したことを理解して。
けど、どうにも『ファンタジーの世界に来た』っていう感動は湧かなくて。
だからか、他の転生者たちの気持ちに共感できなかった。
いまだに『元の世界に帰ろう』とも『この世界を楽しもう』とも思えない。
ただ、自分に『鍛冶士の加護』がついたというのは面白く感じた。
それで、数々のプラモとかフィギュアとかを再現してみたりして。
そうしてると地に足がついているような感じがして、のめりこんだ。
シュウにいを見かけたのは、そんなとき。
最初見たときは、
『ああ、もうちょっと髪の毛を整えたら男の娘っぽくなるかな』
って、そんな印象。
でも、シュウにいの言葉の端々から、なんていうか、同類?
そういう臭いを感じて。
だって、
『歯車には歯車の意地がある』とか
『Anotherなら死んでた』とか
『ふざけろ! 正義なんて言葉、チャラチャラ口にするな!』とか
普通にさらりと出てこないよね!?
チョイスも若干うしろ向きで、オタっぽい。
気がつくと、こっそりあとをつけるようになっていた。
だって、前の世界ではオタトークできる友達なんていなかったもん。
あの感じだと、多分ゲームはレトロ系を中心にかなりやりこんでるんだろうな。
アニメは色々見てるのかな。結構見境ない。まるで父みたい。
ある日、シュウにいが近々学園を退学する話を聞いた。
冗談じゃないよ! せっかく捕まえられそうな同類だったのに。
シュウにいが御前試合とかに参加することになった、なんて話も聞いた。
らしくないと思ったら、なんかいざこざに巻き込まれたって。
学級委員長のレンねえが、パーティー勧誘ついでに話してくれた。
でもこれは好都合かもしれない。
シュウにいのパーティーに参加すれば、話す機会ができるかも……。
そう思ったけど、その一歩が踏み出せなかった。
なんだかわからないけど、戦いに参加することにスゴい嫌な感じを受けたんだ。
怖い……わけじゃないと思う。多分。
ただ、心の奥底から湧き上がってくるんだよ。
なにか取り返しのつかないことになりそうな気がする。
でも、なんでそんな気分になるのかわからない。
結局、パーティーに入りたいって自分からはどうしても言い出せなくて。
シュウにいが手伝ってるレンねえの店に自作の武器を卸してみたり。
ちょっと訓練の終わりごろに偶然を装ってすれ違い話してみたり。
色々やってみた。
レンねえはやっぱりというべきか反応が薄かったけど。シュウにいは違った。
合間合間、ちょっとゲームの台詞を言ってみたら、露骨に反応。
後日、食堂で返事をしてくれたりもした。
うん、やっぱりシュウにいはモノが違うでござる。
で、色々あってパーティーに参加するようになり、今にいたる。
最高だった。
同じ鍛冶場作業なのに、シュウにいとオタトークしながら作るとまるで違う。
自分が今まで形にしようと思ってできなかったことが、つぎつぎ実現した。
冒険もとても楽しかった。
アウトドアなんてガラじゃないと思ってたけど。
古城の奥深くは、王都が落ち着いたらみんなとまた行きたいな。
それでも、戦いで湧き上がる嫌な感じは依然として抜けなかったんだ……。
そうこうしているうちに、魔王が予想外に早く復活してしまった。
周りの雰囲気が慌ただしくなっていく。
でも、あたしにできることは結局鍛冶だけ。
だったら、シュウにいとバカな話をしながら、ただ武具を作ってればいい。
今までと変わらない。みんなと、楽しくやっていけるんだ。
そんな風におもってた。
アイツが現れるまでは。
バルドクルツ。
魔王軍幹部のうちの一人。
自分の中で感じていた、嫌な予感の正体は多分コイツだと直感した。
けどなんでこんな、取り乱すほど不安を感じるんだろう。
コイツがいったいどんな奴かもわからないのに。
バルドロールやバルドゼクスを前にしても、大丈夫だったのに。
まるでわからない。
その不可解な感じが、余計あたしを不安にさせた。
もし、あたしのその不安がもしホントのモノなら。
ホントにヤバい奴だとしたら。
シュウにいの手助けをしなくちゃ……。
でも、怖じ気づいてしまう。
身体がすくむ。
まるで、自分の中に、もう一人の自分がいて。
そいつが逃げよう逃げようと、あたしをうしろに引っ張ってるかのように。
それでも王都にみんないたときは、リタねえが励ましてくれた。
だから、なんとか色々やることができた。
けど、シュウにいが魔王に負けちゃって。
リタねえがさらわれちゃったら、もうだめだった。
今だって、シュウにいのための1歩が踏み出せない。
あたしならシュウにいを助けられるのに。
アレをシュウにいに渡せば勝てるのに。
足がガタガタと震えて、立っていることも難しい。
動いてよ! あたしの足!
早く、レンねえのお店へ行くんだってば!
そこに、そこには――
『それがあれば、シオンにぃを助けられるの?』
自分の中に感じていた、もう一人の自分。
そいつが、初めて私に話しかけてきた。
『シオンにぃなんて知らないよ!
でも、アレさえシュウにいに渡せれば、バルドクルツに勝てるはずなんだ!
だから、邪魔しないでよ!』
『……わかった。
でも……わたし、邪魔してないよ?』
『……え?』
時間を置いて続きを投稿します。
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