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バルドクルツ戦③ バルドクルツに合流されてしまった

 突然現れたバルドクルツにバルドロールへの攻撃を邪魔をされてしまった。

 もう少しでトドメをさせる所だったのに……。


「クソッ! おまえが合流する前にかたを付けたかったのに。

 最悪だ」


 ちらりとこよりのほうを見る。


 バルドクルツを前に彼女の顔は青ざめ、膝をガクガクさせていた。

 今にも腰を抜かしそうだ。


「思い通りには行かなかったようだね、鑑定士殿。

 さて、悪いけど、早々に決着をつけさせてもらうよ。

 君の弟子に合流されると厄介だからね」


 ……弟子?


 ああ! オレが化けた修道女のことか。

 なるほど、そりゃあそう考えるよな。


「ふん、そう簡単にケリがつくと思うなよ?

 カワイイ弟子の前でカッコ悪い姿なんか見せたくないからな」


 とりあえず、その誤解に乗ってみる。

 相手にそう思わせておいたほうが色々都合よさそうだし。


 ……奴に納得させる自信がなかったからではない。

 けして。



 お互いに構える。

 向こうはバルドクルツが前衛、バルドロールが後衛でくるようだ。


 意外だ。

 なにも考えず2体で一斉にかかってくるかと思ったんだけど。


 そういえば、頭脳派の敵と面と向かって戦ったことがあまりないな。

 気を引き締めていかないと。


 といっても、さっき『最悪だ』なんて言ったが、あれはウソ。


 実は現状そんなにマズい状況でもない。

 むしろ、想定した中でもかなりマシなほう。


 一番マズいのは、バルドロールがここから逃げ出すことだ。


 そして、オレや筆頭審問官に見つからないように結界を張り続けられ。

 さらにバルドクルツを倒す前にバルドヴェールに来られたら目もあてられない。


 そうなれば仮にバルドクルツとバルドヴェールを倒しても逃げることができず。

 2体と戦ってボロボロの状態を他の転生者に捕縛されかねない。


 オレの言葉で好機とみて、二体でトドメを刺しに来るのを期待しての発言。

 もしその思惑がうまくいったのなら幸いだ。



 バルドクルツは、決着をつけるという言葉通り初手から宝石剣で迫ってきた。


 こちらの神鋼翼の攻撃は全て切り裂く、そんな気構えだ。

 実際、神鋼の武器や防具は、宝石剣の前ではなに一つ役には立たないだろう。


 だけどそれでもオレは敢えて、神鋼翼を奴の首を貫かんと鋭く延ばす。


「そんな攻撃! 私には通じないよ!

 鑑定士殿!」


 その発言通り、神鋼翼の突きは剣によって上手く流され、そらされてしまう。


 だけど、それはフェイント。

 すかさず別の尖端を、反らされた逆サイドから奴の胴体に向けて放った。


 それが突如、突きとバルドクルツの間に何かの塊が現れる。


 これは……魔法物質か?

 バルドロールを見ると、奴が指輪を行使しているのが見えた。


 その魔法物質を神鋼翼はなんとかつらぬいたものの、突きは減速されてしまう。

 その隙にやつはバックステップを踏み、オレの間合いから逃れた。



 やはり連携されると厄介だ。


 バルドクルツへの攻撃や防御をバルドロールが上手く補佐。

 バルドロールへ攻撃しても防御され、その隙をバルドクルツに攻撃される。


 辺境都市でのバトルも転生者相手にそんな感じになった。

 その様子をバルドヴェールから聞いたのかもしれない。


 だとしても手はある。

 オレは回転の指輪を発動させて前進。今度はこちらからの接近を試みた。

 乱戦に持ち込めば、前衛も後衛もない。


 だけどそれを見越してか、バルドロールが大きく後退。

 対してバルドクルツはオレに急接近し、オレの攻撃を切り刻みながらすれ違う。


 結果オレは2体の間に挟まれることになった。

 さらに2体が前後から迫ってくる。


 挟み撃ちできる、

 なんて思ってくれているなら幸いだ。


 こっちはマルチナが眺望の指輪によって360度全方向の視界を確保。

 その並列思考体が、指輪の視界を元に神鋼翼を制御している。

 死角はない。


 オレはバルドクルツを無視。バルドロールへ接近しつづけた。

 そのままオレは神鋼翼を大きく後ろに伸ばし、さらに尖端を複数に分離。

 バルドクルツを全方向から突く。


 だが、バルドクルツは前進しながら身体を駒のように回転させる。

 その無茶な動きで、迫る神鋼翼の尖端を全て切り裂き霧散させてしまう。

 そしてなおもオレに迫る動きを止めなかった。


 ヤバい。

 バルドクルツを止められそうな攻撃がない。

 その上オレ自身、前方に勢いがついていて避けるのもままならない。


 このままだと奴に背中から切り割かれ――



 そこへ、何者かが横から高速で突っ込んできた。

 バルドヴェールか!


「シュウくん!!!」


 じゃなかった。


 レンがほとんど捨て身と思える体勢でオレに体当たりを仕掛け。

 結果オレは奴の攻撃の筋から外れ、危機から脱した。


 けど、このままじゃレン姉さんが!



 そう思いバルドクルツに向き直る。

 だが奴はまるでなにかにつまずいたかのように体勢を崩し盛大に地面を転げた。


 オレとレンは唖然とするが、すぐに筆頭審問官がなにかやったのだと気づく。

 ギリギリを見極めたのか、それとも彼女だったから助けたのか。

 いずれにしても、ありがたい。


 バルドクルツはバルドロールのほうへ戻り、レンはオレの側にかけよってきた。


「ごめんなさい、シュウくん。

 バルドクルツを引きつけられなくて……」


「大丈夫大丈夫、これも想定のうちさ。

 それより、レンはバルドロールのほうを頼む。

 バルドクルツはボクがなんとかする」


「え? ボ……いえ、わかったわ。

 お姉ちゃんに任せなさい!」


 そういうとレンは遠回りにバルドロールのほうに向かう。


 それをバルドクルツが阻もうとするが、それをオレが牽制。

 奴の足を止める。


 なんとか1対1でバルドクルツと対峙する態勢に持ち込めた。




「……どうも既視感があると思ったら。

 そうか、キミは先代勇者の身体を依り代に召還されたんだね。

 あの勇者のことなんか、今の今まですっかり忘れていたよ」


「ずいぶんと冷たいことだな。

 あのとき、コテンパンにやられたくせに」


「まあね。どうもボクは感心のないことに関してはあまり覚えていられないんだ。

 キミのことも、ここで倒したら忘れちゃうんだろうね。彼のように」


「そうかい。

 だけど、今回も死の瘴気とやらで逃げられるとは思わないほうがいいぜ」


「へえ、あれのことを知ってるんだ。生き残りなんていないと思ってたけど。

 あるいは鑑定したのかな。なにか対策を施しているとみえる」


 そんなわけはない。


 もし使われれば、王都は間違いなくアルベリオールのようになるだろう。

 だけど、なにか策を持ってると思ってくれるのなら好都合。


「さて、こっちから話を振っておいて悪いけど、そろそろ始めようか。

 このまましゃべっていたら、ロールに後で怒られそうだ」


 チラリとレンのほうを見てみる。


 既にレンはバルドロールと戦いを始めてた。

 本気の攻めではなくあくまで牽制する動きだが、やはりあいかわらず上手い。


「いいぜ。もっとも、仲間と話す機会なんてもうアンタにないけどな。

 じゃあ、こっちから行くぜ!」


 オレのかけ声と共に、銀色をしていた神鋼翼が黒く染まる。


 辺境都市で追っ手の転生者に見せていた奴だ。

 さっきまで使わなかったのは2体を相手にしていたから。


 ある一つの方向からは凹凸がわからなくなる黒翼。

 けど別の方向から見れば容易にその凹凸が見えてしまう。


 それを防ぐには辺境都市でのバトルのように無造作にぶん回すしかない。

 だけど、あんなのはある種の格下相手にしか通じないだろう。


 奴はとっさに剣の刃で自分の目を隠す。

 遠近感のない攻撃で眼を潰されるのを警戒してのことか。


 だけど構わない。


 オレは尖端をドリル化した黒翼をまるで吹き矢の針のように奴に向けて飛ばす。

 遠近感が掴めない飛び道具。

 これほど脅威なモノもないだろう。


 だが、奴は宝石剣でそれを片っ端から切り落とす。

 黒い霧状になって霧散する尖端。


 やっぱりそうか。

 こいつ、見なくても物の気配が掴める。


 バルドクルツは一通りオレの攻撃を霧散させると、勢いよく突っ込んできた。

 そんな奴に向けて、黒翼の尖端をさらに浴びせかける。


 今度は尖端に回転の指輪で反発力を与えた。

 これなら強度に関係なくどんな斬撃も弾けるはず。

 

 最初から使いたいところだったが、回転の指輪は使用回数に制限がある。

 リロードできるとは言え、みだりに使っていいモノではない。


 だとしてもここが使いどころだ。

 奴の宝石剣をはじけば大きな隙ができるはず。


 だが反発力を与えたはずの尖端は、剣をはじくことなく無残に散らされる。


 誤算だった。

 鑑定眼で視てわかったことだが、宝石剣は使用時に魔力を帯びる。

 その魔力が、反発力の根源となっている魔力を接触した瞬間に壊しているのだ。


 当てにしていた攻撃があっさり破られ、正直ショックは隠せない

 だが、まだ終わらせない。


 オレは奴に向けて懲りずにさらに黒翼による攻撃を繰り出す。

 今度は地中から奴の足下に向けて。

 地中なら奴も気配は掴めないだろう。


 ――という考えは甘かった。


 奴は一瞬コケたかのように前のめりになる。

 そしてその体勢のまま地面を蹴りオレの黒翼の攻撃をかわした。

 さらに、速度をあげてオレに突っ込んで来る。


 それをオレは、上方から黒翼で叩き落とそうとする。


 が、奴は空中でくるりと回転をはじめた。

 そしてその勢いを借りて、剣でオレの翼を八つ裂き。

 なおもオレに向けて突進を続ける。


 ベ○のサイ○ク○ッシャーかよ。


 このままじゃあ、宝石剣の餌食になる。

 オレは黒翼をあらぬ方向に延ばし、尖端を近くの建物の窓の縁に引っかける。

 そしてそのまま引き寄せた。


 それにより、逆にオレのほうがその窓に向けて高速に引っ張られ。

 からくも奴の攻撃をかわすことに成功する。


 だが、奴の猛攻は止まらない。

 奴はさっきまでオレのいた位置に着地。かわしたオレの方へと飛びかかる。


 クソッ、なにを出せばいい。

 いや、なにを出しても奴に切り刻まれそうな気がする。



 こうやって、いたちごっこのようになんとかかわし続けたが、正直どんづまり。

 先代勇者のように『偽りの御手(仮)』でも使えればいいが……。


 いや、オレの身体は元々勇者のものだ。

 あの魔法陣は未だにオレの身体に刻まれている。


 あれを発動することができれば――


『マスター、それを発動させるにはあなたの魔力が足りません』


 わかってるよ。

 ちょっと考えてみただけだ。



 オレは苦し紛れにこよりのほうを見る。


 そこに、こよりはいなかった。



『マルチナ! こよりはどうした!?』


 逃げたのならそれはそれで構わない。

 ここにいても巻き添いを食うかもしれないし。


 けど、もし魔物か他の転生者にさらわれたんだとしたら……。

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