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バルドクルツ戦② バルドロールと再戦することになった

 陽動に動いているはずの筆頭審問官が、いきなり現れてオレを呼び止めた。


「あの人は? 敵じゃないの? シュウにい」


 いつの間にオレの後ろに回ったこより。

 脇から首をひょこっと出して聞いてくる。


 答えようかと思ったが、その前に審問官のほうが返事をした。


「初めまして、お嬢さん。

 わたくし教会の審問所の筆頭審問官を務めている者です」


「筆頭審問官!?

 なんでこんなところに!?」


「ああ、安心してください。

 私は彼の協力者ですので」


 協力者、ね。


「その協力者が、なんでこんなところにいるんですか?

 確か敵を引きつける役だったような」


「まあ、そうなのですが。

 私よりもっと適役の方が現れたので、そちらに任せることにしました」


「……そうですか」


「それに、少し手違いがありバルドヴェールを引きつけ損ねてしまいましてね。

 どうやら、まだこちらには来ていないようだ」


「なるほど……わかりました。

 ところで、ひとつ聞きたいんですが……」


「なんでしょう、時間も差し迫っているので、手短に」


「あなたは今、どこにいるんですか?」


「!」


 瞬間、目の前の審問官の姿はかき消えた。


 オレはそれに構わず神鋼翼を展開。

 速攻で自分の背後の空中を羽の先で突いた。


 それらは特になにごともなく空を切り、地面に刺さる。


 だけど、その先の背後に筆頭審問官が突然出現した。

 まるでそこに転移でもしたかのように。


「それがあなたのスキルってわけだ」


「え? え? どういうこと? シュウにい」


「細かいところはわからない。

 けど多分、さっきまで目の前に見せていたのは幻なんだと思う」


「まさか、私のスキルを看破する者がいるとは……。

 鑑定眼で見破ったということですか」


「まあね」


 正確にはちょっとちがう。

 むしろ奴の幻体を鑑定しても、なんの結果も出てこなかった。



 鑑定眼の欠点の一つに『その場にないものは鑑定できない』というのがある。


 そして見ているものが幻だった場合、そこには本来なにもないわけで。

 なので、鑑定眼で視てもまともな結果は出ないのだ。

 逆を言えば、まともな結果が出ないことで幻術を疑うしか、見破る方法はない。


 そういう意味で、幻術を使う者は鑑定士の天敵といえる。

 

 ましてや彼のスキル自体、鑑定眼でもハッキリしたことがわからない。

 てか、鑑定でここまで結果が出ないのは久しぶりだ。

 あるいはなにかの方法で鑑定を阻害してるのかもしれない。



 それにしても、


「どういうことですか?

 てっきり、オレを攻撃してくると思いましたが?」


「なぜ?

 私が貴方を攻撃する理由などないでしょう?」


「白々しい。隙あらば抹殺しようとしてることはわかってるんですよ。

 皆が『御遣い』扱いしている、ニセモノのオレを」


 鑑定結果に直接そういう情報があったわけではない。

 けど、動きやおおよその精神状態はわかる。


 彼は常に、オレを殺せるかどうか立ち振る舞いを観察して探ってた。

 そこから得た推察。


「そこまでわかっていましたか。まあ、否定はしません。

 現在、貴方は審問会の標的Top10に入っている。

 けど1番ではない」


「魔王とその幹部を倒すのが優先ってことですか」


「はい。だから、それまでは貴方に手を貸すというのが我々の方針です」


 その辺りも察しはついていた。


 また今、オレを信用させておけばのちのち暗殺するときもやりやすい。

 なんてことを考えていることも容易に想像がつく。


「それにしても、スキルで隠れて魔物をおびき寄せて倒すつもりでいたのです。

 まさか貴方に攻撃されるとは」


「その辺りは、考えが足りなくて申しわけない」


 それもウソ。

 彼がオレを攻撃することはおそらくないだろう。

 そうと分かった上で彼を攻撃した。


 筆頭審問官が幻術を使っているかどうか確認しておきたかったのだ。

 そしてそれが確認できたことは、後々大きな意味を持ってくるかもしれない。



「それで、この後どうするの? シュウにい」


 筆頭審問官とのやりとりが落ち着いたところで、こよりが不安げに聞いてくる。


「とりあえず、王都外まで逃げる。

 バルドクルツと戦うのは、後日改めてって感じかな」


 その言葉をきいて、こよりがホッとした表情を見せる。


 もっとも、もしバルドクルツやバルドロールの妨害が入れば戦わざるを得ない。

 そのあたりは敢えて口にしなかった。


 ちなみに、このあたりの流れはロナルド卿とも打ち合わせ済みだ。

 マーガレット嬢の呪いの解呪は、逃げ出したあとアジトの村で行うことになる。



「では、私も付き添いましょう」


 突然、筆頭審問官の身体がブレた。

 かと思うと、彼のすぐ隣に同じ姿をした幻が立つ。


「今度は、私に攻撃しないよう、お願いします」


「善処します」


 オレの返事に、苦笑で口元を歪めたまま彼の本体が消えた。


「それで、どうするの?

 ここから飛んでく?」


「いや、王都を出るまでそれはなしだ。目立ちすぎる。

 とりあえず地下道の入り口まで走っていく」


「ちぇっ、シュウにいの飛行、体験したかったんだけどなぁ」


 そんな軽口をたたくこより。

 てか、ここで飛んでったら筆頭審問官の立場がないだろ。


 なんにしても彼女の気持ちに余裕が出てきたようだ。


 オレたちが目指すのは、外壁の崩れた方とは逆の出口。

 その際バルドロールの結界を考慮し、念のため例の地下道を通っていく。



 移動を始めてからまもなく。

 その地下道の入り口が見えるところまでやってこれた。


 今のところ追っ手はない。


 陽動がうまくいってるようだ。

 遠くの方では依然として爆音が聞こえ、陽動がまだ行われてることがわかる。


 順調、と言っていいはずだけど……


「どこへ行くつもりですか?

 鑑定士殿」


 後ろから声を投げかけられる。


 振り返ると、ガイコツの姿をした魔物『バルドロール』が迫っていた。

 どうやら低空飛行しながら高速移動していたようだ。


 オレは立ち止まり、神鋼翼を展開しつつ、構える。


「シュウにい!? どうしたの!? 早く逃げようよ!?」


「いや、コイツがここにいるってことは……」


「さすが察しがいい。

 すでにこの周囲は結界が張られています。

 逃げ場はありませんよ?」


 鑑定眼で周りを見渡すと、確かに広範囲にいつもの結界が張られていた。


 だけど、オレの動きが取れないように狭く張ればいいはずだ。

 ひょっとしたら、特定の大きさの結界しか作れない?


 それはおいておいて、ここをどうするか。


 正直、こよりは戦力として当てにできないだろう。

 筆頭審問官を味方として数に入れるのは、色々な意味で危険。


 とすると、他の奴が来る前にコイツをオレ一人で倒す。

 それしかないか。


 オレは神鋼翼を展開し、それで奴との中間にある地面を思いっきり叩いた。

 散乱する街の石畳の破片がバルドロールを見舞う。


「ふふふ。そんなもの、攻撃にも目くらましにもなりませんよ」


 骨の頭では顔の表情はうかがえないが、おそらくドヤ顔をしてるだろう。

 だが、石畳を砕いたのは攻撃のためでも目くらましのためでもない。


 オレは、叩きつけた翼はそのままに別の部分を変形。

 円形のノコギリのようなものを生成した。


 オレはそれをドリルの時の要領で水平に高速回転。

 そのまま前方へ射出した。


「気○斬!!!?」


 言うと思った。


 こよりがキラキラした目をして、オレの生成した円盤をそう呼ぶ。

 いや、あいかわらずでなにより。


 一方バルドロールは、攻めに転じようとしていた動きを止める。

 元の世界の知識がなくても、これがどういう類いの技なのか察したのだろう。


 奴は自身の骨の翼を広げる。

 空中へ逃げるつもりなのだろう。


 だが、そんなことはさせない。

 奴の動きに対応するように、奴の足下から神鋼翼の尖端が飛び出ててきた。

 円盤を飛ばす前、叩きつけた尖端を変形させて地面に潜り込ませていたのだ。


 石つぶての攻撃に見せかけていたのは、それをカモフラージュするための細工。

 それにバルドロールはまんまと引っかかった。


 奴はその神鋼翼の尖端に足下を絡まれ、その場から動けなくなった。


 円盤を避けるすべを失った奴は、その身体にそれをもろに喰らう。

 それに耐えられるような強度をもたない奴の胴の骨。

 そこから身体が下と上が切り離された。


 それと同時に胴から下の方の骨がバラバラと崩れ、その残骸が地面に散乱。


「鑑定士殿らしくないですね。

 辺境での戦いで、なにも学んでいなかったのですか?」


 だけど奴は余裕そうな雰囲気を見せる。


 前の戦いでは奴を絡め取りながら、足下を切断され逃げられてしまった。

 今回も似たようになると言ってるのだろう。


 だけど愚問だ。

 学んでいないはずはない。


「この状態から復活するなどたやすいこと。

 さきほどの鑑定士殿の技はムダ打ちになってしまいましたね」


 奴は上半身を中に浮かせたまま、挑発するような余裕まで見せる。

 自分の上空に生成された巨大な神鋼の塊の影に気がつくまでは。


 オレはその塊を、バルドロールめがけて落とした。


 その足下には神鋼の板を生成している。

 奴が地面に叩きつけられても、そのダメージを地面が吸収することはない。


 これが当たれば、奴の身体は完全に砕かれる。

 さすがに頭を砕かれては活動できないはず。


 だが、奴を倒すはずのその一塊は霧散してしまう。

 宝石剣の一閃によって。


「どうやらギリギリセーフのようだね。ロール」


 トドメの一撃は、バルドクルツによって阻まれてしまった。

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