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レン⑥   その、ふんぎりがつかなかったというか、なんというか

※レン視点


 あとから、詳しい話をウィーラーさんから聞いた。

 どうやら以前から弟と交流があって、それを口止めされていたようだ。


 彼はしきりに悔いていた。

 『こんなことになるのなら教えておけばよかった』と。


 そんな彼に思うところがないと言えばウソになる。


 けどそれが、弟の意思であったというのなら。

 わたしに責めることができるはずはない。


 アルベリオールのことも聞いた。


 何者かが街を襲撃したのは、奇跡的に批難できた少数の証言で明らか。

 そしてその惨状からして、大規模な魔術攻撃が行われたことは間違いない。


 弟はそれを受けて命を落とした。


 多分、街を守るために戦ったのだろう。

 加護を受けているとはいえ、もはや勇者でもなんでもないのに。


 子供のころ『自分のため』なんて言いながら、皆に色々としていたように。

 ああ、弟は昔のままだったんだ。



 なんでわたしは、弟が勇者の加護を受けていると考えなかったのだろう。

 なんでわたしは、幹部と勇者をぶつけようなんて考えてしまったのだろう。

 なんでわたしは、アルベリオールに幹部を誘導しようとしたのだろう。

 なんで――


 そんな問いが、あの日からずっと頭の中で渦巻いている。





 召還の儀式は滞りなく行われた。


 弟の遺体は、手配するまでもなく依り代として使われることになっていた。

 ついでに、弟が連れていた少女の亡骸も。


 二人の遺体は強力な転生者を召還できる依り代として期待された。

 幹部の魔法攻撃を受けて、形を維持できた数少ない身体ということで。


 正直、弟の言葉がなければ命に替えても拒否するところだ。


 それでもその遺体が召還に使われる時期をできるだけ遅くなるように手配した。

 他の誰かが勇者の加護を受けることを期待して。


 せめてもの抵抗。


 弟の身体に宿った魂に、再び勇者の加護が与えられる。

 それだけはイヤだった。


 弟をもう、戦いに巻き込みたくない。

 そして、もし神様がいるのなら、慈悲があるのなら。

 戦いに巻き込まれるような戦闘系の加護を与えませんように……。



 転生者の召還後、誰か彼らの監視役を集団に紛れ込ませることになる。


 そして、その役にわたしは任命された。

 自分の基礎能力の高さが評価されたのだろう。

 でも、もしかすると枢機卿様の配慮なのかもしれない。


 そしていよいよ、学園の転生者クラスで初の顔合わせ。

 わたしは、弟の身体を依り代に召還された転生者を教室で見た。


 彼は『シュウ・ハルミ』と名乗っていた。

 受けた加護は『鑑定士の加護』である。


 とりあえず、非戦闘系であることは嬉しかった。

 わたしの願いを神様が叶えてくれた、なんて思いたくないけど。


 彼を遠目に見たとき

 『弟が死んだなんてウソで『ねえさん』なんて駆け寄ってくれるのではないか』

 そんな無意味な期待をしたけど、それは早々に裏切られる。


 彼は、自分を『オレ』と自称し、その振る舞いも若干粗暴。

 そして不真面目で、内向的で、周りで人が困っていても何もしない。

 弟とは似ても似つかない、別人。


 でも。

 似ているところがまったくないわけでもない。


 粗暴ではあっても、弟とおなじかそれ以上の思慮深さを見せることがある。


 もっとも、彼は瞬時に熟考し数手先を読む。

 弟は、あらかじめ全てを見通している感じで。

 そんな違いはあるけど。


 そして人助けをしないからといって、けして優しくないわけではない。

 無関心なのではなく、ただ、うろたえているのだ。

 どう接すればいいかわからず。


 内向的な性格が、それに拍車をかけているように見える。

 そういう不器用さは弟にもあった。


 そしてその振る舞いが、彼をより幼く見せているようだ。

 そこに可愛さを感じないかと言えば、ウソになる。


 もし2人が並べば、きっと彼の方が弟の弟みたいな感じになるのだろう。


 頭の中に、弟が彼を『シュウ』とか呼びながら頭をポンポンと叩く様が浮かぶ。

 そうしたら、彼は『オレを子供扱いするな』とか言って兄にかみつくのだろう。

 ひょっとしたら怒りながらも、照れくさそうに満更じゃない顔をするかも。


 そしたら、わたしが『シュウくん』とか言いながら抱きしめて、それを見た弟が、ちょっと寂しそうに『ボクは抱きしめてくれないのかな……』なんて言っちゃったりして、そしたらわたしが二人まとめてぎゅっとしちゃったりして、そしたらそしたら――




 最近、シュウくんがクラスから孤立しはじめているのを感じる。


 まったく、みんな見る目がないのね。

 確かに、彼は放課後の個別練習に参加してないことが多い。


 だからといって遊んでいるわけではなかった。


 放課後に学園から出て露天商などで色々な品物を細かく見てまわったり。

 図書室で古い文献を読みあさっていたり。

 教室で何かマップらしきものを書いていたり。


 そんなことをしているのを知っている。


 だいたい、個別練習は個別練習で、自習みたいなものなのに。

 なのに、みんな強制参加する空気になっているのはどういうことなのかしら?


 わたしが話し相手になってあげられればいいのだけれど……。


 実は今まで彼とまともに話したことがなかった。

 用事があって彼が近づいても、思わず逃げ出してしまうこともしばしば。


 仲良くなるのが怖かった。

 そうしたら、わたしは彼を弟の代わりにしてしまうかもしれない。


 全然違う人だということはわかっている。

 わたしの想像の中に出てくるとき、常に弟と彼とわたしの三人一組なわけで。


 ……そうね。

 わたしはそれが壊れるのを恐れているのかもしれない。

 もし、想像の中の彼と、実際の彼が大きく食い違っていたら、そう思うと……。



 孤立、と言えば弟が保護した少女を依り代にした転生者もそんな雰囲気だ。


 彼女は転生した直後、記憶を持っていなかった。

 でも名前を思い出してから徐々に以前のことを思い出しつつある。


 だけどめずらしいことに、依り代の時の記憶が一部のこっているらしく。

 知るはずのないこの世界の常識的な知識を少し持っているらしかった。


 ちなみに名前は『コヨリ・マキシマ』というそうだ。

 わたしの妹と同じ名。


 偶然なのか。

 ひょっとしたら、弟が彼女をそう呼んでいた記憶が残っているのかもしれない。


 彼女は『鍛冶士の加護』を得た。

 授業に参加することもなく日がな一日鉄を打っている。


 もっとも、彼女の場合はけして内向的というわけではない。

 接してみると、とても無邪気で人なつっこかったりする。


 みんなも、悪い印象を持っているというより、好きにやらせている感じだ。


 ちょっと腹黒いところもあるけど、そんなちょい悪なところも可愛い。

 妹が生きていたらこんな風だったのかしら。




 シュウくんが、職員室へ呼び出しを受けた。


 それ自体はどの学生でも普通にあること。

 けど、最近シュウくんへの風当たりが強くなっているだけに気になるところだ。


 とくに『勇者の加護』を受けた転生者『ソウゴ・ジングウ』の取り巻きたち。

 彼らによってシュウくんに言いがかりをつけるような行為が横行している。


 ジングウ君はそれを諫めているようだ。

 けど彼自身も、シュウくんに何か思うところがあるように感じる。


 なんとか間に立ってフォローしてはいるのだけれども、中々難しいところだ。


 一人に偏ってはかえって逆効果。

 なので、シュウくんへの弁護はやんわりとしたものになってしまう。


 皆は『わたしが優しいから』みたいな解釈をしているようだ。


 そんなわたしの苦労も知らずか、彼は依然としてクラスに馴染もうとしない。

 それどころか、つとめて距離を置くようにしているところがある。


 普通だとイラっとしているところだろう。

 けど、彼に対してはそんな感情がおきないのが不思議だ。


 彼の発言は少し荒っぽい口調ではあるけど、内容はいたって常識的で理知的、というか淡々と周りに理を唱えているときのムスッとしながらもどこか得意げな色をみせているあの表情が可愛いのに、なんでみんなそれがわからないのだろう。



 あ、シュウくんが戻ってきた。


 ちらっと見た表情は、どこか真剣で、決意に満ちているように思える。

 ションボリとした顔で戻ってくるかと思ったのに、意外だ。


 あの迷子の子犬のような可愛い表情が見られな……げふげふ。


 なんてことを考えているうちに、彼が近づいてくる気配を背中に感じる。


 めずらしいことだ。

 というかわたしが逃げてからというもの、彼から近づくことはなくなっていた。


 どうしよう。やはりさっきの呼び出しの件だろうか。

 今こうしてわたしに近づいて来るなんて、よっぽど深刻な内容よね?


 こんどこそ、彼と言葉を交わそう。  

 そしてわたしが相談に……。


 ああ、でもこんな急に。

 全然心の準備ができてない。


 やっぱり、いったん出直して――




「あの、レンさん」


「ひゃい!」

1時間くらい後に続きを投稿します。




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