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幕間⑫ー2 名も無き勇者、オルゴールをプレゼントする

※名も無き勇者視点


 ボクらは、子供らしき複数の気配のする地下室へと足を踏み入れた。


 魔物に、人をいたわる心なんてものはない。

 子供たちがどんなヒドい目にあわされているか……。


 地下室にワナは張られてなくて、ボクらは簡単に気配のある先までついた。




 目の前に現れた惨状。


 事態を甘く見ていたことが気持ち悪くて、自分自身に吐いた。


 『なんで子供たちは生きていられるのだろう?』


 その問いが頭の中をループする。


 腕、足、胴、首。身体の部位がまともに繋がっていない。


 そんな子供たちが。


 まるで荷物のように置かれ、牢屋の床にさらされている。


 なのに、死んでいない。


 まるで、


 『人間どこまで切り刻んだら息をしなくなるか』


 挑戦してるような、なにか。


 こんなの生きてるとも言わない。


 嗚咽以外の音が口から出ない。




 あらん限りの魔力を使って、呪文で子供たちの回復をこころみた。


 ボクの回復呪文は魔素を使う魔法ではなく、勇者特有の法術。

 それでも高位の僧侶の回復魔法に匹敵する。


 けど、死にかけの者を蘇生する程の効果はなく。

 ましてや文字道理、半身を失った者まで回復できるような力も望めない。


 そんな中、ようやく回復効果が現れた子供が1人。

 ボクはその子に力を集中し、なんとか全快させた。


 けど、その女の子もただ息をしてるだけで。

 目を開けながら周りになんの反応も示さない。

 それでも、なんとか1人助かった。


 でも足りない。

 他の子供も救わないと、他の子供も――。


 不意に、ウィーラーがボクの肩に触れる。

 気づいたら魔力を完全に使い果たしていた。



 結局、ボクがなんとかできたのはその女の子1人だけ。

 他はどうにもできなかった。

 

 ボクは、子供たちについてクリスタルから研究資料を漁る。


 どうやら、彼らは実験的に半永久的な強化が施されているようだ。

 普通の人より強靱な身体を獲得してるらしい。


 それによって死んでいないことが幸い――なんて言えるんだろうか。



 ウィーラーはどうするか悩んでいた。

 彼らを安易に教会に預けるわけにはいかないことはボクにもわかる。


 教会は人を救う組織だけど、無制限に施しをするわけじゃあない。

 自分たちの威光を民衆に知らしめる宣伝目的など、なにかしらの利益を求める。

 こんな子供たちを前にしても、たぶんその姿勢は変わらない。


 それでも、もし彼らを連れていけば教会は喜んで全員引き取るだろう。


 だけどその先、多くの子供に待ってるのは実験素体としての生。

 それでも結局ボクらは教会に託すしかない。


 けど、全快した女の子だけは一旦ボクが引き取ることにした。


 ボクの自己満足、わがままだ。

 こういうとき、自分の無力さがいたたまれない。

 勇者なんて呼ばれても、結局この程度なんだ。ボクは。



 とりあえず、近くの町へ行き教会に連絡したあと。

 ボクらは全快した娘を、この拠点近くの森の奥にあるアジトへ連れていった。


 その間、ずっと彼女は無反応。


 ときどき身体を震わせる以外、動くこともない。

 ずっとこのままなんじゃないかと心配した。


 けどそんな心配をよそに、彼女はアジトに連れていった次の日には立ち上がる。

 そしてその日のうちによろよろとだけど、歩けるようになっていた。


 身体はボクの法術で回復してるはずなので、動きが鈍いのはたぶん心の問題。

 こればかりは、彼女自身の心の強さに期待するしかない。



 数日後。

 彼女はボクの質問に「うん」「ううん」の言葉で返事するくらいにまでなった。


 タイミングをみて彼女の身元などを聞いてみることにする。


「住んでる場所、指させるか?」


 ウィーラーがとりあえず地図を見せて質問した。


 その問いに、彼女はしばらく地図を凝視して、無言で首をかしげる。

 はい、いいえとも返事ができないと、彼女はこういうリアクションを取る。


「住んでいた場所の近くに山はあったか?」


 彼女は首をかしげる。


 こういう質問ならハイかイイエで答えられると思うけど……。

 ああ、そうか!


「キミは旅暮らしだったのかい?」


 今度はボクが質問してみた。

 旅暮らしなら、近くに山があったか聞かれても答えられないに違いない。


 けど、彼女はこの質問にも首をかしげた。


「ひょっとしてお前、お父さんお母さんのところに帰りたくないのか?」


 いやいや、ウィーラーってば!

 そんな質問したら泣いちゃうかも知れないって!


 そんな心配をしたけど、彼女はこの質問にも首をかしげる。

 とすると……。


「……まさか、2人のこと、覚えてない?」


「うん」


 色々質問してみたけど、どうやら彼女は実験前の記憶を失ってるみたいだった。

 それが実験の結果なのか、心の傷のせいなのかはわからない。


 結局、彼女のことはなにもわからなかった。



「で、どうする? このまま、彼女をずっと世話しているわけにもいくまい。

 お前にも他にやらなければいけないことがあるはずだ」


「まあ、それはその通りなんだけどね」


 一応、預ける当てがないこともないんだ。


 でも、この娘がそれなりに周りと会話ができるようになるまで目は離せない。

 そうでないと彼女にとっても先方にとってもいいことなさそうだし。


「ふむ……。

 まあ、お前に考えがあるなら、それでいい」


 その辺りを話すとウィーラーは納得してくれた。



 そんなわけで、ボクはそのアジトを中心に活動することに。


 最初、彼女は外に出るのも怖がっていた。

 そこでボク1人アジトの前で、訓練と称して技とかを色々披露してみせた。


 曲芸っぽくて実際はなんの練習にもならないけど。

 それでも、彼女は技が決まるたびにきゃっきゃと歓声を発するようになった。


 やがてそれを近くで見たくなったのか、外に出てボクへ寄ってくるようになる。

 数々の技で強さを実感して安心したのかも知れない。


 そこから誘導して一緒ならなんとか森の中を散策できるくらいにはなった。

 その辺りで、ボクは近くの町に彼女を連れていってみる。



 そこはアルベリオールという貿易都市だった。


 東の辺境都市から西の国境沿いを結ぶ道。

 そして王都から北の前線を結ぶ道の交差するところにできた街。


 ここでは多くの交易品がやりとりされている。


 そんな街に入って最初はおっかなびっくりだった彼女。


 でも数々の露天で売り出されているめずらしい品々に興味を持ったようで。

 やがてボクの手を引っ張りながら駆け足で店々を巡るようになっていた。


 そんな中、この娘の興味を一番引いたのは、小さな小箱。

 それは、彼女が触れるとひとりでにオルゴール特有の金属音を奏で始めた。


 どうやら、魔力に反応して音を出す仕組みになってるみたいだ。


 ただボクが触れた場合、意識して魔力を注がないと曲は鳴らない。

 ってことは彼女、普段から魔力を周りに垂れ流しているってことなのかな?


 普通そんなの、数時間も持たずに魔力切れを起こすはずなんだけどなあ。

 これって彼女の素質なのか、それとも実験が影響しているのか……。


 どっちにしても、訓練してコントロールできるようにしたほうがいいよね。


 気がつくと、彼女が物言いたげにボクを凝視していた。

 正確には、ボクが手にしてるオルゴールを。


「なになに? ひょっとして、このオルゴール、欲しい?」


 聞いてみると、無言ながら首がもげるくらいの勢いでうなずいた。


 ……これ、結構な値段するなあ。

 でもまあ訓練にも使えそうだし、いいよね。


 ボクは、露天商にオルゴール代を払うと、


「はい、ボクからの……なかよしの印……ってことで」


 ボクは目線の高さが合うまでかがんで、それを差し出した。

 彼女はおっかなびっくり自分の指先をオルゴールに近づけ、触れる。


 オルゴールは音を立てて鳴り始めた。


 彼女はたちまち笑顔満面になる。

 そのオルゴールを手に取り、両手でぎゅっと握った。


「その代わり、といってはなんだけど。

 音のコントロールができるように、キチンと訓練しないとね。

 ボクが教えてあげるよ」


「……と」


「……え?」


「! ……あ! ありがと……、お、お……ねぇちゃん」


「お、お姉ちゃん!? ボクはお兄ちゃんだよ!」


 彼女が今までで一番驚いた表情をした。


 どうもボクは女顔のようで、童顔も手伝ってたまにこんな風に勘違いされる。


 でも、まさか彼女まで誤解されてたなんて。

 この娘のまえでは結構カッコいい姿を見せていたつもりだったんだけどな……。

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