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幕間⑫ー1 名も無き勇者、ついでに人助けをする

※名も無き勇者視点


 ボクが『勇者の加護』を得たのは5才のころ。

 偶然だった。


 地方を行商していた両親のキャラバンが魔物に襲われ。

 たまたま同行していたボクら共々みんな命を奪われそうになった時。

 お客の神父様が、年齢の満たないボクに洗礼の儀式を施したんだ。


 強力な戦士系の加護でも受けれたらなんとかなるかも、とか考えたんだろうね。

 けど、そこで得たのがまさかの『勇者の加護』。


 その加護の力で、みんなを逃がすことができたんだ。



 でも1人その場に残って魔物を全滅させても、ボクは家族と合流しなかった。


 『勇者の加護』を受けると共に、自分の天命を知ったからだ。

 そして、王都へ行き素性を明かした。


 それからボクは、表向き同じ年齢の姫殿下の近衛として仕えることになり。

 同時に魔王と戦うための修行を受けることになった。


 けど、それから数年後。

 予言と違って既に復活していた魔王と交戦することになってしまう。


 そこで王妃様は命こそ奪われなかったものの、廃人となってしまった。

 ボクはその責を負わされ、王都を追放されたんだ。


 あれから、もう10年になる。

 その間、地方を転々と回って調べ物を色々していた。


 ついでに人助けっぽいこともそこそこしたかな。

 そうしたらいつのまにか『名も無き勇者』と呼ばれるようになっていたんだ。

 あまり目立ちたくないんだけど……。


 まあ自分の名前は教えてないし、王都にボクのことだってバレてないよね。




「そんなわけあるか。

 おまえの存在は既に王都の一部の者に知られているぞ」


 そんな感じの話を目の前の彼にしたら、全力で否定されてしまった。


 彼の名前はウィーラー。

 王国機関『リテラル』に所属してる。


 リテラルは遺跡のアイテムを収集管理してる組織。

 ボクが色々調べ物をしてるうちに知り合った。


 彼からは一部の情報をもらい、ボクは彼らの発掘活動を手伝う。

 持ちつ持たれつの関係だ。


 今日はお互いの情報交換のために、王都から少し離れた町の酒場で会っていた。


「そうかなあ。

 でもリアルのボクはこんなで、あまり勇者って感じがしないと思うんだけど」


「そう思っているのはおまえだけだ。

 王国はともかく、教会は最近、転生者召還に向けて色々と水面下で動いている。

 今おまえにどうこうするとは思わないが、注意するに越したことはあるまい」


「ありがとう。警戒するよ」



 ちなみに。

 今ボクは『加護を人に譲渡する方法』を見つけだそうと色々探し回ってる。


 彼の言うとおり、あと半年もしないうちに転生者が召還されるらしい。

 たぶん教会は、その召還した誰かに『勇者の加護』を与えようとするだろう。


 だけど知る限り、勇者の加護を受けられるのはこの世界でただ1人。

 教会が望みを果たすには、ボクの命を奪うしかない。


 そんなのはゴメンだからね。

 だから、それをせずに加護を渡す方法を模索してるってわけ。


 そしてできれば次代の勇者に、ボクが作り上げた封印の指輪を渡したい。

 それで無事にお役御免ってなるわけだ。



 それにしても、いいひとだな。

 ウィーラーはこうしていつもボクのことを気にかけてくれる。

 ……もし兄がいたらこんな感じなんだろうか。


「それと、もう家族に会ってもいいんじゃないか?

 彼らは未だにお前が生きていると信じ、帰りを待っているぞ。特にあのあ――」


「そんなことより、今日はなにか情報があるんじゃないの?」


 馬車が魔物に襲われたあの日から、家族とは会っていない。

 少なくとも、勇者の加護から解放されるまで帰るつもりはなかった。


 だって、会えるはずないじゃないか。


 魔王と戦って死ぬか、それとも、転生者に勇者の加護を譲り渡すために死ぬか。

 いずれにしても、このままじゃいつどうなるか分からないんだ。


 だったら今は『彼はもう死んでるのだろう』と思ってもらった方がいい。


「まったく……まあいい。

 今回は、少し変わった情報でな」


 ウィーラーの話によると、子供が魔物にさらわれそうになっていたそうだ。


 一見、なんの変哲もない話に思える。

 けど聞く人が聞くと、妙な違和感を覚えるだろう。


 魔物のほとんどは言葉を話さず、知能も獣とたいして変わらない。

 魔王軍に所属している彼らも、その辺は似たり寄ったりだ。


 そんな魔物たちが人を襲うとしたらそれは食べるため。

 それも持ち帰って保存とかそういう知能もない。

 その場で食して終わり。


 それにしたって、そんなにある話じゃない。

 たぶん、彼らにとってボクたち人間は美味しくないんだろう。


 人をさらうとしたら、言語を解し獣を超えた知能をもつモノ。

 魔王軍の中でも隊長から幹部クラスが関わってるってことだと思う。


 だけど、その場合は労働力として大人をさらうはずで。


 そこを敢えて子供をさらうっていうのは……。

 いったいなんのために?


 でも逆を言えば……。


「敢えてさらうのなら、子供はまだどこかで生きているかもしれない……」


「おまえ! まさか助けに……と、言ってもおまえにはムダか」


「そんなんじゃないって。

 情報収集がてら、もしそんな子がいたらついでに助けようって、それだけ」


 ちょっと探ってみたい感じはする。


 単なる想像だけど、『加護を移す研究をするために子供をさらう』なんて。

 普通にありそうじゃないか。




 10日くらいあと。

 ボクとウィーラーは魔王軍の施設に乗り込んでいた。


 何かの遺跡を改造したらしい。

 その施設内を最初は慎重に、魔物に見つかってからは蹂躙するように練り歩く。


「まったく、遺物は関係ないんだから、ついてこなくても良かったのに……。

 なんて、貴方に言ってもムダだったね」


「関係なくはない。

 メリオールの変化の指輪がらみの案件かもしれないのだ。

 でなかったら、私だって誰が好き好んで戦いなどに」


 聞くと先日、孤児院の院長を殺害したという人物から密告があったらしい。

 なのになぜかその院長は生きていると。


 誰もが与太話としか思わなかったこの話に彼は飛びつき、調査を進めた。

 結果たどり着いたのがこの研究施設ってわけ。


「あれ? そんなこと言うんだ。

 じゃあ、ボクもとっとと子供たち助けに行こうかな。

 そんな冷たいウィーラーさんを置き去りにして」


「やれるものならやってみるといい。

 そんなことができるくらいなら、おまえも今ここには来ていまい」


「ちぇっ、からかいがいがないなあ」


「それにしてもあいかわらずだな。さすがに勇者の加護を持つ者だ。

 斬撃を飛ばすなど、おまえ以外で使う戦士をみたことはないぞ。

 勇者とはそういうものなのか?」


「いや、そうでもないみたいだよ」


 過去を調べるかぎり、勇者の強さは時代によってさまざま。

 歴代の中には屈強な兵士レベルの戦士もちらほらいた。


 それらの伝承と今の自分を比較する限り。

 たぶんボクは歴代のなかでは転生者の勇者と比べても屈強の部類に入るようだ。


 どうも自分の血筋が関係してるっぽいけど。

 まあ、その辺はあまり興味がないので詳しくは調べていない。




 途中、魔物に捕らえられたらしい魔道士数人と遭遇する。


 ボクらが来たことによる彼らの反応はさまざまで。

 泣いて悔いて『自分を殺して欲しい』と懇願する者もいれば。

 むしろ邪魔が入って迷惑という顔をする者までいた。


 話を聞くと、どうやら魔物たちはここで人体実験を繰り返してたらしい。

 『クルツ』とかいう幹部の命令で。


 ボクらは魔道士たちから、研究情報の詰まったクリスタルを受け取る。

 そのあといったん全員を出口まで送り、あとは彼らの好きにさせた。


 自らをさばいて欲しいと懇願するものもいたけど、ボクらにその権利はない。

 仮に彼らが、好きでヒドいことに加担していたとしても。



 彼らを解放したあと、施設の中を魔物の気配がなくなるまでさらに探索する。


「どうやら、おおよそ片がついた……か?」


「ああ、そうだね。魔物の気配は感じないかな。

 なにか、小さな気配を地下に感じるけど……子供たちっぽいね」


 けど、なにか違和感が……。

 なんだろう?


「結局院長には遭遇しなかったか……。

 なにかそういう奴の気配は感じなかったか?」


「連れてこられたらしい幾人かの魔道士を除けば、大人の気配はなかった。

 怪しいアイテムを使ってる感じもなかったし……。

 ……やっぱりさっきの魔道士たち、拘束しとくべきだったかな」


「……まあ、おまえがあの場で問題ないと感じたのなら、大丈夫だろう」


「そこまで信用されると、ちょっと困るけど……。

 まあ、今は子供たちを救出するのが先か。

 急ごう」


 ボクらは、子供たちらしき気配のある地下室へと足を踏み入れた。

時間を置いて続きを投稿します。




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