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王都潜入④ 逃げた先でとんでもない話になった

 とにかくここは逃げるしかない。


 一見、連中が入ってきた方と逆側なら簡単なように思える。

 だけど、一部の転生者が既に回り込んでいるのが空気波紋の鑑定で明らかだ。


 自分を透明に見せる偽装を完全に完成させておけばよかった。

 この状況では、動きながら多人数に向けて光の調整をするのは難しい。


 オレは神鋼翼を大きく展開し、構える。


 転生者たちは既に20人近くが修練場の中に入ってきてる。

 そいつらは、じわりじわりとオレをおおきく囲もうとしてた。


「へえ、敢えて正面突破を狙うんだ。

 修道女に似合わず、ずいぶんと思い切ったことを考えるね。

 でも、僕だけじゃなく、この転生者たちの囲いを破れるかな?」


「関係ないね!」


 オレは回転の指輪の力で、バルドクルツの頭を飛び越えるように高くジャンプ。


 そして着地時に翼をさらに大きく広げ、奴とオレとの間に仕切りを作る。

 もっとも、おそらくそれはあっけなく宝石剣で切り裂かれてしまうだろう。


 けど、その程度の間の隙があればいい。


 オレは翼を切り離した。

 そして突進をかけると見せかけ、右手を奴らの目の前に突き出す。

 と同時に、指輪の力を発動。


 何のことはない、太陽の指輪による目くらましだ。


 だけど、入ってきていた連中は1人のこらず、あっさりその手に引っかかる。

 オレが自分の姿を偽装して、正体がわかってないのも成功の理由だろう。


 その隙に目を塞いでいる連中をかいくぐり、修練場の外へ出る。


 外にも転生者達はいたが、その多くが状況を飲み込めてないようだった。

 それでも事態に気づくのは早く、追いかけてくるまでさほど時間は稼げてない。


 だけど外に出てしまえばこっちのもの。

 跳躍で文字通りとっとと高飛び――しようと思ったが、やめる。


 ふと上空に鑑定眼を使うと、そこに結界が張られているのがわかった。

 魔王戦のときにオレとリタを閉じ込めた、バルドロールの結界だ。

 どうやら奴も来てたらしい。


 オレは跳躍するための反発力を、上方向ではなく、前方向へかける。

 しかたがない、連中が諦めて結界がなくなるまでどこか隠れよう。


 そう思ったものの、騒ぎを聞きつけて多くの一般学生が周りに散らばってた。

 こいつらに見られないように隠れるのは難しいか?


 たちまち結界の壁が目の前に。


 それは相変わらずの強固さで、これを破って外へ出るのはムリだろう。

 後ろを見ると、思っていたより全然連中を撒けていなかった。

 あいつらも伊達に訓練してなかったということだろうか。


 この場にいれば、すぐに囲まれ、追い詰められてしまう。

 オレはなんとか、結界ぞいに進めるルートを見つけようとする。

 だけど、学舎が並んでいるこの場から逃げ道を探すのは難しそうだった。


 もう奴らを相手にするしかないのか……?

 1人2人殺す気で挑まなければ、どうにもなりそうにないけど……。


 そのとき、


「こっちです!」


 ある建物の入り口から、ひょっこり修道女が顔を出した。

 エリーヌだった。


「エリーヌさん!

 すみません……潜入に失敗してしまいまして」


「構いません。どうせ悪魔どもの卑劣なワナに引っかかったのでしょう?

 とにかく急ぎましょう!」


 彼女を念のため鑑定眼で視るが、間違いなく本物。

 またウソをついてるようなステータスの変異もない。

 オレは彼女についていくことにした。



 彼女が案内したのは地下道。

 エリーヌの先導でオレは先に進む。


 追いかけてくるかも知れないと後ろを警戒したが、特にそういうのはなかった。


 話を聞くとどうやら、ここは千年以上前から王都の地下に存在しているらしい。

 けど今は一部の教団幹部や貴人しか知らない、忘れ去られた道だそうだ。


 そこを歩きながら、周りを鑑定眼で視る。

 けどレアリティが高くもないのに、どうにもうまく結果が引き出せない。


 どうやらレアリティとは別に、古城と同系の古代技術で隠匿されてるようだ。

 てか、あそこにもなかったような仕組みを使用しているというのは驚き。



「その、助けて頂いて、ありがとうございます」 


「いえいえこちらこそ、お役に立てて光栄の極みです。

 敵もそれほどあなた様のことを警戒しているのでしょう。

 転生者のサル共が総出というのは」


 いや、オレも転生者なんだけど、そのあたりは……。


「それに、ある貴族から特別に頼まれたことでもありまして……」


「ある貴族?」


「ここから出ればわかります。しかし、気をつけてください。

 その者は強欲の権化。魔物共に勝るとも劣らない背徳者ですので。

 猊下の指示でなければ、誰が御遣い様のお目を汚すようなことを……」


 貴族? いったい誰だろう?

 心辺りが全くない。


 強いて上げれば第二王子……でも、彼は王族だよな。

 実の妹好きの背徳者には違いないかもだけど。

 

「もっとも、御遣い様ならさほど問題にはならないでしょう。

 清濁をまるごと飲み込む、あなた様でしたら……」


 どうやら、一難去ってまた一難、ということみたいだ。




 先へ進みオレたちが出たのは、学園近くの王都でも貴族達が集中する地域。


 それも1~2位を争う大貴族、ロナルド卿の住む邸宅前。

 その庭の噴水そばだった。


 ロナルド卿っていうと、確か御前試合でオレを査問した貴族の親玉か。


 そこから邸宅を眺めると、玄関に彼本人が待ち構えていた。 


「貴方がシュウ殿ですか。

 確か男のかたとうかがっていましたが……」


 そういえば解いていなかったな。

 目の前で偽装を解除すると、ロナルド卿は目を見ひらいた。


「まさか! そんなことができるアイテムがあるとは!

 その、それは誰でも使える物なのですかな?」


「どうでしょう。

 正直、鍛錬や修行で使えるような物ではないと思いますが……」


 偽装に使ってるのは具現の指輪。


 けど、これで内部の光の反射を調節するのはひとすじ縄ではいかない。

 オレだってマルチナの補助でようやくモノにできてるくらいだ。


「そうですか……」


 ロナルド卿はそれを聞くと、心底ガッカリした声をもらす。


 たまに見かけたときの彼の印象は、感情を表に出さないタヌキジジイそのもの。

 なのにオレの偽装をみて、今は感情を露わにしている。

 ちょっと驚きだ。


 

 その後エリーヌは、用があって名残惜しそうに帰っていく。

 レンに無事だったむね言付けを頼むと、こころよく引き受けてくれた。


 オレは一人、邸内の客間に案内され、即されてソファーに座る。

 テーブルを挟んで反対側にロナルド卿が腰をおろした。


「さて、息子や孫から話は聞いております。

 直接会うのはこれが初めてですかな?」


「ええ、そうですね……。

 それにしても、私を助けた理由はなんでしょうか?

 何か頼みたいことがあるのでしょう?」


「いえいえ、まさかまさか。

 御遣い様に、私のような凡庸な者が願いごとなど」


 その『御遣い様』と発する言葉の響きに、ある種の皮肉と嘲笑が混じってる。

 オレだって正直、恥ずかしい


「ハッキリ申しまして、私は貴方に提案をさせて頂きたく呼んだのです。

 たまたまそのタイミングと貴方のピンチが重なっただけのこと。

 こちらの提案を聞いたら、ただちに帰って頂いて構いません」


 わかりにくい言い回しだが、ようするにこれは脅しだ。


 もしオレがロナルド卿の提案をのまなかったら。

 ただちにここから叩き出し、追っ手の群れの渦中に放り込む。

 そういう脅し。


 あの場からは離れたものの、べつに結界を抜けたわけではない。

 追い出された上に通報でもされたら、今度は逃げ切れるかどうか。


「なるほど、とりあえず聞きましょう」


「話が早い。提案というのは私の孫の『マーガレット』のことです。

 彼女と婚姻関係を結んで頂きたい」


「……は?

 婚姻関係って……結婚しろっていうことですか!?」


 正直、面倒なことに巻き込まれたと思った。

 

 そりゃあ、オレだって女性と付き合いたいという願望はある。

 だけど、そのために家柄とかそんな面倒なことに巻き込まれるのはゴメンだ。


 それに――。


「その通り。

 マーガレット。入ってきなさい」


 入ってきたのは、年老いたご婦人。


 ……いやいや、まさかまさか。

 孫というよりロナルド卿の姉と言ったほうが納得できるだろ。



「あの……本当に孫なのですか?

 間違えて他の方が入ってきたのではありませんか?」


「驚きになりましたか。

 実は孫は呪いの被害にあいましてな」


「とすれば、呪いを解除できれば元に戻ると?」


「いえ、解呪してこの状態なのです。

 なんとか元に戻せないかと、方々手を尽くしたのですが……」


 おいおい、冗談じゃないぞ!

 こちらの窮地にかこつけて、こんな要求をされるなんて。


 確かに顔立ちは整ってる。

 もし孫というにふさわしい見た目をしてたなら、満更ではないと思っただろう。


 いや、それにしても、どうする?


 考えてみると、ホントに結婚する必要はない。

 ここでいい返事だけして今はしのぎ、後でばっくれるという手もある。

 とにかくこの場は、奴らの追跡をかわせればいい。


 だけど。


 彼女を見れば見るほど感じる。

 ホント、人の良さそうな笑みがよく似合うな。

 そんな彼女がこんな呪いにかかったなんて気の毒でしかたがない。


 オレがウソでもハイって返事したら、よろこぶのかな。

 そんな彼女を騙すようなことになるのは胸が痛む。


 だからって受け入れられるわけはない。

 それにオレには――


 いったい、どうすれば……。


 オレは、散々悩んだすえ立ち上がると、彼女に近づいた。

時間を置いて続けて投稿します。




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