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王都潜入② どうやらバルドクルツをなんとかしないといけないようだ

 魔王戦からあと、こよりが鍛冶をしている様子がない。と、レンから聞いてる。


 だからひょっとしたら部屋にいないかもな……。

 ちょっと不安になる。


 だけどそんな予想に反して、彼女はいつもの鍛冶場でひとりたたずんでいた。


 そこは、調印式のあった直前からなに一つ変わってなく。

 まるであの日に戻ってきたような錯覚まで覚えさせる。視界がにじんできた。


 オレが入ってきても、彼女はボーっとしたまま。

 こちらに問いかけるでもなく、拒否するでもなく、動きを見せない。


 まあ当然だ。

 今のオレは修道服を着ていて、別人の顔をしてる。


 オレは頭巾の部分を脱ぎ、顔にかかっていた偽装を解いた。


 それでもこよりはなんの反応も示さない。

 と思ったら、数秒後に驚きの表情に変わる。


「シュ、シュウにい!!!!????

 どうしてこんなところに!!!?

 ひょっとして、もう魔王を倒しちゃったとか!!!???」


「そんなわけあるか。

 ちょっと、貸してほしいものがあってさ。

 確かお前、オルゴール持ってたよな? 見せてもらえるか?」


「うん、そこに置いてあるよ」


 そう言って、人形が飾ってある一角を指さす。

 棚に寄ればすぐに手が届くような位置にあったそれを、オレはつまむ。



 不思議なオルゴールだ。


 普通、こういうのには回すためのネジか、それを差し込む穴があるはずだ。

 だけどこれには、そういったものが一切ない。


 鑑定眼で視てみる。

 どうやら魔力(MP)を注ぐことによって動作する仕掛けのようだ。


 音を鳴らす部分も、魔力を動力に変える術式もかなり精巧に作られてる。

 100年ほど前の著名な職人の手による作品のようだった。


 けど、それだけのものだ。


 なにか強大な力を秘めているとか、特別な呪術式が隠されているとか。

 そんな秘密めいたものは一切ない。


 少なくとも、これ自体が勇者の遺産ってことはまずないだろう。


 オレは4ポイントほどしかないなけなしのMPのほとんどをそれに注ぎ込む。

 するとオルゴールがわずかに光を帯び、メロディーを奏で始めた。


 それは確かに、あの廃墟に鳴り響いていたものと同じ旋律。


 この曲がヒントになってるのか。

 それともこの音がなにかのトリガーになってるのか……。


「なあ、このオルゴール、借りていいか?」


「うん、いいけど……用事って、それだけ?

 レンねえみたいに、あたしを誘ったりしないの?」


「じゃあ、オレたちの隠れ家に、一緒に来てくれ」


「クスクス、そんな頼み方じゃダメだよー」


 そんなことを言いながら、こよりは駆け寄ってきた。

 オレの腹のあたりに抱きつく。


 初めて話したときも、こんなやりとりをしたような気がする。


「うん、やっぱりシュウにいだ」


 オレは、こよりのあたまを手のひらで軽くポンポン叩く。


「それにしても……その修道服、こわいほどにあってるね。シュウにい。

 まるでホントの修道女みたいだ」


「こわいほどってなんだよ」


 大体、頭巾の部分を除けば修道服に男女の区別はほとんどない。

 なのに頭巾を脱いでいる今、修道女に見えるというのはどうなんだろう。


「いやいや、その姿で元の世界に帰ったら、きっとファンが大勢つくよ。

 薄い本がたくさん作られちゃうって」


「うーん、確かにそれはこわいな」


 なんてたあいないことを、こよりとたくさん話した。




 もうすぐ学園が放課後になろうというあたり。

 オレはもう一つの本題を切り出した。


「お前、脅されてるのか?」


「いや、そうじゃないよ。

 そうじゃないんだけど……怖いんだよ」


「怖いって、戦うのがか?」


「それもあるんだけど……。

 ダメなんだ、アイツだけは……」


「アイツって、バルドクルツのことか」


「名前は知らない……けどあいつの気配を感じるだけで……。

 わたし、わたし……」


 こよりの身体がガタガタと目に見えて震え始める。


「アイツに逆らったらみんな殺されちゃう!

 パーティーのみんなも! シュウにぃも! それに! それに!」


「おい! どうした! こより!」


 こよりを揺さぶるが、彼女は叫びをやめない。

 その視線は既にオレを見ていなかった。


「こより! しっかりしろ!」


 こよりが、ハッとした表情となり、ようやく視線を戻す。


「……シュウにい、ゴメン。

 あたし、やっぱり行けないよ」


「お前の事情は大体わかった。

 ようするにバルドクルツさえ倒せば、王都から出れるってことなんだな?」


「! そんな! 無茶だよ!

 いくらシュウにいでもアイツを倒すのは!」


「なにをおっしゃってるんだか。

 オレは魔王と奴、2体同時に相手して、あれを戦闘不能にしてるんだぜ?

 1体なら楽勝だって」


 実際はそんな単純な話じゃない。


 大体、奴を戦闘不能にしたのは受け流した魔王の攻撃。

 オレ自身の力がどこまで通用するかは未知数だ。


 それに奴の持つ『バルカナの勇者の宝石剣』に正面から対したわけじゃない。


 バルドクルツより圧倒的上位のはずの勇者壮五が苦戦した剣。

 そいつを、どう攻略するか……。


 それに奴には『死の瘴気』もある。

 前回は使う間も与えずぶっ倒したが、今回もそれができるかわからない。


 だとしても、


「ま、心配するなって」


 さっきのように取り乱すこよりは、もう見たくない。



『マスター! 何者かがこの部屋に近づいてきます!

 足音からして対象は……』


 突然マルチナがオレに警告を発してくる。

 だが、最初は勢いのあったマルチナの言葉が、次第に戸惑うように弱くなる。


『対象は? 誰だ?』


『バルドゼクスと思われます』


 なんだそりゃ!

 奴は確かに壮五に倒されたはず。


「? どうしたの?

 シュウにい?」


「この部屋に誰か近づいてきてる。

 多分、魔王軍幹部だ」


「きっと奴だ! 逃げて! シュウにい!」


 ムリだ。

 鍛冶を行うための部屋なので、外に通じているのは狭い通気口か入り口だけ。

 通気口は狭すぎで、俺の身体でそこから出ることはできない。


 入り口から強行突破するか?

 だけど、今、騒ぎを起こしたくない。あくまで最後の手段。


 部屋を見渡す。

 だが、人が隠れられそうな場所はない。


 いっそ修道女のフリをするという手もあるか?

 教会からこよりを慰めるために派遣された、みたいな話をすれば……。


 いや、もし奴がホントにバルドゼクスなら問答無用にって可能性もある。

 バレないって保証もない。


 どうする?

 どうすればいい……?




「お? 今日は瞳に力が宿ってるじゃねえか。

 なんかいいことでもあったのかよ。

 てか、そこにある木彫りのでっけえ人形は、なんだ?」


 入ってきた魔物は、オレのほうを指さす。


 コイツが入ってくる直前。

 オレは自分の身体全体を魔法物質の薄い膜で覆った。

 そして光の反射を調節、オレ自身を擬似的に木彫りの人形に見えるように偽装。


 見た目は区別つかないだろうが、触れば一発で木製じゃないことがバレる。

 そうならないよう、祈るしかない。


「別に。そういうバルドヴェールこそ、なんか用?」


 バルドヴェール!?


 こいつが!? 前に出会った奴と全然違うじゃないか!

 てか、潰した目は直ってるが、みてくれはバルドゼクスそのまま。


 じゃあ辺境都市に現れた奴は、いったいなんなんだ?


「あ? とぼけるなよ。前から言ってるだろうが、俺専用の武器を作れって。

 魔王さまやクルツにはあるのに、俺だけないんだぜ?

 カッコつかねえじゃねえか」


「そんなの、知らないよ。

 適当に見つけてくればいいじゃないか」


「ほほう。クルツの前では大人しいくせに、俺だとやけに強気じゃねえか。

 まさか、俺を怒らせても手を出さねえとでも思ってるんじゃねえだろうな?」


「そんなんじゃないよ。

 ただ、お前じゃあシュウにいには勝てない。それだけ」


「は! なるほど。

 つまり愛する野郎を守るため、あえてクルツに従ってるのかよ。泣かせるねえ。

 だが、そんな話を聞いちまうと、ぜひ一度手合わせ願いたくなるねえ。

 ホントに殺せないかどうか」


 なんていうか、名前こそ違うが、性格はバルドゼクスそのままだ。


 レンが前に『邪魔者は問答無用で殺すタイプ』と言ってたけど。

 なるほど、オレも同じ印象だ。


「まっ、いないものは仕方ねえ。

 代わりに……」


 不意にバルドヴェールが、木彫り人形に偽装しているオレのほうを見る。



「おめえに相手してもらおうじゃねえか」

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