辺境の豪商④ ニセモノ勝負の結末
「さて、では切れ味をためさせてもらうよ。
シュウ殿の体で」
みながその言葉の意味を理解する前に。
後ろのほうでアルバートが遺産の剣をオレの肩に振り下ろそうとする。
龍介は仲間を見ていてそれに気がつかない。
レンがいち早く反応し、悲鳴を上げる。
だが、それで振り降ろされようとする剣が止まることはない。
その刃が無慈悲にオレの肩に迫る。
オレはそれをずっと見てた。
眺望の指輪を発動。タイムストップの指輪もスローモードで動作させながら。
肩に振り下ろされた剣がまるでゴムのようにぐにゃりとしなり、消滅する。
と同時にオレの手元に、さっきまで奴の持っていたのとおなじモノが現れた。
驚愕するアルバート。
「観念しな、バルドロール。
もう全部わかってるんだ」
オレは振り返り、変化の指輪で化けている奴に告げてやった。
「まさかニセモノをつかまされるとは……。こうなることを読んでいたのですね。
ここは退却させて頂きましょう。いずれ本物の剣を頂戴にあがりますよ!」
事態を察してその場から飛び上がろうとするが、もう遅い。
奴の足下の地面がとつぜん水アメのように軟化し始める。
そしてその足が、触手のように隆起した地面に絡め取られた。
バルドロールは、完全に身動きが取れなくなった。
「一体いつから私のことに気づいていたんですか?」
「お前言っただろ。
『まさか、こんな所に仕掛けがあるなんて知らなかったよ』って。
この洞窟の中を何回も行き来してないと出てこない言葉だな」
ウソだ。
てかホントは、出会ったときから鑑定によって見抜いてる。
魔王戦のときに強化された鑑定眼。
それは、すでに変化の指輪の偽装を完全に見抜けるようになっていたのだ。
だけど敢えて口にしない。
自分のミスでバレた、と思わせたほうがショックも大きいだろう。
「……くくく、これは失態でした。さすがは鑑定士殿。ですが、いいのですか?
ここで私を逃がさないと、セラーク氏の身の安全は保証できませんよ?」
「だから、全部わかってるって言ってるだろ?
お前ら魔物は、セラーク氏の件と一切関わりはない」
言ってることがハッタリか真実か、うかがうようなバルドロールの視線。
それを無視して、オレは言葉を続ける。
「ちなみに、オレが勇者の遺産のことを知ってるってのもウソだ。
ここにあるってのもな。
だけどお前を退治する絶好の機会だと思って、乗っからせてもらった」
「! では貴方が持ってるその剣も」
「ああ、具現の指輪によって生成したニセの遺産だ。
てか本物は剣かどうかすら知らない」
手に持ってる、魔法物質で生成したニセの剣を目の前で消してやる。
「ちなみに剣の前にあった封印の仕掛けも、この辺りの足場もニセモノだ。
全部オレが魔法物質によって生成した。
明るかったらバレてたかも知れないが、こんな場所で助かったよ」
「……なるほど。完敗です。
私は勇者の遺産をエサに、逃げ場のないここに誘い込まれたのですね」
バルドロールは、感心したようにうなずく。
その様子に、囚われている焦りは微塵も感じない。
「遺産を見つけるために利用していたつもりが、まさか逆手に取られるとは。
いいでしょう。ここまでの体験を得られれば魔王さまも納得するはず」
「……なるほど。要するに魔王に美味しい食事をしてもらうためか。
お前が、反抗組織のリーダーに成り代わっていたのは」
「はい。
我々には、周りにいる人間の感情の起伏を自身の魂に刻み込む能力があります。
そして、それをいつでも魔王さまに味わってもらうことができる」
あいかわらず、迷惑な話だ。
「私はセラークなどという人物のことはまるで知らなかった。
話を聞いたとき、これを利用して貴方から勇者の遺産の情報を得られないか。
そう思って利用したまで」
バルドロールがふと見上げる。
「そう、こんな風に手を出す必要はなかった。
遺産がどんなものであれ、魔王さまをどうにかできるものではないはず。
ですが、つい欲を出してしまいました。失敗です」
「そりゃあ、いくらなんでもなめすぎじゃないか?
どうにかできないって、先代勇者はかなりの所まで追いつめてるんだぜ?
その勇者が残したっていうなら……」
「ええ、あのときの戦いは魔王さまも大変満足していらっしゃいました。
……だからですかね、私は先代の勇者に嫉妬していたのかも知れません。
それでムキになってしまった……」
奴がオレのほうを見た。
「そうですね。
確かに貴方なら、さらに魔王さまを追いつめることができるかもしれません」
そして、穏やかに微笑む。
「しかし、それだけです。追いつめること以上はだれにもできない。
いかなる力をもってしても。だれも魔王さまを殺すことはできないのです」
「……なんだって?」
「今日はとても楽しませてもらいました。
先日の戦いといい、貴方は私の期待を裏切らない。
今後の活躍、私、期待してますよ?」
「まるで、ここから逃げおおせられるかのような発言だな」
「ええ、造作もないことです」
そう言葉を発した途端、奴は変化の指輪の効力を解き正体を現す。
露わとなる、バッファローのような雄々しい角を生やしたガイコツの姿。
そして瞬時にその体の骨1本1本がバラバラに分解した。
拘束していた足下の骨の何本かを残して、宙を飛び去ってしまう。
『ははは! 足下の骨は差し上げましょう。
捨てるなり砕くなりご自由に』
洞窟に、奴の嘲笑混じりの言葉が反響する。
オレたちは、ただそれを聞いてるほかなかった。
残った足骨を鑑定する。
だけど、それはなにかの動物の骨でしかなかった。
用心深くそれを、拘束していた魔法物質で押しつぶす。
それはあっけなく粉々になって霧散した。
「シュウくん!!!!」
最初に動きを見せたのはレンだった。
飛びついてくる彼女をあっさりとかわす。
「シュウくん! ヒドい!!」
「いや、だって。
ここでこんな形で腰や肋骨を折られるのはちょっとカッコ悪いって。
一応回復魔法が使える人いるけどさ……」
「貴方、なにを言ってるのです!
敵の幹部をあそこまで追いつめておきながら取り逃がすなんて情けない。
レンお姉さまに肋骨の一本や二本くらい捧げるのが筋というものです」
「どんな筋だよ」
「俺たちのリーダーがまさか敵の幹部とすり替わっていたなんて……。
なんて失態だ……」
「仕方がないさ、カナック。
メリオールの変化の指輪なんて使われたら、普通だれも見破れない。
オレだって、半年前だったらわからなかったさ」
「それにしても、さっき『最初から全部わかってる』っていっていたな?
シュウ。ということは、セラーク氏の件も……」
「ああ。
もっとも、わかってるのは状況だけ。理由とか動機とかは憶測で語るしかない。
そこは当事者に聞いてみないとな」
バルドロールが逃げたあと、アジトに残っていた少数の魔物もいなくなってた。
勝利とは言いがたいが、とりあえず魔物の件は片づいたといっていいだろう。
あとで洞窟の入口を潰す処理を総出で行うことになると、カナックは話す。
辺境都市へ戻ったのは夕方を過ぎ、夜になってからだった。
カナックとは、都市の門が見えるか見えないかの所で別れることになる。
彼らはアルバートが死んだことにして他の幹部と今後のことを決めるという。
けど、カナックは自分がリーダーになる決意をすでに固めているように見える。
ちなみに彼は最初、反抗組織の次期リーダーとしてオレを指名した。
けどそれは丁重にお断り。
オレたちは都市へ入ったが宿へは帰らず、そのままとあるところへ向かう。
それは、昨日第二王子と再会した例の酒場。
そこには、昨日の昼間と同じようにチャールズが酒を飲んでいた。
セラーク氏が誘拐されてから今までを思い返す。
話を聞くに、犯人は大人1人を担いで龍介たちから逃げおおせたらしい。
だけど、王子……というか普通の人間にはそんなのムリだろ。
人質をちらつかせる間もなく、後ろからズドンで終わり。
他の転生者だとしたら、逃げるくらいはできるかもしれない。
けど龍介なら立ち回りから、戦ってる相手の正体を見切るのはたやすいだろう。
訓練であれだけ模擬戦をしてるんだし。
だけど、龍介は心辺りがないと言う。
あるいは、変化の指輪で魔王軍幹部が王子に化けてるかもしれない。
だけど、バルドロールとのやりとりで、それはないことが確信できた。
つまり『誘拐犯が現れてさらっていった』という龍介の話はウソ。
ならおそらく、脅迫状のぬしと龍介パーティーはグルである。
とすれば、龍介パーティーが犯人一味。
裏で第二王子かだれかが糸をひいている。
とも考えた。
それなら『目星はついている』とオレが発言したあとに交渉を持ちかけたはず。
あるいは、口封じなり説得なりしてくることも考えられる。
そこを見極めるために、龍介たちと可能な限り行動を共にするように努めた。
だけど、こちらに対して明確なアクションは未だしてこない。
だとすれば――
「お会いできて光栄です。セラークさん」
オレは飲んだくれている第二王子チャールズにそう声をかけた。
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