辺境の豪商③ 先代勇者がなにかを残していた
(7/10)どうも序盤の記述が不明瞭すぎたので、その辺りを修正するように前話の内容を少し書き直しました。
気になる方は読み直して頂ければ
「「「「勇者の遺産!」」」」
「……ああ、存在だけは聞いたことがある」
「シュウくん、知ってるの!?」
「ああ、なんでも、先代の勇者たちが対魔王用に準備したものらしくてさ。
ただ情報が少なくて、一体どんなものかもわからないけど……」
「さすが、真の勇者とウワサされるだけのことはある」
「すまない、オレを勇者と呼ぶのはやめてくれ」
「いや、こちらこそ君の気分を害したようだね、すまなかった」
アルバートはぺこりと頭を下げる。
オレも少し神経質になりすぎたかもしれない。
「話を続けよう。ウワサは色々あるが、我々もどんなものかわかっていない。
勇者専用の強力な武器とも、いかなる攻撃も受けきる盾とも言われてるが……」
「その情報をセラーク氏がつかんでいる……ということだろうか?」
「そのとおり、リュースケ殿。
おそらく敵も、遺産の情報を狙っているに違いない」
「ちなみに、他に知ってそうな奴はいるのか?
例えば王家の連中とか」
「さあ。
その辺り、情報はありませんね」
「でも、それってどうなのかしら?
魔王の弱点となる情報をもってるセラーク氏の命を絶たないかしら?」
「いや、そうとも限らないよ、レン姉さん。
オレだったらセラーク氏から遺産のありかを聞き出し、確保するかな。
遺産自体を人の手に渡らないようにしたほうが、確実だよ」
「なるほど……さすがシュウくんね。
でも、少し腹黒でお姉さん心配」
「うぐっ。ま、まあ、それはいいとして。
実はオレ、遺産があるかもしれない場所、いくつか知ってるんだ」
「本当なのかい!!?」
みんな驚いた表情をしていた。
そんな中、特にアルバートが猛烈に食いつく。
周りが若干引きぎみになるほどに。
「コホン、いや、色々手を尽くしていたんだけど、わからなくてね。
さすがシュウ殿。それで、場所は」
「それが、幸か不幸か、ここなんだ」
オレは、机にたまたま広げられた都市周辺の地図の一ヶ所を指さす。
それはカナックが示した魔物のアジトの位置と同じポイント。
「! まさか、こんな場所にあるなんて……。
でもそれって、もう敵が遺産を手にしてるかもってことなの? シュウくん」
「どうだろう、そう簡単に場所がわからないようになってるとは思うけど。
もしセラーク氏が場所を白状してたら……」
「ならば、早急にセラーク氏を救出し遺産も回収したほうがいいだろうな」
こうしてオレたちは、魔物のアジトに乗り込むことになった。
とりあえずいったん宿に戻って一晩過ごす。
そして早朝に都市の外で、皆と待ち合わせて出発。
乗り込むのは、オレとレンと龍介パーティーと反抗組織のメンバー数人。
リーダーであるアルバートとカナックの2人もその中に入ってる。
ホントはもっと集めたいところだと、リーダーである彼は苦笑する。
だけど、今、組織のメンバーの大半は他の用件でアジトにいないとのこと。
もともと襲撃は数週間先を予定してたから仕方がない。
もっとも、こちらには転生者が6人もいるんだ。
このメンバーならバルドクルツ辺りでもいない限り、まず大丈夫だと思うが。
そんなことを口にするとフラグになりそうで怖いけど。
アジトに乗り込む目的は3つ。
1つ目は魔物に拉致されているかも知れないセラーク氏を救出すること。
2つ目はアジトに隠されているかも知れない先代勇者の遺産を手に入れること。
そして最後に、可能ならアジトの魔物を全滅、ないしは追い出すこと。
ただオレは、それらより、ある1つの目的を念頭に置いて行動してた。
それは――
「ところで……。
シュウくんはなんで今までそこの勇者の遺産に手を付けていなかったの?」
アジトへ向かう道すがら。
考えをまとめてるオレに、レンがそんなことを訪ねてきた。
「ああ、まあ、あるかないかわからないものに時間をかけてる余裕がなかったし。
どうせ勇者によってわからないようにカモフラージュされてるだろうから。
必要になった直前に回収すれば、自分でもってるより安全だと思ったんだ」
「まあなんにしろ、いい機会だと思うよ。
さすがに魔物が偶然見つけださないとも限らないわけだし」
アルバートがそんなことを言う。
面々を見ると、反抗組織のメンバーはどこか手慣れてる。
多少緊張こそしているものの、肩肘を張っている感じではない。
それなりに実戦をこなしているように見える。
一方、龍介パーティーのほうは、表情が優れない。
といってもこれから起こる戦闘に緊張しているわけではなさそうだ。
「なんか気になることでもあるのか? 龍介」
「ああ、いや。
どうにもおおごとになってしまった感が否めなくてな。
ことの重大さは理解しているつもりだが……」
それはオレも思った。
セラーク氏をどう説得するか、あれこれ色々と考えてたのに。
まさかこんな流れになるなんて。
「とはいえセラーク氏はともかく、このアジトの件は片付けないと。
ここの魔物を野放しにしておけば、後でどんな被害があるかわからないし」
「確かに、それはその通りだな。
私も覚悟を決めよう」
龍介の顔はあいかわらず硬い表情だったが、そこに不安の影はなくなってた。
昼をだいぶ過ぎた辺りで、地図に示されたポイントに到着する。
どうやら魔物は洞窟に巣くってるようだ。
その入り口には、一見なんの気配もない。だけど……。
「洞窟の奥でかなり巨大な魔物が1体待機しているな」
「わかるのか?」
「ああ、鑑定眼でダンジョンの内部構造、ワナや敵の配置がわかるんだ」
「では、勇者の遺産も」
「ああ、確かにここに勇者の遺産はある」
オレがそれを声にすると、みんなの喉がゴクリと鳴った。
それにしても、違和感はある。
やけに魔物の数が少ないのだ。
視る限り、入って一本道の先にある大きな魔物以外は数体しかいない。
それに、
「だけど、ここにセラーク氏はいない」
「そうか……」
ひょっとしたら、護送されて別の場所に移されたのかもしれない。
それなら、現在の魔物の少なさも説明がつく。
もっともオレは、その可能性は低いと考えていた。
「とにかく、遺産を確保しよう」
リーダーのアルバートの一声によって、オレたちは敵アジトに乗り込む。
アジトを守っていた巨大な魔物は確かに強かった。
だけど、勇者につぐ実力の龍介パーティーにかかれば、造作もない。
さほど苦なく倒された。
「さて、とりあえず魔物は倒したが、遺産の場所はわかってるのか? シュウ」
「ああわかってる。任せてくれ」
今度はオレが先頭に立ち、洞窟の奥へ。
魔物に出会うことなく、その最奥の行き止まりへたどり着いた。
「行き止まりだが……どこかに隠しスイッチでもあるのか?」
「まあ、そんなところだ。その鑑定も今、済んだ。
ちょっと待っていてくれ」
オレは行き止まりの壁を、まるでパネル操作をしてるかのように指でつつく。
するとその周辺から、氷に熱湯でもかけたかのようにドロリと溶け始めた。
目の前に、奥に続く道がひらける。
その少し先の地面に剣が刺さってた。
「まさか、こんなところに仕掛けがあるなんて知らなかったよ」
そんなことを犯行組織のリーダーはもらす。
その言葉を聞いて、レンがオレに目を合わせてくる。
まるで何か気づいてはいけないことに気がついたかのような、硬い表情で。
「ああ、いや大丈夫、もうわかってるから」
「ん? どうしたのだ? シュウ。
何か問題でもあるのか?」
「いや、大丈夫だ」
オレは龍介にそう返事して奥へ入ると、刺さっている剣をあっさり引き抜いた。
そして手にした一振をかざしたとたん、そいつは七色に光りはじめる。
「これが、勇者の遺産か……」
誰とも知れない呟きが漏れる。
オレが剣を軽く振りまわすと、光が刃に吸い込まれるように消えた。
元に戻った剣は、少し装飾の豪華なだけで普通のものと一見変わらない。
オレは、みんなのいるところまで戻った。
そして手にもった剣を、反抗組織のリーダーであるアルバートに渡す。
「……いいのかい?
シュウ殿が使ったほうがいいんじゃないか?」
「いや、オレは戦士系の加護をもってない。武器なんかもってもムダになるだけ。
今の勇者に渡すのがいいだろうけど、正直アイツに会うのはゴメンだしな」
「そうか、じゃあ責任をもって勇者殿に渡そう」
「まあ、そういうことで、とっとと帰ろう。
セラーク氏の件は振り出しに戻ったわけだし」
オレはみんなに先行するように、洞窟の出口へ歩き始める。
「それにしても、軽いな。まるで羽のようだ」
後ろから聞こえる、アルバートの興奮気味の声。
「さて、では切れ味をためさせてもらうよ。
シュウ殿の体で」
時間を置いて次話を投稿します。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




