辺境の豪商① 辺境の酒場でこの国の王子がくだを巻いてた
「ここに遠距離攻撃用の魔法装置を作るのさ。
龍脈をエネルギー源に動作するやつをね。
その攻撃を古城にいる魔王に、直接お見舞いする」
オレが考えた中で一番バカバカしいが、一番勝率が高いプランがそれだった。
2つの龍脈から引き出せる力は、大聖堂をぶっ壊したあの爆発を軽く凌駕。
王都そのものを吹っ飛ばしてあまりあるほどだ。
前の魔王戦の爆発ですら、そこそこのダメージはあったわけで。
その数分の1の力でもぶつけることができれば、間違いなく魔王の体は滅する。
だが過去にも、とてつもない火力での攻撃がおこなわれたことはあった。
だけどそれらはことごとく失敗している。
どんな攻撃もかわされるか、『偽りの御手』で無効化されてしまうのだ。
高火力を魔王に気づかれる範囲で放っても目的は達成できない。
それが、世界樹へのダイレクトアクセスでわかっている。
そこで、古城から離れたここから法撃を放つ。
この距離からでは、かなり威力はダウンするだろう。
だけどそれでも魔王の体を滅するに足る火力は得られるはず。
これらのことを淡々と、ここにいるみんなに説明する。
みな、驚愕ともあきれとも取れるため息をついた。
「それにしても……、さすがシュウくんというか……。
スゴいことを考えるわね」
「ホント、この手の男がこじれると、ここまでとんでもない凶行にでるのですね。
魔王より恐ろしいですわ」
「勇者さま……」
「それじゃあ、わたしの役目って場所を作るだけで、特訓とかはムダになるの?」
悠里が少し不満そうだ。
「いや、同時にパーティー戦による討伐計画も並行して進める。
魔王を古城に釘付けにする必要があるしさ」
それに、あまり攻めっ気が感じられないと魔王に勘ぐられるかもしれない。
「なるほど、じゃあ、その流れで魔王を倒しちゃっても構わないんだね」
どこぞの錬鉄の英霊みたいなことを言う悠里。
「で、大まかな流れはこんな感じなんだけど、現状足りないモノが色々ある。
とりあえず、単純な人手はなんとかなりそうだけど……」
「……専門職の人と、お金の問題ね?」
「ああ」
魔法関連はダイレクトアクセスや攻略Wikiでどうにかできるかもしれない。
けど、実際にモノを作るには、やはりこよりの手が必要になる。
だけどこよりは、オレたちが脱出した直後から塞ぎ込んでしまったらしい。
まるでバルドクルツに脅されていた時のように。
レンの説得にも応じないらしい。
「それってやっぱりバルドクルツに脅されてるのかい? レン姉さん」
「それがどうにも、本人の意思でとどまっているらしいのよね」
「あの時、わたしが無理やり連れ出していれば……」
「それを言うなって。あの時、オレだって自分のことで精一杯だったし。
こよりのことは、いずれなんとかするさ。
あとは金か……」
「そこは、レンお姉さまのためならいくらでも出します。
そこの男の計画というのは、ちょっとしゃくですが」
「いや、多分セリアの動かせる範囲の金でも足りない。
商会全体の金を動かせるなら、話は別だけど」
「……お姉さまのためになるなら、お父様の首をきゅっと」
「ああ、セリアちゃん。
そこまでしなくても、わたし、資金の当てがあるんだけど……」
レンの話を聞く。
どうやら辺境都市に本拠をもつ豪商『セラーク』がオレに興味があるらしい。
その彼からも資金を調達できるかもしれない。
ただ、その条件として1度オレに会いたいというのだ。
オレは了解した。
とりあえず、伝書鳩にて辺境都市に向けてこちらの要望を伝える。
場所は辺境のセリアの店で、10日後。
レンとセリアも立ち会ってくれることになった。
ちなみに悠里にはここに残ってもらうことにする。
村人の監督も必要だろうし。
それに悠里には訓練を続けてもらった方がいい。
出発までにメニューを用意して彼女に渡すつもりだ。
こうしてオレは、レンやセリアと一緒に早々に辺境都市へ戻ることになった。
都市への道のりは馬車で行くことになる。
飛行なら半日で着くが、さすがに3人はムリだしな。
馬車旅は特に追っ手に絡まれることなく順調そのもの。
1週間くらい時間をかけて、辺境都市へと到着した。
向こうからの返事は届いており、こちらの要望がそのまま通る。
それから数日セリアの店の手伝いをしながら過ごし、会合当日を迎えた。
会合の2時間ほど前、昼をちょいとすぎた頃。
オレは辺境都市1番の酒場へと足を踏み入れていた。
昼間から、それも大事な会合前に酒を飲もうってわけじゃない。
ここは昼には軽食を出しており、かなり美味しいと評判になってるのだ。
会合前になにか腹に入れておくにはちょうどいい。
ついでに、レンとの待ち合わせ場所にも指定している。
直前の打ち合わせもここで済ませてしまう予定だ。
店の前に立つと、いつものいい匂いが外に漏れていた。
だが入ってみると、今日は中の様子がいつもと若干違う。
なんか、微妙に緊張した空気が流れていた。
その緊張の源泉となっていると思われる席に目を向ける。
1人の男が酔い潰れ、グデーっと突っ伏してた。
その男は酔い潰れていながらも、ある種の品の良さを感じさせた。
服装は一見地味だが高級感と清潔感がにじみ出ている。
それにしても、どこかで見たことあるんだが……。
「兄さま!!!」
突然、ぽん、という音でも出そうな感じでちびリタが実体化する。
彼女は声をかける間もなく、席に向かってとてとて走り寄った。
マルチナの兄貴!?
いや、まさかそれはないだろう。この場合はちびリタの……。
あ、リタの兄貴か!
こんな辺境の酒場で、なぜか王国の第二王子『チャールズ』が酔い潰れてる。
あまりにもイメージに合わないことをしてたので誰かわからなかった。
「兄さま、起きてください」
ちびリタは、自分の身長の4~5倍はあるテーブルの上にまで器用に上り詰め。
そして酔い潰れている王子の頭を、ぺしぺしと叩いた。
「うぅ……王家の血を引く私の頭を叩く無礼者は、どこのどいつ……。
んんん……? ! リ、リタ!!?」
面影はあるものの、普通だったら絶対に勘違いしようがないちびリタの姿。
それを本物であると断じた第二王子は、すかさずその体を捕まえる。
「リタァ……リタァ、兄さんは、兄さんはね、寂しかったんだよぉ……」
そして、力の限りぎゅーっと抱きしめた。
「それでぇ、ヒック、なんでお前はこんな所にいるんだ?」
王子はオレを向かいの席に座らせ。
ちびリタを抱きしめながら、そんなことを聞いてきた。
それはこっちのセリフだと思うが。
辺境の酒場で酔っ払いイケメン王子が萌えゆるキャラの人形を抱きしめてる。
そんな様を前に、どこからツッコむべきなのか悩んでしまう。
てか、オレだって抱きしめたくても男として我慢してるのに。
すっごく、うらやましくない。
「いえ、ちょっと商談があってこの街に来ているんです。
そういう殿下こそ、なんでこんなところに?」
「あぁ?
私みたいな高貴なものがぁ、こんな大衆酒場に、ヒック、いちゃいけねえ。
なんて、そんな決まり、ないだろうが? ヒック」
「ああ、そうじゃなくて、この辺境都市になんのご用で?」
「まったく、リタを助けられなかったくせに、こんな所で商売たぁ。
ヒック、いいご身分だな?」
「いや、なにをするにも金が必要でして……」
「お前! ヒック、この人形も商品なのか? 私に売れ!」
そう言って、懐になにか紙らしきものを出して、なにかさらさらと書く。
それをオレに押しつけてきた。
それは元の世界で言う小切手のようなもの。
そこに王子のサインと、家一軒が買えるような金額が書き込まれていた。
「わたしは商品じゃありません!
しっかりしてください! 兄さま!」
ぺしぺし
「おぉぉ、ゴメンよ! リタ! 怒ってるのか? 怒ってるよなあ!?
兄さんが、きっと、きっと……リタァ……」
話が微妙に、絶望的にかみ合わない。
結局、こんな調子のまま、詳しいことも聞けずに彼は酔い潰れてしまう。
どうしようか悩んでいると、じきに王子のお付きの者が現れた。
彼から話を聞く。
どうやら、王都民が魔物を諦めとともに受け入れつつあるのに嫌気がさし。
旅行と称して王都を出てしまったらしい。
そして色々な町村を転々としていたが、数日前にこの街へ到着したってわけだ。
王都を出てからいつもこんな感じなのか聞いてみるが、どうもそうではなく。
多少荒れることはあっても、ここまで潰れたのは今日が初めてだという。
彼はオレにペコペコ謝ると王子を連れて店を出ていく。
それをちびリタと見送った。
彼らの姿が店からなくなると、店はまたいつもの雰囲気を取り戻す。
「あの、兄さま、大丈夫でしょうか?」
「まあ、お付きの人がいるみたいだし、この辺境までなにごともなく来れたんだ。
大丈夫だろ」
それにしても、この小切手どうしようかな。
どっちみち王都に行かないと換金できない。
だけどしたらしたで色々問題が多そうだ。
とりあえず後々考えることにして、懐にしまった。
それと入れ違いでレンが店に現れ、今日の打ち合わせが始まる。
豪商『セラーク』の情報については、旅の途中でもレンから色々聞いていた。
ただレンも、取引していたのはその豪商の部下たちのようだ。
本人と会うのはこの会合が初めてになるらしい。
相手が温和か気難しいか、それがわかるだけでも交渉がしやすくなるんだけど。
ここまで行き当たりばったりとなると、ちょっと不安だ。
その辺りも含めてレンと相談し、時間が来たのでセリアの店へ向かう。
2人で適当に他愛のない話をしながら歩くこと10分程度。
店の前でセリアが待ち構えているのが見えてきた。
だけど、なにかあたふたしているようで、様子がおかしい。
オレはレンに一声かけると、回転の指輪で店の前まで跳躍した。
セリアは、オレが突然飛んできたのに腰を抜かさんばかりに驚く。
だけどすぐに、今にも泣き出さんばかりにすがってきた。
「大変です!!!
セラークさんが、セラークさんが誘拐されてしまったの!!」
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
もし、
・面白かった!
・続きが気になる!
・更新がんばって!
・応援するよ!
と思われた方
よろしければ
広告の下にある☆☆☆☆☆から評価をいただければ大変うれしいです。
すごく面白かったなら☆5、あまり面白くなさげでしたら☆1と、
感じたままでかまいません。
また、ブックマークいただければ作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!




