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間章③   リタの――



『勇者さま、大好きです』




 声は聞こえないはずなのに。


 オレの鑑定眼は、その空気の震えを、音に、声に変え、俺に伝える。


「リタ!!!!!!!」


 オレはあらん限りの力を振り絞り、外からその結界を叩いて、叩いて、叩く。


 止めないと。


 だけど、オレの力ではびくともしない。



 やがてオレにとっての絶望の光が全てをつつみ、そして光は結界と共に消える。


 抱きしめようと駆け寄ろうとしたオレに、リタは握った手を突き出す。


 開いた手からこぼれたのは、今まで身につけていた4つの指輪。


 彼女の姿が、リタに指輪を渡した彼女の母親の姿と重なる。


 オレはこぼれ落ちようとする指輪の下へ滑り込む。


 絶対に受け取らないといけない。

 一つとして他の奴に渡すわけにはいかない。


 彼女が倒れ込んでくる。




 オレは、オレは……。






「や、やめてくれ」


 魔王が、震えるように言葉を発した。


「こんな、こんな、素晴らしい!!!!!

 お前たちの感情の揺れ動きは、繊細だが力強く、濃厚でありながら純粋!

 こんな美味を知ったら、余は明日からなにを味わって生きていけば良いのだ!」


 うるさい、もう、消えてくれ。


 魔王が天を仰ぎ、ブツブツ語り出しているが、理解する気も起きない。 


 今なら簡単に、奴へ攻撃が届くかも知れない。

 でも、届いたところで――。


 だけど、いいか。

 魔王に思いっきり怒りをぶつけてそのまま散るのも。


 でもそれじゃあ、死んだ後、どこにも行く場所がないじゃないか。


 彼女は天国にも地獄にもいない。



 不意に、受け取った指輪の温かさを感じる。


 行けない。


 リタから受け取ったものを置いては。


 行けない。


 彼女の身体をここに放置しては。


 行けない。行けない。行けない。


 リタ、オレは、どうすれば?








 分かっていた。



 リタは、オレをここで散らせないために指輪を託したんだ。

 それをムダに、ムダなんかに!!! できるか!!!!



「くそぉぉぉおおぉおおぉおおおっっぉぉぉおおお!!!」



 オレは、転移の指輪を嵌め変え、それに意識を集中する。


 オレは逃げる。逃げるんだ!


 なんども、指輪への意識の集中が弱まる。


 この怒りのまま魔王に突撃したくなる。


 リタの身体を抱きしめたまま、気を失いたくなる。


 このままここで一晩でも逃げ回り。

 悠里が、レンが、こよりが、ここに来てくれる奇蹟を待ちたくなる。


 逃げることから逃げたくなる。


 それらを全てはらう。


 オレは逃げて、そしていつかリタの魂を……。





 そんないつかなんて、本当に来るんだろうか――。






 気がつくと、オレは、王都の龍門の前にいた。


 ひょっとしたらバルドロールが捕らえに来るかもしれない。

 オレはあらかじめ決めていた、皆と落ち合う場所へひた走る。


 そこには、王都から辺境都市までの旅支度が調えられていた。

 本当はリタと一緒に来るはずだった場所。


 今、オレにあるのは、リタから受け取った4つの指輪。

 落としていないかを確認する。



 1つめの転移の指輪は他の指輪と嵌め変えて、人差し指にはまっていた。


 2つめは太陽の指輪。どうしてこんな指輪を。

 その理由にすぐ思い当たる。


 ああ、これはリタと出会った頃オレがこの指輪の説明をした時にあげたものだ。

 確か貸し扱いになっていたよな。律儀な彼女らしい。


 あの頃を思い出して、泣きたくなる。


 3つめはコーデリアの指輪。彼女の母親の指輪。


 4つめは、コーデリアの指輪とよく似た、初めてみる指輪。

 オレは指輪を鑑定する。アイテム名は――







 『リタの指環』















 集合場所で、タイムストップの指輪を知らず知らずのうちに使っていた。



 怖かった。


 時間が一秒でもすぎれば、その分、リタが救えなくなるような気がして。

 今だって、救う方法なんてまるで見えてないのに。



 オレは考える。


 一体どうすれば良かったのか。

 調印式の前なら逃げるタイミングはたくさんあった。


 『王国に義理立てして』なんてカッコつけたけど。

 ホントは、逃げ切れる自信が全くなかったんだ。


 調印がなされた後に転移の指輪でリタが……これは彼女が許さなかっただろう。


 じゃあ、魔王とどう戦えば勝てたのか。


 分からない。

 手札があまりにも少なすぎる。勝てる手筋がまるで見えてこない。



 ずっとずっと考える。



 気づいたら予定の時刻を過ぎていた。


 誰もこない。

 個別に逃げることにしたのか、それとも……。


 その場合、先に出発することになっていた。

 だけど、出発する気にはなれない。


 もう、いいや。

 どの道、オレ一人ではどうにもならない。


 どうにかできたとしても、あの魔王とまた戦うのか……?

 なら、このまま、ここで朽ちていくなら、それはそれで……。


 それでも、ずっとずっと考えていた。


 どうすれば良かったのか。

 どうすれば助けられたのか。

 どうすれば倒せるのか……。


 どうすれば――




 一体、どれくらい時間が過ぎたのだろう。


 分からない。

 何日も過ごしたかもしれないし、数時間も過ぎてないかもしれない。


 ああ、タイムストップの指輪を使っていたな。

 

 1時間使い続ければ体感時間で約4日。

 もう、何時間こんなことをしているだろう。


 正直、今のオレにはどうでもいい話だ。


 それでも考える。考え続けてしまう。


 どうすれば……。




 いつの間にか暗闇が訪れ、それが薄れ始めた頃。




「ぅ……ぁぁぁ!!」


 『タイムストップの指輪』の切れ目のタイミングで。

 外からすさまじい叫び声が聞こえてきた。


 やがて、合流先の隠れ家の扉が、すさまじい勢いで壊される。


 現れたのは、悠里だった。



「遅くなってゴメン!!!!」


「悠里!? お前!!!」


「今まで追っ手を撒いたり、こよりを説得したり、色々やってたんだ!

 とにかく、ここを離れるよ!」


「悠里、でも、リタが!

 オレ、オレ――」


「その辺の事情もこよりから聞いてる!!!

 とにかく今は逃げるよ!!!」


 オレは動けなかった。


 そんなオレを悠里は無理やりその辺の荷物ごと担ぎ上げる。

 そして、すさまじい勢いで外を突っ走った。


 城門で阻まれると思ったが、以外にもすんなりと通され。

 オレたちは王都を離れた。

1~2時間後に本日最後の投稿を行います。




ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!


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