運に極振りしていたけど、パーティーから追放されました。
「もう、君は用済みなんだ。このパーティーから去ってくれ」
僕はパンツ一丁の姿で、勇者を睨んだ。
「急にそんな事を言われてもな」
窓の隙間から入ってくる寒風が肌を撫でた。
くしゃみを一回して、震える唇を真一文字にしめた。
「それよりも、あまりにも寒すぎるから服を返してくれないか」
なぜ僕がパンツ一丁かと言うと、装備を全て剥がされたからだ。
買い与えられた物とはいえ、愛着があったので悲しかった。
「すまない。それは売った。そして薬草にした」
思わず天を仰いだ。
他の装備を買うためならまだしも、薬草を買うために売られるとは。
酷くね?
「ステテコパンツがあるから大丈夫だ。なっ」
「こういう時に思うよ。ブリーフ派で無くて良かった、とね」
やだ、変態よ。と周りから声がするが、僕の耳を右から左へと通り過ぎた。
「君の派閥がどこにあろうと関係ないが、俺たちのパーティーから去ってほしいんだ」
「何故?」
「君は今までの話の展開で察しがつかないのか」
勇者の隣には困り顔のイケメンが立っていた。
この街について先ほどビッグイベントが終わったところだ。
勇者を鍛え育てた賢者との再会。
そして勇者パーティーへの参加。
つまり人数オーバーなのだ。
「分からん!」
「分かれー!」
「どこの世界に人数オーバーになったからって、元からいたメンバーの装備を剥いで、パーティーから追放するって言うんだ」
ああ、涙が出てきた。
皆やったことがありそうだからだ。
「そもそも、君はレベル差がつき過ぎなんだよ。君はボスキャラと戦う度に瀕死になるから経験値が全然入らないし、一回は棺桶の中で死んだふりをしていたし、怖いんでしょ、やる気もないんでしょ」
酷い言いようだった。
「僕がいなくなったら、誰が宴会の余興をするんだよ!」
「それに関しては言いたくないが、あれはつまらなかった」
肌寒いだけではなく、精神まで凍てついて来ました。
「と言うことなんだ。分かってくれたね」
「納得いかん!」
「これ以上話しても」
勇者と賢者が俺を両側から掴んだ。
「時間の無駄だ」
「いやだー! 警察の人、この人たち追剥です!」
ぽいっ、と音がしたような気がして、俺は路上に放り投げられた。
「選別だ。取っておけ」
賢者が身に着けていたマントを僕に羽織らせてくれた。
パンツとマント――僕の旅はマイナスから再スタートした。
「マスター、ツケで飲ませてくれ」
「ダメだ」
「とりあえずビールで」
「話聞いているのか、この遊び人」
「この顔が聞いているような顔をしているか?」
「ほら水な。これはサービスだ」
ずずっと水を啜った。
これから、どうしよう。
「お前さん、どこの店でもツケているのか?」
びくっ、と体が震えた。
今まで勇者パーティーにいたから、多少の散財も勇者に払って貰っていた。
だが、僕はもう一人だ。
今すぐ、この街を出なくてはいけない。
「遊び人! 聞いたぞ、金を返しやがれ!」
どんっ、と扉を蹴り破る音がした。
「いない、どこに消えた」
「裏口から出て行ったよ」とマスターが言った。
「裏切者ー!」
3日後、僕は空腹のところを893に捕まった。
「パンが食べたいです」
「お前は散々迷惑かけておいて、厚かましいんだよ!」
「食事がないと生き物は死んでしまうんですよ!」
「お前、腹減ったからわざと捕まっただろ」
「いえいえ、そんなことありませんよ」
冷え切ったパンが大盛できたが、久しぶりの食事だったので満足できた。
「たかが千Gの取り立てで、何でこんなに時間をかけないといけないんだ」
「本当ですよね。まったく」
「お前のせいだろうが!」
「おねえちゃんの為にスパークリングワインを開けただけなのに、千G取るあんたも悪い」
「他人のせいにするな、クソニートが」
さて、893は言うと、僕の前に立った。
「どう払ってもらおうかな」
「僕にはマントとステテコパンツしかないぞ!」
「モンスターでも倒して稼いだGで払ってもらおうか」
「いやだ。こんな姿でモンスターの前に立ちたくない」
「人の前はいいのか! お前は」
「……まて、思いついた。僕の唯一の得意技がある」
「本当か?」
「本当だ。これで勇者パーティーにいままでいられたのだからな」
天井から魔法の光が降り注ぐ。
ここはカジノ、僕の目の前にはルーレットのディーラーがいた。
ルーレットは3個あったが、ここを選んだのには理由があった。
それはディーラーが女だったからだ。
「お前、借金を重ねる気か?」
893が僕を睨んで言った。
「心配いらん。元手より減らないのがカジノの良いところだ」
「まずその元手がないのでは?」
僕はマントを外して、そしてステテコパンツを脱いだ。
「これを買い取ってくれ」
「お前、正気か?」
「心配するのは分かる。これでは元手が少なすぎるのも分かる。だが」
「俺が言っているのはそういうことではない。これが売れるかという話だ」
「良いから売ってこい。RPGのお約束だ。汚れなんて関係ない!」
893はしばらくしたら戻ってきて、Gをルーレットチップに交換してきた。
「ご苦労」
「お客様、このカジノではドレスコードがあります」女ディーラーは言った。
「この世界に生まれるときに全ての生き物はすっぽんぽん。そして、この世の中の半分は男。僕がどんな姿をしていても問題はない。そうではないか」
「壮大な言い方にしてもダメです」
「君は怖気ついているみたいだね。僕に負けるのを。どうせ一回しか賭ける分がない。余興で遊んでも問題ないのでは?」
そうだそうだ、と周りから声がする。
その男のせいでゲームが進まないから早くしろ、とも声がした。
とっとと負かしてやれ、という声もした。
「分かりました。やりましょう」
ルーレットにボールが転がし入れられた。
インサイドベット――黒22にチップを入れた。
クルクルクルクルとボールは回転して、黒22に吸い込まれた。
「36倍だ」
女ディーラーに向けてニヤニヤと笑顔を向けた。
(馬鹿な。この男、私の癖を見切っているのか?)――と思っているだろう。
勇者パーティーにいたのは伊達ではない。
僕が勇者パーティーにいたのは全て運が良かったからだ。
勇者のパーティーがたまたま一人欠員していたのも運が良かったからだ。
モンスターから低ドロップ率のアイテムを大量に入手したのは僕のお陰だし、会心の一撃がよく出ていたのも僕のお陰だ。
そのおかげで連戦連勝だった。
女ディーラーは再びボールを転がしいれた。
僕は赤9にチップを全て入れた。
回転したボールは赤9に吸い込まれた。
周囲がざわついた。
今までパーティー四人に僕の運を分け与えていた。
今は僕一人だ。
運の良さに極振りした僕は無敵だった。
「そ、そんな」
女ディーラーの目は怪しく光った。
(この男、プロだ。どうにかしないと)――と女は思っている。
たかが千Gだ。
あと一回当てれば十分だ。
これ以上目立つのも得策ではない。
女ディーラーはボールを転がし入れようとした。
その時、僕は立ち上がった。
僕の僕を見て、女の手元は狂った。
女ディーラーは0に入れようとした。
ボールが0に入れれば、それ以外は負けだ。
3回連続的中では僕とカジノが組んでいると思われる。
なので――チップを赤に賭けた。
赤3にボールが吸い込まれた。
さらに2倍に膨れ上がったチップを僕は手にした。
「あまり、こういうことで稼ぎたくないんだ。つまらないからね」
「格好つけているが、そもそもお前が借金したのが悪いんだぞ」と893に言われた。
「はい、借金分お返しします」
僕は893に利子をつけてチップを返した。
893は受け取ると、そそくさと僕の元から去った。
「なんだ。さよならも言わずに」
「お客さん、ちょっとこちらに来てもらえませんか」
僕は露出狂として警察に捕まった。
1週間後、僕は釈放された。
「二度と来るな、このごく潰し!」
僕はせっかく貰った囚人服を着たまま、街を歩いた。
この低レベルだと街の外もろくに歩けない、僕は職業安定所へと向かった。
「あ、遊び人さん。あなたは大丈夫だったんですね」
職安の女性が親しげに話しかけてきた。
「何かありましたか?」
「それが勇者さんたちが、次の街へ行くのに失敗して全滅しちゃったって」
「へー。大丈夫なんじゃない。勇者だから」
「あなたもいるかと思って心配してました」
「僕は大丈夫です。警察の世話になってましたから」
「あら、違う方面で危なかったみたいですね」
「人生は経験ですよ」
「それで今日は何を?」
「いや、僕は勇者みたいに無謀じゃないので、最初の街へ戻ってレベリングからやり直そうかと」
「そうですか。それは良いと思うんですが」職安の女性はニコッと笑った。「とりあえず、その服はやめた方が良いですね」
そんなこんなで僕は勇者パーティーから追放されたのだった。