風の下位精霊シルフィー
更新、遅くなりました。
「うー……何か、暑い……」
奥に進むにつれて、どんどん気温が高くなっている気がする。
いや、本気で暑い。40度越えてるんじゃ…。
もしかして、火の精霊がいるから…?
それにしても、暑すぎる。
熱中症になってもおかしくない。
「はぁ…はぁ……」
何だかクラクラしてきた……。
暑すぎて何かを考える気力もない。
《ヒソヒソ………》
《ほんとだ……死んじゃう?》
《イフリート様、お怒り中……》
《送り人、死んじゃう?》
《ダメダメ、精霊女王に怒られちゃうよ》
《ウンディーネ、送り人に水を張ってあげてー》
《馬鹿なの、あんた。こんな暑い中、水で包んだら即死に決まってるでしょ。》
《あ、そっか!蒸発しちゃうんだ》
《下位精霊の私には無理。クラーケンならいけるかもだけど……》
《送り人、意識なくなりかけてるー!》
《イフリート様の機嫌を取らなきゃ……》
《その前に、この送り人を少しでも遠くに連れてかないと》
《でも、僕達じゃ運べないよ》
《僕、シルフィー探してくるー》
《そっか!風の精霊なら運べるね!》
《シルフィー、どこーー!》
なんか、精霊達が騒いでる……。
うるさいなぁ……静かにしててほしい。声を出す気力すら今はない。
もう、だめだ……。
視界が黒く塗りつぶされて、私の意識はそこで途絶えた。
「……ん?」
なにやら、涼しい。水の流れる音が聞こえる。
風がいい具合に吹いていて、森の爽やかな匂いが運ばれてくる。
ゆっくり起き上がると、そこは先程の場所ではなく、水辺だった。
「……どうなったの?」
精霊達が騒いでいた記憶はある。
それから多分、気を失ったんだと思う。ということは、精霊が運んでくれたのだろうか。
《あれ?みんなー!送り人起きたよ!》
《ほんとだー!ねーね、大丈夫?》
「え?あ、うん。少しボーッとするくらいかな……」
《まったく、世話のやける送り人よね!あんたって。》
ツンツンしながらこちらをチラチラ見ているのはウンディーネ。
「何か、大きくなってない?」
《ふんっ。今頃気づいたの?本来のサイズはこれくらいよ!あんたを運ぶのに、皆かなり力を使ったんだからね!》
「……どういうこと?」
《私達精霊は、精霊女王とこの森を守るためにいるの。だから、普段から力の消費は最小限に抑えてるのよ。今はあんたの手の平サイズだけど、
これは力を解放したからなの。暫く大きさはこのままなのよね。しかも、無意識に力が出ちゃうから緊急時以外は解放しないの。でも、送り人であるあんたが死ぬのはマズイと判断したのよ。》
「つまり、ウンディーネや他の精霊達がここまで運んでくれたの?」
《そうよ!感謝しなさいよね。》
《でも、ウンディーネ。元はといえば、君が悪いんだよ。》
《はぁ!?なんでよ!》
突然目の前に現れた精霊の発言に、ウンディーネが不機嫌になった。
《イフリートがこの時期、不機嫌なの知ってたでしょ。なのに、イフリートの所へ送り人を行かせるなんて。火の精霊じゃなくても、光の上位精霊がもう少し近くにいた筈だよ。勿論、君も知ってるでしょ?》
《うっ…シルフィーは黙っててよ!》
《君は不都合な事になると、いつもそうだよね。ウンディーネ、それ君の悪い癖だよ。今回の事は精霊女王に報告するからね!》
《はぁ!?ちょっと待ちなさいよ!あ、いや……待ってください!精霊女王にだけは言わないで!》
《都合の悪いときだけ態度を変えるの?やっぱり君はバカだね。》
《な、なんですって!?だから嫌いなのよ、あんたは!!あー、ほんとムカつく!あー、もう!!!》
頭をワシャワシャとしながら、ウンディーネは叫び続ける。
てか、なんだろう……このシルフィーって子。
《とにかく、送り人に謝りなよ。君のせいで死にかけたんだからね!僕が近くにいなかったらどうなってたことか!》
シルフィーって僕っ娘なのかな。
《うぐぐっ……わ、悪かったわね!》
《もっと誠意を込めて!》
《ぐぬぬ……わ、私が悪かったわ!ご……ごめんなさい!》
「あ、うん。」
ウンディーネは相変わらずツンツンしてるな……。
《まぁ、君にしては頑張った方か……まだまだなってないけどね。》
《ふんっ!》
ぷいっとウンディーネはそっぽを向いた。
「ねぇ、君も精霊よね?」
《ん?そーだよ!僕は風の下位精霊シルフィー!因みに、君をここまで運んだのは殆ど僕なんだよ。力を解放したと言っても所詮は下位精霊。しかもこんな小さかったら、送り人を持ち上げることもできないからね。だから、僕が風の上位精霊であるジン様から預かった風の宝玉を使って君をここまで浮かせて運んだって訳!》
耳元でシルフィーはそう囁いた。
「そうなの?それはありがとう。」
《どーいたしまして!といっても、送り人を守るのも僕達精霊の役目なんだけどね。》
「思ったんだけどさ、送り人って何なの?」
《ん?ウンディーネ達から聞いてないの?》
「知らないの一点張り。上位精霊なら分かっていってたんだけど……」
《なるほど、だから君はィフリートの元へ向かってたんだね。》
「うん、そう。」
《まぁ、ウンディーネ達が知らないのはただの勉強不足だっただけだよ。仕方ないから、僕が送り人について説明してあげる!》
「おー。お願い、シルフィー。」
《任せてよ!いい?送り人というのは今いるこの世界とは別の世界から渡ってきた人の事を言うの。》
「パラレルワールドに近いのかな…」
《ん?パラレルワールドっていうのは知らないけど……。えっとね、この世界…うーん、説明が難しいんだよね。えっとね、空間っていうのは無限なんだ。》
「え?いきなりなに?」
《うーんとね、簡単に言えば世界なんだけど、その世界の空間には幾つもの空間があるんだ。それは無限に等しい。空間は消えたりするし、増えることもある。世界はとてもあやふやな形で成り立ってるんだ。》
「ごめん、もう少しわかりやすく」
《う……そうだね。例えば、これはデイルの実って言うんだけど……。
このデイルの実の中には沢山の種が入ってるんだ。この種を一つ一つの空間と思ってほしい。
そして、その種を包んでいるのが世界だとする。
種は何らかの条件で発芽し、世界は空間のなかにまた空間を作り出す。
逆に、その種が発芽しなければどうなると思う?》
「んー……空間が作り出されなくなる?」
《概ね正解かな……空間にはね、寿命があるんだ。生物が命を終わるように、空間にも寿命はある。生物が子孫を残すように、空間もまた子孫を生み出す。だけど、もしその空間が育たなければ数は減る一方。空間には寿命以外の消え方もあるからね。》
「つまり、少子化みたいなもの?」
《うん、大体そんな感じかな。》
「それと送り人、何の関係があるの?」
《送り人はね、空間を産み出すことが出来るんだ。もう手っ取り早く星って言うけどさ。》
「え、どういうこと?」
《送り人はね、精霊に近い存在でもあるんだ。僕達四大精霊……エレメンタルはエーテルのみで構成された体を有する擬人的な自然霊なんだ。
反対に送り人はエーテルではなく、命ある者達の純粋な願いが結集した思念体のようなもの。
そしてその送り人の魂は神に選ばれる。その魂を体に取り入れ、送り人の器となるのが神子。神子は神聖なるオーラを纏っていて、送り人の魂が入ることで思念体という精霊よりも上の英霊となる。
霊と言っても見た目は人間に近いんだ。
ただ、心に思うだけで送り人は何だって作り出せる。送り人とは神が授けし万物の象徴。全ては送り人次第なんだ。強大な力にはそれに見合った魂と器が必要になる。世界は多大なる犠牲を払い、空間を生み出すんだ。だから送り人は特別。僕達が命に変えてでも守り抜かなくてはならない存在。送り人がこちらで死ぬことは許されない。もし送り人が死ぬような事になったら、その世界は神に滅ぼされる。優秀な空間を生み出す為なら神は何だってする。不条理な世界でしょ。其々の身勝手な想いがその者の運命を狂わすことになるんだ。》
そういったシルフィーは、とても悲しそうに目を伏せる。
なんか、物凄く重たい話になってきてる……。
「それで……私はその、願いが産んだ英霊ってこと?」
《そういうことさ。まぁ、英霊は精霊と違い実体を持ってるけどね。それと、送り人の場合は神にも精霊にも近い存在なんだ。でも、だからこそ送り人はその重責に耐えられない…。それに、人々の願いは美しい物ばかりではないから、送り人がこちらに来る前に死んでしまうのはそういう理由もあるからなんだ。》
「シルフィー……」
過去に、何かあったのだろうか。
「結局のところ、私は何をすればいいの?」
《そうだね……まずは精霊女王にお会いしなくちゃならない。僕からじゃこれ以上は話せないよ。》
「わかった。ねぇ、連れてってくれない?」
《勿論だよ。全く……めんどくさがりの精霊達には困っちゃうよね。まぁ、そう言う僕も精霊だけど。》
「なにそれ、シルフィーって面白いね」
《そう?誉め言葉として受け取っておくよ!さぁ、いこう!もうすぐ闇の精霊が彷徨き始めちゃうからね、その前に精霊女王の元へ行きたい。》
「闇の精霊?」
《説明は道中でね!とにかく、行くよ。ウンディーネ、君達もちゃんと森の守りをしなくちゃダメだからね!》
《わ、分かってるわよ!さっさといきなさいよね!》
《いってらっしゃーい、送り人!》
「いい加減送り人っていうのやめてほしいんだけどなぁ……」
ポツリと呟いた声は、恐らく精霊達には届いていないことだろう。
「はぁ……行くしかないないよね…。」
((ヾ(・д・。)フリフリ
見て下さって、ありがとうございます。