1ー3
こんにちは、この度はご閲覧ありがとうございます。
さて、【1-3】。マリたちが訪れたのは、崩壊した街でした。
果たして、この崩壊した街に訪れる目的は何なのでしょうか?
そして、20がしている行動はいったいどんな意味があるのか。
街を歩き始めた2人はどこへ向かうのでしょうか。
疑問だらけの続きが始まります。
崩壊した街を歩き続ける2人。
日はだいぶ昇り、先を歩む20の影が短くなっていた。
最も壊滅していた区域は過ぎたのだろうか、それでも辺りの風景は酷く、今にも崩れ落ちそうな住宅が建ち並ぶ。そこらに散乱している無機物がこの地域の惨状をより強調させるように2人へ物語っいた。
「何もないね」
「そうね」
他人事のようなそっけない感想。
マリはそれ以上会話を広げるそぶりはない。
すると、再び無言で歩み続ける2人は、この街の主要道路と思わしき場所へ出た。
相変わらず人の気配は無く、見えるのは横転した車両と破棄された銃器と鉄くずの山。
積み上げられた土嚢袋は放置されたままで、蛇腹線に錆が纏わりついている。
ここはいつから時が止まっているのだろうか。
そんな惨状を見回すマリの隣では、20が目的地の察知を再び始めていた。
目を閉じて顔を振る20だったが、始めた直後マリを呼んだ。
「マリ!」
「ん?」
「・・なんだろう、何か来るよ」
異変を感じた20が通りの先を見る。
道の先には大きな橋が見え、その先から聞こえる音が徐々に大きくなる。
その第3者は、橋の上に放置された障害物を避けながらこちらへ向かってきた。
「あれは?」
「トラックかしら」
嫌な静けさに包まれるこの街へ訪れたのは、1台の軍用トラック。
凹凸の激しさに負けじと、車体を大きく揺らしつつ排気ガスをまき散らし走行している。
「まぁ、トラックではあるんだけど・・・」
「?」
20が察知したのはこの車両の存在なのだろうか。
マリは、20の返答にはどこか違和感を感じてる。
トラックは轟轟しい音と共に2人の前を何事もなかったかのように通り抜けていった。
「20、荷台を見て」
「あ!満席だね」
マリに言われ20が車両後部の荷台に乗車している存在に気づく。
囲いの無い剝き出しの荷台には、敷詰められるように老若男女が乗車していた。
乗員は身を屈め、虚ろな顔で焦点の合わない遠い瞳をしている。
まるでこの世に絶望した表情を浮かべていた。
「・・・・・・」
今朝見た店主の嫌悪な生気を思い出し、マリは目を細める。
そして、トラックが2人の前を通りすぎる時、マリは乗車する子供と視線が合った。
「あっ、・・・・・・」
マリに気がづいたのは短髪の少年だった。
顔は薄汚れており、やせ細った表情でこちらを見つめ、何かを言いたげに口を開いた。
しかし、諦めるように口を閉じると再び俯いてしまった。
「どこへ向うのかな?」
「・・・・・・」
軍用のトラックはそのまま走り去った。
マリは考察していた。
乗客たちの行く先を。少年の仕草を。我々が訪れた目的に関与している可能性があることを。
「マリ、また来たよ」
「そのようね」
走り去った車両を見送ると、また別の車両が近づいきた。
2人が橋のほうを見ると、今度はこじんまりとした小型車両が向かってくる。
乗車しているのは運転手、そして助手席に座る男に後部座席に2人の計4名。
その車両はスピードを緩めると、2人の前で停車した。
そして、助手席の煙草を加えた男が降車して近寄ってくる。
「お前ら、こんなところで何をしている。」
無精ひげで大柄の男は煙をくわえながら2人を見る。
黒地に紺色のラインが入った威圧的なデザイン、これは帝国軍人の制服である。
そして、男の襟元には幹部を示す勲章を留められている。
腰にはホルスターと警棒。
マリは同乗者も武装していると推測した。
「いえ、特に何も」
マリが不愛想な返事を返す。
目線を合わせようとしないマリの態度に男の表情が曇った。
「おい女、何もないわけないだろうが」
「・・・・・・」
マリは男の質問に答えず、俯いたまま動こうとしない。
こちらを見向きもしないマリに、更にいらつくタバコの男。
「ごほんごほん!」
20がタバコの煙でむせてしまう。
軍人に向かって咳をするのは失礼と感じたのか、20は両手で顔を覆う。
その仕草すらも不服に思った軍人の男。
「おい男、お前もだ!」
募った怒りが抑えきれなかったのか、声を荒げる軍人
無反応のマリの顔を確認しようと帽子に手を伸ばす。
すると、
「いやぁ~申し訳ありませんなぁ。実はこの辺はわしらの故郷なんじゃよ。この辺は物騒になっておるからやめた方がええといったんじゃが、孫がどうしてもここに来たいと言うてきかんでなぁ。じゃから仕方なくわしも一緒について来たんじゃよ。孫は人見知りな子でなぁ知らない人とはよう話さんのじゃ。失礼したわい軍人さん。」
咳き込んでいた老人が間に割り込み、笑顔で口を開いたのだった。
饒舌な説明をしながら、マリの肩に手を置く老人。
「な?マリーよ?」
「・・・(こくり)」
マリーは無言でうなずいた。
笑顔を浮かべる老人を見る軍人の男は、咳払いをして伸ばした手を引っ込めた。
だが、軍人の男は妙な違和感を感じていた。
(ん? この男?・・あ?)
軍人は自ら抱いた疑念を悟られぬよう、表情を変えぬまま老人に尋ねる。
(さっきまでとこの男の印象が違うような?)
だが、感じたものは自分でも分からずにいた。
「老人、身分を証明できるものはあるか?」
「はい、はい。こちらですよぉ。」
よぼよぼな声で返事をしながら、胸ポケットから身分証を取り出す。
表紙には、共和国のマークが記載されており、受け取った軍人は、身分証の写真と表情を見比べ、念入りに書類の内容を見る。
「ここへはどうやって来た?」
「実は新聞記者をしている方に偶然移住先でお会いしましてなぁ、この地域の話をしていたら戦後取材をすると伺って、連れてきてもらったんじゃよ」
「ふん、ではその新聞記者の方はどちらへ」
「さあのぉ、わしら2人と別れてからは行方はしらんのぉ」
顎を摩りながら答える老人を見て、考えるそぶりの軍人。
それからいくつかの質問を繰り返し、最後にマリーを見て一息つくと、身分証を返した。
「ご協力感謝する」
「いえいえ、とんでもございません。軍人様にご協力するのは当たり前ですよ」
「やめてくれ、今の俺たち元帝国軍人に価値などない」
「そうでしょうか? 難民支援に多大な貢献をされていると伺っておりますが?」
軍人は冷静さを取り戻したのだろうか、先ほどまでの口調は控えているようだ。
そして、自らを虐げるように会話を続ける。
「よしな、それは全部共和国様の指示に従っているだけだ。俺たちがしてるのは雑用とお守、あとは被災地で悪事を働きそうな輩に声掛けて治安を守ってんだよ。だからこんなとこで突っ立ってるあんたらも十分不審者な」
軍人の男は、老人の身分が証明されたのに安心したのか、質問に正直に答える。
最初の威圧的な態度は、演技だったのかもしれない。
「そうですな、怪しまれても仕方ありません。大変失礼いたしました。ですが、治安を守るのはご立派なことですな。先ほどの大型トラックも支援か何かでしょうかねぇ?」
先ほど感じたトラックの違和感を確かめようと老人が質問する。
「ああ、医療団がキャンプをしている場所に難民を移送中で、俺たちはその付き添いだ。」
「そうでしたか、それは大変ご苦労様です。それにしても沢山乗車されておりましたなぁ」
「治療が必要な患者なのさ、先遣隊の医療チームが判断した患者を移送してるんだ」
「ああ、そうだったんですねぇ」
一連の会話を終えると軍人は車に乗り込む。
「そういえばご老人たち、この辺りは物騒だから気を付けな、難民キャンプの行方不明者が多発している。俺たちでも手は負えないほどにな」
忠告を終えると、大型トラックが向かった方へ走り去り、街は再び静寂へと戻った。
「相変わらず便利なものね」
無言だったマリが口を開く
「そうじゃのう、こういう時はこの顔が一番便利なんじゃよなぁ」
そう言って顔を両手で覆う老人。
そして手を離すと、先ほどまでの老人顔から元の20の表情に戻っていた。
「老人と孫のコンビだと、悪人とは思われにくいからね」
「そうね」
口調も声色までも戻っている20。
先ほど見せた証明書をしまうと、胸ポケットには別の証明書がいくつも見えた。
「それにしてもずい分おしゃべり軍人さんだったね、いつもならもっとひどいのに」
このような状況に慣れているような口ぶりの20。
隣のマリは、車両が向かった方向を見つめ軍人が話した内容を考えていた。
(・・・治療が必要と判断した患者を移送している・・・)
先ほどの乗車者たちを思い出す。
荷台の患者たちに目立った外傷の者はいはなかった、乗客全員が絶望の表情で蹲っていたのだ。
「・・・・・・」
マリは思考を終えると、踵を返し、軍人たちが来た橋の方へ歩み始めた。
それを見て20がついていく。
「気になるのかい?」
「ええ」
「実は僕もさ」
【1-3】お読みいただきありがとうございました。
まず、20は何者なのでしょうか?
目的地を察知する感覚、そして瞬時に老人へ変身する器用さ。
そして、異変を察知する第6感のような霊感。
それに、なぜ身分を偽ったのでしょうか。気になる点がおおいですね。
そして軍人たちと医療団という新たな存在が出現しました。
果たして2人の目的に関与しているのでしょうか?
次章も宜しくお願い致します。