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未来への叙事詩  作者: 妖叙 九十
第二章 中学生の叙事詩
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第六話 始めてのお友達

 首吊り狸さんは、菫さんによって黒焦げにされた。どうやって黒焦げにしたかは定かではないが、とりあえず黒焦げにされた。その後はスーツの人に電話をして、引き取ってもらった。

 その次の日の夜。僕は今日もこれに興じるのであった。


 これ。オンラインゲーム、オンゲ、ネットゲーム、ネトゲ。それの呼び方は色々ある、ゲームによっても違う。MechanicalGimmickOnline、MGO。ロボットで戦うネトゲ。ロボットに乗るパイロットがプレイヤー。

 そのゲームのフレンド機能。そこにNewの文字、見た事のない文字。


 クリックすると、表示された。一度も開いた事のないタブが表示された。


 美少女、と書いてある。美少女さんからフレンドが来ている。名前(プレイヤーネーム)が美少女って、変な奴。絶対おっさんだ、おっさんに違いない。ネカマって奴だ、間違いない。しかも見覚えがない。

 だが、それでも。手違いかもしれないけど、僕にフレンドを飛ばしてくれたんだ。なるしかないだろう、友達にさぁ!


 と思ってクリックしたら、変なメッセージが表示された。


「この間は助けてくれてありがとう、よければフレンドになってください」


 と、書いてある。

 普通だ、ネカマのおっさんの変な名前の割には、凄く普通だ。

 しかし、やはり手違いだろう。僕のプレイヤーネームはちょいと読みにくい。


「修理なんて、助けたうちに入らないし……」


 だって、修理特化機体に搭乗するプレイヤーなんて、修理するのが当たり前だ。それがチームに居るって事は、修理されて当たり前って事だ。

 その場限りの感謝はされる、だがゲーム終了後にフレンド申請するほどの感謝ではない。だって今までされた事なかったし。


 僕は送り間違えてますよ、とメッセージを送ろうとする。しかしその前に、好奇心から美少女氏のプレイヤーページを覗いてみた。


「あっ」


 プレイヤー名に見覚えはない、そこは変わりない。しかし彼の搭乗機体に見覚えがある。

 スレンダー、というか華奢すぎる機体だ。一瞬で記憶が蘇る。記憶というには真新しすぎる、記憶が。


 あの時の、昨日の、黒い機体だ。


 確かに、あれは、助けたうちに入る、かも? しれない? な?

 じゃあ、僕は、普通に、フレンドを作れるのか?


「わ、わーい?」


 とりあえず喜んでみるが、実感が沸かない。


「うぉぉ!」


 叫んでみるが、実感が沸かない。


「あはん」


 喘いでみるが、実感が沸かない。

 沸かないので、フレンド申請を許可してみた。


「あぁ……神しゃま……」


 僕のフレンド一覧に、名前が載っているではないか。美少女という如何にもネカマのおっさんが冗談でつけてそうな名前が。

 いやほんと、これで本当に美少女だったら尚良かったんだが。いやいや、人の趣味に口は出すまい。


FT(フレンドチャット)』美少女:あ、フレ申許可してくれたんだね! よろしく!


 え、何これ、えっと、僕に話しかけてるのかな。フレ申って何だ? フレンド申請か?


AT(オールチャット)』无幻:よろしくおねがいしまうs


 緊張しすぎて手が震えてしまった。だって色んなネトゲに手を出してきて、チャットをした経験がないんだもの。


『FT』美少女:あー、オールチャットになってるよ

『FT』美少女:FTにするには、チャットタブの上の所から選択するといいよ☆


 何だそれ、何語だ。とりあえずチャットタブの上の所をいじくりにいじくりまわして、ようやくフレンドチャットの文字を見つける。慎重にキーボードを叩け、誤字なんて許されない。


『FT』无幻:よろしくお願いします


 おお、僕が喋った。ネトゲ人生始めてのチャットだ。


『FT』美少女:うん! そういえば、もしかしてびっちゃんが初フレなのかな?


 びっちゃんって誰だ。美少女だから、美っちゃんで、びっちゃんか? ビッチゃんみたいで嫌な呼び方だな。僕は絶対その呼び方はしないぞ。

 しかも、初フレってバレている。まあフレンドチャットのやり方もわからないんだから、バレて当然か。


『FT』无幻:そうなんです

『FT』无幻:だからとっても嬉しいです


 バカにされやしないだろうか。不安だ。


『FT』美少女:はわわ~☆ びっちゃんも初フレなんです、なんかト・ク・ベ・ツ☆


 ハハハ。


 はわわ~だってよ。


 始めてのフレンドをバカにしたくはないが、これはないんじゃないか?


 いや、待て。おっさんが萌え萌えなポーズを取ってはわわ~と言っている姿を想像してみろ。意外に悪くないんじゃないか? かわい……い、はずないなぁ……普通に気持ち悪い。


『FT』美少女:じゃあさっそく、COOP行きますぅ? そ・れ・と・もぉ☆

『FT』美少女:対人いっちゃいますぅ?

『FT』无幻:COOP行きましょうか


 このゲームは俗に言う、MMOとは違う。レベルを上げても強くならないし、お金を貯めてパーツを買っても、格段に強くなる訳ではない。パーツにはメリットデメリットがあって、初期パーツが一番バランスが良いんだ。だから、始めたばかりの人でも、プレイヤースキルさえあれば上級者に太刀打ちできる。

 ま、上級者に太刀打ちできるプレイヤースキルを持った初心者なんて居るはずないが。


ST(システムチャット)』美少女さんから招待が届きました。


 ポップアップウィンドウが表示される。参加するかどうかを問うものだ。

 僕は二つ返事で、参加のボタンをクリックした。


 参加してから気づいた、ポップアップウィンドウにも表示されていたはずなのに、見落としていた。


 協力モード(COOP)には、様々なミッションがある。拠点防衛ミッション、ボス撃破ミッション、物資運搬ミッションなど。それぞれのミッションはおよそ五十ほど用意されていて、難易度も異なる。

 今回美少女さんが選んだのは、物資運搬ミッションだ。プレイヤーの一機が物資を持ち、味方がそれを護衛して、指定された地点まで運ぶ。

 物資持ちのプレイヤーが大破すると、物資も大破。最初に物資を拾ったら、それから他のプレイヤーに渡す事はできない。


 簡単に考えれば、王様みたいな感じか? 王様が死ねばゲームオーバー、王冠は他の庶民には渡せない。

 だからこそ、王様を大事に大事に護衛する。そういうミッションだ。


 そこまではいい、問題は難易度だ。表記の内容はEXTREME。MGOのCOOPミッションにおける、最高難易度だ。

 確か難易度の順番って、低い順に並べると、こうだったよな。


 BEGINNER。

 EASY。

 NORMAL。

 HARD。

 VERYHARD。

 EXTREME。


 僕はNORMALまでしかやった事がない。HARDに一度挑戦した事はあるが、難しすぎてクリアできなかった。それをEXTREMEって。確かに美少女さんの腕は僕を遥かに凌いでいる。だけど、昨日君もNORMALでやってたよね。何でいきなりEXTREME選んだの?


 とか思っているうちに、LOADINGの文字が消えて、市街地が映し出された。


『AT』床ドンボトラー:この構成だと、修理の奴だな


 え。僕の事? 何をすればいいの?


『FT』美少女:機動力特化二機は接近戦するし、装甲特化の人はぁ、自分がダメージを受けていかなきゃいけないからぁ☆


 よくわからんけど、僕がやるのが一番効率いいのか?


 よくわからんけど、僕は物資を手に入れた!


『AT』床ドンボトラー:じゃあ俺の後ろにひっついててね

『AT』无幻:hai

『AT』卍漆黒龍機卍:これより敵を殲滅する


 床ドンボトラーさんが重装甲で僕を護衛。

 僕が守られつつ、床ドンボトラーさんを後ろから修理。

 卍漆黒龍機卍さんが後方から追ってくる敵を高機動で制圧。

 美少女さんは前方に多数居る敵を高機動で制圧。


 そういう作戦になった。

 かくして、ミッションスタートだ。


 床ドンボトラーさんがすぐさま僕の前に入る。少し進むと、卍漆黒龍機卍さんが後ろへ飛んでいった。


『ST』卍漆黒龍機卍さんが撃墜されました


 と、間髪入れずに報告が入る。え、えっと、死んじゃったの。


『AT』床ドンボトラー:さすが厨二ネームwじゃ俺後ろ行くからw

『AT』床ドンボトラー:まぁ時間稼ぎだけど

『AT』床ドンボトラー:このミッションは失敗必至wwwwwwwww


 そう言って床ドンボトラーさんは踵を返す。よくわからない名前だけど、最後まで諦めない姿には感銘を受けた。きっとリアルでは友達が多くて、運動部の部長とかに違いない。

 それはさておき、僕はマップを見ながら慎重に進む。


 美少女さんと床ドンボトラーさんの中心を維持。マップを見て漏れがないか……前方の殲滅速度が半端じゃない。沸いたそばから撃破している。だが、床ドンボトラーさんは苦戦しているようだ。倒す速度より、敵が沸く速度のほうが速い。

 何とか持ちこたえているが、すぐに突破されてしまうだろう。


 どうする。僕も戻って支援に入るか?

 いや、修理をしている暇なんてないだろう。間に合わず床ドンボトラーさんが死んじゃったら、僕もすぐに落とされるだろう。


『ST』床ドンボトラーさんが撃墜されました


 それを僕は、合図と受け取った。

 ディアが全力を出して美少女さんへ向かう。むしろ、後ろから追ってくる敵から逃げる。


「お、おいおい!?」


 美少女さんが多数の敵を率いて、僕に向かってきてる。なぜ!? あ、そうか。前後の敵を倒すつもりなんだ。僕はその間隠れてやり過ごせ、と。

 そして敵が少なくなった所で、強行突破を図るのだ。


 予想以上の速度で近づいてくる、まずい、隠れ場所を探さないと。


『AT』美少女:そこに居てねん☆


 それって、死なば諸共って事か!?


「えっ」


 近づくほどにわかる、昨日とは機体が、少し違う。

 そして少し変わった黒い機体が、変形しながらディアに近づいている事に。


「うわぁぁぁ! ディアが犯されたぁ!?」


 美少女さんの黒い機体が僕のディアに取り憑いた。


『AT』美少女:愛を紡いで即合体☆


 純白のディアと、真っ黒な機体が、合体していた。


『AT』美少女:いやぁん☆ あなたの機体に合わせた合体用パーツ買っといてよかったぁ☆


 なにその辱めパーツ。僕のディアちゃんを辱めやがって畜生!

 僕だってまだ合体した事ないんだぞ!


 純白のディアに、所々黒いパーツがくっついて……やだ、ちょっとカッコイイんじゃない?


『AT』美少女:びっちゃんは火器管制を担当するよ☆


 何それ。かきかんせい? 僕は何をすればいいの?

 と疑問には思うが、考えている時間はなさそうだ。敵が迫ってきている。とりあえずどうすれば……って、勝手にビーム砲を構えている。とりあえずこれをぶっ放すか?


 黒混じりのディアが回転しながら、四方八方にビームをばら撒く。そうだ……と僕は思いつく。

 横道に入り、敵を一直線に集める。えーと、武器を選ぶにはどのキーを押したらいいんだか……って、また勝手に黒交じりディアが構えた。そうか、美少女さんが武器を選んでくれているんだな。


 僕はとりあえず、敵に照準を向けて、よくわからないけどぶっ放す。


 と、ディアが両手で敵を見定める、周囲から真っ黒な光が集まって、それが手の前に来るとより大きな黒い光となる。

 黒いのに光っている、そうとしか形容できない、禍々しい輝きだ。


 そしてそれは解き放たれた。ブラックスクリーンとなったのではないかと勘違いするほど、画面を黒く塗りつぶして。

 敵を一網打尽にでき……てない、敵は残っている。


 手持ちの小型ビーム銃が選択された。なるほど、残った敵は少ない。それを個別に撃ち落していけって事ね。

 僕は後ろ歩きしながら、照準を合わせて次々に敵を撃ち落していく。ミニヘリコプターみたいな敵だ、当てるのが難しい。


「あっ!」


 まずい、二機ほどもらしている。と思ったら、背中の黒いパーツ部分がパカッと開いて、ミサイルが放たれた。それは残った二機に直撃し、爆発。美少女さんのアシストか? やるなぁ。


『AT』美少女:じゃあ元来た道に戻って、とりあえず真っ直ぐ進も~☆ 何があっても止まっちゃダメだよ☆


 相変わらず状況は把握できないが、僕は指示通りに広い中央通りに戻る。ディアはアフターバーナーを吹かせて、一直線へ目的地へと走った。

 迫り来る敵に、無謀にも突進していくディア。何があっても止まるなとの指示を忠実に守るディア。


 敵は目の前に居た、思わず目を覆いたくなるような光景が。


 白く、覆された。


 ディアは光った。突進のスピードがあり得ない速度に達している。ぶつかる敵全てが塵となって……何だ、これ? その上、画面中央に数字が表示されている。


 02:29。二時二十九分って事か?


 いや、違う。その割には数字の減りが早すぎる。ていうかこれ、無敵突進の効果時間!?


 00:19。さっきのは二秒だったんだ、そしてもうこの瞬間に切れ……!


『AT』美少女:ミッションコンプリートだよん☆


 思わず瞑ってしまった目を開くと、そこには美少女さんのチャット。


 そして画面中央に輝くMission Completeの文字。


 え、っと。

 目的地に到着するのと、無敵突進の効果時間が、ぴったり同じだったという事か? 無敵突進を起動させたのは、美少女さんだ。

 彼はまさか、計算したのか? 効果時間と到達までの時間を、誤差なくピッタリと。


「すっげぇ……」


 ただただ、そんな感想しか出ない。


 そんな、単純で、稚拙な感想しか。

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