1話 二人で異世界転生しました
小説を書くのは初めてで不慣れですが、よろしくお願いします。
新婚夫婦が甘くない中世ヨーロッパ風異世界で生活していく物語です。
派手さを抑えめに、地に足のついた描写をしていければと思います。
「やっぱり古い城跡はいいわねー。ここで、あの有名な条約が結ばれたのかって思うと、ほんともう感動よ、感動!」
若菜がそう言ってはしゃぐ。
前で短く揃えたショートカットに大きな瞳、小さな身長(145cm)が特徴の女の子。
いや、この歳で女の子、は変か。見た目には小どもにしか見えないけど。
「僕は歴史は詳しくないけど。いい雰囲気だよね。喜んでくれて良かった」
僕、来栖匠は、ほっとしていた。
(外れでも機嫌を悪くするような奴じゃないけど、やっぱり喜んでもらうに越したことは無いよね)
僕は、身長が175cmで65kgと平均的な体重に、
ほどほどについた筋肉と短く揃えた髪とで、特に特徴らしい特徴もない顔立ちだ。
若菜に言わせれば、「可愛い」らしいのだけど、どこが可愛いのかいまだにわからない。
季節は春、僕たちは場所はドイツのとある史跡を巡っている。
何故って?一言で言うと新婚旅行だ。
僕たちは、大学時代から付き合い始めて、卒業して、同じ会社に入社(部署は違うけど)。
社会人一年目に婚約。
社会人二年目の冬に籍を入れて、今に至る。
いわゆる新婚夫婦というやつだ。
「あ。ねえねえ。ここから、屋上に出られるみたい。行ってみない?」
「もちろん」
そう言って、若菜が手を引っ張ってくる。
「ちょちょ。急がなくても大丈夫。服が伸びる…」
「あ、ごめんなさい」
はしゃぎ過ぎていたことに気が付いたのか、ちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめる。
そんなところも可愛い。
そんな若菜と、一緒に手をつないで城を上ると、屋上に出た。
時間は夕方、夕日に照らされた城塞と周辺の景色はとても綺麗だ。
この景色だけでも来たかいがあったな、とそう思う。
「ほんと来て良かった♪」
「うん、僕も」
若菜が肩を寄せてくる。暖かい。
最愛の人と、最高の景色を眺めて一緒に感動に浸れる幸せに浸っていたそのとき。
後ろから足音がするのが聞こえた。他の観光客だろうか?
しかし、振り向いたときに見えたのは、テレビとかで見るテロリストのような服装をした三人組。
しかも、全員銃で武装している。
「~~~」
明らかに英語じゃない、ドイツ語でもない言葉をしゃべっている。
(やばい!)
全力で脳が警鐘を鳴らす。
横を見ると、若菜も緊張していて、顔が青ざめている。
幸い、彼らは、屋上の端にいるまだ僕らを視認していないようだ。
今ならまだ、逃げ出せるかもしれない。
(若菜、若菜)
耳打ちをする。
(なに?)
(僕が彼らを引き付けるから。若菜は気づかれないように回り込んで、ここから逃げて、警察を呼んできて)
(二人で一緒に逃げた方がいいんじゃない?)
(いきなり逃げたらかえって危ない。時間を稼いでいる間に警察を呼んできてもらえれば、きっとなんとかなるよ)
(わかった。ほんとに気を付けてね。死んだら嫌よ)
(僕も、死にたくはないから。じゃあ、また後で)
彼らの前に躍り出る。リーダー格らしき男に話しかける。
「Hi. I'm a Japanese tourist. Although it seems that you are not tourists, Why did you come here?(僕は日本人の旅行者です。あなたたちは旅行者ではないようですが、何をしにきたのですか?」
慣れない英語で、対話を試みる。
「Japanese?(日本人?)」
「Yes.(はい)」
日本人というところに関心を持っているようだ。日本人は人質としての価値があると聞いたことがある。
最悪、この場で人質になっても、警官が到着すれば、助かる可能性はあるように思えてきた。
「Japanese! Japanese!」
彼らが一斉に銃を上げた。
日本人、というのがまずかったのだろうか。
まずい、どうしよう。
パン、パン、パン。
次の瞬間、小さな破裂音がしたと思ったら、身体のあちこちに痛みが走る。
あまりの痛みに立っていられなくなって、倒れ込む。
息ができない。
どんどん目の前が暗くなっていく。
死ぬんだろうか?せっかくの新婚旅行で。なんて運が悪いんだ。
若菜が逃げてくれたのは不幸中の幸いだけど、残して逝かなければいけないのは
つらい。
そうして、僕の意識は途絶えた。
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気が付いたら、四方を白い壁で囲まれた、殺風景な部屋に僕は立っていた。
(あれ、僕はどうして…?)
銃で撃たれたことを思い出す。
の割には、傷跡もないし。ということは。
「僕は死んだ、のか?」
どこか冷静にそうつぶやくと、
「はい。残念ながらそうなります」
壮年の男性らしき人物が、目の前にふっとあらわれた。
「あなたは?」
「創造主とは違いますが、運命を司る、という意味では、神、といえばいいのでしょうか」
「神様、ですか」
僕は無神論者だけど、目の前に証拠がいるなら信じざるを得ない。
「それで、僕は死んだんですよね」
あらためて、問いかける。
「はい。残念ながら」
申し訳なさそうに頭を下げる。
「頭を上げてください。僕を殺したのは、テロリストらしき人たちですし、それも運が悪かっただけですから」
「いえ。死ぬべきでない人が手違いで死ぬ羽目になったことは我々の手落ち」
「手違い?」
「ええ。本来、あそこに居るのは別の方のはずでした。それが、何故か、あなたたちが来てしまいまして」
「違う未来になってしまったと?」
「簡単にいうと、そういうことになります」
運命を司る神としては手痛いミスなんだろう。
僕としても、手違いで死ぬのはたまったものじゃない。
ただ、死んでしまった以上、そこは仕方がない。
一つ、聞きたかったことがあったのを思い出した。
「あの。若菜、あ、私の妻ですが、どうしていますか?」
「奥さんですか。ちょっと見てみますね」
神様がそういうと、壁がプロジェクターのようになって、若菜のいるらしき部屋が映し出される。
僕と思しき遺体が横たわっていて、その横でとてもつらそうな表情をして立っていた。
「どうして…どうして、匠が…」
若菜の瞳からはぽろぽろ涙がこぼれ落ちる。
見ているのがつらい。
「もういいです」
「はい。つらいところをお見せして、すいません」
「いえ。私が頼んだことですから」
大切な人をこんな形で置いていくことになるなんて、思ってもみなかった。
「あの、それで。僕はこれからどうなるんです?天国、あるいは地獄?それとも、輪廻転生?」
死後の世界が実際にあった以上、その辺りのいずれかだろうと思って聞いたみたのだが、
返ってきたのは意外な答えだった。
「我々の手落ちですから、同じ世界で、というわけにはいきませんが、別の世界で新たな生を過ごしていただくことになります。奥様の記憶をお持ちのままというのもつらいでしょうから、一から赤子としてやり直すこともできますし、今の肉体のままやり直すこともできます」
「異世界転生ってやつですか。まさか、ほんとにあったとは…」
昨今、ライトノベル界隈では異世界転生がブームだけど、本気にしたことはなかった。
事実は小説よりも奇なり、ということだろうか。
「そのまま、というのも生きづらいと思いますので、その世界での戸籍相当と最低限の基盤は提供します」
「ずいぶんとサービスがいいですね」
「それはもう。こちらの手落ちですから」
「あの。ひとついいですか?」
「はい。なんでも」
「こういうのを描いたラノベ…小説だと、スキルとか何か好きなものを、とかいう話をよく聞くんですが」
「スキル…ですか?」
「あ、それはスルーしてください。何かを持って行けるのかな、と」
「文明を大きく変えてしまうようなものは許可できませんが、たとえば、思い出の品、といったものでしたら」
「妻…若菜を連れていくことはできませんか?」
正直、別の世界で人生をやり直せることは嬉しい。
でも、若菜をあのままにして、自分だけ別世界で人生をやり直すというのもつらい。
「奥様の承諾があるのでしたら、あなたを転生させることと同じことですが…」
「承諾、ですか。若菜に会えるんですか?」
「ええ。一時的なものですが」
「じゃあ、お願いします。ぜひ」
若菜を連れていけるにせよ、できないにせよ、もう一度会って話がしたかった。
「では、少々お待ちください」
神様が呪文のようなものを唱えると、目の前に少しずつ若菜の姿が現れる。
「あれ、私?」
きょろきょろしている。
急に変な場所に連れてこられたのだから、それも当然か。
「えと、匠、なの?」
「ああ、もう一度会えて嬉しいよ」
「ほんとの、ほんとに?」
「うん。あんな形で置いていくことになって、ほんとにごめん」
すると、若菜は僕に飛びついてきて、わんわん泣き出した。
そんな彼女を僕は優しく抱きしめて、落ち着くのを待った。
「それで、死んだはずの匠がどうして?」
「それは、私が説明致しましょう」
「あの、あなたは?」
「運命を司る神様、らしい」
「神様ってほんとにいたのね…」
うん。そうなるよね。
その後、僕が違う世界に転生することや、その際に若菜の同行を望んだことを
神様は丁寧に説明してくれた。
「それで、こんなところに連れてこられたのね」
「ごめん。あのままお別れはどうしても嫌だったし」
「それは私も同じよ」
「それで、どうかな?僕はもうどうやっても戻れないけど、若菜は地球に友達やお義母さん,お義父さんもいる。だから、若菜の希望を尊重したい」
「そんなの、一緒に行くに決まってるじゃない!匠とこれから幸せな生活が送れるって思ってた矢先だったし。友達やパパ、ママと別れるのはつらいけど…。生涯を誓い合った仲なんだから、信頼してちょうだい」
「そっか。ほんとうに、ありがとう」
そういって、あらためて、若菜を抱きしめる。
「暖かい…」
そう若菜がつぶやいた。
「うん、僕も」
「あの、お話はついたようですが…」
一部始終を見られていたことに気が付いて、少し気まずくなる。
「はい。私は匠についていきます」
「本当にいいんですな?もう二度と、地球の方と会うことはかないませんよ」
「匠と会えないことに比べたら、小さな問題です」
「そこまでいうのなら、こちらとしても、申し上げることはありません。それで、転生先の異世界ですが…」
文明としては15世紀ヨーロッパ程度で、魔法や超能力のような技術が特にあるわけではないらしい。
一つの大陸にいくつもの国がひしめき合う世界で、僕たちは、小国の一市民になるらしい。
魔法とかあっても困るし、それはいいんだけど、大昔というのに少し不安を感じる。
「中世ヨーロッパねえ。中世は中世でも、後期といったところかしら。衛生環境や食べ物がどうなっているのかが心配ね」
歴史学(ヨーロッパ中世史)専攻出身らしい言葉だ。
ただ、現実に生活する上で、衛生環境や食べ物は切実な問題だ。
僕らは21世紀の便利な生活に慣れきっているし。
とはいえ。
「それでも、二人でいられるのは嬉しいわ」
「うん」
その後、異世界での生活になじむために、わからないところは徹底的に質問攻めにしたのであった。
(特に、若菜が積極的だったのだけど)
---
「それでは、準備はよろしいですかな?」
「「はい」」
「では、頑張って…というのも変ですかな、お幸せに過ごしてください」
「神様も、ありがとうございました。匠にもう一度会わせてもらっただけじゃなくて、こうして二人でやり直せる機会をもらえるなんて」
「いえいえ。お気になさらず。それでは」
神様がそういうと、世界が白く染まった。
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気が付くと、原っぱに倒れていた。
そばには、小さな寝息をたてる、若菜の姿。
「若菜、若菜」
「うーん…?」
若菜はいつも寝起きが悪い。
しばらく待っていると、ようやく覚醒してきたらしい。
「そっか。本当に、異世界、来ちゃったんだ」
「だね。ごめん…は違うね。一緒に来てくれて、ほんとうにありがとう」
「いえいえ。それよりも、どうやってこの世界で生活していくか…まあ、頑張るしかないわね」
そうして、僕たちの夫婦で二人三脚の異世界生活が始まったのだった。
こつこつ更新していきますので、よろしくお願いします。