第八話:クエスト
私たちは早速、街の西にある山奥へ薬草採りに向かいました。ミーナさんは鉄斎さんと楽しそうにお喋りしながらも、しっかりと薬草が群生している山奥へ誘導していたので驚きです。まぁ、鉄斎さんはたまに「そうか」と返事しているだけでしたが。
他の三人の冒険者は盾持ち剣士の男性、三角帽の魔法使いの女性に、腕の長さほどの棒を2本持った武闘家の女性でした。みんな私と同じ15歳らしいので、できれば仲良くなっておきたいです。
「あの二人はどういう関係なんだ」
剣士の男性が聞いてきました。
「いや、分かりません。私あの男の人に2000ゴールド取られたので関わらない方がいいと思います」
「それって大丈夫なの。私がカリスティックでぶっ叩いてきてあげようか?」
武闘家の女性が笑いながら2本の棒を振り回しました。ありがたいけど、危ないです。
「そう言うの自分でちゃんと言った方がいいよ。もう大人なんだから自己責任でしょ」
「す、すいません。以後気を付けます」
魔法使いの女性の丸メガネ越しの目線は冷たいですがその通りですね。帰ったらすぐに請求するとします。
「みなさーん、これがポーションの材料の薬草です。花がついてるのは効果が薄いのでそれは避けてくださいね。あと、薬草に付く赤い実は大体3つぐらいで低級のポーションと同じ効果があるらしいんで、節約したいときに便利ですよ」
「はーい」
ミーナ先生、じゃなくてミーナさんって結構しっかりしてるんですね。あの男と仲良しみたいだったので、少し見くびっていました。
「あーっ、あれは、魔物の角オオカミですね。あの角は上級薬の原料なので高く売れます。じゃあ、その盾の剣士さん、倒しちゃってください」
「よっしゃぁ」
剣士の男性は角オオカミの前に飛び出すと、右手の剣で盾を鳴らし注意を引きました。角オオカミの突進を木の盾で左へ受け流し、着地後の隙をついて背を剣で一突き。戦闘はあっけなく終わりました。
「おー、さすがです。調子乗って盾持ってこない剣士はあれで死んでしまうんですよ」
「あはは、そんな間抜けいるんですか。これぐらいは余裕っす」
盾剣士は鉄斎さんを横目に見ながら剣に付いた血をさっと払い、勢いよくそれを鞘に納めました。
「じゃあ、ちょっとこの辺で自由探索にしますね~。日が傾きかけた頃にまたここに集合してください。ここが分からなかったら、とりあえず下山して待っててください」
私と武闘家、剣士と魔法使い、ミーナさんと鉄斎さんの3組に分かれて薬草を取ることになりました。しばらくして、剣士が私たちのところに駆けてきました。
「おい、あっちにゴブリンの巣穴っぽいのあったんだけど、もちろん行くよな。これで今日中にブロンズだぜ」
「ちょ、ちょっと待ってください。ゴブリンって、あの、その、女性を襲ったり……」
「あれは冒険者のいない村が夜襲にあった時ぐらいだって話だ。それに強さ的にはさっき倒した角オオカミよか弱いんだって」
「そ、それでも入るなら準備を――」
「私、今日のためにおこずかい貯めて革鎧とポーション買ってきたの。あなたは私が守ってあげる」
「そ、それじゃあ……」
「早く来いよ。日が暮れちゃうだろ」
すごくいやな予感がします。いや、装備もパーティの構成もお手本のような状況で、ゴブリンごときにやられるわけありませんよね。訓練通りやれば大丈夫です。仲間はみんな頼もしく信用できますし。天にまします神よ、か弱き我らをお守りください。
ゴブリンの巣の入り口はしゃがまないと入れないぐらい小さかったのですが、中は普通に立って歩けるほどの高さでした。
「暗いな。神官、ホーリーブライトは使えるか」
「はい、今祈ります。天にまします我らの神よ。願わくはか弱き我らに慈悲の光をお与えください――ホーリーブライト」
私にはちょっと長い杖を掲げ、祈りをささげると薄暗いゴブリンの巣は温かく優しい光で溢れ、横穴は縦2m・横2.5mほどの一本道であることが分かりました。
「あ、あれ!」
ゴブリンです。光の中から私よりも一回り小柄なゴブリンが現れました。
「あいつ、武器持ってないみたいだな。チャンス」
「ちょっと、私のホーリーブライトから離れないでください!」
剣士は真っすぐ駆けて行って、逃げるゴブリンの苔色の背中を斬りつけました。
――ギャアアアアアアアアアア
「きゃっ」
「うるせえよっと」
「神官ちゃん、私たち冒険者だからこういうの慣れといた方がいいよ」
耳をつんざく悲鳴に思わず目を背けた私に女武闘家が優しく声を掛けました。剣士が止めを刺しゴブリンは事切れました。
「神よ、はかなき命に祝福あれ」
「いちいちやってたらキリ無いわよ。あなたが光源なんだから早くして」
「す、すいません」
「おい、今度は群れだ。3、4、いや6匹だ!」
「私がやる。火よ、矢となり敵の胸腔を穿て――ファイアボルト」
魔法に貫かれた2匹のゴブリンはまた悲痛な鳴き声を上げその場に崩れ落ちました。
「やれるぞ、俺が前に出る。武闘家は俺の取り逃したやつを狙え」
「私だって、そうりゃっ」
女武闘家の二本の棒は美しく幾重もの円の軌跡を描きながら、剣士の脇を通り抜けたゴブリンを手数で圧倒しました。
「おい、2匹増援だがこのまま前進、押していくぞ」
「はい」
その後もひやりとすることもなく、順調にゴブリンを倒していける――はずでした。