第七話:新米冒険者
私はとんでもない人に声を掛けてしまったようです。というかあの男の人、明らかに20歳はいってると思うのですが、それで冒険者志望ということは――ニートですよね、よく考えたら。
2000ゴールドを払わされた後、結局私がいろんな人に道を聞いてやっと冒険者ギルドにたどりつけました。神殿でもらえるお小遣いをコツコツ溜めてたんです。あとで返してもらわないと。
昼過ぎの冒険者ギルドには私とこの男鉄斎さんの他には、数人の若い冒険者と受付嬢しかいませんでした。みんなクエストに出かけてしまった後みたいですね。鉄斎さんはあいつ何やっているんだ、とか言っていましたがこっちのセリフですよ。
「あ、あの、私冒険者になりたいんですけど。あ、ちゃんと成人しています」
「はい! 冒険者登録ですね。文字の読み書きはできますか?」
受付嬢は屈託のないスマイルで私を見下ろしました。てか、受付テーブル高くないですか。
「はい。神殿で教えたりしていますから」
「お連れ様は?」
「私か。できん。文字は分からん」
「え? いまどき文字の分からない人なんていたんですね」
戦時中じゃあるまいし。
「そうか」
そうかって。それになんで堂々としているんでしょうか、この男。
「それでは口頭で登録しますんで、氏名・年齢、組みたくない性別があればそれを。あと、希望するジョブといま使用できるスキルをお願いします」
「アリス・ブラステッドゴールド、15歳、ジョブは神官、キュアとホーリーブライトを授かっています。回数は――調子が良くてそれぞれ2回ずつです」
「分かりました。そちらの方は」
「私もか。まあいい、特にやることもなし。井原鉄斎、22歳、剣士、スキルとは特技か何かか。それなら剣術の他に、柔術、少林寺拳法の訓練を受けたことがある」
「魔法剣は何か使えますか」
「魔法はできん」
「分かりました」
ええええええ、どういうことですか。すごい猛者的な雰囲気で立ってたから新米として声を掛けたんですけど、なにもスキルが使えないってただの雰囲気剣士ですか。何とかして2000ゴールド取り返さないと……。
「それではこちらが認識証となります。再発行には手数料をいただきますのでなくさないようにお願いします。冒険者には等級がございまして、見習いのコッパ―から始まって、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドの全6等級です。が、プラチナ、ダイヤモンド等級は先の戦争で殉職した冒険者に名誉的に与えられたもので、現在の最高等級はゴールドになります。シルバー以上の冒険者にはそれぞれ別の認識票が与えられ、アイテムや装備にかかる費用を一部負担、かつ分割払いが可能になります。まずはシルバー等級を目標に頑張ってくださいね」
受付嬢はすべての説明を笑顔のまま済ませて、5ケタの数字がプレスされた金属の板を通したチェーンをテーブルに置きました。というか、やっぱりちょっと高いです、このテーブル――
「アリスだったな。頑張れよ」
「こ、子供扱いしないでください。取ってくれてありがとうございます……。てか、頑張るのはあなたの方じゃないんですか」
「かもしれんな。ははは」
なに笑ってるんですか。見習いの死亡率は馬鹿にはできないんですよ。
「あー! 待ちました? すいません、ちょっと話し込んじゃって――ってそれエクスカリバーじゃないですか! いいセンスです! 私も持ってます!」
「そうか」
男は木製エクスカリバーを土産袋から出して、ギルドに飛び込んできた銀髪の女に向かって構えると、女は「おおー、似合ってますよー」なんて間延びした感想を言いました。類は友を呼ぶって本当だったんですね。
「ミーナさん。お久しぶりです。武器と防具、新調したんですか」
「あ、受付のおねぇさん。この曲がった剣は鉄斎さんとお揃いみたいなんで友人から借りてきました。革鎧、カッコいいのに安かったんですよ」
ミーナと呼ばれた女性は腰に割と長めのサーベルを下げています。確かに鉄斎さんも似たような剣をエクスカリバーの他に持っていました。
「鉄斎さんとお知り合いなんですね。それでは、お暇でしたらあそこのコッパ―三名とこのお二方を連れて、薬草採りのクエスト受けてもらえませんか。ブロンズのミーナさんがいれば安心です」
「いいですよー。あ、鉄斎さんもう登録済ませたんですか。さすが気が違いますね。認識証は身分証にもなるんで、とりあえず登録してもらおうかなって思ってたんです。それにお金は大事ですしね……」
「気が違うは多分、悪口です」
不覚です。神殿で子供たちに教えてる癖で余計なことを言ってしまいました。
「この子供なんなんですか」
「子供じゃありません。冒険者です。15歳成人です」
「この子供のおかげで生と死の狭間カフェまで来れた。あんまりいじめてやるな」
「だから子供じゃないですって。私アリスです。今日冒険者になりました。よろしくお願いします」
「へー、そうなんだ。よろしく」
一応先輩なのであいさつしましたが、この二人と一緒にクエストは危険な香りがしてなりません。あとの三人も今日冒険者になったばかりだそうで、神官の仕事がないことを神に祈るばかりです。




