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ラストサムライ、異世界にて魔王となり候  作者: きのこためぞう
第一章:サムライと魔族と人間
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第六話:人間の街

 ハンチング帽に付け耳をしたミーナと辺境の街の中を並んで歩いていた。町並みはまさに中世西洋の様であった。と言っても実際に見たことあるわけでもなし、違う所も多々あるだろう。なぜそう思ったかというと、私の日の本からそのまま着てきた道着も目立たないほど、異質な格好をしている者が多くいたからだ。


「どうです? 珍しいですか、人間の街は」

「ああ。どうして皆、よく分からん服装なのだ?」

「これはこういうルールなんです。みんな自分の職業が一目で分かる格好をしなきゃダメなんです。一種の身分証代わりですし、何かあった時誰が戦えて、誰を守らなくちゃいけないか、すぐ分かるじゃないですか」


「それでは私は何に見えるか?」

「うーん、剣持ってるし動きやすそうな格好ですから冒険者の剣士さんですかね」

「冒険者か。あながち間違ってはいないな。ちなみにミーナは何のつもりなんだ」

「私は……あっ! 装備取ってこなくちゃですね。私今からレジスタンスの隠れ家に行ってきます。えっと、〈生と死の狭間カフェ〉で待っててもらえますか」


「レジスタンスか。私は戦うしか能の無い――」

「はい。魔王さんに人助けなんて似合いませんからね。ただ、魔王さんが召喚されましたっていうのは伝えさせてください。みんな待ちに待っていましたから」

「分かった。すまないな。それでその縁起の悪そうなカフェ――」

「あ! そうだ、鉄さん、お金持ってないですよね。私のなけなしのバイト代、1万ゴールド渡しときますんで好きに買い食い、じゃなくて要る物買ってください」


 そう言ってミーナは謎の文様、この世界の文字だろうか、が書かれた紙切れを実に口惜しそうに私に手渡し、実に物悲しそうに街の喧噪の中に消えていった。ミーナは一人で大丈夫だろうか。いや人の心配をしている場合じゃないか。生と死の狭間カフェってなんだ。隠語だとしたら相当の馬鹿だな。私に言っても分かる訳ないだろうに。はて、どうしたものか。



「あ、あの冒険者の人ですか?」


 どこからか子供の声がする。が、あたりを見回すが子供の姿は見当たらない。


「あの、聞こえてますよね」


 魔法だなんだという世界だ。なにか化けて出てもおかしくはない――


「あの、下です」


「おお、こんなところに小さなこわっぱが。どうした迷子か」

「私、これでも成人しているんです。冒険者には偏屈な人が多いと聞いてはいましたがここまでとは」


 私の胸ほどの背しかない子供がその身長ほどある装飾過多な杖をシャンシャン鳴らして頬を膨らませていた。


「私は冒険者ではない。子供が私に何の用だ」

「その恰好で冒険者ではないとは、兵士の方でしたか。あと、私15歳なんで成人してます。一回言いましたよね」


 15歳は子供だろうと、ふと思ったが世界が変われば法も変わるものか。一応あのカフェのことを聞いてみるか。


「それは失敬。それと私は兵士でもない。一つ聞いてもいいか」

「分かっていただければ。えっと、職業が分からない人と話すのはちょっと」


 金髪の成人した子供は金色の目を私から逸らしてそう言うと、頭にクラゲを乗せたような帽子を深くかぶりなおして立ち去ろうとした。自分から話しかけておいて失礼な子供だ。


「生と死の狭間カフェを知らないか」

「え、それなら冒険者ギルドに併設されているはずです。でも私ギルドの場所が分からないんで――」

「案内してもらえるか」

「いや、人の話を聞いてください。というか、その恰好で冒険者でも兵士でもないということは冒険者志望の方でしたか。でしたらご一緒します。私もそうなので」


 子供はその長い金髪を揺らしてよろしくお願いしますと小さくお辞儀した。私は別に冒険者志望ではないのだが、人の話を聞かないのはお互いさまのようだ。


「あの、ジョブは何にするつもりですか。見たところ剣士のようですが」

「ジョブとは何だ」

「え、あ、えっと、冒険者は何人かでパーティを組んでクエストをクリアして報酬をもらう仕事なんですけど、そのパーティの中におけるロールのことです。ジョブは」

「なるほど。分からん。成人した子供君の名前は何だ」


「せ、成人したので大人です。大人なのにそんなことも分からないんですか。アリスです。ファミリーネームはブラステッドゴールド。私の説明、分かりにくかったですか」

「いや、話が入ってこなかった。私は井原鉄斎だ。アリス君のジョブは何だ?」


「ああ、子供の話は聞けませんか、そうですか。私のジョブは神官です。祈りによって神の御業を再現するのが仕事ですね。具体的にはケガを治したり、解毒したり、光の壁を作り出したり――、あ、ちょっと、どこ行くんですか!」


 武器が必要だった。妖刀モノ斬りだけではおそらく使いどころに困る。そう、私にはこの刀は身に余るのだ。まだ覚悟のない私では。覚悟から逃げようとしている私では。


「え、ちょっと、なに真剣な顔してお土産見てるんですか」

「これはちょうどいい重さだな」

「も、木剣ですか。あなた、人に子供って言うくせに、自分が一番――」

「すまん、アリス。持ち合わせはいくらだ」

「は? こ、子供にたかるんですか」

「君は大人だろう」

「いや、そういう問題じゃ――」

「これはエクスカリバーと言うそうだ」

「木製の聖剣なんて聞いたことありません」

「おやっさん、これをいただこう。後の2000ゴールドはこの神官が払う」

「毎度あり!」

「は? ちょっと! え、ポーション代が……ほんとに、ちょっと待ってくださいって!」


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