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第二十四話:勇者vs勇者

 勇者は青白く輝く魔法薬を一気飲みにしてしまいました。あの薬が秘めている魔力量はおそらく人間一人の魔法を暴走させるのには十分だということが私にも分かりました。


「あははははは。いいぞ、いいぞイイゾォ」


 勇者が腕を一振り。爆発的に増殖する氷塊にミーナと鉄斎さんが吹き飛ばされました。私は慌てて駆け寄ります。


「ユニークスキルがチートスキルニナタヨォ」

「ミーナ、鉄斎さん! 無事ですか」

「馬鹿、来るな」


 鉄斎さんの太もものあたりが氷漬けになっていました。ミーナは左腕がおかしな方向に曲がっています。私がヒールを使えないのが悔しくて……。


「アリス、私は魔王だ。そしてミーナは魔王の側近だ。今日は誰も死なせない」

「そうです。ミーナは唯一無二最強のネコミミ美少女ですから」

「自分で言うんですか」


「ネコ女。お前、巫女かよ。アイデンティファイが暴走して面白いもの見えちゃった。なんで生きてるんだ、ウルトラレアじゃん。あ、そうだ」

「うみゃ!?」


 突然ミーナの四方から氷の柵が沸き上がり、ジャンプして抜けようとしたミーナを上から蓋してしまいました。


 鉄斎さんはすかさず斬りに行きます。ですが、ミーナを捕らえた檻の下の地面がもりもりと隆起してうず高い氷山となって、斬っても斬っても切り崩せない要塞となりました。


「貴様、どういうつもりだ」

「お前、なんで弱ぇえか謎だったんだよ。巫女生かしてどうすんだよ。そんなに自信あっか?」

「私には彼女に生きてもらう必要がある。死人の願いなど、叶え甲斐がないだろう」

「ははは、おもしろ。じゃあ、巫女。お前、さっさと死なねえと大好きな魔王、死んじまうぞ、お?」


 勇者の猛攻が始まりました。初めに落ちてきた氷の隕石が前の数倍の速度で鉄斎さんに迫ります。鉄さんは左手に刀を持ち替え構えます。そして一太刀。背骨が震えるような衝撃波が走りました。


 鉄斎さんは立っていました。ただ、衝撃で左腕はひしゃげてしまっています。落ちた刀を右手で拾い上げ勇者に立ち向かいます。


「魔王と巫女ってもしかしてリア充とか? キモ死ね」


 鉄斎さん目掛け槍が飛びます。彼はそれを避けず正面から斬り伏せる。その姿に諦めは見えませんでした。でも届かない。一本、もう一本と、体が貫かれていく。


「いや、いや、もうやめてよ! 私死ぬから! そしたら勇者なんて魔力を持った鉄斎に掛かれば一発なんだから! だから……ごめんなさい。私の中途半端な覚悟に付き合わせて」

「ダメです! ミーナ!」

「アリス、ごめんね。私甘かったよ」


 動け動け、私の体。前みたいに何もせず仲間が死んでいくのを見てるの? 違う。もうそんなのは嫌だ。鉄斎さんが言ってた。勝てるか勝てないかは問題じゃないって。だから――。


 今日の木剣エクスカリバーはなんだか温かいです。今まさにとどめの一撃が鉄斎さんを襲う所でした。


「エクスカリバーーーー!」


 その一撃をすんでの所で撃ち払います。


「なんだこのチビ」

「チビじゃないです。私はアリス。アリス・()()()()です」

「ゴールド……お前、あいつの親類かなんかか」


「ええ。この世界で生まれ育った最優の勇者、クリス・ゴールドの妹です。相手にとって不足なしってやつですね」


「はははははは。笑わせてくれるねぇ。あのダサい勇者の妹? でもお前の職業、神官ってなってるぞ」

「ダサいのはあなた達です。魔王を打ち取って英雄王となるはずだった兄を殺して地位を奪い取ったあなた達は偽物の勇者です」


「ああ? 俺は関係ねぇぞ。訓練中の事故ってことになってただろう? それにお前は弱いだろ。どうせ、兄に憧れて剣でも握ってみたがてんで才能なし。それで雑魚でもできるジョブで何とかお役に立ちたいですぅ、とかそんなやつだろうが」

「そうです。それがいま関係ありますか」


「まあ強がんなって。お前かわいいから俺の子供産ませてやるよ。おとなしくしてろ」

「あなたに言われてもうれしくありません。来ないなら私から行きます」


 虚勢でした。私はただ勇者の妹というだけ。勇者にはなれません。魔力武装はおろか魔力強化だってまともにできません。


 私は諦めていたんです。


 最優の勇者に教わってできなかったからって諦める理由になるか? そういう鉄斎さんの声が聞こえてくる気がします。いや、普通は諦めますよね。だって最強の勇者の妹で何年も英才教育を受けたのに何にもならなかったんですから。でも、鉄斎さんの姿を見て私、昔のこと、思い出しました。


 私が神官の魔法を使えなくなった理由、今分かりました。


 私が本当になりたいのは――






 勇者です!




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