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第二十三話:第二ラウンド



 体が動かない。まとわりついた氷粒一つ一つが枷となって、一歩も踏み出すことができない。


「しょーもな、お前。今殺してもまた暇になるし、新技の実験台な。スノウバンプ」


 地面の積雪が盛り上がって二つの山を形成し、それらがうごめき出す。そこから現れたのは二本の大きな腕と拳だった。


「はい、グーパンチ」


 勇者が空に拳を突き出すと、それに追従するように白い腕が殴りかかってきた。動かない体に白い拳がまともに入った。意識が点滅する。地面に叩きつけられた衝撃で肺がつぶれて息が絶え絶えになる。


 上から拳が降り注ぐ。それを何とか仰向けに転がって刀で受ける。


「しぶといねぇ。ちょっと楽しい。分かるかなぁ、この興奮」


 勇者は両掌をパチンと叩き合わせた。両脇から掌が迫る。右腕の方に飛び込んでまず中央から逃れる。目の前を覆い尽くす掌に一突き。だがもう一つを斬るための振り返りが間に合わない。左の掌に刀を突きさすのと同時に吹き飛ばされた。


「あちゃー、やりすぎたかな。まぁ、やりすぎとかないんだけど」


 両の手を握りしめ振り下ろす。私の頭上に雪の質量爆弾が落とされる。


「うみゃー!」

「あ?」


 ミーナが雪を巻き上げ勇者に一矢報いる。が、氷の盾に防がれた。


「近距離戦はマジ勘弁」


 勇者は雪に足跡を残し距離を取り、ミーナに向け氷の矢を間髪入れずに射出する。


「この野良猫が」

「野良にも意地はあります」


 ミーナは次々と放たれる氷槍をまるで踊るように躱し、みるみるうちに距離を詰める。


 倒れた私にアリスとユーリが駆け寄ってきた。さっきまで手分けして住民に避難を呼びかけていたらしい。


「鉄斎さん、大丈夫……じゃないですよね。ミーナが戦ってるうちに何とかここから逃げましょう」

「僕がミーナと二人でしんがりを務めます」

「だめだ」

「どうしてです。勝てやしませんよ」


 アリスが私の冷えた左腕を止血しながら訴える。


「だめだ。私を侍と呼んだものがいる限り、勝てる勝てないは問題ではない。それに、勝てない相手から逃げきれるとも思えんがな」

「冗談は笑っていうものですよ」

「笑えていなかったか」


 馬鹿じゃないですかと呟きながら、アリスは宿屋の近くの薬屋から持ち出した薬草と応急処置セットで次々に治療を進める。


「師匠、僕行きます」

「私ももう大丈夫だ」

「どこがですか。せめてもう少し休憩してください」


 ユーリはミーナの元へ駆けあがる。


「これ最初で最後のポーションです。即効性はないのでじっとしててください」

「魔法は便利だな」

「使えないのは鉄斎さんとミーナだけですよ」

「今はアリスもだろ」

「叩きますよ」


 じっとしていると寒いのだろう、アリスはエクスカリバーをぶんぶん振り回している。そこへ傷を倍に増やしたユーリが吹き飛ばされてきた。


「僕、死にます」

「馬鹿言え。アリス、頼んだ」

「ちょ、まだ――分かりました。死なないでくださいね」


 ミーナは足元からの攻撃を華麗にジャンプして躱す。空中でがら空きになった胴へ氷槍が殺到する。だが、ミーナはあらかじめどんな攻撃が来るか知っていたかのように、体をひねり回転させ、そして氷柱を足台にしてすべての攻撃を避け切った。


「私はいない方がよかったかな」

「冗談言ってる場合ですか。たまたま相手がアホなだけです。こんなに大きい魔力をただ単純に使うだけならば魔力感知で予測可能です。でも攻撃が全部氷に阻まれて私の体力がやばいです」

「そうか」

「そうですよっと」


 ミーナは特大の氷のミサイルをターンして逸らし、勇者の右方へ飛び込む。私もそれに合わせて左から挟み撃ちを狙う。


「な、なんなんだよ。モブのくせに避けんじゃねぇよ」

「私はネコミミ美少女です」


 ミーナが狙いを引き付けてくれた分、私は楽に接近できた。本能的に放たれる氷の矢も狙いは甘く、斬るまでもなく見切りできる。


 ミーナに追いつめられた勇者はサバイバルナイフを地面から生やした氷壁で防ぐ。攻撃を弾かれたミーナにここぞと勇者が狙いをつける。


「こっちだ」


 殺気を感じ取った勇者は攻撃を中断し再び盾を生成する。だが、妖刀モノ斬り、構うものか。分厚い氷壁ごと勇者の腹を浅く斬り裂いた。


「うあううあぅぁうっ。痛い痛い痛い熱い。凍れ凍れよ!」

「くっ」

「鉄さん? どうして鉄さんも」

「妖刀だ。前に話さなかったか」

「そ、そういうことだったんですね。おなか、大丈夫ですか」

「あんなガキと一緒にするな」

「無理しないでくださいよ」

「死のうとしたお前みたいに抱え込むタイプではないからな、心配するな」

「ああ、大丈夫そうですね。はい」


 冷たい声色とは裏腹に、ミーナは私の腰に手を当ててさすっている。そして、おそらく初めて傷ついたであろう勇者が大した出血もないのに雪の上で転げまわっている。


「くそくそくそくそくそ。なんで俺がこんな目に。皆殺しだ、そうだよねぇ。そうでもしないと気が、す、すまな、痛ってぇ」

「今日は帰って寝てろ」

「消えろ消えろ消えろ。あ。そういや薬あるわ。はは。ははははは。これ手に入れるのクソだるかったんだよね。検索して見つけたのはいいけど、渡してくれなくてさぁ。絶滅しかかってたエルフっていうの? あいつらわざわざ皆殺しにして手に入れたんだよねぇ。これは効きそう。いや、効くね」


 勇者はポケットから青い光を放つ魔法薬を一気にあおった。



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