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第二十話:実力

 ブランの刀は二尺三寸、私のモノ斬りより少し短い。しかし、その刀身は何かを纏っているように(もや)が掛かっていた。


「魔族の計略は承知している。要は、私が勇者に勝てればよいのだろう?」

「魔力の無いお前には無理だ。お前には俺さえ倒せない」

「やってみなければ分からないだろうに」

「フン、よく言うわ。転移者というのはよく虚勢を張る」


 魔力強化による弾丸のような踏み込みから、袈裟に剣戟が放たれる。紙一重に上体を屈み逸らして避け、切り返してくるブランの刀をモノ斬りの居合で断つ――


 はずが弾かれた。重心が後ろに下がった隙を突かれ、腹に正拳を食らう。


「斬れない、だと」

「これが魔力の無いお前に勇者が倒せぬ理由だ」

「それも妖刀か」


 さりとて業物には見えない。それに刃同士がかみ合ったというのに刃こぼれはなかった。


「魔力強化は知っているだろう。その魔力をさらに増幅し溢れさせ自らの装備をも包み込む。そうすることで武器装備の耐久・破壊力を強化する。これが魔力武装だ」


 ブランは空を横薙いでその手に力を込める。するとその刀に掛かっていた靄が赤く光り出した。


「それでモノ斬りの魔法を打ち消したか」

「この技で、天賦の武具に頼り切った勇者を斬り裂いてきた。お前も同じだ」

「ならば正面から切り結ぶのみ。来い、ブラン」


 ブランは目にもとまらぬ速さで間を詰める。先ほどと同じ袈裟の振り下ろしを刀で受け、競り合いになる。このまま押し切れると踏んだブランは一層力を込める。肩の動きからそれを読み、刀を持つ手を弛緩させる。ブランの刀はモノ斬りの刀身を滑り、体勢を崩した。すかさず横一文字に一太刀報いる。


「力で負けるなら、技で越えればいい。そうだろう」


 ブランは人間離れした機動で横薙ぎを避けたが、その鎧は腹の所で斬り裂かれていた。


「やるな、人間。俺も行くぞ」


 ブランの刀が赤黒い光を帯び、風とは違う圧を感じた。そして切っ先が触れもしないような位置で上段から刀を振るう。


「避けて!」


 階段から頭を出して叫ぶアリスの声に合わせて横っ飛ぶ。


 腹に響くうなり声と共に、赤黒い閃光が私のすぐ横をかすめた。振り返ると後方の壁が斬り裂かれ、細長い陽光が差し込んでいるのが見えた。


「魔力鍛造です! 魔力武装のその上、纏った魔力で刀身を伸ばすものです。鉄斎さん、逃げましょう。これは勝てる気がしません」

「それはお前だけだ。ミーナはどうする」

「私たちが死んだら元も子もないですよ」

「それもそうだな。だが今日は誰も死なぬ」


 相手の手が分かれば対策をするまで。それにこんなものは105mmフレシェット砲弾から放たれる幾千本の鉄の矢よりマシだ。


 ブランは赤黒い魔力の刀身を横に薙ぐ。それを匍匐の姿勢で交わし、クラウチングスタートの要領で相手の胸元に飛び込む。


「我流三本突き」


 突きを連続で肩、太もも、脇腹を狙って繰り出す。ブランはそれをキンキンキンと小気味よく打ち払った。


「俺の剣戟と比べて力も無ければ速さもない」

「だが腕はこちらが上だ」


 正対に構えるブランの刀が中ほどで折れ、切っ先が床に浅く突き刺さった。


「なぜだ。お前に魔力武装を超えるなど」

「こちらとて妖刀。音が鳴るなら刀身は触れ合っている。ならば、その刀の峰の同じところを三度ほど叩けば刃が裂けそこから折れる。刀は峰からの衝撃には弱い」


 折れた刀を鞘に納めるブランは肩で呼吸をしていた。人間で言えば壮年を超えたあたりだろう。現役ならば危なかったかもしれない。


「分かった。お前は強い。だが転移者の勇者は俺の比じゃない。覚悟はあるか」

「魔族の王たる覚悟か。そんなものはない。だが、ミーナは守らせてもらう。ミーナの願いもな」


 大きく横に斬り裂かれた後ろの壁が崩壊し、雨雲に覆われつつある地平線が覗いていた。



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