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第十八話:旅路


「すいません! ミーナの、その、お知り合いの方、いらっしゃいませんか」


 腰に長いサーベルを差した赤毛の少年がギルドの戸を勢いよく開け放ってそう言った。


「やっと来たな。何か飲むか、少年」

「ミ、ミーナがそれどころじゃないんですよ」


 サーベルの鞘をいろんな角に当てながら、少年は私の元まで小走りでやってきて、両手をテーブルに突いた。


「この人もミーナさんに騙されているんですか」

「ミーナは人を騙すような人じゃない」

「まあ落ち着け、名は何という。何を頼む? リンゴジュースでいいか。疲れたときにはいいぞ」


 私はリンゴジュースを三つ頼み、席を一つ詰めた。少年は困惑した様子でそこへ座った。


「僕はユーリです。ミーナが何をしようとしてるか分かってるんですか」

「なんとなくな」

「じゃあこんなことしている場合じゃ」

「私全然ついて行けてないんですが」


 ピラフの米粒を顎に付けたアリスが一人興奮するユーリを制した。


「この女、何ですか」

「アリスです。鉄斎さんとパーティ組んでる神官です。あなたこそいきなり何なのですか」

「僕はミーナの友人でレジスタンス……で分かります?」


 ユーリはサーベルを腰から抜き、テーブルにドンとそれを乗せた。そして、三杯のリンゴジュースが届けられる際、店員に武器は床に置くよう注意されていた。


「ぷっ。ああ、そのサーベル、ミーナが持っていましたね」

「わ、笑うな」

「まぁまぁ。アリスにも分かるように状況を説明してくれ」


 ユーリが語った内容はほとんど私の予想通りだった。潰れかけた組織の起死回生の作戦とはどうしてこうも行き当たりばったりな想定ばかりなのだろうか。


 ただ、魔王の息子の話は想定していなかった。魔力が遺伝の影響を受けるとしたら、相当の強さだろう。会えるのなら一度戦ってみたいものだ。


「ええええええ! ピラフ追加してる場合じゃありませんでした」

「いや、これから長い夜になる。ユーリ、場所の目星は?」

「おそらく北東の商業の街です。あそこはレジスタンスの資金源になってる宿屋がありますから」


 リンゴジュースでピラフを流し込むアリスを置いてユーリと共に受付へ向かう。3人乗りの馬車のレンタルは一日15,000ゴールドだそうだ。金の貯まらん世界だ。


「アリス、行けるか」

「わっ、はい、今食べました」

「この人要るんですか」


 ギルドの外は昨日と同じ喧噪に包まれている。夜空には薄いモザイクのような薄雲がかかり星は見えない。ミーナはよく星を見て歩いていたな。


「わ、私神官ですよ。怪我したら誰が治すんですか」

「祈りは何が使えるんですか? 貧乏な農民みたいな恰好してるけど」

「い、今はちょっと装備が……」

「やっぱりこの女、要らないんじゃ――」

「おい、喋ってないで早く乗れ。同年代のお子様とお喋りしたいのは分かるがな」


「僕は子供じゃない」「そういうのが子供なんですよ」


 私たちは月明かりの夜の街道を借りてきた松明の明かりだけで休みなしに走った。途中アリスが私のエクスカリバーを杖代わりにホーリブライトを唱えたがやっぱりうまくいかなかった。


「ははっ、それって初歩の初歩だよね。僕がやるよ。火よ、灯火となりて我が足元を照らし出せ――キャンドルライト」


 空中に浮かんだ小さな炎はものすごい速さで後ろに吹き飛んでいった。


「ぷぷぷっ。それって火を空間に固定する魔法ですよね。馬車で使ってどうするんです。そんなミスするなんてやっぱり子供じゃないですか」

「う、うるさい」

「うるさい。御者台にランタンが掛かっているだろう。遊んでないで道案内をやってくれ」


 その後ユーリのあやふやな道案内の元、少し遠回りをした気もするが朝までに商人の街に着くことができた。


「ユーリ、もう少し案内してくれ。早速乗り込むぞ」

「はい」

「あの……」


 アリスがいつになく俯いて私の服を掴んだ。


「ほんとに、いいんですかね。私たちが止めても」

「不安か」

「ええ。ミーナは、ミーナの覚悟があって生贄になろうとしているんだとしたら、私たちが、その、首を突っ込んでいいんでしょうか」


 突然ユーリがアリスに掴みかかった。


「あなたは、ミーナがいなくってもいいって、そう言ってるんですか。僕はいやだ。僕はミーナがいない世界なんて絶対に嫌だ」

「でも、私たちはやっぱり人間です。魔族の仲間を思うミーナの気持ちを、私は邪魔できないです」


「魔族がなんだ。僕は人間だ。人間だけど奴隷だった。それで魔族のレジスタンスに助けられた。魔族の孤児院でミーナは僕に、そんなこと関係なく笑って接してくれてたんだ」

「だったらなおさら魔族の邪魔はできないじゃないですか」


「ミーナの気持ちなんて知ったことじゃない。ミーナは魔族を怖がってた僕の気持ちなんて関係なしに僕に優しくしてくれたんだ。だから、僕はミーナの気持ちなんて関係なしに、ミーナを死なせたくない」


 ユーリの声が少し震えていた。


「私だって、ミーナさんがいなくなるのは絶対に嫌です。でも――」

「なら、なおさら会って話す必要があるな。急ぐぞ、アリス、ユーリ」


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