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第十五話:妖刀の魔法



「アリス、左腕を出せ」

「な、何するんですか」

「ちょっと斬らせてくれ」

「なななな、何でです。絶対嫌です」


 アリスはそそくさと壁際まで後ずさった。


「こいつに初めて吸わせる血があんな狂った奴らでは、これを打ったものに合わせる顔がない」

「や、どういう理由ですか。味方斬る方がやばいと思いますが」

「まあ先っちょだけだ。早く腕をまくってじっとしておけ。間違えて頸動脈を斬ってしまうかもしれない」


 アリスは怯えながらも薄いシャツをまくって、諦めたようにため息をついた。


「本気なんですか。本気ですよねその目は。そこまで私を不幸にしたいですか、そうですか。後で5千、いや1万ゴールド頂きますから」

「分かった分かった」


 モノ斬りの切っ先数ミリがアリスの白い肌に何の抵抗もなく刺さり「あうっ」とちょっと可哀そうな吐息と共に鮮血が一筋流れ出した。


「すごい痛いんですけど、これ何の意味があるんですか。って、鉄さん左腕、血が」

「これが妖刀モノ斬り。あらゆるモノを断つ。が、覚悟の無いまま人を斬れば、その刃が向かうは己自身。私に掛かった呪い、友の願いだ。確かめておきたかった」


 街を出るときに買っておいた包帯でアリスを止血する。


「これを作った人はすごい魔法鍛冶師だっ――痛いです。もっと優しくしてください」

「いや、ただの最高の道具鍛冶だ。想いという部分ではそうかもしれんな」


 魔力は気持ち、魔法は願いか。


「鉄斎さん、交代です。治療します」

「祈りを使えない神官がか?」

「わ、私だって包帯で治療ぐらいできます」


 アリスの巻く包帯は治療としてはあまり意味のないものだったが、それはある種の魔法のような温かみがあった。


 過去私も幾度とケガを負うことがあったが、ほとんど自分で何とかしてきた。生死をさまよう程の大けがを負えば、目覚めたときには機械に繋がれ数日後には傷跡だけを残して元通りに戻っていた。


「1万ゴールド、別にいいです。あと、それ使わないでください。私が止め刺しますから」

「なら助かる。だが、まだもう少し確かめることがある。行くぞ」


 抜き身の妖刀をだらりと右手に提げ奥へ進む。アリスは左後ろを離れずついてくる。


「来る。普通の奴が5だ。アリスも一つぐらい斬り合ってもいいんだぞ」

「私にはまだ早い感じです、はい」


 そう言いながらも短剣をしっかり構えるアリスを背に刀を握り直す。槍ゴブリンの突撃が来る。短槍の穂先を刀でなでて逸らし、柄を中ほどで断つ。踏み込んで左手の鞘を側頭部目掛け振り抜く。大丈夫だ、私にダメージは返ってこない。


 目をつぶって倒れた槍ゴブに短剣を突き立てるアリスをよそ目に、剣盾ゴブの盾を十字に斬り裂く。板金だろうが妖刀に刃こぼれはない。鞘で剣を打ち払い、今度は刀の柄頭を顎に入れる。これも大丈夫だ。


「アリス、どうだ」

「どうもこうもありませんよ。またトラウマが出来ました」


 涙声でそう言うアリスは返り血に塗れながらも、剣盾ゴブのロングソードを拾って心臓に狙いを定めている。


 私は一旦納刀し二匹のククリナイフゴブを引き付ける。奴らは二匹同時に壁を蹴って私の両側に飛び込んで来た。まずは左のゴブを鞘に入ったままの斬り上げで顎を砕きそのまま反転、上段の構えからの振り下ろしでもう一方の頭蓋を粉砕する。やはり鞘のまま殴るのも呪いはない。


 道が開け、ここぞと待ち構えたクロスボウゴブリンが矢を放つ。それを居合抜きで打ち斬る。二の矢をつがえられる前に急接近し、脳天を軽く刀身の峰で打った。矢ゴブリンが倒れてすぐ、頭に鈍痛が走った。


 妖刀の魔法は刀身にのみ宿るようだ。あと、白鞘は本来刀を保存するためのものであり、戦闘を想定して作られてはない。なので、そこまでの耐久性はないはずだがこの世界では異なるようだ。


 だが、ただ殴るだけならエクスカリバーの方がよいな。鞘を汚すのは癪だ。


「はぁ、はぁ、うっ、おえぇぇぇぇ」

「短剣よりロングソードの方が使いやすいか」

「い、いや、返り血が少ないからってだけです」

「そうか。あの矢の奴で最後だ」

「は、はい」


 アリスはよろよろと矢ゴブリンに近づきその背にロングソードを突き刺した。


「ありがとう。助かった」

「やっぱり1万ゴールドください」

「いつかな。おそらくあと少しだ。そいつを素振りしながら来い」


「剣が、重くて、真っすぐ歩けないです」

「その感覚を覚えろ。体全体で釣り合いを取れ。振り回されるな、振り回せ。あと、間違っても私を斬るなよ。その剣、病気になりそうだ」

「絶対斬ってやりますからね」


 血みどろの神官アリスと私。誰かに背を任せるのは案外嫌なものではなかった。


 アリスに代わって私が持つ松明が開けた空間を照らし出だした。奥で何かごにょごにょと声が――


「アリス! 伏せろ」


 突如闇の中から轟音と共に一閃の稲妻が走った。


「え、うわぁ――危なかった……」

「私の背中から離れるな」

「雷の魔法ですよね。あ、杖ゴブリンです!」

「剣を捨てて松明を持て」

「ちょ、近づくんですか。貫通したら私もやられるんですけど」

「そんなことはない」

「ありますって!」


 杖ゴブリンを視界にとらえた。ホブほどではないが背が高く、おそらく人間から奪ったであろう装備をこれでもかと身に着けている。


「あ、左! 生存者です!」

「おい、馬鹿」


 飛び出したアリス目掛け閃光が駆けた。





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