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第十三話:生と死の狭間カフェ

「ミーナはどうして冒険者になろうと思ったんですか」

「おこずかい稼ぎだよ。身元隠してできるお仕事って冒険者かちょっとやばいバイトしかないし」


 私、ミーナ、アリスの三人はあれから神殿でボロ布の衣服を借りて、生と死の狭間カフェで一人230ゴールドの朝食を取っている。と言っても硬いパンとコンソメのスープだけだが。


「アリスちゃんはどうして?」

「私は……私には兄がいます。軍にいるんですけど、兄に憧れてです」

「じゃあシルバー等級でお兄さんと一緒に戦えるね。頑張らないと」

「は、はい……。そうですね、頑張ります」


「どうして冒険者なのだ? それなら軍に入ればよいではないのか」


 アリスは、はぁとため息をついて私の顔を覗き込んだ。


「鉄斎さんは本当に何も知らないんですね。軍にも一応女性はいますがほとんどが軍楽隊です。長期遠征を伴う作戦には女性は参加できない軍規ですから、戦って人の役に立ちたいって女性はみんな冒険者を目指すんです」


「その、なんだ、身体強化やら魔法やらができるのであれば戦闘に性差はあまりないように――」

「風紀的な問題だそうです。古いんですよ、あの組織は。まあ、冒険者は自由すぎますけど」


「あと、魔力強化は肉体の土台あってこそなんですよ」


 ミーナは半袖をまくって力こぶを作ってみせた。それを見てアリスは「ほおぉ」と感心している。


「膨大な魔力量があれば別ですが、素の筋力に比例して魔力強化の効果は大きくなるので、どっちかと言うと差は逆に広がっちゃう感じです。私も頑張って鍛えてるんですけどね」


「なら魔力のない私はなかなかの苦戦を強いられそうだな」

「私たちがついてますよ、魔王様」

「ちょ、ちょっと、私はまだついて行くなんて言ってないです。あと、ずっと思ってたんですけど魔王って何です? いや、言動が魔王、というか悪魔的なのは同意ですが」


「ハーフの私が魔王って言うんだから、本物の魔王様だよ、鉄さんは」

「はい? で、でも魔族の王が魔王なんですから、それが人間なんて」

「鉄さんはこの世界の人じゃないんだよ。私が無理言って連れてきた人なんです」

「えええええええ!」


 カフェが一瞬アリスの奇声に静まり返った。そしてすぐ何もなかったように元の騒がしさを取り戻した。


「じゃ、じゃあこの人は魔族が召喚した勇者ってことですか?」


 アリスはミーナの耳元、といっても付け耳の方に顔をよせ小さな声で話した。


「うーん、まあそういうことかな」

「よ、よりにもよってこんな人を連れてこなくても」

「あはは」

「なに笑ってんです。え、でも、勇者を召喚するときに巫女が生贄に捧げられるって聞いたんですが」


「だって、こんな人に命捧げたくはないでしょ」

「それは同意です」

「それで鉄さんは魔力がないんですよ。その代わりに私がついて行くって決めたんです」


「私はあの時、とんでもない人に声を掛けてしまったようです。できるならあの日をやり直したい……。あ、2,000ゴールド返してください」


「ああ、あのクエスト報酬ならいま朝食に変わっているぞ。残りは私が使った」

「は? じゃあ、お金どうするんです。私、あなたが切った神官服の中に全財産置いてきたんですけど。というか、杖もないですし」


 神官服を着ていないアリスは本当にただの女の子だった。15で成人というのも過去の戦争ゆえの人手不足からくるものかもしれない。


「クエストだ。ミーナ、アリスを連れて薬草採りのクエストを受けてくれ。ついでにあのゴブリンの巣にいた裸の女の足取りも追ってくれ。私はほかのゴブリンの巣を当たる」


「鉄斎さん、1人で行くつもりなんですか」

「アリスちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。ですよね」

「ああ」


「私がついて行きます」

「足手まといだ」

「昨日のあの場所に戻りたくないんですよ。あと、2,000ゴールド返してもらう前に死なれたら困ります」


「私は死なんぞ」

「あなたは私と同じ最低等級なんですよ。それに……ミーナと行っても体力のない私は足手まといです。ミーナには迷惑を掛けたくありません」


「アリスちゃんだったらいつでも負ぶってあげるよ」

「わ、私は子供じゃありません! あ、鉄斎さんと間違えました。ごめんなさい、ミーナさん」

「そう、だね。うん、鉄さん。アリスを今度は守ってあげてください。あ、私のジョブ言ってませんでしたよね、気になります?」

「どうせレコンか何かだろう」

「レンコンって何です、食べ物ですか。私のジョブはスカウトです。なので単独行動はお任せあれ」


 スカウトもレコンも同じ意味だ。そしてレンコンは嫌いだ。


「アリス。いいのか」

「何をいまさら言ってんです」

「神官服も杖もない神官なんぞ誰も連れて行ってくれないか」

「あ、あなたね。あなたのせいなんですからね。絶対許しません」


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