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受け継がれたもの


 新しい状態異常スキル。


 解放、されたか。

 だが細かい確認は後回し。

 まずは黒竜騎士団を確実に始末する。

 既存スキルの半無限コンボでいけるはずだ。


「――――」


 待てよ?

 思いついた。

 試す価値は、あるか……。

 始末する上でも有効かもしれない。

 実験相手にいつ巡り合えるかわからないしな。


「セラス」

「――は、はいっ?」

「もしオーバンが襲ってきたら、対処を頼む」

「あ――わ、わかりました」


 詳細や理由を聞かずのみ込んでくれた。

 セラスに内心礼を言う。

 突起を操作。

 再度、まだ息のあるオーバンのところへ伸ばす。

 最初の麻痺ゲージはかろうじて残っていた。



「【バーサク(暴性付与)】」



 オーバンの身体が激しく痙攣し始める。


 ドッドッドッドッ――ッ!


「ぐ、ガ、ぁァ、ぁ……ッ!」


 短い叫びを上げるオーバン。

 怒りを秘めた濁った声。

 麻痺状態中に無理に動くと大ダメージを受ける。

 目論見通りいくかは、わからないが……。


 ブシュゥッ!


 いった。

 オーバンが血を噴き上げた。

 新スキル【バーサク】。

 おそらく暴力衝動を植えつけるスキル。

 暴力衝動。

 麻痺状態。

 この二つのコンボ。

 暴力衝動を抑えきれず動こうとする。

 結果、麻痺の性質で大ダメージを受ける。

 このコンボなら、麻痺中の敵を早めに殺せるかもしれないな……。


 今度はシュヴァイツのところへまた突起を近づける。

 突起で近づくのは安全性が高い。

 擬態からの不意打ちを避けられる。

 シュヴァイツの麻痺ゲージは切れていた。

 麻痺をかけ直す。

 眠りの方を解除。

 今、シュヴァイツは麻痺状態のみ。

 多分このスキルの試用は起きててもらう必要がある。

 


「【ダーク(闇性付与)】」



 目を開くシュヴァイツ。


「……ぅ、ぐっ……っ!? なっ……夜……? 違、う!? 視、界……め、目……が――」


 視界を闇で閉ざすスキルか。

 姿を見られたくない時は使えそうだ。

 射程距離次第では近距離用の【スリープ】と分けて使えるだろう。


「ぐ、ゴ、が、ァ、ぁ……ッ!」

「ぬ、ぐぐ……っ、――ッ!?」


 毒に呻き苦しむ二人の五竜士。


 オーバンは金のためにセラスを殺そうとした。


 シュヴァイツはセラスを連中の部下の慰み者にしようとした。


 実験台にしてもまるで心が痛まない。


 俺と同じでロクでもない。


「さて」


 残りの【フリーズ(凍結性付与)】もなんとなく想像はつくが――


「――っと?」


 ステータス表示を確認する。

 MPが急速に数値を減らしていた。

 このままMPがゼロになられたら困る。

 セラスの様子をうかがう。

 硬い表情で地に散らばる騎士団を眺めていた。

 視界の変化に気づいた様子はない……。

 ステータス表示はやはり俺にしか見えていない、か。


「解除だ、ピギ丸」

「ピッ」


 両目の脇から”根”が引いていく感覚。

 そうだな……。

 残りのスキルは後にするか。

 麻痺や眠り、毒に干渉するタイプだと困る。

 凍結は微妙に干渉しそうなんだよな……。

 身体の自由を奪うあたりが似ている、というか。

 幸い行動不能系は麻痺と眠りが効いている。

 今は確実性を取りたい。


 視界の先で断末魔の呻きが上がり始めた。


「グ、エェッ――」


 五竜士の黒竜が絶命。

 やがてシビトの白竜も、力尽きる。


「ギェ、エッ――、……」


【レベルが上がりました】

【LV1789→LV1796】


 さすがは”人類最強”の騎乗竜。

 けっこうな経験値を持っていたようだ。

 経験値が魔物からしか入らないのは残念にも思うが。


 ただ、レベルアップでMPは全快した。

 この局面でMPにはもう困るまい。

 他の竜や騎士たちも順番に力尽きていく……。

 眠りながら死んでいくのが大半だった。


「文字通り永遠とわの眠りってやつか」

「凄まじい力、ですね」

「ん?」


 セラスが話しかけてきた。


「シビトを騙しうったあなたの策にも心から驚かされましたが……今ほどの、ピギ丸殿との合わせ技も」


 調子は冷静に見える。

 が、セラスの声はまだ動揺を含んでいた。

 あれでまだ実は放心気味なのかもしれない。

 周囲を確認する。


「…………」


 少し、セラスと話すか。

 話しておきたいこともあるしな。

 戦闘中に話せなかったアレコレなんかも。

 早くここを去りたいのは山々だが……。

 まだ俺はこの場を動けない。

 ここにいるすべての敵が息絶えるのを見届けねばならないからだ。


「さっきのアレは発動まで時間がかかるし、精神力もバカ食いする。制約も多い」


 俺のステータスはMPだけが他より高い。

 さっきの力はMPが豊富じゃないと厳しいだろう。

 E級勇者とはいえ、かろうじて魔術師タイプ(?)のステータスだったのは助かった。


「その……ピギ丸殿とのあの力も、異界の勇者の力なのですか?」


 躊躇いがちにセラスが聞く。

 俺の事情に深く踏み込まないこと。

 アレの条件をまだ気にしているのだろうか?

 だとすれば、まったく律儀な性格だ。


「異界の勇者の力、か」


 魔物強化剤。

 製法は『禁術大全』に記されていた。

 書き記したのはかつての異界の勇者。

 通称、暗黒の勇者。

 またの名を大賢者アングリン。


「かもな」


 着込んでいるローブの生地に触れる。


「そうとも、言えるのかもしれない」


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― 新着の感想 ―
[一言]  思いの外情に熱いな。
[気になる点] 動くとダメージ増大するのは麻痺じゃなく、毒なのでは?
[気になる点] 遺跡にいた頃に同対象への同スキルの連続付与は不可って縛りがあったと思ったんですが 読みのがしてる部分があったらごめんなさい
2021/08/11 18:17 退会済み
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