新たなる力
茜色の空に滞空する黒竜の群れ。
夕日がいわし雲を染め上げている。
鮮やかなオレンジの光は、深い森にも侵蝕していた。
煌めく橙の光が木々の隙間を貫いている……。
空の竜騎士は戦闘態勢に入っていた。
槍を構える者。
大弓を引く者。
杖を掲げる者。
が、攻撃はこない。
地上の五竜士を人質と感じているのか。
あの”人類最強”を倒した相手とやり合うのは分が悪いと感じているのか。
絶対的な統率者の存在する群れの弱点。
ボスを失うと動きがニブる。
こういった集団は往々にして大将首を取られると弱い。
最初にこの話を知ったのは不良漫画、だったか。
「ステータス、オープン」
MPのステータスを呼び出す。
チラと一瞥。
一秒ごとに物凄い速度で数値が減っていく。
この状態で長丁場は不可能。
「さっさとケリをつけるぞ、ピギ丸」
「ピギッ!」
魔素を注入され燐光を放つ突起物。
「ピッ、ギィィィイイィィイイイイ――――ッ!」
バシュゥッ!
突起物たちが一斉に、夕焼け空へと伸びていく。
豪速の上昇。
「な、なんだぁ……ッ!?」
何本もの針が、伸びながら空へ解き放たれていくような光景。
突起物たちは飛矢さながらの速度で、竜騎士の群れへと迫る。
「くっ!? 狼狽えるな! き、斬り落とせぇえええ!」
ブンッ!
空を切る竜騎士の剣。
「なっ!? 停止、した……ッ!?」
突起は竜騎士まで到達せず、群れの手前で停止していた。
戸惑いをみせる竜騎士たち。
勢いそのままに襲いかかってくると思っていたのだろう。
問題はその停止位置にある。
大体、空の竜騎士たちの10数メートルほど先。
つまり、
20メートル、圏内。
上空へ手を伸ばす。
そう、ここからなら――
「【パラライズ】」
やつらに、届く。
「なっ!?」
「竜の、動きが……ッ!?」
「い、や……我らの、動き……もッ!?」
結合した今のピギ丸は半分”俺自身”でもある。
ゆえに接続状態の今の俺は――
突起の先端からが、射程距離と化す。
「くっ! あの奇妙な触手の能力か!?」
ブンッ!
「化物め!」
微妙に射程の外にいた竜騎士が剣を投げた。
スパッ!
突起の一本が真っ二つにされる。
「チッ」
舌打ち。
初めての実戦投入でまだ操作に慣れていない。
何匹か漏らした。
距離感を、掴み切れなかったか。
「ピギ丸、大丈夫か……ッ!?」
「ピ♪」
「ん?」
肯定の緑。
見たところ元気そのものだ。
痛みを我慢している様子はない。
このあたりの情報は大賢者のメモになかった。
素早く思考を走らせる。
この状態のピギ丸……。
ダメージになるのはいわゆる核に近い部分、か?
核から離れた突起部分ならダメージもない。
もしくは小さい。
それにだ。
俺と結合しているなら、斬られた時点で俺にもダメージがあっておかしくはない。
なら、
「もう少し強気で、いっていいのかもな」
「ピ!」
「けど、まあ――痛かったら言えよ?」
「ピギィッ!」
バシュッ!
落下してくる麻痺状態の黒竜を尻目に、さらに、まだ健在な黒竜たちへ突起を伸ばす。
「く、来るなぁああ――ッ!」
ああ、そうか。
この距離なら、
「【スリープ】」
残りの黒竜たちの動きが停止。
眠り付与、成功。
残っていた黒竜も騎乗者ごと墜落してくる。
さながら――黒い雨。
次々と地面に叩きつけられていく黒竜。
グシャッ!
「グェエッ!?」
ドシャッ!
「ゴッ!? ゲ、ギャァッ!?」
青と橙のグラデーションとなっている夕焼けの空。
闇色の森へ墜ちていく黒竜騎士団。
まるで、光の世界から闇の世界へとのみ込まれていくようだ。
「さて……」
毒を付与せずとも首を折って死んだ竜もいるようだ。
墜落だけでも大ダメージ。
が、とどめはさす。
念入りに。
「【ポイズン】」
地面に打ちつけられてもまだ生きている黒竜たちに、毒を付与する。
さらに別方向へ突起を伸ばす。
「ぐ、あ、ぁ……ッ」
オーバン。
「ば、馬鹿……な、ぁ……ッ」
シュヴァイツ。
「トー、ォ゛、カ゛―――ァ゛……ッ!」
シビト。
残った五竜士へ向けて。
麻痺ゲージが切れる前に、
次のゲージを、追加。
「【スリープ】」
あとは命が尽きるまで、麻痺と眠りを交互に繰り返せばいい。
大抵の相手はこの半無限コンボで処理できる。
状態異常スキルが、効きさえすれば。
【スキルレベルが上がりました】
【LV2→LV3】
「…………」
これで【スリープ】も、レベル3に追いついたか。
「ん?」
【新たなスキルが解放されました】
【フリーズ】
【ダーク】
【バーサク】