ハズレ認定
少し前の女神の言葉が思い出される。
『ご心配なく。最低ランクにも、使い道はあります』
唾をのむ。
俺に、何をさせようっていうんだ……。
「くっ」
躊躇、してしまう。
先へ踏み出すのを不安が押しとどめる。
「行け」
ぐいっ
周りを固めている兵士の一人が、鞘の先で背を押してきた。
「死にたいのか?」
だめだ。
逃げられない。
くそ。
こんなの……。
嫌な予感しか、しない。
だけど、この状況で抵抗なんて不可能だ。
俺は兵士たちに連行された。
魔法陣の中央へと。
俺は、女神に呼びかけた。
「あの、女神さまっ」
「はい?」
よし。
今度はスルーされなかった。
みんながいる手前、反応しないわけにもいかなかったのだろう。
「何が始まるんですか? なぜ、最初が俺なんです?」
「トーカ・ミモリ。この2‐Cの中であなたは最低ランクの勇者です」
それはさっき聞いた。
唯一のE級勇者なんだろ?
「過去を遡ると、最低ランクの勇者は役に立たないどころか……大抵は上級勇者の足を引っ張る存在でした。ですのでE級にあたる勇者は、ある時から――」
女神の目もとが妖しく弧を描く。
「廃棄することになったのです」
「……え?」
廃棄?
処分って、ことか……?
「ですが、いきなりその場で処分となると今まで関係性のあった他の召喚者が処分される光景を見てショックを受けてしまいます。意外とそのショックを長く引きずってしまうのですよね〜。それを避けるため、城の牢に移動させてから殺したこともありましたが……その話があとあと上級勇者たちに漏れて揉めたケースもありました。そこで私たちは――」
慈悲を湛え、両手を広げる女神。
「最低ランクの勇者にも再起のチャンスを与えることに、決めたのです!」
再起の、チャンス?
「ど、どういうことですか?」
「そこにある転移魔法陣で、最低ランクの勇者をとある遺跡へ転送するのです」
「遺跡……?」
「転送先の遺跡から生きて地上へ出られた場合は、あとはもう干渉しないという取り決めをしています。アライオンはその者に、自由に生きる権利を与えます」
「き、危険な遺跡なんですか?」
「さあ? 私が答える必要がありますか? ただ、過去に危険度大と判断された罪人などの大半はその遺跡へ送り込まれていますね〜」
ふざ、けるな。
今ので答えを言っているようなものじゃないか。
要するに、
生きては出られない場所なのだ。
処分場。
誰もその手で死刑を執行しなくていい。
死体処理もしなくていい。
送り先の遺跡ですべて、処理してくれるのだから。
おそらくはさっきの三つ目オオカミみたいな、バケモノが。
「そ~ですね~……では特別に、遺跡の名前だけ教えてさしあげましょうか。名は、通称――」
女神の口がその名を紡ぐ。
「”廃棄遺跡”」
俺はうな垂れる。
こぶしを、握り込む。
なんだよそれ。
廃棄って。
「あっ」
ハッとなる。
俺は気づいた。
起死回生の策に。
あるいは、一縷の望みに。
そうだ。
助かるかもしれない。
「女神さま!」
「はい?」
「伝えたいことがあります!」
「え? 何かありましたっけ?」
「その――俺には”使用可能”の固有スキルがあるみたいなんです!」
ポリポリ……。
額を掻く女神。
え?
なんだ?
あの薄い反応……。
「それが、何か?」
「す、ステータスメニューに”使用可能”って出てました! すごいことなんですよね!?」
「A級以上のスキルなら」
「俺のは【状態異常付与】というスキルです! 麻痺や毒なんかを、付与できるみたいで――」
「ハァァ……あの、いいですか〜?」
うんざり顔の女神。
「この世界において、状態異常系統の術式はおしなべて存在価値がないのです」
俺の時間がとまった。
「……え?」
存在価値が、ない?
「まず最初に総じて成功率が低すぎます。中級の魔物どころか、下級の魔物相手でも滅多に成功しません。仮に成功しても効果が薄く、持続時間も短すぎます。過去、例外はありません」
「そ、そんなっ――」
「要するにあなたのスキルは、ハズレ枠にあたるスキルなのです」