三つの状態異常スキル
「固有スキル、か……」
桐原のは【金色龍鳴波】。
俺のは【状態異常付与】。
桐原と比べると地味なのは否めない。
「ん?」
俺のスキルツリー……。
もしかして、上下逆に伸びてる?
上へフリックしてみる。
「あ」
下に、伸びてる。
上へ伸びている他のクラスメイトのツリーと比べて線の色が薄い。
今までこの薄さのせいで認識できていなかった。
しかしよく見れば、薄っすらと下へ続くラインがある。
線を目で辿る。
ラインは薄い。
が、スキル情報の表示はくっきりしていた。
【パラライズ:LV1】
【スリープ:LV1】
【ポイズン:LV1】
「【状態異常付与】のスキルが三つ使えるってことか……?」
RPGとか。
ソシャゲとか。
俺もそういうゲームはやっていた。
だから見慣れたスキル――というか、魔法名。
問題は有用かどうかだが……。
ま、ないか。
E級だもんな。
あれ?
でもLV1で”使用可能”ってのはすごいんじゃなかったか?
ローブ男がそんなことを言っていた気がする。
よし。
勇気を出して女神さまに聞いてみるか。
さて、
「女神さまは、っと――」
あ、いた。
太い柱の陰に。
Q&Aコーナーはお休み中のようだ。
「ん?」
誰かと話してる。
ローブ男たちとは違う人間みたいだが……。
俺は咄嗟に柱の反対側に背をくっつけた。
う……つい身を隠してしまった。
仕方ない。
スルー女神に話しかけるのは勇気がいるからな……。
深呼吸。
よし。
覚悟、完了。
柱の陰から出る決意を固める。
が、
俺は最初の一歩を、踏み出さなかった。
直前に聞こえた女神の言葉が気になったためだ。
「一人だけ最低ランクのE級がまじっているようです」
俺のこと、だよな?
「どうするのだ、ヴィシスよ」
あれは誰だ?
女神さまを呼び捨てにしている。
「ご心配なく。最低ランクにも、使い道はあります」
▽
いきなり部屋の兵士の数が増えた気がする。
いや……。
実際、増えている。
三十人くらいは増えただろうか?
新しく来た兵士はとても屈強そうだった。
「…………」
目線や空気でなんとなく理解できる。
俺たちを逃がすまいとしている。
いや。
正確には――三森灯河を、か?
俺の左右にはさっきから兵士が張りついている。
マークされているのは明白だ。
右の兵士が口を開いた。
「この場にいる全員に言えることだが、妙な気は起こさぬことだ。異界の勇者といえど、召喚されたばかりではこの場を制圧できる力などない」
忠告した兵士は剣の柄に手をかけている。
妙な気を起こせば無事では済まさない。
そう脅しをかけているわけだ。
「勇者の皆さーん、隣の部屋へ移動をお願いいたしますよー!」
女神が指示を出す。
先頭を歩く女神。
ゾロゾロとついていく生徒たち。
「み、みんな……女神さまの指示に従うんだー……」
あからさまにトーンの落ちた柘榴木。
実にクラスの半分が現在、露骨に柘榴木をスルーしていた。
先ほど柘榴木も水晶の測定を受けた。
ランクはD級。
二十代半ばを越えた大人は低級になりやすいそうだ。
一方、十代の若者には高ランクが出やすいのだとか。
なので召喚されるのは若者が多いという。
先ほど女神がそう説明した。
ランクがD級だったせいだろうか。
柘榴木は目に見えて生徒から軽んじられ始めていた。
日頃の行いの影響もあるかもしれない。
あるいは、単に序列が下と見なされたゆえの変化か。
柘榴木も自分の扱いの変化を強く感じているようだ。
初期にあった溌剌とした空気が今は見る影もない。
今の2‐Cの”担任教師”は間違いなくあの女神だと言える。
俺たちは女神につれられ、床に魔法陣のような模様の描かれた部屋へ移動した。
「これから名前を呼ばれた方はそこの魔法陣の中央へ進んでください。あ、これさえ終われば皆さんも少し落ち着ける時間ができますよ〜」
クラスメイトたちが嬉しそうにする。
ここへ来てから何もかもが目まぐるしすぎた。
ようやくひと息つける。
みんなに若干、ホッとした空気が漂う。
小山田が挙手した。
「つーか、この部屋で何すんだよ?」
「儀式です」
次に口を開いたのは桐原。
「儀式? また召喚でもするのか?」
女神が軽快に両手を打ち鳴らした。
パンッ!
女神、ニッコリ。
「とにかく、まずは名前を呼びますね? では――トーカ・ミモリ君、魔法陣の中央へと進んでください」
「え?」
俺?