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ステータスと固有スキル


「ステータスオープン!」


 同じ単語が立て続けにそこら中で飛び交う。


 ”ステータスオープン”


 その言葉を唱えると手の甲に紋様が浮かび上がる。

 同時に、ホログラフィックめいたプレートが目の前に出現する。


「なるほど〜これで自分の能力を確認できるわけだな〜! なんかゲームっぽいよなっ!」

「異世界モノ定番のステータス表記きたなーっ!」

「コッチのってアレ? スキルツリーってやつ!?」

「でもなんかリアリティねーよな! あれだな、進化したVRMMOってリアルにあったらこんな感じかも!」


 ワイワイ騒ぐ男子。


「ちょっとオタク寄り男子〜、あたしらゲームとか知らないから教えてよね〜」

「操作感とかスマホっぽいからウチらだけで大丈夫じゃん?」

「なんかソシャゲ感ない? てか、やってたソシャゲのログボってマジでどーなんの?」

「美容値とか美人度とか数値化されてなくて助かるわー」

「固有スキルって何?」

「必殺技とかじゃない?」

「はぁっ!? 必ず殺す技とかマジでヤバくない!?」

「あ! もしかしてスキルの”キル”って”KILL”って意味なの!? 怖っ!」


 先ほど怪物オオカミの一連の流れで泣いていた女子たち。

 大半がもうケロッとしている。

 切り替えが早い。


「皆さまに馴染みのある形で補助システムを構築し、かつ、効率的に最適化させていただきました。私は女神ですので召喚元の世界に色々合わせることができるのです」


 女神が説明する。

 なるほど。

 それでこのゲームっぽい形が採用されたわけか。

 スマホのホーム画面のテイストもある。

 確かに俺たちには馴染み深い。

 これなら理解も早いかも。


 女神、か。

 なんでもアリだな。



「こ、これは――【金色龍鳴波(ドラゴニックバスター)】ですとっ!?」



 桐原の隣にいたローブ男が仰天した。


「なんと! タクト殿はもう固有スキルが使用可能状態にあるとは! し、しかもLV1とは思えぬステータス!」

「よくわかんねーけど……俺、またなんかすごいのか?」

「LV1から固有スキルが使用可能な勇者など遡っても数えるほどしかおりませんぞ!」

「ふーん。ま、オレとしては別に感動も何もねぇけどな。普通だろ、こんなの」


 女子が憧憬の目で桐原を崇め奉る。


「拓斗、マジでヤバい……」

「桐原くん、性格もイケメンすぎる〜」

「謙虚だよねー」

「異世界に来ても頼りになりそう」

「結婚したーい。むしろ、私としろ」


 ローブ男たちから次の驚愕が上がる。


「あ、アヤカ殿のスキルツリー!? これは初めて見る形ですぞ! 特殊ツリーですな!」

「と、特殊ツリー?」


 十河はゲーム方面には疎いらしい。

 次々と飛び出す単語に四苦八苦している。

 まあ俺も特殊ツリーとやらの正体はわからないのだが。

 ただやはりS級だけあって、すごいものみたいだ。


「ショウゴ殿もヤス殿もさすがはA級! 補正値――ステータスが最初から他の勇者より頭一つ抜けておりますな! ショウゴ殿はLV1で体力が+500とは!」


 すかさず女神の補足が入る。

 表記されたステータス数値は、その人物のすべてを表す数値ではないらしい。


 補正値と書いて”補正値ステータス”。


 基本値に+される数値が”ステータス”とされる。

 とすると……。

 ステータス上はHPがゼロなのに生きている。

 そんな状態も起こりうるわけか。


 自然と女神のQ&Aタイムがスタート。

 ここで一つの変化が見られた。

 生徒の質問の種類が変わっているのだ。

 もはや自分たちに起こった召喚現象に対する質問ではない。

 ステータスを始めとしたこの世界の情報を知ろうとしている。

 ただし精力的なのはあくまで質問者に限った話だ。

 当然、意気消沈勢もいる。

 彼らは空気化していた。

 今は部屋の隅に集まっている。

 虚脱状態の者。

 悲嘆に暮れる者。

 現実をまだ受け入れられない者。

 様々。


 ローブ男たちがまたワッと騒ぎ始めた。


「ぐっ! き、気軽に近寄れないっ!」


 あれは……高雄姉妹のいるあたりか。


「な、なんなのだあの二人組は!? 不思議な威圧感が、あるというか……っ」

「ま、まあS級とA級ですからな! あの空気感、タダ者ではありませんぞ!」


 異世界人が姉妹独特の空気感に圧されていた。

 ステータスを確認したがっているローブ男たちが近づけない。

 高雄姉妹には異世界人も手を焼くのか。

 落ち着いた目で高雄姉がローブ男たちを観察する。


「元の世界へ戻る方法があるのなら、この不思議なシステムを有効活用しつつ元の世界への帰還を図るのが当座の目的となりそうね。自由に動き回れるようになったら、まずは情報収集をしましょうか」

「アタシはバカだから姉貴の言う通りにするよ」

「無知の知は賢人への第一歩よ、樹」

「くひひ、アタシもカラダの方ならムチムチなんだけどなー」

「今のはとても面白いわ」

「お、面白いって言われても……姉貴はいつも真顔だからな……」

「私はただ真面目なだけよ」


 あの二人の空気はこんな状況でも不変か。

 見習いたい。

 さて。

 俺もやってみるか。

 ステータス確認。


「ステータスオープン、っと」


 どれどれ?

 俺のステータスは――


「え?」


【トーカ・ミモリ】


 LV1


 HP:+3

 MP:+33

 攻撃:+3

 防御:+3

 体力:+3

 速さ:+3

 賢さ:+3


【称号:E級勇者】


 なんか。

 数値、異様に低くないか?

 小山田の体力値は+500とか言ってたよな?

 MPだけは微妙に高いみたいだが……。

 称号はE級勇者?

 Aから順に数えていくと……。

 うん。

 序列は低そうだ。


 内心、ため息。

 名前の表示も西欧人みたいになってるし。

 しかも正しくは”トウカ”なのだが。

 こっちの世界の発音の関係なのだろうか?

 表示が”トーカ”になっている。

 異世界ステータス表記でも、俺の扱いは適当かよ……。

 これが空気モブの定めなのか?

 あとそれから、スキルツリーってどこにあるんだ?

 にらめっこ、開始。

 何度も見直す。

 うん。


「ない」


 みんなを真似て下へフリックしてみる。

 何もない。

 広がる空白。

 最初の”根っこ”の部分にあたる【固有スキル】表示。

 そこから上へ何も伸びていない。

 いわば根っこしかないみたいな状態だ。

 みんなのには、樹木の簡易図っぽいのが描かれているのだが……。


「俺のは芽すら出てない……ってか」

「あーら」

「うわ!?」


 いつの間にか女神が背後にいた。

 俺のステータスを覗き込んでいる。


「あの……どうなんでしょうか、俺のステータスって」


 が、返答はなし。

 女神が返したのは踵の方だった。

 モデル歩きでトコトコ離れていく。

 みんなの方へ戻った彼女は再びQ&Aコーナーを開始。


「スルー、っすか」


 圧倒的、スルー。

 大人は質問に答えたりしない。

 某T川先生のありがたいお言葉が思い出される。


「…………」


 なるほど。

 異世界でもそれが大人の摂理ってわけか。

 そして、


「異世界でも俺は、空気扱いか」


 まあいい。

 E級なので序列は低そうだが、とりあえず俺も勇者らしい。

 居場所くらいはもらえるだろう。

 エア勇者。

 そうさ。

 空気として生きていけばいい。


 これからも。

 この先も。

 何も変わらず。

 出しゃばらず。


 達観して座り込む。

 ぼんやり、ステータスパネルをいじる。


「あ、なるほど」


 ここをタッチすると、固有スキル概要が閲覧できるのか。


「ん?」


 あれ?


「これって――」



【固有スキル:状態異常付与/使用可能】



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