遺跡内での再会
背後にも”眼”がある。
こんなにも違うものか。
後方への警戒。
廃棄遺跡ではひどく背後に神経を使った。
「ピ、ピ、ピ!」
安全確認よし!みたいに鳴くピギ丸。
首の脇の突起が緑の点滅を繰り返す。
異常なしの合図らしい。
ピギ丸のおかげで俺も前方と左右に集中できる。
遺跡攻略は今のところ順調と言えた。
ミルズ遺跡の地図はあの担当官がこっそりくれた。
本来は金で買うものだそうだ。
おかげで踏破済みの層の把握は大分楽になった。
新層前まで道筋での苦労はなさそうである。
ペンとインクも一緒に渡された。
新層へ入れたら白紙部分を埋めてこい、というわけか。
で、上手く新層部が埋まればその地図が売れると。
あの担当官には、感謝すべきだろう。
魔物の方は障害とならなかった。
初見の魔物ばかりだった。
が、廃棄遺跡の魔物とは雲泥の差。
要するに、弱かった。
何匹かに至っては短剣で倒せたほどだ。
ステータス補正の恩恵も多少はあるらしい。
魔物は現時点ですべて金眼。
遺跡内だと金眼なのだろうか?
聞けば遺跡の魔物には二種類あるそうだ。
下へ潜ってそのまま留まっている魔物。
上へ上へとのぼってくる魔物。
当然、弱い魔物だけがのぼってくるわけではない。
強い魔物ものぼってくる。
たとえば、階段間を魔物が移動できないといった縛りでもあれば別だろう。
が、ミルズ遺跡は違う。
廃棄遺跡もそういえば上層に強い魔物が溜まっていた。
で、その強い魔物が上層に留まると探索が進められない。
なので強い魔物は大抵、名高い傭兵たちが駆逐する。
上層の駆逐のみを依頼するケースもあるそうだ。
探索は面倒だが、日帰りの戦闘ならやってもいい。
そういった傭兵にとってはよい小遣い稼ぎになるのだとか。
また、弱い魔物は繁殖力が強い。
加えて、弱い魔物だと探索時に無視されることもある。
素材としても安値だからだ。
結果、弱い魔物が上層に多くなる。
といってもこれらは、あくまで侯爵サイドの見解とのことだ。
実際どこまで真実をついているかはわからない。
他の傭兵との接触はなるべく避けて進んだ。
この世界の魔術体系を俺はまだ把握していない。
状態異常スキルを見られて変に追及されると面倒そうだ。
今はピギ丸もいる。
万が一ピギ丸が見つかると、こちらも面倒だろう。
「で――」
階段を降りる。
「ここが、6階層か」
新層は15層から。
俺は、そのまま先へ進んだ。
「…………」
だめだ。
どうしても廃棄遺跡と比べてしまう。
難度が低いと感じるせいなのか。
どんどん進んでしまう。
いや――悪いことではないのだが。
どうにも感覚が定まらない。
この遺跡がどのレベルなのかが、よくわからない。
「シぃゲぇェぁァあアあア!」
魔物が襲いかかってきた。
「【パラライズ】」
「お、ゲ――ぇ……?」
「【ポイズン】」
奥まった物陰に毒状態の魔物を運び込む。
他の傭兵との接触を避けるためである。
毒状態の魔物を脇見しつつ、干し肉を齧る。
水筒から、水を飲む。
「ふぅ」
「グ、ぎ、ェ――、……」
毒状態の魔物が息絶えた。
廃棄遺跡の魔物。
魂喰い。
聖なる番人という四人組。
あの四人組が強いのはその場でわかった。
演技が必要なほどには、強かった。
が、ここの魔物には今のところ何も危機感を覚えない。
「ん?」
人の気配。
壁に背を預ける。
俺は聞き耳を立てた。
会話が聞こえてくる。
「――あれ? あんたこの前、広場で騒いでたヤツじゃねぇか」
「騒ぎの原因は僕ではない。あの無礼な女だ」
少し顔を出し、様子をうかがう。
一人は広場でミストに絡んでいたあの男だった。
モンク、と名乗っていたか。
低い声の大柄な男が聞く。
「で、おれたちになんか用か?」
「実は、君たちに折り入って話がある」
二人組は禿頭とヒゲ面。
顔を見合わせる二人組。
禿頭がニヤニヤする。
「さっき見てたぜ? あんた――普通に強ぇじゃねぇか。グールウルフ三匹を傷一つ負わずにまとめて片づけちまうとはな。さっき広場で騒いでた時はそんな感じじゃなかったが、戦士としちゃあ何気に相当な実力者だろ?」
「当然だ。僕は”閃光”のモンク・ドロゲッティだぞ?」
ヒゲ面が値踏みする目つきをする。
「おれっちはその名前、聞いたことあるぜぇ? ウルザじゃ無名に等しいが、あんたバクオスの方じゃちょいと名が売れてるだろ? こんな田舎の地方都市に集まってるような連中じゃ、ピンとこなかったみてぇだがよぉ」
…………。
その”田舎の地方都市”に集まってるのは、あんたらも同じな気もするが。
「へぇ? よく知ってるじゃないか。ふん、君たちは見込んだ通りの人物らしい。やはり他の無知な傭兵どもとは違う」
「もちろんだぜ。一側面でしか物事を見れねぇそこいらの雑魚とおれらを一緒にすんじゃねぇよ。で? わざわざ話しかけてきたってことは、おれたちに何か用なのか?」
「ああ。実は君らを実力者と見込んだ上で頼みがある。報酬は弾むぞ」
「へへ、金が貰えるんならおれらは興味アリだぜ? で、何をしろって?」
キシシッ
モンクが笑み、口端から歯を覗かせた。
「広場で僕を侮辱したあの女に、この世に生まれてきたことを後悔させてやりたい」