表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

420/441

最後の戦い


 前回更新後に新しく1件、レビューをいただきました。ありがとうございます。







「もうすぐ、城の門に辿り着く」


 ヲールムガンドと戦い、戦場浅葱が死んだ部屋。

 俺たちはそこからさらに目的地の城を目指し、移動した。

 もう、城の門が近い。

 ここに来る途中、数名の合流者がいた。

 ほとんどが後続組だった。

 作戦に使う予定の荷物などを背負ってここまで来たようだ。

 先行突入組が迷宮内の”掃除”をある程度したおかげか。

 あまり聖体とは遭遇せずに済んだとのことだった。

 ……遭遇せずに済んだヤツだけがここに辿り着いた、とも言えるが。

 後続組以外には、ニャンタン・キキーパットの姿もあった。


『わたしがここへ来るまでに遭遇したのは聖体のみです。神徒に遭遇しなかったのは幸運だったのかもしれませんが、味方とは誰とも出会いませんでした』


 入った順番の近い者同士が近くに転送される確率が高いとはいえ――


 王都の広さ。

 迷宮の複雑さ。


 これらを考えれば誰かと合流できる方がレアなのかもしれない。

 だとすれば、俺たちは運がよかった。

 また、城に入るルートはこの正面の門だけではない。

 この門は南側に位置している。

 他の方角にある門の方で、別のかたまりとして何人か合流している可能性はある。


「…………」


 偽ヴィシスとの会話から得られた情報。

 これは鹿島やツィーネが教えてくれた。

 ちなみにツィーネは止血の処置をし、チェスターが背負っている。

 チェスターが自分に背負わせてほしいと願い出たのだ。

 ツィーネは担がれる時、


『余が小柄なのが珍しく得な方に働いたな。これがルハイトやカイゼであれば背負うのも一苦労だったであろう』


 そんな軽口を叩いていた。

 しかしチェスターの方は微妙な表情で、


『し、失礼ながら陛下……今の陛下の状態を考えると、自分はあまり笑えませぬ……』


 その会話のあと、俺はツィーネに礼を言った。


『浅葱は残念だったが……二人を守ろうとしてくれたことに礼を言う、ツィーネ』

『……すまぬな。アサギを、守り切れなかった』

『気にするな。あんたが謝ることじゃない』


 それと、浅葱がモンロイで入手していたという痺れ薬の件。

 確かにツィーネたちに飲ませていたようだ。

 幸い、浅葱のポケットに入っていた解毒剤の瓶は無事だった。

 三人とも解毒剤を飲み、痺れ薬は無効化された。

 それから途中、俺は鹿島とも言葉を交わした。


『大丈夫か、鹿島?』

『……うん、大丈夫。わたしがこの先の戦いで役に立てるかは、わからないけど』

『この先の戦いでもし何もできなかったとしても――もう十分、鹿島は貢献してくれたさ』

『……浅葱さん……三森君と、戦いたかったんだね……』

『怖かったな』

『え?』

『あいつがヴィシス側についてたらと考えると……正直、怖いと思った』


 俺のその言葉を聞いた鹿島は。

 不思議と、少し嬉しそうだった。


『浅葱さんが聞いたら……喜ぶと思う』

『……命のやり取りじゃなく、何か別の方法で競い合えたらよかったんだがな』

『そうだね。わたしも三森君と浅葱さんがそんな風になってくれてたら……素敵だったな、って思う』

『鹿島』

『うん』

『死ぬなよ。浅葱との約束は、守らないとな』

『……うんっ』


 でもね、と鹿島は言った。


『まずは勝たなきゃ、ヴィシスに』


「…………」


 ヴィシス、か。

 鹿島が、あのクソ女神を呼び捨てにしている。

 強くなったんだな、と。

 単純に、そう感じた。


 ……さて。


 十河と高雄姉妹はここにいない。

 アルスは【フリーズ】で無力化した。

 ヲールムガンドも倒した。

 残るヨミビトがどうなっているのか気になっていたが、


「ヨミビトは誰かが倒したようだ。だからもう、神徒は残っていないはずだ」


 俺は、皆にそう伝えた。

 偽とはいえこの情報をヴィシスの口から得られたのは大きい。

 倒したのは十河か。

 あるいは、高雄姉妹か。

 戦ったのがどちらかという疑問についてはヲールムガンドも同じだ。

 以前より弱っている、とロキエラは言っていた。

 つまり誰かがすでにヲールムガンドと戦っていた。

 その戦いでヲールムガンドはかなり消耗したらしい。

 ……あれとやり合える戦闘能力があるとすれば、やはり十河か。

 しかしヲールムガンドは、誰かと戦ったあとであの場に来ていた。

 これは――


 ”戦ったヤツが善戦したものの、敗北した”


 普通に考えれば、それが結論になるだろう。

 十河綾香か高雄姉妹。

 あいつらがリタイア状態でヴィシスとの戦いに参加できない可能性。

 これは、考慮しておくべきか。

 ……できれば、死んだとは考えたくないが。

 この状況ではないとも言い切れない。

 装備だけがアルスの手もとにあった生死不明のアーミアも同様だ。

 いや……。

 これは、ここにいない他の突入メンバーや後続組も同じ。

 どのくらいの数が脱落しているのか。

 もちろん脱落者がゼロであるに越したことはない。

 が、この戦いで脱落者ゼロは――さすがに、希望的観測がすぎる。

 俺は一度、皆を立ち止まらせた。


「城はもう、すぐそこだ。今この状況……ここに至るまでの状況を綜合そうごうして、これからの動きについて伝える」


 パターンはいくつかある。

 まず最も確率の高いパターンを前提とする。

 このパターンに合わせ、準備してきたアレコレを当てはめていく。

 そしてこの状況で――ヴィシスが、どう動くか。

 偽ヴィシスと視界を共有していたとすれば、なんの情報を得たか。

 廃棄されて以降、ヴィシスと俺は一度も顔を合わせていない。

 会話も交わしていない。

 偽ヴィシスとすら、話していない。

 ……なのに、なぜだろう。

 ヴィシスの動きを予想できる――そう錯覚しそうな自分がいる。

 あるいはそれは、錯覚ではないのかもしれない。

 ヴィシスは――示している気がする。

 直接、会ってはいなくとも。

 この世界に召喚されたあと、この世界でヴィシスがどう動いてきたか。

 何をしてきたか。

 これらを考えれば――思考を辿るヒントは、散りばめられている。

 なんとなく……そう思える。


「……フン」


 むしろ。

 あいつの方が――戦場浅葱の方が。

 よっぽど、思考が読めなかった気がする。

 浅葱に言った通り”裏切らない”という確証まではなかった。

 裏切らないのではないか、くらいの直感に近いものだった。

 浅葱が裏切りに至らなかった大きな要因はどうも鹿島らしい。

 そういう意味ではやはり――

 鹿島小鳩は、この戦いで最大の功績を上げたと言えるのかもしれない。


「トーカ殿、準備ができたようです」


 後続組が蠅王のマスクを着用し終えたようだ。

 もちろんあれらは俺が以前使用していたものではない。

 ツィーネが用意してくれていた例の模造品である。

 最終蠅王装はいわゆる一品ものなので、一着しかないが。


「あとは……最終的にどこまで、形になるかだな」


 もう少しだけ他の者の到着を待ち――


 その後、城に突入することが決まった。



     ▽



 時間になった。


 あのあと合流したのは追加の後続組が数名。

 結局、十河綾香も高雄姉妹も姿は見せなかった。

 できれば、十河や高雄姉妹とは合流したかったところだが。

 ……ひとまず近接戦でメインに据えるのは、セラスになりそうか。


「セラス、起源霊装はまだいけるんだな?」

「はい」

「よし……それじゃあ――」


 俺は、門の方へ歩き出す。




「行くぞ」




 後ろに、仲間たちが続く。


「これ以上ヴィシスに隠された強力な駒がなければ……残る強敵はもう――――あのクソ女神だけだ。つまりその場合……正真正銘――――」



 これが、







「最後の戦いになる」











 本日4/25(金)に『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』13巻が発売となりました。


 13巻でも文章全体のブラッシュアップや細かな修正(改変)を行っております。

 そして今巻では、書き下ろしの追加コンテンツ部分も収録いたしました。

 主なものとしては、



「ヲールムガンド戦でセラスの感情にブレがあったとトーカが感じたシーンで、セラスは何を思っていたのか(セラス視点の挿入)」(p321~)


「死に際の浅葱がセラスに少しだけ会話を振るシーン(ここは本当に、数行程度の追加となっています)」(p336~)


「城の突入前に仲間を少し待つ間、セラスが(他の仲間もいる前で)トーカに抱き締めて欲しいとお願いするシーン」(p378~)


「(短いシーンではありますが)アッジズでの聖眼防衛戦の様子(安視点)」(p384~)



 あえて挙げるとすれば、上記のシーンになるかと思います。


 そして今巻でもKWKMさまが素晴らしいクオリティのイラストを描いてくださっております。カラーイラストはセラスが2枚(うち1枚はちびエラも一緒です)、そして残る1枚が戦場浅葱となっています。ちびエラと映っているセラスは可愛らしく、見開きの起源霊装姿のセラスは本当に美麗かつカッコイイです。浅葱のイラストは、通して読んだあとに見るとまた違った気持ちで見られるかもしれませんね。


 すごいクオリティと言えば挿絵も見どころがたくさんで、以前より雰囲気がやはり変わった安、安との距離を詰めてくるリリ(リリがすごく美人です)、格好良い戦闘姿のジオやイヴ、最終蠅王装のトーカ、綾香、浅葱、小鳩&浅葱(この挿絵は、ある種の美しさもあると思いました)、そしてセラス(追加シーンの挿絵になります)、ヴィシスと……盛りだくさんの挿絵となっております。


 今巻でも表紙は変わらずセラスが飾ってくれました。毎巻違ったセラスを考えてくださるKWKMさまには本当に感謝でございます(それから、個人的には背景の絵画もすごいと思います)。


 上記の情報を踏まえて、ご購入を検討していただけましたら幸いでございます。


 あとがきでも書いていますが、ここまでご購入くださった皆さまのおかげでこの場所まで辿り着くことができました(購入のご報告もありがとうございます)。あとがきと重複にはなりますが……皆さま、本当にありがとうございました。


 そして次話は、このあと23:00頃の更新を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「散りばめられている」は、「鏤められている」
敵に回った展開を見たかった様な、味方としての活躍を見たかった様な、しかし敵に回りそうで回らなかった展開で良い塩梅だった様な ただのカースト上位君臨ギャルかと思えばどんどん魅力を増していったキャラでした…
新刊の書き下ろし情報をここまで丁寧に説明してくれる作者様を他に知らないです これ以上ない販促になってる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ