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ラストワード


 前回更新後に新しく1件、レビューをいただきました。ありがとうございます。





 移動中――

 セラスは、風精霊の力で音を少し拾いやすくして移動していた。

 ただしセラスは、前衛として周囲を意識しなければならない。

 ヴィシスや神徒から奇襲を受けた時、防御を引き受ける役割がある。

 そこでセンサー役に徹することになったのが、ピギ丸だった。

 戦闘を意識せずあくまでセンサー役に集中し、感度を上げる。


 そのためピギ丸が、最も早く気づいた。


 気づくのが早かったため、短い間ながらイヴの到達まで準備を整えられた。

 通路から見えない位置で待ち構え、射程範囲ギリギリでスキルを放つ。

 欲を言えば【スリープ】でいきたかった。

 一撃で無効化を狙うならそっちの方がいいからだ。


 が、敵の戦闘能力が未知数である以上。

 射程距離の短い【スリープ】はリスクが大きいと判断した。

 ムニンの問題もある。

 近づけすぎるのは危険だ。

 逆に、俺とセラスから離れすぎるのも同じく危うい。

 なので、セラスがムニンと近い位置にいられる状態で攻撃に移行したかった。



     ▽



 ムニンが放った禁呪。

 かつて桐原拓斗に禁呪を使用した際は、音があった。

 何かが弾けるような音だ。

 あれは【女神の解呪(ディスペルバブル)】が破壊されたのを示す音だろう。

 半透明の禁呪の鎖に侵蝕された白騎士めいた神徒。

 あの音は――ない。

 付与されていた場合を考慮し禁呪を使用したが、


 ロキエラの読み通り【女神の解呪(ディスペルバブル)】の付与は、ない。



「――      ――」



「『おい!? なんだぁ――』」



 ――ピシッ、ビキッ――



 麻痺性付与――成功。


「【バーサ――」


「       」


「――ク!】」

 

 アルスの鎧中の隙間から、勢いよく赤い血泉が噴き出す。

 そんな中、アルスがセラスを指差していた。

 俺は――次の行動に、移っている。

 この射程距離ならついでに――


「【ダーク】ッ! ……ッ」


「『ッ!? 視、界を、奪わ、れ、た!? 何も……見、え、ねぇ!? くっ……落、ち着、け……師匠、から教えてもら、ったこと、を、思い、出せ……視界に、だ、け頼ら、ず……か、ぜが……風、が……生命の気、配が……”形”、を……教、えてくれ、るッ! 落ち着、け……オレッ!』――ッ」


 血を噴き出してていも――まだ、動いてる。

 絶命に至っていない。

 兜の奥の闇から声が聞こえてきてるが……。

 噴血しながら、しゃべっている。

 おそらくそのせいで言葉が、途切れ途切れになっている。

 ……つーか。

 血が。


 あいつの体内に……逆流、している?


「……【ポイズン】ッ!」


 アルスの白い肉体が、紫に変色していく。

 毒にかかっていることを示す泡も出ている。

 あとは……継続ダメージで、そのままやれるかどうか――


「…………」


 まだアルスの周囲では、触手の刃みたいなのが動いている。

 まるで、アルスを守るようにして。

 あれは――イヴがさっき言ってた”刃鞭”ってヤツか……。


「!」


 アルスが、地面に膝をついた。

 しかし刃鞭は……


「……どういう、ことだ」


 速度と威圧感が、急速に、増している。

 明らかに。

 血は――噴出し続けている。

 アルスが無理に動こうとしているためだろう。

 血が噴出し……また、逆流していっている……。

 毒にも一応かかっているはずだが……。

 あれは……ダメージがいってるのか?

 表情からその成否を推測することもできない。

 なので現在アルスがどういう”状態”なのかも、読みにくい。


 ロキエラの情報通りなら。

 セラスの真偽判定を用いた話術による判別も効果は甚だ怪しい、か。

 何より……、――


「…………」


 このまま【ポイズン】の効果を信じて死ぬのを待つべきか。

 ダメージとして毒が寄与しているのかが……わからない。

 気づけば、毒の泡も出なくなっている。

 身体の変色も、心なしか薄くなってきているような――、……

 ……どうする?

 セラスの起源霊装で一気に決めにかかるか?

 さらに俺も近づいて……【スリープ】で眠らせてみるべきか……?

 


「トーカ!」



 イヴの声。


「そなたに、伝えておくことがある!」


 俺はアルスから視線を外さぬまま、イヴの言葉に耳を傾ける。

 イヴは要点をおさえ、アルスと戦って得た情報を簡潔に伝えてきた。

 アルスはその間、膝をついたままその位置から移動しなかった。

 が、刃鞭は伸びて襲いかかってくる。

 さっき戦った時より射程が伸びている、とイヴが言い挟んだ。

 セラスが刃鞭を受け流す間に、情報を聞き終える。


「……なるほどな」

「もちろん我の推論が正しければ、だが」

「いや……アルスの様子を見る感じ、間違っちゃいない気もする……その前提で動いておいた方がいいかもな」


 つまり。

 起源霊装の使用は、賭けになりかねない。

 先ほどアルスはセラスを指差し、


 ”ミツケタ”


 そう口にした。

 あれだけ明らかに”意思”の濃度が高い言葉に聞こえた。


 ”ヴィシスに指示された目標を見つけた”


 もしあれがそういう意味だとすれば……。

 むしろ、ムニンや俺を指差すのではないか?

 とするとあれは……


 ”戦いたい相手を見つけた”


 イヴの推論に従えば、そういう意味の可能性が高い気がする。

 あるいは、


 ”さらなる進化を促す絶好の獲物に出会った”


 そうも変換できるかもしれない。

 つまり、


「ここで起源霊装を使用してしまうと、さらによからぬ進化を促してしまうかもしれぬ」


 イヴが言った。


「……逆に、起源霊装で一気に決めるのも手と思うか?」

「正直……わからぬ。細切れにできればどうにか……そう思いはしたが、確証はないのだ」

「あいつをバラバラにできる確率の高い起源霊装をセラスが使うと……逆に、いよいよ手がつけられなくなる可能性もあるわけか」

「やるなら、オレも加わるぜ」


 そう会話に入ってきたのは、ジオ・シャドウブレード。

 イヴと合流していたようだ。

 俺は、


「……ジオ、あの神徒が装備してるのは――」

「その件は、あとだ」


 断ち切るようにジオが言い、続ける。


「あいつをぶっ殺さなきゃ、その確認もできねぇだろ」

「――わかった。ジオも参加する場合は……イヴと一緒に、ムニンの防御を頼む」


 この場合……。

 つまりセラスが決めにいく場合、俺も保険として一緒に接近すべきだろう。

 だから二人にムニンの守りを頼む。

 別の通路からの敵の増援だってありうる。

 俺はジオに確認を取る。


「傷の程度は問題ないのか?」

「イヴに補助してもらって、刃鞭を弾けるくらいにはな」

「――そうか」


 イヴとジオが移動し、ムニンの護衛に回る。

 今の会話が、もしアルスに聞こえていたとして――


「『人、間をっ……殺、して、もっ…魂、力……は、得られ……ない……何を、言って、いるんだ、ヴィシ、スッ……生きて、る、さっ……オレが殺、した、やつら、はっ……魂、力なんて、なく、とも……オレの、中で……生き、てる! 生き続、けて、る! 心の、中に、な! ぶ――侮辱、する、な! 死者、たち、を……オレ、の手で、散ってい、った戦、士たち、をっ! …………は? 狂、ってる? オレ、が……?』」


 ……特にめぼしい反応は見られない、か。

 言葉の内容も、今この場において特に意味があるものとは思えない。

 真偽判定に乗せるのは、やはり難しそうだ。


「…………」


 アルスには【パラライズ】だけじゃない。

 さらに【バーサク】に【ダーク】、【ポイズン】も重ねがけしている。

 なのに。

 いよいよ――刃鞭だけじゃ、なくなった。

 アルス自身が、



「『技術、だけで……戦い、たい……オレは魂力、で女神の、加護……強く、なりすぎた、から……でも技術――技だけ、なら……技技技技技だだだだけ、なら、同じ条、件で……戦、かえかえかえ……ギリギリの、ヒリつつつくく――たた、かかかかい! が――ででで、ででできる!』」



 立ち、上がった。


「……ッ」


 ――、……


 血が。

 噴き出たかと思えば――すぐに、逆流していく。

 まるで、逆再生しているみたいに。

 さらに泡どころか、変色していた身体も白にほぼ戻っている。

 あれは……。

 毒のダメージ以上に回復してる、とでもいうのか?

 白い鎧――その全身に太い脈が、葉脈のように浮き出ていた。

 アルスの太ももから特に激しく血が噴き出す。

 おそらく【バーサク】の影響で突進しようとしてきているのだ。

 そしてその噴き出た血も、逆噴射のようになってやはり体内に戻っていく……。


「…………」


 試して、みるか。


「セラス」

「わかりましたっ」


 セラスは。

 もう指示まで出さずとも。

 俺の動き出しで、すべてを理解してくれる。

 セラスが前へ出て――俺は、その背中を追いかける。

 起源霊装はまだ使わない。

 光の刃だけで、今はまだどうにか――。

 アルスへと肉薄するセラス。

 噴血と逆流で奇妙に痙攣している腕で振られるアルスの剣。

 斜めに飛び込むような動きの中で、セラスの光の刃がそれを弾く。

 アルス――今や、獣性すら内包する完全なる戦闘態勢。

 もはや【バーサク】が、意味をなしていない。

 周りから俺とセラスを包み込むように襲い来る刃鞭。

 俺は――回避を捨てた。

 射程だけでなく六本に増えたアルスの刃鞭。

 今のセラス・アシュレインのたった一本の剣の速度は――



 そのすべてを、上回った。


 

「 ――【スリープ】―― 」



「『――おやす……み――』……『――おはよう! 今日もいい朝『おやす『おは『おや『おは『おは『おや『お『や『おはははははおやややややや゛や゛や゛――ッ」


「……ッ」


 こいつ。

 睡眠と起床を……繰り返してる、のか?

 イヴがさっき言っていた。


 無限とも思える再生、と。


「トーカ殿……ッ」

「――ッ、……一度、距離を取るッ」

「はい!」


 セラスの迎撃と共に、俺たちは距離を取った。

 アルスは、ふらふらしている。

 しかしそんなふらついているように見える状態にあっても、


「隙が……


 というより――



『みんななななな死んだだだだだ――オ――オレレレレレがが殺殺殺殺殺しし死しした――なななななぜぜぜぜぜそそんな顔をををををををするるるるるヴィシシシシスススス――ッ? だ、だだだだだ誰れれれれれれ――――オレレレははは――――誰なんだだだだだだだだ!?』



 アルスが。

 まるで、出来損ないのクレイアニメーションみたいな――

 あるいは。

 コマ単位でいくつかシーンが抜け落ちた、いびつなアニメーションみたいな。

 そんな奇妙な動きを、始めた。


 身体が”ねじれ”ながら――しかし、なぜか隙のない動きで

 微妙に身体の形も、人型から逸脱しはじめているように見える。

 左右非対称なツノのようなものも生えてきていた。

 さらには――口が。

 兜の下半分が花弁のようにがぱっと開き、口が、姿を現した。

 赤い歯茎に、金色の歯。

 口の奥は暗黒に塗り込められている。



「『ヴィシ――ヴィシシシ――ススス! オ――オレは――オレレレは怖――怖い――気づづづづけばばばば――ここ、殺し――すぎぎ、たたたたたたた――こここ殺してくれ――オレレレレ――を!』



 ……やっぱり、気のせいってわけでもなさそうだ。

 さっき【ダーク】を決めた辺りからその感覚は、俺の中に滞留していた。

 そして今……その感覚が、決定的になったように思えた。




 




 人面種とも、

 シビトとも、

 勇者連中とも、

 クソ女神とも――何か、違う。


 そのどれにも当てはまらない感覚が――どうにも、不気味に思えてならない。


 ”進化”


 イヴは、この神徒は戦いの中で進化していると言った。

 ……アルスの言葉は”会話”としては意味をなしていないように思える。

 しかし内容を聞くに、ひょっとして……


 ヴィシスですら手に負えない勇者だった、のか……? 


 自らヴィシスに”自分を殺せ”と懇願した過去の勇者……?


 ――告げている。


 これに限っては多分、理屈じゃない。


 おそらくは俺の――三森灯河の本能が。


 こいつをこのまま”進化”させると……何か、致命的な事態に――


「セラス」


 臨戦態勢を維持しつつアルスを注視していたセラスに、声をかける。


「はいっ」


 起源霊装は、やはり温存しておきたい。

 この戦いでも改めて強く感じた。


 俺の状態異常スキルにとってのセラスという”剣”の必要性を。


 ここでセラスが消耗し切るのだけは、なんとしても避けたい。

 十河綾香という、同格と言っていい近接役がいるにはいる。

 が、どう考えてもここまで俺に合わせられるのは――セラス以外いない。


「頼む」

「わかりましたっ」


 俺の踏み込みで、セラスはすべてを察してくれる。

 同時に――アルスが、迫る。

 いびつなクレイアニメーションから、


 いよいよ動きが、まともなものに”戻って”きている。


 さらに進化、してきている。

 俺は、セラスの背中から鋭い意思を感じ取った。

 セラスが短く言った。


「すみません、少しだけ――使います」

「――任せる」


 肘から先だけを。

 セラスは、起源霊装化させた。

 不気味に躍る――さらに射程と速度を増した、アルスの刃鞭。

 そしてついにアルスは五つの状態異常スキルにかかったまま、 




「『強強、強くく、なななななるるる『ここのの戦戦戦いオレレレレたちの勝ちちちち『ヴィシシシシシシ『負けねねねねねぇぇ『楽楽しししし『平和和和和和和和和『絶対対対対救救救救ううううううかかか『殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ころころころころコろコろコろコろロロロロロロロロロロロロロロロ■■■■■■――――」




 





「 コ ■ ス 」





 ――――セラスが作ってくれた、この距離――――







「 ――【】―― 」







 俺は他のスキルをすべて解除し――【フリーズ】を、撃ち込んだ。



「『――――――――』――ア゛」



 ……ピキッ……パキッ……ペキッ……


 

 アルスの身体が、凍りついていく。



 刃鞭の動きも、止まる。


「――――」


 ……進化、ってのは。

 文字のごとく”進む”ってことだ。

 つまり――”動く”ということ。

 けれどこの【フリーズ】は”止める”力を持つ。

 …………ま、あれこれと屁理屈をこねることはできる。

 ただ、どちらかと言えば――


 今の俺には、この方法しか思いつけなかった。


 セラスの完全な起源霊装を使えば、手がつけられなくなるかもしれない。

 さらに、イヴが言う核とやらが本当にこのアルスにあるのかもわからない。

 そして理屈はわからないが……。

 時間経過と共に、俺の状態異常スキルも無効化に等しい状態になっていた。

 ように、見えた。

 ここで【スロウ】を使ったとしても、勝利への糸口は見えなかった。

 進化し続ける怪物――神徒アルス。 

 そこで最後に思いついたのが”止める”スキルだった。

 動きも進化も――すべてを止めるスキル。


 最初に試した虫。

 桐原拓斗。

 三体という対象制限数の残り枠は、あと一つ。

 状態異常スキル【フリーズ】――残り最後の(ラスト)、一発。



「……ッ」



 俺とセラスは少し距離を置き、臨戦態勢を維持する。

 アルスの足の動きは……止まっている。

 その下半身はすでに、凍りついている。

 ……遅い。

 あの虫や桐原の時と比べて。

 明らかに。

 凍り付く速度が。

 この【フリーズ】にまで”適応”――進化で、対応されたら。

 ……どうする。

 いや……いつも通り次の手を――どうにか、考えるしかない。


「どう転んでも……やりようは、あるはずだ」


 思考は止めない。

 常に、考えろ。

 次の一手を。



「『礼を、言うぜ……ヴィ、シス……オレは……危険すぎ、る……オレ……アルス・モンロイは……この世から……消える、べき……消すべき……存、在……』」



 こちらへ手を伸ばすアルス。


 何かを、掴もうとするかのように。


 俺は、構えを取ったままのセラスと共にアルスを凝視していた。


 そして――考えていた。


 この間に撤退すべきか、否か。


 あるいは……、――



 ……ペキッ、パキッ……



 氷がその領土を広げ、白き神徒を、侵蝕していく。



「『なあヴィシス、最後に一つ……聞いていいか? ここでもし――』」



 アルスが、言った。





「『オレとおまえが戦ったら――どっちが、強いと思う?』」






 その言葉を最後にアルスは――



「――――――――」



 完全に氷に包まれ……


 そして、完全に沈黙した。


 イヴが口を開き、


「……終わった、のか?」

「ステータス、オープン」


 スキル項目を呼び出す。

 スキル【フリーズ】の付与対象可能数の表示が【3/3】になっていた。

 これに従えば――アルスに【フリーズ】は効いた状態、ということになる。


「動く気配は……ない、な」


 完全に効くまで時間がかかったが。

 今は、あの虫や桐原と同じ状態になっている。


「ここからまた動き出す可能性もなくはない……だが、ひとまず効いたと仮定してここは先へ進むしかない。できればどこかに放り込んで、万が一動き出した時に何もできないようにしときたいとこだが……この迷宮内で、しかもこの近場となるとそんな都合のいい場所もなさそうだしな……」


 あのスキルにかかった状態だとおそらくどんな攻撃も通らない。

 それは、試用した虫でも確認している。

 もし攻撃が通って破壊できれば対象制限数の枠を一つ空けられる。

 そう思ってあらゆる破壊行為を試してみたが、破壊できなかった。

 ジオが氷づけのアルスを見て、


「要するに、こいつはもう放っておくしかねぇってことか」

「そういうことだ」

「トーカ」


 イヴが、俺の前に立った。


「改めて……助かった。礼を言う」

「いや、イヴの事前に得た情報がなければ俺はセラスにフルで起源霊装を使わせてたかもしれない。それも、アルスの特性を考えるとその使用が無意味な消耗で終わってた可能性は高い。そう考えるとおまえの――おまえらの貢献は大きいさ」

「ふふ……相変わらず、そういうところが上手い男だな」

「ピギッ」

「ピギ丸も、助かったぞ」

「貢献といえば、わたしもイヴさんたちに守ってもらいましたし?」


 ふふ、と手を口にあててムニンが会話に入ってくる。

 場の空気を柔らかくするのが、やっぱりムニンは上手い。

 ……ちょっと肩が震えてるのは、やはり少し怖かったのだろう。


「ジオさんも、ありがとうございました」

「ま……テメェも、同じ最果ての国の仲間だしな」


 にっこり笑うムニン。


「はい、お仲間です」


 ジオがアルスと一緒に氷づけになったアーミアの装備を一瞥し、


「……ひとまず、城を目指すとしようか」


 城の方角を見て、そう言った。


「アーミアの生死は、今はわからねぇ……生きてるかもと思ってたら死んでることだってあるだろうし、逆に、死んでると思ってたら生きてたってこともありうる。現状じゃ、そこはまったくわからねぇ。とはいえ――あいつも死を覚悟してこの迷宮入りに志願した。死んでたとしても、これはあいつが選んだことだ。ただ、もし死んでるとしたら……」


 ジオは、刀を握り直した。


「例のくそったれ女神の企みを阻止するっていう目的を果たせなきゃ、それこそ浮かばれねぇだろ」


 アーミアの話題が出て、先ほどまで笑顔だったムニンの表情も曇っていた。

 セラスは少し辛そうにジオを見ている。


「ジオ殿……」

「気遣いはありがてぇが……今は、アーミアの生死をここで気にしてる場合じゃねぇ」


 だから、とジオが言った。


「絶対にやりきるぞ――蠅王」

「……、――ああ」


 そうして俺たちは氷づけになったアルスを置いて、その部屋を立ち去った。





 今話のタイトルではないですが、これが2024年の最後の更新とあとがきになります。


 皆さま、今年もありがとうございました。

 今年はアニメの放送があったりと「ハズレ枠」にとっても特別な年だった気がします。


 大変ありがたいことにアニメ放送後に小説の6~12巻、そしてコミック版では8~11巻に重版もかかりました。これで小説はアニメ前後で全巻重版になったとのことです(ちなみに電子版の方ではアニメ放送前と比べ、7月の売上が1000%超だったそうです)。コミック版もアニメ放送前後に続けて重版をかけていただけていて、紙、電子ともに好調らしく非常にありがたいことでございます。ご購入くださった皆さま、重ね重ね、ありがとうございました。


 そういった嬉しいこともあった一方、あれこれ悩むことの多い一年でもありました。

 ただ、相変わらず皆さまの応援やご声援のおかげで悩みながらもこうして書き続けられている気がいたします。感想欄や評価ポイントをはじめ、色々な面で支えていただいていると感じております(すごく読み込んでくださっている方や、いつも温かい感想をくださる方などもいて、そういったものも大きな支えになっております。書籍版のご購入報告なども、ありがとうございます)。


 悩みはなかなか尽きませんが、悩みながらも進んでいけたらと思います。


 来年には最終章も完結するのではないかと思います。


 それでは皆さま、今年もお付き合いくださりありがとうございました。


 良いお年を。

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― 新着の感想 ―
逆に言えばこの「凍ったアルス」はあらゆる物を弾き返す無敵の盾として使えるんじゃ……
ヴィシス本人はわざわざ状態異常対策をしていることから、アルスのように克服してくることはない。 と思わせておいて、実はフリーズだけを警戒していたとかだったらどうしよう…
昨日初めて小説を本屋で見つけました。(田舎ですから)「小説を読もう」やアニメでストーリーは分かっていたのですが、1巻の廃棄移籍までを立ち読みして、帰宅して即効で電子書籍を購入しました。作者の描写が鮮烈…
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