選ばれし勇者たちの等級
計測は出席番号順に行われていった。
先ほど異世界の証拠を突きつけられたせいだろうか。
今のところみんな指示に従っている。
現状、俺も逆らうつもりはない。
もしここで反抗したらどうなる?
見せしめとしてあの炎で消し炭にされるかもしれない。
あの女神には躊躇がない。
そう見えた。
おそらく目的達成のためには手段を選ばないタイプ。
ここで逆らうのはリスクでしかない。
本能でも。
理屈でも。
2‐C全員が、そう判断したのだろう。
出席番号1の天川が水晶に手で触れた。
水晶が青色に光る。
おぉ、と声が上がった。
女神が微笑み、手を合わせる。
「素質がありますよ」
水晶の周りには女神の他に数人の異世界人が立っている。
フード付きのローブ。
彼らは何かを見極めんと目を光らせている。
計測は”あいうえお順”で進んでいく。
小山田の番がきた。
発光色は赤。
色で何か違うのだろうか?
「おぉ!? こ、この光量はっ!?」
ローブ男たちがどよめく。
これまでで最も強い光量。
「これは素晴らしいです」
女神もご満悦。
「よくわかんねーけどすげぇ結果らしいな! ネツいわ!」
ネツい。
ああ……熱いと言いたいのか。
冷気だけの男ではなかったらしい。
「異世界も悪くねぇかもな! おれの時代に風がふいてきたわ! 熱風、きたわ! よっしゃ! 仕方ねぇから、おれが勇者になってやらんでもねぇぜ~!?」
喜ぶ小山田。
調子のいい男である。
とはいえ仕方がない。
自分が他より優れている。
誰だってそれは嬉しいだろう。
しかし小山田の天下は三日どころか、三十分も続かなかった。
桐原が水晶に触れる。
「ぉ――おぉぉおおおお!? ば、馬鹿なぁぁああああ!? こんな、こんなことがぁっ……ぐわーっ!?」
迸る金色の光。
ローブ男たちが身を引く。
ピシッ
水晶にヒビが走った。
驚愕するローブ男たちの視線を一身に集めていた水晶が、
パリィンッ!
砕け散った。
「”鑑定晶”が……く、砕け散るなんてっ!」
冷や汗を垂らすローブ男。
桐原がサラッと聞く。
「といってもオレはなんにも驚けないんだけどな……え? 今のって、なんかすごかったのか?」
満面の笑みの女神。
両手を打ち鳴らす。
パンッ!
「素晴らしいですキリハラさん! あなたは最高位のS級です!」
S級。
なんかすごそうだ。
怪訝そうに質問する桐原。
「異世界なのにアルファベットなのか?」
「あなたたちが理解しやすいように、女神の私が言語変換などを行って最適化しています」
「ふーん。けど、なんでSが最高なんだ?」
「”スペシャル”のSです」
「あっそ」
桐原が頭を掻く。
「ま、オレとしては何か特別がんばったってわけでもないんだけどな。普通にあの水晶触ったら、こんな結果になったってだけで」
取り巻きの女子たちの目がキラキラ輝く。
「桐原くん、やっぱりすご〜い……」
「拓斗くんは別の世界でも特別になれるんだね〜っ♪」
「素敵ーっ」
「私を守ってぇ〜っ」
やれやれと息をつく桐原。
「俺、自分が特別とか思ってねーし……普通だろ、こんなの」
小山田が女神ににじり寄る。
「お――おれは何級なんだよ!? おれもネツいんだろうな!?」
「オヤマダさんはA級です」
「Aの上は!?」
「S級です」
「トップの、一つ下か……」
歯噛みする小山田。
「ちっ、しょうがねぇか。やっぱ、桐原には勝てねぇよな……」
女神の指示ですぐさま代わりの水晶が運び込まれた。
飛び散った破片を兵士が掃除する中、測定が進む。
「な、なんだとーっ!? これは――」
次に驚愕の波を生んだのは、十河綾香。
銀光。
水晶が発した光が明滅している。
直後、
ボロッ、
ブワッ
なんと、水晶が粉レベルにまで分解された。
粉塵が周囲に舞う。
「げほっ、ごほっ!」
咳き込むローブ男。
「ま、また水晶がっ!? ですがこんな反応は初めて見ますぞ、女神さま!?」
煙たい空気を優雅に手で払う女神。
表情は大変なご満悦。
「二人もS級がいるとは……今回の勇者たちは、格別に素晴らしいです」
十河も桐原と同等の期待値か。
さすがは2‐Cの二大主人公。
三度、水晶が運び込まれる。
測定再開。
次の驚きタイムは高雄姉妹だった。
ある意味、予想通りとも言えるが。
妹の樹の光は黄色。
他の生徒と比べると、光の量が段違いだった。
女神評。
「あなたもA級です! これでAは二人目ですね! すごいですよこれは! SとAが二人ずつ――過去最高のポテンシャルですっ」
次は、姉の聖が水晶に触れた。
白い光がブワァーッと広がる。
光が一時的に部屋を包み込んだ。
少しして、光がおさまる。
「な、なんということ――」
フルフル震える女神。
皿に降り立ったばかりのゼリーみたいだった。
「さ、三人目のS級……っ!!! 普通S級は一度の召喚で一人いるかいないかですのに……これは過去最大の優れた召喚結果ですよ!」
涙目の女神さまが豊かな胸をはって両手を広げた。
恍惚の表情。
俺は気づく。
女神さま、なかなかオーバーアクションな神さまだ。
テンション上々な女神さまが手を突き出し、ビシッと促す。
「さあでは、次の方!」
しかしその後は凡々とした結果が続いた。
比例して女神のコメントも凡コメント化していく。
そんな中、ついにやって来た。
あいうえお順。
み行。
俺――三森灯河の番が。