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ここで



 ピギ丸とムニン。

 二人は迷宮内に放たれた聖体と遭遇していたようだ。

 あの二人だけでは厳しい相手だったかもしれない。

 最悪の事態になる前に合流できたのは、幸いだった。

 何より、この二人と早めに合流できたのは大きい。

 ピギ丸はあのあと、


「ピニュィ~!」


 ジャンプし、ムニンから俺の懐へ移動した。

 で、いつものスペースに収まった。

 しばらくやたらと甘えていたが。

 ……ま、不安だったんだろう。

 しかしムニンを守ろうとよくやってくれてたみたいだ。

 褒めてやったら、いつも以上に喜んでいた。

 ……喜びを通り越して感動してた、って感じだったが。

 今は、


「ピユ~……♪」


 やっぱりここが落ち着く~……、みたいな感じになっている。

 俺たちは、移動を開始していた。

 並走するムニンが礼を口にした。


「本当に助かったわ、トーカさん」

「突入後の最大の気がかりが、合流を優先する相手と早めに合流できるかだったからな。そういう意味じゃ、こうしてあんたとピギ丸に合流できたのはでかい」


 ロキエラは”ない”と予測していが……。

 万が一ヴィシスがセオリーを破壊していた場合――

 つまり、神徒に【女神の解呪(ディスペルバブル)】が付与されていた場合。

 禁呪を放てるムニンの存在は、俺にとって大きい。


「ロキエラさんとはまだ合流できていないのね?」

「ああ」


 ムニンたちも十河や高雄姉妹とは出会っていなかった。

 一方、俺やムニン、ピギ丸はこうして合流できている。


 ”入った順番が近いほど、近くに転送される確率が高い”


 一応、聞いていた通りではあるのだろう。

 が、絶対ではない。

 確率は確率でしかない。

 十河や高雄姉妹が離れた位置に転送された可能性はある。

 ロキエラや――セラスも。

 通路を抜ける。

 気配はなさそうだが……、――いや。


「何か、来る」


 俺たちは、気配を感じた側とは別の通路に入った。


「この通路の背後側の監視は頼んだぞ、ピギ丸」

「ピッ」


 ムニンは身を潜めるようにして、黙って後ろに控えている。

 ……奇襲を避けるため【スロウ】使用も選択肢に入れとくか。

 が、MP残量を考えればいつもの節約コンボでいきたいところだ。 

 身を隠したまま、通路から出てくる何者かを確認する。

 気配の主が、姿を現した。

 ……中型聖体か。

 神徒でなかったのを幸運と考えるべきなのか。

 逆に、俺がここで始末できる方がよかったと考えるか――


「…………」


 ――この、気配。

 続々と、集まってきている。

 聖体が。


 連なって行進でもしているのか。

 聖体の”かたまり”に遭遇してしまったらしい。

 ゾンビ系作品で言う”群れ”みたいなもんだろう。

 ただ、あのくらいの数なら状態異常スキルで対処でき――


「――――」


 他の通路の方角からも、聖体が集まってきてやがる……。

 まさか……ローラー作戦みたいにこの辺を虱潰しにあたってるのか?

 ピギ丸が俺の首を突起でつついた。

 ピギ丸が監視してた方の通路からも、群れがきているようだ。

 この空間と繋がっている通路は三つ。

 三つすべてから聖体が流入してきているらしい。

 ピギ丸との合体技を使うか?

 ここで?

 もし戦いを始めれば……

 気づいた聖体が、三方から一気に流入してくるだろう。

 俺一人なら特に問題なくいける自信はある。

 しかし、と俺はムニンを見る。

 スタッフを両手で力強く握り締め、こく、と頷くムニン。

 わたしもやるわ、という意思表示。

 ……今回の群れの問題は、多分ただの聖体とは個体性能が違うことだ。

 万が一の事態――

 意識が行き届かずムニンがやられてしまった、なんてパターンは避けたい。


「危ういと感じたら一度【スロウ】でも使って離脱――あるいは、あんたを守りながら戦いやすい場所をさがして移動する。場所的にどこか戦いやすい建物なりなんなりがあるはずだ。もし聖体の後ろがあれ以上としたら、数の暴力による”万が一”があんたに起こるかもしれない……」


 この迷宮内でMP回復の手段はないに等しい。

 だから消費の激しい【スロウ】は可能なら使用を控えたい。

 しかしここで、やはり万が一でムニンを失うわけにはいかない。

 ……鴉変身も選択肢にはあるが。

 視線を一瞬、通路から覗く空間の天井へ向ける。

 あの白い天井で空への道は塞がれている。

 空へ逃がせない以上、鴉にして逃がすのは微妙な選択肢だろう。

 適当な建物を見つけてそのどこかに鴉状態で隠れるのは――

 ま、アリかもな……。

 もちろん変身するところを聖体に見られない、という条件は必要かもだが。

 ともあれ――移動しないと、ジリ貧になる。


「ピギ丸」

「ピ」

「あの蠅王剣を頼む。あと、いざとなったら硬質化なりでムニンを守ってやってくれ」

「ピ!」


 俺はスライムウェポンを手にする。

 色合いはこの前と同じだが……。

 今回はギザギザ部分のない、シンプルな両刃剣である。


「まず背後の方から迫ってるあいつらを突破する。そしてムニンを守りながら戦いやすい場所を見つける。ムニンは、自分の身を守ることを優先してくれ」

「わかったわ」

「――行くぞ」


 背後から迫る聖体に【パラライズ】をかけ、そちらへ駆け出す。

 通り過ぎざま、蠅王剣で麻痺状態の聖体を斬り伏せる。

 ここにいる聖体たちは通常のヤツよりサイズが大きい。

 一回の斬撃で殺せるのはMAXでも二体が限界か。

 刃をこれ以上長くすると、今度は切れ味が足りなくなる恐れがある。

 実際さっき斬った手応えだと、一回で寸断できるギリギリの切れ味だった。

 ある意味、ここはピギ丸の調整が絶妙だったとも言える。


「……来たか」


 どうやら。

 別の通路から来てたヤツらもこっちに気づいたようだ。

 背後を振り向くと、迫ってきているのが確認できた。


「――――」


 スキルの射程距離を知ってか知らずか。

 射程距離外で弓矢を構えてるのが二体いる。


「ピッ!」


 いち早く気づいていたらしいピギ丸が、


 ”任せて!”


 と鳴く。

 矢が、ムニンへと放たれる。

 が、硬質化したピギ丸が盾になって矢を防いだ。

 三回目の実験によって格段に強度が向上したのはでかい。

 もう一本は――ピギ丸でも防げただろうが――俺が斬り捨てた。

 そののま聖体を斬り殺し、定番のお手軽コンボも織りまぜつつ進む。

 他に【スリープ】や、念のための【ポイズン】もまいておく。

 ……数体ずつ相手にする分には問題ない。

 十分、やれる。

 ただ――


「…………」


 数か。

 半端にサイズがでかいからまとめて斬り殺せない。

 が、でかすぎるわけでもないため敵の数がでいく。

 あの数でドッと押し寄せられた場合――


 対象数制限に引っかかる危険がある。


 特に【パラライズ】だ。

 麻痺自体に殺傷能力はない。

 動ける力があって無理に動いてくれるなら自滅で始末できる。

 が、動きを止めたままだとどんどん制限数の枠を喰う。

 これを回避するには、麻痺させた敵をこちらが殺して数を減らしていく必要がある。


「【パラライズ】」


 ――ピシッ、ビキッ――


 改めて。

 こういう時、大切さがわかる。

 俺と同時に動きつつ敵を次々と始末してくれる、前衛の存在の大切さが。


「ピギー!」


 ピギ丸も気づいたようだ。

 俺たちが進む方向の先から、さらに聖体の増援が押し寄せている。

 数で、押し潰すつもりか。

 数の暴力ってのは意外と侮れない。

 突入時の転送で分散させ、それを強力な神徒や聖体の数で押し潰す。

 神創迷宮の特性を活かした戦略とも言える。

 逆に、こちらが結集した際には聖体による数の暴力は意味をなさない。

 これはエノーへ至るまでの戦いでも証明されている。

 そういう意味では――敵側も、考えていやがる。

 こちらの強みを推察し、きっちり潰すやり方を仕掛けてきている。

 なるほど。

 クソ女神なりに……

 こっちを警戒するだけの思考力は、しっかりあるわけだ。


「…………」


 ただ、こうなると他の突入メンバーが気がかりではある。

 いや――こういう考え方もできるか。

 聖体の分散配置はあっさり各個撃破されるだけ――

 ヴィシスがそう判断し、群れで動かしてる”かたまり”が限られるとすれば。


 ここでこの聖体の群れを始末できれば、他の突入メンバーが楽になる。


 ムニンが言った。


「トーカさん、わたしのことはそんなに気にしなくても大丈夫よっ。こういう場合を想定した戦い方は、ほら、セラスさんに習ったでしょう? 訓練だってあんなにしたし……それに、わたしの方はピギ丸さんがちゃんと気にかけてくれているからっ。だから……トーカさんは、思いっきりやって!」

「ピギッ!」

「――、……そうだな」


 ムニンなりに気を遣ってくれてるのだろう。

 といっても……。

 聖体がこれ以上、道を塞ぐようにしてぞろぞろ出てきやがると……

 壁を背にして”麻痺状態の聖体の壁”を作って戦う形になるかもな。

 そう――それは、廃棄遺跡に落とされた直後の再現とも言える。

 あの戦法がこいつらにも、通用すればいいが――


「ピッ?」


 俺たちが通ってきた通路の方にいる聖体たちの群れが、振り返った。

 何か……。

 何か――近づいて、くる。

 それは、すさまじい速度でこちらへ迫ってくる。

 蹴散らすように、何かを薙ぎ払うような、あの斬撃にも似た音――

 多分。

 あれは――





「トーカ殿ッ!」





 ――、…………ったく。

 思わず、口端が自然と吊り上がる。


「……なんつー嬉しいタイミングで来てくれるんだよ、おまえは」


 まるで、豆腐でも切断するかのように。

 聖体を撫で切りにし迫るそいつは――



 姫騎士、セラス・アシュレイン。



「セラスさん!」


 ムニンの表情が安堵が咲いた。

 セラスはどうやら剣だけを起源霊装化しているようだ。

 光の刃なら射程も伸ばせるし、ほぼ確実に一撃で仕留められる。

 つーか。

 あんな器用な真似もできるようになってたのか。

 剣だけなのは今後を考えての温存だろう。

 何より剣だけで問題なし――セラスは、そう判断したのだ。

 だめだな。

 ああいう戦いのレベルはやっぱり俺と、桁が違いすぎる。

 いわゆる無双状態のセラスがそのまま合流し、俺たちに背を向け――

 構えを取った。


「お待たせいたしました」

「まさに来て欲しい時に来てくれるっていう、絶妙なタイミングでの合流だった」

「ピユ~ッ!」


 セラスがいれば。

 ムニンに十分な気を配りながらの戦いは、可能。


「トーカ殿」

「ああ」


 まずは――



「こいつらを、片付けるぞ」



     ▽



 体感としては、10分もかからなかった気がする。

 俺が【パラライズ】で麻痺させ、セラスが斬り殺していく。

 逆に聖体たちはセラス相手だとまるでなすすべがなかった。

 ほとんど何もできず死んでいった――そう言っていい。

 溶けて消滅していく聖体を横目に、セラスが光の刃を消す。

 ムニンが、


「セラスさんっ」


 と、抱きつく。

 セラスは、


「お怪我がないようで、何よりです」


 ムニンに、そう微笑みかけた。

 そして、ここまでの経緯をセラスは俺に説明した。


「仲間を捜して走り回っていたところ、聖体たちが群れで行進しているのに遭遇しまして」

「神徒とは遭遇してない感じか」

「はい。群れに遭遇するまでに迷宮内をうろついていた聖体には何体か遭遇しましたが、苦戦するような相手にはまだ出会っていません」


 あるいは今の、


 ”苦戦するような”


 の前には、


 ”セラスにとっては”


 がつくのだろうか。

 ともかく、セラスは他の仲間にも出会っていなかった。

 近い順番で入った十河や高雄姉妹とも出会っていない、か。


「王都民なんかの人間には?」

「いえ」


 俺たちも今のところ王都の人間には出会っていない。

 思ったよりエノーに残った王都民はいないのかもしれない。

 あるいは。

 普通に考えれば、今は建物内に隠れてる可能性が高い。

 となると、王都民のことはそこまで考えずともよさそうか。


「ともあれ……この顔ぶれがほとんど無傷と言っていい状態で合流できたのは、やっぱり幸運と言っていいな」

「他に近い順番で入ったというと、ロキエラ殿ですが……」


 ロキエラともできれば早めに合流しておきたいところだ。

 俺は地図を思い出し、周囲の目に入る建物やら看板を確認する。

 それから、城の方角を見る。


「突入したヤツらには、特に何もなければそのまま王城の城門前を目指すよう言ってある。全員が迷宮の中心部――城の方へ向かうなら、転送先の周辺で下手に足踏みするより、城を目指す方が途中で合流できる可能性は高い」


 ロキエラの分析とリズが必死で得てくれた情報の通りなら。

 現状、やはりヴィシスが城から離れる可能性は低いと思われる。

 聖眼の破壊を待ち望むのなら”待ち”が最適なはずだからだ。


 それともう一つ。

 発動者を場に縛ることで強化を行う刻印とやらの存在。

 これをもし、ゴール地点の近くで使用しているのなら。

 やはりあいつはゴール地点の近くから離れるのを避けたがるはず。

 なぜなら。

 実質的にその強化は、おそらく聖眼破壊へ向かった聖体にも効果を及ぼす。

 ロキエラは、そう分析していた。

 聖眼をさっさと破壊して天界へ”勝ち逃げ”したいのなら……。

 迷宮のゴール地点近くで待つのが今、最もヴィシスにとって勝率が高い。

 ……ただまあ、必ず城でジッとしていると決めつけるのも危うい。

 たとえば俺たちが、


 ”ヴィシスは、ゴール地点から動かない”


 そう読むのを、ヴィシス側が前提としていたら。

 あえてゴール地点から早々に動いてくるパターンだって、十分ありうる。


「…………」


 打てるだけの布石は、打ったつもりだ。

 揃えられるだけの”力”は揃えたつもりだ。

 勝利を紡ぐ可能性を秘めた糸は、考えうる限り、たぐり寄せたつもりだ。


 ただし――

 イレギュラーも含め、あらゆる事態はやはり常に起こりうる。

 だからもうここまできた以上。

 適宜、俺たちは状況に自分たちを適応させ――各自、最善を尽くすしかない。


「俺たちも一旦、城を目指す」


 ただ、どうあれ――




「ヴィシスとはこの王都(ここ)で、決着をつける」







 というわけで、終章第2節もお付き合いくださりありがとうございました。


 いよいよヴィシス陣営との本格的な戦いに突入した今節、いかがだったでしょうか。


 そして終章第2節でもご声援などの温かいご感想、レビュー、メッセージなどありがとうございました。個別に返信などはできていないのですが、どれも読ませていただき、励みと支えにさせてもらっております。純粋に「面白いです!」のひと言が嬉しいのはもちろん、よいところを見つけていただけたり、その話の中に込めたものが「ちゃんと伝わった」と感じられた瞬間なども嬉しいです(「そんなところまで意図が伝わってくれていたのか」と驚くこともありますね)。また、ブックマークや評価ポイント、いいねも同様に、大きな励みに、そして執筆の支えになっております。こういったところも、増加しているのを見ると個人的には「ちゃんと伝わった」と感じられていて、とても嬉しく思っております。


 それから感想欄でご心配してくださっていた方もおりましたが(ありがとうございます)、実は、ここ数日の連続更新では思った以上に推敲作業に時間がかかり、ヘトヘトになっておりました……。書籍の作業もなのですが、推敲に時間をかけすぎるのも考えようによってはやはり諸刃の剣だなぁ……と改めて感じています。とはいえなかなか妥協もできないので……そこは、自分の身体が許す限りは続けていきたいところですね。


 そんなわけで少し回復するためのお休みをいただき、そのあとは自分に合ったペースで第3節を進めていけたらと思っております(といっても、ある程度の定期更新にはしたいところですね)。


 それでは、また第3節でお会いいたしましょう。


 ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
お身体をお大事に( ᐡᴗ ̫ ᴗᐡ) 面白かったです(*ˊ˘ˋ*)。♪:*°
>が、絶対ではない。 >が、MP残量を考えればいつもの節約コンボでいきたいところだ。 >が、硬質化したピギ丸が盾になって矢を防いだ。 >が、でかすぎるわけでもないため敵の数が嵩んでいく。 >が、動きを…
[一言] 書籍版を12巻まで完読したのでweb版で続きを読もうと思ったのですが、丁度同じところで終わっているのですね! 早く13巻を読みたいです♪
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