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つながり


 出発の準備を済ませた馬車。

 俺はセラスたちとそこへ向かった。

 イヴが、そこで待機していた二人に気づく。


「む?」

「あ! 来ましたのニャ!」

「あら、来たわね」


 ニャキが大ぶりに手を振ってくる。

 一方、ムニンは小ぶりに手を振ってきた。

 俺は軽く手を挙げて応える。

 エリカの家を出たあとで蠅王ノ戦団に加わった二人。

 この二人は、いうなれば中期メンバーって感じか。

 一応、後期は高雄姉妹以降になる……のか?

 そういや、リィゼなんかも入りたそうにしてたが……。

 俺は、改めて二人をイヴに紹介した。


「この二人が、前に話したニャキとムニンだ」

「ニャキですニャ!」


 お辞儀するムニン。


「ムニンです。禁字族の――クロサガの族長をしています」

「イヴ・スピードだ」


 二人が直接イヴと話す機会は、これが初めてである。


「二人の話は我も聞いていた。そなたのことは、ムニンと呼んでよいか?」

「はい。わたしも、イヴさんのお噂はトーカさんからかねがね……」

「ふむ? どのような?」


 片眉を上げ、俺に問いかけるイヴ。

 俺は無罪を主張するみたいにして、


「別に変なことは話しちゃいないさ。とんでもないお人好しだ、とかだよ」

「禁呪の呪文書がわたしたちクロサガに辿り着いたのも、あなたの助けがあったからと聞いています」


 握手を求めるムニンに、イヴは快く応じた。


「しかしその呪文書も、そなたがトーカに協力の意思を示してくれなければ無意味なものとなっていた。これも、トーカの強い執念が繋いだ縁といえよう」

「わたしも、禁呪使いとしてこの戦いに参加します。聞けばイヴさんはとても強い戦士だと……さらに今回、対ヴィシス用の切り札まで運んできてくださったと、そううかがっています。力を貸してくださって、ありがとうございます」 

「なに、この戦いには我が好きで力を貸すだけのこと……トーカたちには恩義もあるゆえな」

「もう返してもらってるぞ」


 即座に言った俺をイヴは一瞥し、


「あのような男ゆえな……つい、力を貸してやりたくなるのだ」

「ふふ、わかる気がします」

「しかし――どうにも、話と違うな」


 不思議そうに首を傾げるムニン。


「?」

「トーカから聞いた話では……もっとこう、お茶目な女性を想像していたのだが」

「えぇ、やだぁっ……」


 ムニンが顔を赤くして自分に両頬に手をやった。


「ト、トーカさん……わたしのこと、どんな風にイヴさんに話してたの……? もぅ……」


 ぷくぅ、と頬を膨らませるムニン。

 顔を紅潮させ、口を尖らせている。

 俺を見るその目は、少し咎めるような視線になっていた。

 ……うーん。

 こうなるとやっぱり、フギといた時みたいな”母親感”はないよな……。


「そして――そなたがニャキだな?」

「あっ……は、はいですニャ! 先輩のイヴさんにお会いできて、ニャキは大変、とっても、光栄なのですニャ!」

「苦難の道のりだったようだが……姉と再会できて、よかったな」


 ちなみにニャンタンは今、他の妹たちの面倒をみているそうだ。


「トーカさんたちのおかげですニャ!」


 眉尻を下げ、左右の指先をツンツンしながら苦笑するニャキ。


「それでニャキも、トーカさんたちに何か恩返しがしたくて……今回、参加させてもらったのですニャ。でも、あんまりお役には立てていないかもしれませんですニャ……にゃははは……」

「伝令として駆けずり回ってくれてただろ。少なくとも、俺は助かったぞ」

「ト、トーカさん……」


 俺とニャキのやり取りを見ていたイヴが、低く笑った。


「――よく、わかった。そなたの存在は、トーカが戦う大きな理由の一つにもなっているようだ」

「はニャ?」


 ニッと笑みを向けるイヴ。


「そなたは十分にトーカの役に立っている、ということだ」


 リズと接する時の俺をイヴはそれなりに見ている。

 共通するものを感じ取ったのだろう。

 特に注意深く守ろうとしている、と。

 セラスもイヴの言葉の意味を理解した顔をしている。

 振り返り、問いかける視線で俺を見上げるニャキ。


「そうなのですかニャ? ニャキは……トーカさんのお役に、立てているのですかニャ?」

「まあな」


 はぁぁぁ、と安堵で胸をなで下ろすニャキ。


「よくわからニャいですけど、でしたらホッとしましたのニャぁぁ……このあとも、ニャキはがんばりますのニャ~っ」


 はニャりっ、とニャキが気合いを入れるポーズをする。

 俺は、イヴの肩に止まっている鴉――使い魔のリズを見て言った。


「それから――戦いが終わってからもしっかり頼むぞ、ニャキ」


 使い魔が少し恥ずかしそうにする。

 実は使い魔状態のリズとニャキは、移動中に一度引き合わされている。

 文字盤越しなのとリズの負荷の問題もあって、ごく短い時間だったが。

 ニャキが目をキラキラさせて使い魔を見る。


「ぁ――今にいますのかニャ?」


 今リズが使い魔と意識を接続させているのか、と聞いてのだろう。

 こく、と使い魔が頷く。

 イヴが膝をつき、腕の上に使い魔を移動させた。

 同じくらいの高さで、使い魔とニャキが向き合う。


「あのあの……」


 上目遣いに、おずおずと使い魔に話しかけるニャキ。


「リズさ――、ニャニャぁ~……………リ、リズちゃんっ」


 ニャキが照れた様子で呼び方を言い直すと、リズが応えた。


「クアァァ」


 思い切った風にニャキは目を見開くと、


「直接お会いできたら……あ、改めて――ニャキのお友だちに、な、なってほしいですのニャ……ッ!」

「カァァッ」


 ひと鳴きし、翼を前へ出すリズ。

 両手で握手を求めるみたいな仕草だった。

 ニャキは差し出された翼の先に、ちょん、と二本の指で応じる。

 照れ臭そうに――けれど、幸福そうな笑顔を咲かせるニャキ。


「ニャぁ……ニャニャぁ~……」


 ニャキの目尻には煌めくものが浮かび、光の反射で輝いていた。


「トーカ」


 イヴが言った。


「そなたの旅は、復讐を果たすのが到達点かもしれぬ」


 イヴは穏やかな目でニャキと使い魔を眺め、


「しかし……その旅の中で紡がれたものの中には、そなたの持つ優しさが確かに編み込まれているはずだ。そなたが否定しようと、我はそう思う」

「ずっと言ってるだろ? 優しいんだよ、俺は」


 使い魔がニャキの肩に乗り移る。

 イヴは膝に手をやると、ゆっくり立ち上がった。


「ふふ……そなたは素直なのだか、そうでないのだか」


 感極まりすぎたのかニャキが「ニャぁぁ……」と泣き出した。

 何度もこぶしで「ひっく、ひっく……」と濡れた頬を押し上げている。

 まるで、こぼれてくる涙を掬い上げようとするみたいに。


 セラスとムニンが駆け寄って、涙を拭く布をほぼ同時に差し出す。

 ニャキの肩にとまるリズは頬の涙を羽根で拭おうとしていた。

 タジタジと右往左往していたピギ丸も痺れを切らしたらしく、


「ポヨヨヨーン!」


 俺の肩から勢いよく跳んだ。

 そのままスレイの上に飛び乗り、


「ピユリ~!」

「パキュ~ン!」


 ニャキを気遣う輪へと突撃していく。

 俺と肩を並べるイヴがその光景を眺め、感慨深そうに言った。


「大きくなったものだな、この蠅王ノ戦団(つながり)も」





 本日4/1、『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』のアニメ公式サイト様の方でタイトルなどに変化が起きているようです(おそらく、本日限定かと思います)。こっちのタイトルで連載していたらまったく違ったストーリー展開もあったのかもしれませんね……。バレンタインにはヴィシスからのチョコが当たるプレゼント企画をしてくださったりと、こういった遊び心のある試みをしていただけるのは、大変ありがたいことだと思っております。


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― 新着の感想 ―
>アニメ公式サイトーーバレンタインにはヴィシスからのチョコが当たるプレゼント企画をしてくださったりと、こういった遊び心のある試み そげなことをやっとったんかいなぁ〜。
[一言] すいません(;_;) 先程感想を送らして頂いたのですが、ニャキと書くべきところをにゃんたんと間違えてしまいましたm(_ _)m 言葉の響きだけで思い違いをしてしまいました。お姉ちゃんは今回名…
[良い点] 相変わらず面白いですヾ(*´∀`*)ノ にゃんたん(人・ω・)☆超かわいい☆(・ω・人) アニメ化おめでとうございます。 [気になる点] アニメ化するにあたって、原作に忠実にされるのかが気…
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