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これからのこと


 生存率ゼロの廃棄遺跡からの脱出。

 心地よい日の光を浴びながら、ひと休み――


 というわけにもいかない。


『定期的に遺跡の点検に行く調査隊だけがわかる目印が入口にあるのですが……その目印に変化があったことは一度もありません』


 廃棄される直前のクソ女神の言葉。

 警戒しつつ柱の陰に身を潜める。

 監視用の施設や監視者の姿は今のところ見当たらない。

 女神の言葉を脳内で反芻する。


”定期的に遺跡の点検に行く調査隊”


 常に近くにはいないわけか。

 人の気配がないのを確認し、遺跡の入口あたりを調べてみる。

 変わったところはなかった。

 目印とやらが見つかる気配もない。


「”調査隊だけがわかる目印”と言っていたな……」


 となると目印の偽装は難しいか。

 俺が脱出したのを知られるのは時間の問題と考えるべきだな。

 遺跡の扉はもう閉じている。

 外へ出た瞬間、扉は驚くほどの勢いで閉じた。

 なんだか”さっさと出て行っておくれ!”とでも言われた気分だった。

 遺跡の魔物を殺し過ぎたせいだろうか。

 脱出に必要だった金の宝石は回収できなかった。

 回収できたら売って金にしようと思ったのだが……。

 世の中そう上手くはできていないらしい。


 出口の近くは廃墟っぽい風景が広がっている。

 言い換えれば文化遺産系の趣ある風景とも表現できるか。

 教科書の写真あたりで見る古代遺跡のイメージ。

 俺は手早くひと通り近場を調べた。

 この遺跡帯は森の中にあるようだ。

 俺はここを離れることに決めた。

 脱出時に別れも告げている。


 ここにもう用はないだろう。



     ▽



 人が使用していると思しき道を発見した。

 土が剥き出しになった道だ。

 踏み固められた地面。

 調査隊とやらが使っている道なのだろうか。

 だとすればこの道は通らない方がいい。


”隊長! 道に見慣れない足跡が!”


 あとでそんな展開になるのもアレだしな……。

 少し道から外れた林の中を行くことにする。


「小さい水場でもあれば身体を洗いたいところだ……」


 脱出できたとはいえ、すべきことは山積みである。

 遺跡で癖になった独り言と共に片づけていきたいところだ。

 立ち止まる。


「ステータス、オープン」



【トーカ・ミモリ】


 LV1789


 HP:+5367

 MP:+59037

 攻撃:+5367

 防御:+5367

 体力:+5367

 速さ:+5367

 賢さ:+5367


【称号:E級勇者】



 MPだけ桁が違う。

 が、今確認したいのはこちらではない。

 スキル項目を表示。

 確認したいのは、レベルの上がった二つのスキル。



【パラライズ/LV3/消費MP10/複数対象指定/任意解除/部位解除(頭部)】


【ポイズン/LV3/消費MP10/複数対象指定/任意解除/非致死設定】



 項目が増えている。

 二つとも【任意解除】が追加されていた。

 遺跡内では解除する必要を感じた局面はなかった。

 思い至らなかったが、解除できなかったらしい。

 今は俺の意思で解除可能になったわけだ。

 近くに魔物がいればあとで試してみるか……。


 他は【パラライズ】の【部位解除(頭部)】。

 括弧で括られた”頭部”の追加表示に目をやる。

 頭部だけ俺が任意で解除できるのか?

 動きを止めて喋らせたい対象には有効そうだ。


 次は【ポイズン】の【非致死設定】。

 要するに毒状態で死に至らない設定にできるのだと思う。

 ゲームっぽく理解するならHPを1だけ残す感じか?

 これは意外と使えるかもしれない。

 あまり褒められた使い方はできそうにないが。


「…………」


 もし効果を付与できるなら、クソ女神にはピッタリなスキル。


「【ポイズン】の追加能力も、機会があればいずれ試してみるか」


 ステータス表示を閉じて皮袋からコーラを取り出す。

 このコーラはけっこう前のものだ。

 最後のひと口。

 遺跡からの生還祝いとして飲んでしまおう。

 ひと息でゴクっと飲み込む。

 当然だが炭酸は抜けていた。

 しかし、この濃厚な甘みは疲れに染み渡る……。


「ふぅ」


 空いたペットボトルはまだ取っておく。

 綺麗な川でもあれば水を入れたい。


 再び、歩き出す。


 考えるべきことはたくさんある。

 とはいえ一つ一つだ。

 まとめてドッと考えると思考が混乱する。

 マルチタスクは苦手な方だ。


「さて」


 まずは村や町を見つけるべきだろう。

 宿を取って休みたい気もする。

 衣類なども整えたい。

 ローブの下の制服は替えたいところだ。

 元の世界の制服は目立ちかねない。

 今、過度に目立つ意味はない。


 今いる位置も知りたい。

 ここはアライオン王国の領内なのか。

 中央に近いのか。

 あるいは辺境なのか。

 はたまた、別の国なのか。

 最悪、海の向こう側の可能性もある。

 入手できそうなら地図も欲しい。

 幸い今の俺には遺跡で入手した銀貨と宝石がある。

 無一文でないのは心強い。

 ただ、銀貨と宝石の価値を知る必要はあるだろう。

 物価なども少し把握しないといけない。

 マクロな情報は召喚直後の女神の説明で受けている。

 が、ミクロな部分の説明は受けていない。

 適宜確認していく必要があるだろう。


「あとは――」


 担いだ皮袋を一瞥。


 禁呪の呪文書。


 これの情報を集めないといけない。

 対女神用になるかもしれない力。


「そういえば」


 俺自身が習得するのは可能なのだろうか?

 言語を教われば俺も禁呪使いになれる?

 それとも、習得できる種族とかは限られているのか?

 ここも明らかにしたい。


「禁呪に関する情報もできるだけ、収集していかないとな」


 それと、


「剣が欲しい」


 ふと、そう呟いた。

 MP以外の自分のステータスは低い。

 今のところ俺はそう考えている。

 遺跡内での記憶を呼び起こす。

 後半はほとんどスタミナ切れを起こさなかった。

 具合が悪くなることもなかった。

 足の疲労度ものぼるにつれ軽くなっていく気がした。

 荷物の皮袋も、量は増えているのに前より軽く感じる。

 なので補正値の効果は確かに出ているのだと思う。


 ただし魂喰いや遺跡の魔物には”弱者”と認識され続けた。


 LV1000を突破しても俺は遺跡で”最弱”だった。

 言うなれば俺はおそらく後衛の魔術師タイプ。

 前衛に出る戦士タイプではない。

 そんなことを考えていた。

 だからポロッと、


”剣が欲しい”


 などと呟いてしまったのだろう。


「盾役みたいな護衛がいると、心強いかもな……」


 状態異常スキルを放つ際に背後を守ってくれる”剣”がいれば、安心してスキル発動に集中できる。


 遺跡内では壁を背後にしてなるだけ死角を潰した。

 壁の多い遺跡内だからこそ成立しえた死角潰し。

 しかし地上では必ずしもそれができるとは限らない。


「…………」


 将来的には腕の立つ傭兵を対女神用に雇うのも、手かもしれない。


「もしくは自前の傭兵団を作るとか、な」


 復讐達成のためには二重三重の対策を持っておきたいところだ。

 正体不明の禁呪の力。

 禁呪に望みを賭けすぎるのも危険だろう。


 頭を掻く。


「あのクソ女神に俺の状態異常スキルが効けば、もっと簡単に復讐を締めくくれそうなもんなんだが……世の中、そうそう上手くはできちゃいねぇな」


 仕方がない。

 すべてが都合よくはいかない。


 むしろ俺の場合、状態異常スキルと皮袋の能力を鑑みれば都合がよすぎるとも考えられる。


「あとは大賢者から貰った『禁術大全』も時間を見つけて、中身に目を通し――」


 気配。

 口を閉じ、警戒度を高める。

 殺気は――ない。

 ただし攻撃性が感じられる。

 魔物か?

 木の陰から様子をうかがう。


「ピギー!」

「ピギ!?」

「ピッギッギッギッ!」

「ピッギー!」


 青くて丸いプルプルした半透明の生き物。


「あれは――」


 見たところ、六匹。


「スライム、ってやつか?」


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