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推察から、確信/核心へ


 結果から言えば、この三日間の戦いはこちらの勝利で終わった。


 とにかく、十河綾香だったと言える。


 そう言っていい。

 十河はまだ交戦域に到達していない後続の聖体軍にも突撃した。

 単独で。

 が、無茶な単騎突撃でもなかったそうだ。

 後方の味方の動きを確認しながらの”先制攻撃”だったとのこと。


 大型聖体。

 中型聖体。

 指揮役のヴィシス側の人間。


 十河は移動先で常にこの三つを優先し、叩き潰していった。

 さらに劣勢にある味方の”穴”を銀騎士で埋めていく……。

 これらの十河の働きにより味方は純粋な”多対多”の戦いに集中できた。

 俺も、ほぼ同じ動きを右翼側でしていた。

 が、十河ほどの広範囲な戦果はもちろん出せていない。

 というか――

 最後の方には、十河は俺たちのいる右翼方面にまで到達しつつあった。


 特筆すべきは十河綾香の戦闘継続能力である。

 過去のレベルアップで今はMP消費も格段に抑えられているという。

 ただし今回、この戦いは三日に渡った。

 兵たちも後方の待機軍と入れ替わりながら戦闘を行った。

 いくら十河綾香といえど三日ぶっ続けでの戦闘継続はさすがに厳しい。

 俺は一時的に十河を下げさせて【スリープ】で睡眠を取らせた。

 この戦いでは経験値取得によるレベルアップはできない。

 睡眠は現状唯一のMP回復手段。

 そして【スリープ】は、


 ”気が昂ぶって眠れない”


 みたいな状態でも、問答無用で眠らせられるスキル。

 たとえば、不眠症であろうと眠らせられる。


 ”明日大事な用事があるのに、なんだか目が冴えて眠れない”


 こんな時でも、しっかり深い睡眠が取れるわけだ。

 導入剤や睡眠薬もいらない。

 ……人によっては、元の世界でこそ重宝しそうな気がするな。

 ――さて。

 十河が眠っている間は、主に俺が大型を引き受けた。

 周りの中型などはセラスと聖騎士団に請け負ってもらった。

 戦果は及ばずとも、戦闘の継続力では俺も引けを取らない自信はある。

 なんせ【パラライズ】+【バーサク】のコンボの消費MPは20。

 俺のMP量に対し雀の涙ほどの消費でしかない。

 それに、俺だけではない。

 三日に渡り戦いを継続できたのは単純に味方の質も大きい。

 また、三日目には遅れていた最果ての国勢も追いついた。

 追いついたラミア騎士のアーミアたちも、すぐ戦列へ加わった。

 三日目ともなるとさすがに兵たちにも疲労の色が見えてくる。

 そういう意味でも、ここでの援軍はありがたかったと言える。

 十河は短時間の睡眠を取りつつ、時に俺たちと交代で前線へ戻った。

 結局、高雄姉妹は投入せずに済んだ。

 実は二日目の昼頃、姉妹から”出る”と申し出があった。

 しかし俺は、


 ”こっちが劣勢に見えればな”


 そう返した。

 出る出ないの判断は姉妹側に任せてあった。

 が、それは”必要なら”という条件付きの話。

 高雄聖ならあの戦局を見て、


 ”自分たちが必要だ”


 そう判断することはなかっただろう。



 ともかく、この初戦は女神討伐同盟の勝利で終わったと言っていい。


 

 聖体軍を壊滅させたあと、黒竜とハーピィを偵察に出した。

 俺たちの行く先に敵の姿は確認できず――

 少なくとも、アライオンの国境線まではそれを確認できなかった。



     ▽



 三日目の戦いが終わったあと――

 日が、傾いていた。

 溶解していく聖体の散乱する大街道と平原。

 白い身体を夕日色に染める聖体の残骸……。

 眼窩から翼を生やし、互いに手を伸ばし合う聖体たちの不気味な光景。


「三日三晩ほぼ絶え間なく攻めてきたが……戦力の逐次投入、って感じでもなかったのか」


 俺の言葉に肩の上のロキエラが、


「ヴィシスは強めな大型や中型を揃えつつ、数の暴力で押し潰すつもりだったのかもね。殺意の高い数と質だったと思う。けど、まとめてぶつけた形にしたのは悪手だったかもなぁ」

「十河か」

「正直ヴィシスも、アヤカの存在を想定していたとしても……この規模の戦いを単独であそこまでどうにかできるとは思ってなかったんじゃないかな? もっとこっちの被害を大きく出せると踏んでたと思う……このまま進むかどうか迷わせる程度には、ね。ま、こっちはアヤカ以外の戦力も十分な質があったけどさ――ほら、特にキミとか」

「十河ほどの活躍はしてないけどな」

「ふふーん、何をおっしゃいますか蠅王さん? アヤカが引っ込んでる間、疲労感一つ見せず戦場を駆けずり回ってたのがキミなのは、けっこう色んな人が知ってると思うケド? キミには、この広い戦場で全体の流れを潤滑にした功績がある」


 フン、と鼻を鳴らす。


「まあな」

「うむうむ、そこで謙遜しないとこがロキエラちゃんにとってはなかなかの好感触だよ。やりおるじゃないか、人間よ」

「……女神ってのは、変なのが多いんだな」

「あー! キミ今、ヴィシスとボクをひと括りにしたでしょー!? ひどーい!」

「ピギ」

「おわぁああ!? ピギ丸が急に出てくると、ボクびっくりするんだよ!  きゅ、急に出てこないでよー!? はー、びっくらこいたぁ……」


 びっくら、こいた……?

 生で口にされるのを、生まれて初めて聞いた気がする。


「ピギ丸とは仲よくやってるみたいだな」

「そりゃあ、ヴィシスよりはね!」

「ピギッ♪」


 閑話休題。

 ロキエラが何か思い出したように、


「そういえば……空を飛ぶ聖体はいなかったな。飛行能力の付与は対神族用の方に全振りしたのかも? うーん……大量生産はできないってことだろうな、多分」


 つまり。

 リソースを割いた聖体をこっちに寄越していない?


「今回戦った聖体は、主力級じゃなかった線もありうるのか」


 リズによると、現在もまだヴィシスと神徒は王都にいる。

 肩に座るロキエラが左右の足を交互にパタパタ動かし、


「――とも言えるけど、ヴィシスが最も生成に労力を割いたのは対神族特化の聖体だ。キミたち用じゃない。だから、前も言ったように神族ではないキミら相手だと、主力の対神族聖体は本来の力を発揮できない。要するに……」


 頭の後ろに両腕を回し、空を眺め後ろに上体を倒すロキエラ。


「対神族以外の聖体は”残りカス”みたいなものなんじゃないかな?」

「余り物をまとめてぶつけてきたと?」


 もし……。

 この大陸に住む者たちの殲滅に生成リソースを全振りしていたら。

 こんなもんじゃ済まなかった――そんな可能性も、あったわけか。

 上体をバネみたいに戻して、ロキエラが息をついた。


「ま、残りカスとはいえ……これ以上の戦力を向こうがまだ温存してる可能性は全然あるけどね。この先、さらにきつい聖体軍との戦いが待ってるかも」


 生け捕りにした貴族連中への尋問はすでに行っている。

 が、今回の戦い以外の戦力については大した情報を持っていなかった。

 ヴィシスや神徒についても、そこまでの有力情報を得られたとは言い難い。

 尋問は嘘判定を利用したので信頼性はある。

 ――向こうの戦力の全貌は現時点では不明、か。


「……連日この勢いと戦力で来られると、まずいかもな」


 しかしロキエラは、否定的な顔をした。


「どうだろう……他に戦力を温存していたとして……本気で潰す分には、ボクとしてはやっぱりな気がするんだよなぁ……」


 リズの使い魔が最初に到着したあと。

 十河出陣の指示を出して以降、俺はしばらくその場に残っていた。

 あれは”ある情報”をリズから得られるかを確認するため。

 結果、その情報は得られた。


「聖体の大軍が、アライオンの王都から北に」


 そう、こちらとは逆の方向……



「十中八九、ヨナトの王都へ向かっている」



 夕暮れ時の空を見上げる。

 数日前、ゲートとやらを破壊したレーザーがはしった空。


「ロキエラ、ここはあんたの読み通りだな」


 やはり、ロキエラが前に話していた通りになった。

 推測は、確信へと変わった。


「うん……やっぱりヴィシスは、聖眼を破壊する気だ」


 こちらの戦いと同時に動いている。

 ヴィシスは、両面でカタをつける気だ。


「聖眼の機能停止を達成した時点で、ヴィシスはやるつもりなのかもしれない――もう一度」


 ゲートの展開を。

 あえて両面で展開しているなら、ありうる。

 つまり、


「向こうは聖眼の破壊を確認した瞬間、すぐにでもゲートの展開と対神族聖体を送り込める状態にある……こういうことか」


 だから可能な範囲で、俺たちも先を急ぐ。


「ボクができたように、聖眼が機能してるかの有無は神器で確認できるからね」


 深刻な顔つきでロキエラはさらに、


「あの使い魔ちゃんから得た情報と照らし合わせると、大型や中型の数もヨナト方面の方が多い印象がある。つまり”残りカス”にも本命の戦力と、そうじゃないのがいるのかも。で、こっちには本命じゃない方が送られたという見方もできる」


「……アライオンからヨナトまでは幸い、距離がある。ヨナト方面の聖体軍はアライオン北部と広大なマグナル領を横断する。仮に魔群帯を突っ切るにしても、両国の距離を考えればどのみちけっこうな日数はかかるだろう。魔群帯は、地形的にも大軍の移動には向かないだろうしな」


 リズから受けた報告――ヨナト方面の聖体軍の位置。

 移動速度。

 まだ、日数的猶予は十分ある。


「一応、ヨナトにはあの狂美帝って子の国から援軍が出てるんだよね?」

「あいつの兄貴が帝都防衛用のミラ兵を率いてヨナトへ向かってるはずだ。敵の移動速度にもよるが、距離の差を考えればおそらく間に合う」


 上手く運べば白狼王――マグナルも味方につけられる。

 剣虎団も。

 使える戦力は、できる限り集約すべきだ。


「とりあえず心当たりには援軍を頼んである。問題はヨナト……ヨナトの女王ってのが、あのスマホの証拠を聞いて、ちゃんと女神を敵と認識してくれるかどうかだが……」


 ここに、かかっている。

 この先、俺たちが手こずった場合……。

 ヨナトのヤツらには、王都にある聖眼を守ってもらわなくてはならない。

 つまり――ヨナトの方に時間稼ぎをしてもらう必要が出てくる。


 ヴィシスによる両面同時作戦。


 それが意味するものは、もうほぼ確実。



 聖眼が破壊された瞬間――ヴィシスは再びゲートを開き、対神族聖体を天界に送り込む。

 


 しかし――聖眼が破壊されない以上、ヴィシスは身動きが取れない。

 今をもって籠城の構えを取っているのが、その証拠だろう。


 ヴィシスにとっては今それが最適なのだ。

 籠城し、時間を稼ぐことが。


 ゲートは同じ場所――王都エノーでしか展開できない。


 また、エノーをからにもできない。

 送り込む前に、肝心の対神族聖体を俺たちに破壊されては困るからだ。

 ゆえに、聖眼がまだ破壊されていない状況でエノーに到達したら、ヴィシスは駆逐しなくてはならない。




 西から来た、俺たちを。






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[気になる点] 小説家になろう 勝手にランキングのリンクを 押しても飛べません ちゃんと飛べる作品のページソースと他にも飛べない作品や、この作品のページソースを見比べるとリンクのアドレスが違ってます …
[一言] ロキエラ 本当に味方なのかね・・ どうも話が出来すぎている
[一言] ヨナトか……安、死ぬなよ!
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