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364/440

見えない要素

 申し訳ございません「できれば12月前半には」などと前回更新時に書きつつ、ずれにずれ込んで大晦日になってしまいました。


 今年後半はなかなか更新ができず、その点も申し訳ございませんでした。


 別作業と執筆の同時進行で、現在の第二節の時間軸になかなか頭を切り替えられなかったり、軽いスランプに陥ったりと……今年の後半はガタガタだったように思います。


 とはいえ、せめて今年の最後に皆さまへ感謝を伝えるのとご挨拶くらいはと考えていましたので、今年最後の更新(もしかしたら、やや推敲不足かもしれませんが)と共に、短くですがご挨拶させていただけましたらと存じます。


 今年もありがとうございました。

 気づけば皆さまの応援(支え)によって終章まで運んできていただけたような、そんな感覚でございます。

 2024年はこれまでいただいた応援に応えられるように、できるだけ定期更新に戻れるようがんばっていきたいと思います。


 それでは、また来年の更新でお会いいたしましょう。


 よいお年を。







 先日、ジオからこういう相談を受けた。


『初手の第一陣に加わりたい?』

『援軍とはいえ、おれたちは外の世界じゃまだなんの実績もねぇからな』

『最果ての国勢もしっかり戦力になるのを早めに示しときたい――そういう感じか?』

『それもある。働きぶりを見せときゃ後々の扱いもよくなるだろう……そういう算段もある。だがまあ……それ以上に、お客様気分じゃねぇってのを示しときてぇ。おれたちも――』


 ジオは言った。



『肩を並べて戦うってことをな』



 ”おまえのおかげでに話が通しやすくて助かるぜ、蠅王”


 そうも言っていた。


 そのジオ・シャドウブレードが、豹煌兵団の先頭をゆく。

 あいつは部下たちに示す――


 自らが、先陣を切る姿を。


 ジオの前方部隊は敵の猛攻に晒されて乱戦に突入しかけていた。

 大槌を軽々振り回す大きめの半馬聖体。

 その大槌でミラ兵が次々と吹き飛ばされている。

 あの前線で妙に強さが際立っている聖体だった。

 ジオはその聖体に的を絞ったらしい。


 黒豹の双刀士が、跳ぶ。


 半馬聖体は接近するジオにしっかり気づいてたらしい。

 迎撃の態勢へ移るのはかなり素早かった。

 大槌を右手で持ちつつ、左手で長刃の曲刀を鞘から抜き放った。


 飛び込んでくるジオへそのまま曲刀を振るう聖体。

 ジオは右手の黒刀の刃でその曲刀を受け止めた。

 角度をつけ、斬撃の力を逃がす。

 刃と刃が激しく擦れ合った。

 散る、火花。


 ジオがもう一方の刀――左手の黒刃を、半馬聖体の頭上へ振り下ろす。


「――――」


 半馬聖体が、動揺とも取れる反応を示した――ように見えた。


 


 ”この速さでは大槌で受けるのは間に合わない”


 そう判断したか。

 聖体が大槌から手を放し、腕でのガードを試みた。

 その腕には銀色の腕甲を装着している。

 

 ――――――――ズバァンッ!


 半馬聖体が頭上から、真っ二つに割れた。


 トンッ、と。


 豪快な斬撃とは打って変わって、両足で静かに着地するジオ。

 振り切ったジオの黒刃は今、切っ先が地面すれすれまで降りている。

 そう、



 頭上から、ガードを試みた腕ごとたたっ斬ったのである。



 腕甲などものともしない強烈な黒の斬撃。

 しかも、片手で放ったものだ。


 その姿を見た周囲のミラ兵たちは。

 何か、とんでもないものを見たような反応をしていた。

 さらには、周りの聖体たちも”警戒すべき相手”とでも判断したか。

 少し、距離を置いたようにも見えた。


 そこへ後続の豹兵たちが雪崩れ込んできた。

 彼らはジオを追い越し、周りのミラ兵へ加勢していく。

 着地した姿勢のまま黒刀を構え直したジオが、


 

「――――行けッ!」



 豹兵たちが雄叫びで兵団長に応える。

 そして、続々と聖体との交戦に入っていく。 

 これに鼓舞されたか。

 ミラ兵の勢いも増す。


「我々も豹人たちに負けていられぬぞ! ここでミラ兵の力を陛下に存分に披露せねば、いつ披露する!? ゆくぞッ!」


 喊声かんせいが巻き起こった。

 ここに、やや遅れていたミラの歩兵部隊が合流。

 これにより、こちら側の軍勢が聖体たちを押し込み始める。

 その様子を見ていたセラスが、


「さすがは、ジオ殿と豹煌兵団ですね」

「ああ」


 後続の聖体の群れはまだまだ途切れる気配を見せない。

 波が押し寄せるように、前線の敵兵力が膨らんでいく。

 ミラ軍の前線にぶつかる聖体の波は、さらに左右へ広がりつつあった。

 このままだと。

 包み込まれるようにして、最前線が左右から飲み込まれる。


 と――地を轟く馬蹄音が迫る。

 こちらから見て左へ広がった聖体軍。

 その横っ腹目がけ、迫る軍勢があった。


 カトレア受け持ちの混成軍である。


 混成軍の第一陣は、左手側の低い小山の向こうに伏せてあった。

 その第一陣が聖体の波の腹に雪崩れ込む。

 聖体軍もこれに気づき、待ち構える姿勢を見せた。

 が、騎兵の突撃に敵側はやや対応が遅れた。

 これにより、左に広がった聖体軍の勢いが削がれる。


「絶妙なタイミングで、横っ腹に一撃を加えたな」


 セラスも信頼を込めた声で、


「もし私が敵側であれば……実に嫌な機に出てきましたね。さすがは姫さまです」


 左はカトレアに任せておいてよさそうだ。

 さて、右に広がった聖体軍は――


「右翼は……ミラ軍と予備戦団、そして最果ての国勢で構成された軍か」


 確か、砦の人面種の件で縁のできたロウムもあの中に編入されている。

 その後方で指揮を執る者のうち一人は、リィゼロッテ・オニク。

 それから、予備戦団はミラに身を寄せた亜人たちで構成された戦団。

 閉ざされた国に籠もった亜人たちと、外の世界に残った亜人たち。

 最果ての国勢が予備戦団と上手くやれるか、リィゼは危惧していた。

 と、白馬に乗った狂美帝がやってきて言った。


「あの者――蜘蛛の宰相は、見事に予備戦団の者たちの心を掴んだようだな。我がミラ軍の騎士や兵たちも、最果ての国の者らとは今のところ上手く意思疎通できている」


「まとまりがあるのは、ミラの者が陛下へ寄せる信頼の強さもありましょう。陛下が信じるならば……そう思っているがゆえの面も大きいかと。その下地を無駄にせずリィゼがしっかりやりきった――そういう意味では、リィゼの手腕でもありましょう」


「あの蜘蛛の宰相も……最果ての国で以前会った時と少し変わったな。あれならば、今後も心配なさそうだ」


 伝令が立ち替わりやって来て狂美帝に報告をしていく。

 ちなみに、通常の馬を走らせる伝令だけではない。

 黒竜とハーピーもいる。

 飛行できる黒竜やハーピーはやはり役に立つ。


 それから――ニャキも巨狼に乗って伝令をしている。

 これは、本人の望みだった。


『ニャキもお役に立ちたいのですニャ! 微力でも、お力になりたいのですニャ!』


 とはいえ。

 危険な前線からは念のため遠ざけてある。

 それにニャキも、ジオたちから最低限の戦い方は一応学んだそうだ。

 何より――そばには姉のニャンタンをつけてある。

 だからそこまでニャキに危険は及ばないはずだ。

 それと、巨狼の足は馬より速い。

 言語を扱えるニャキがそれに乗っている。

 つまり伝令としては十分、役立ってくれる。


 見ると――右翼では、最果ての国の魔物たちも暴れ回っている。

 敵の大半が白い聖体なのはありがたい。

 こちら側が敵味方を識別しやすい。

 敵味方を見分けるのが、


 ”金眼か否か”


 これだけだと、危うい。

 特に乱戦中。

 気が昂ぶっている状態だと敵味方の判別を誤りかねない。

 己の命がかかっている状況だ。

 いわゆる”事故”としてのフレンドリーファイアは起きうる。

 が、基本的にこの戦場は”白”だけを見定めればいい。

 それ以外は、すべて味方。

 これならば最果ての国の魔物も常に”すべて味方”と認識して戦える。


「アライオン十三騎兵隊との戦いでも感じたが……こうして魔物と手を携えて戦う日が来るとはな」


 そう言ったのは、狂美帝。

 特にケルベロスのロアは大活躍していた。

 ロアは魔物たちのまとめ役でもある。

 魔物部隊は最果ての国で待機している竜煌兵団の所属だ。

 が、ロアと魔物部隊はこっちへ寄越してくれた。

 その魔物たちは、怯むことなく果敢に聖体に立ち向かっている。

 キィルの馬煌兵団もミラ兵と上手く連係して戦っているようだ。

 そこに、グラトラ率いるハーピー部隊も加わっている。

 ただ、


「……他を、いつ動かすかだな」


 俺も全体に気を配ってはいる。

 が、基本的に全体の動きは狂美帝とカトレアに任せてある。

 でかい規模の指揮は俺の領分ではないからだ。

 俺が直接的に動きを指示するのは大きく分けて三つ。


 蠅王ノ戦団。

 カトレアから預かったネーア聖騎士団。

 そして――勇者たち。


「王都エノーからの情報が途絶えたのが……やはりネックか」


 ミラの間者からの報告が途絶えて久しい。

 エリカの使い魔にも動きはない。


 ここで勇者を動かすか、どうか。



 



 ロキエラが、


「ごめんね……切り離してきたボクの頭部で確認できればいいんだけど、今あっちの頭部は――なんていえばいいかな……独立した自律的な状態にある。つまり、ボクは干渉できない。分裂したこっちに力を移して、あっちはほとんど死にかけだから……まともな意識があるかも、不明なんだけど……」


 危惧するのは、


 ”この戦場で神徒とヴィシスが同時に仕掛けてきた場合”


 三人の神徒。

 ここにぶつけるのは、


 十河綾香。

 高雄姉妹。


 狂美帝とジオもぶつけられる可能性はある。

 が、狂美帝とジオは指揮優先。

 特に狂美帝は指揮の方に注力すべきである。

 そしてヴィシスにぶつかるのは、


 俺。

 ピギ丸。

 セラス。

 ムニン。


 また、別働隊的な動きとして浅葱とそのグループ。


 …………。

 こうなると、今は勇者を投入しにくい。

 いわば勇者は大ボスやボス級連中を引き受ける役割。

 温存を考慮しなくてはならない。

 勇者の問題点はMPにある。

 固有スキルの使用には多めのMPを消費する。


 ゆえにMP切れ――あるいは大きく減った状態で神徒との戦いに突入すると、勝ちを落とす危険性が増しかねない。


 減ったMPの回復方法は二つ。

 レベルアップ。

 あるいは、睡眠。

 が……


「報告です!」


 前線の中央からの伝令。

 少し前、そこに輝煌戦団が参戦した。

 そう、輝煌戦団は浅葱グループと行動を共にしているミラの戦団である。

 俺は、輝煌戦団の協力を得てある試みをしてもらっていた。


 ”聖体のとどめを、なるべく浅葱グループの連中に回してやってほしい”


 伝令が告げる。


「ご命令通り、勇者殿たちに極力とどめを譲る形で戦いを続けていましたが……」


 これから口にするのはおそらく期待された報告ではない。

 伝令の表情から、それがわかった。



「現状どの勇者にも、レベルアップは起きていないとのことです……っ」



 俺は言った。


「わかりました。引き続き、経過報告を頼みます」


 伝令が下がる。

 嫌な予感は的中したようだ。

 俺は肩のロキエラに、


「ヴィシスは聖体を倒しても経験値が得られないようにした――どうやら、こう考えた方がよさそうだな」

「の、ようだねぇ……」


 もちろん。

 ごく微量の経験値しか得られない――この可能性はある。

 あるいは、大量に倒せばレベルアップするのかもしれない。

 が、それに賭けるのは分が悪すぎる。

 ならば――



 減ったMPは、睡眠でしか回復できない。



 こう考えるべきだ。

 となると。

 勇者を出しても、固有スキル使用は難しい。

 当然、スキルを使わなくとも戦えば疲労は出てくる。

 休む必要が出てくる。


「……このあとの聖体の増援規模は今のところ不明だ。勇者以外の兵たちの数も、できるなら被害を抑えて維持したい」

「その被害を減らすには、やっぱり勇者の投入が効果的なわけだよね」

「特に、十河と聖には広範囲の敵を蹴散らせるスキルがある。巨大な聖体にもあのS級二人のスキルは有効だ……まあ、でかい個体の方は俺のスキルでもやれるだろうが」

「対軍勢規模への広範囲攻撃となると――」

「ああ、俺の状態異常スキルよりはあの二人のスキルの方が適してる」


 ……波は続く。

 そして――見えている。

 遠くに。

 巨大な聖体の影。

 あれは……俺がやるべきかもしれない。

 幸い状態異常スキルのMP消費量は圧倒的に低い。

 疲労もそこまで溜まらないだろう。

 ただ、あの巨聖体が”エサ”だったとしたら……。

 ヴィシスがあの中に紛れ、隙をうかがっているとしたら。


 そう、これについてはいくつかのパターンが考えられる。


 ”ヴィシスはこの戦場に来ている”

 ”ヴィシスはヨナトを目指している”

 ”ヴィシスは――今も、アライオンの王都にいる”


 確率としては……。

 実は、三番目が高いのではないかと俺は見ている。

 これはロキエラの予想を聞いたためだ。

 たとえば――


 ”ゲートの展開場所は早々変更できない”

 ”変更する場合はかなりの準備期間を要する”

 ”王都を留守にして、対神族聖体をみすみす破壊される危険を冒すとは思えない”


 説得力はあった。

 また、ヴィシスは動かず神徒だけを寄こしてくるかもしれない。

 あるいは三体の神徒をこちらとヨナトに分散させてくるとか。

 もしくは――全員、エノーにとどまっているか。


 で、そのすべての想定が外れで裏をかいてくる可能性もある。

 全員で王都を離れてヨナトへ向かう――これは、ない気がする。

 留守にして対神族聖体を俺たちに破壊されるのを恐れるからだ。

 そして俺たちには、巨大な聖体を破壊する手段がある。

 しかし――


 王都を出て、直接こちらを潰しに来るのなら。


 この戦場で向こうも決戦をするつもりなら。

 残りうるのだ。


 ”聖体軍で勇者たちを消耗させ、そこを狙ってりにくる”


 その可能性が。

 ないと思っているからこそ”ありうる”。

 裏の、裏をかく。


 今必要なのは確証だ。

 確証を持てる情報。

 特に確証を得られれば大きい情報は、


 


 これだ。

 そう、今必要なのは――その確かな情報。


 逆に。

 ここが解決できれば――勇者を出せる。

 ロキエラが、


「後続の聖体の波が途切れない……戦線に到達する敵の数が、増えてきてる。ヴィシスは……この戦場で決めにくるのかな? それとも……」


 ロキエラも判別できていない。

 俺は、手袋を嵌め直す。


「ま……ある程度は俺も、打って出る。勇者のMP温存問題を解決するには――MP消費問題を解決できる俺が出ればいい。デカブツの処理は、俺がやる」


 ヴィシスどもが出てくるケースも想定せねばならない。

 十河たちにも、準備をさせておくべきだろう。

 ……ん?


「あの、トーカ殿」

「……ああ」


 俺も、気づいていた。

 鴉が一羽、近づいてくる。


「まさか……使い魔か?」


 あの鳴き方。

 使い魔だと示す合図の一つ。

 鴉が俺の前の地面に舞い降りた。

 そして、羽を動かした。

 モールス信号にも似た独特の動かし方。

 間違いない。


 この鴉は、使い魔だ。


「エリカが復活したのか」


 いつ使い魔が来てもいいように、文字盤は常に近くに置いてある。

 セラスが文字盤を持ってきて、地面に置いた。

 俺はメモを取る用意をする。

 鴉が文字盤の上を移動し始めた。

 俺はそれを見ながら――


「…………」

「どうされました、トーカ殿?」

「魔防の戦城の西の砦を襲った北方魔群帯の人面種……そいつらを倒しに行った時、エリカの使い魔をロウムに預けた。そしてその使い魔は、ロウムがあとでこっちに持ってきてくれた」

「え? ええ……」

「エリカがいつ使い魔の中に戻ってもすぐ気づけるように……あの鳥かごのそばには今も人をつけてある。教えてある合図をもしあの使い魔がすれば、すぐ俺に報告が来るはずだ」

「あ……確かに」

「なのにエリカは、なぜかあっちの使い魔じゃない方をあえて使っている……ってことか?」


 何か事情があるのかもしれないが。

 ……いや、ひょっとして。

 こいつは。

 エリカの使い魔では――ない?


「悪い」


 俺が声をかけると、鴉が立ち止まった。


「エリカか?」


 一拍あって。

 鴉が移動して示したのは、


 ”いいえ”


 さらに移動する鴉。

 そして、鴉が示したその文字は――






 ”リズ”






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― 新着の感想 ―
>巨狼の足は馬より速い。言語を扱えるニャキがそれに乗っている。 >つまり伝令としては十分、役立ってくれる。 ニャキの言語能力では、伝令役には不充分に思えるが・・・。
[一言] えーと、リズって誰でしたっけ?
[一言]  使い魔を操れる様になりましたか。  勝ったなガハハ!(負けフラグやめろ)
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