変われない偽物の選択
申し訳ありません、水曜日に更新は厳しかったです……。
さらに今話は、推敲がやや行き届いていないかもしれません。
それから、ご感想の他に健康へのお気遣いの言葉も(活動報告でも)たくさんありがとうございました。
様子見を続けつつ、暑さが和らいだら、原因を調べるのも含めて色々と試してみようかと思います。
◇【安智弘】◇
△
廃村でリンジたちと別れたのち、安智弘は南へ移動を始めていた。
一時間ほど移動し、休憩がてら地図を広げる。
ここから西寄りに移動して大街道に合流すべきだろうか?
地図はあるが、このあたりの地理には詳しくない。
細かな地形までは地図では分からない。
道筋のわかりやすい大街道を行く方が馬の負担も少ない気がする。
考えた末に大街道を目指すことにした安は、馬をそちらの方角へ向けた。
途中、小規模な商隊と出会った。
彼らは北の街道から引き返してきたという。
『金眼の魔物が群れになってうろついててねぇ。こりゃ無理だと思って、引き返してきたんだ』
商隊はそのまま大街道へ行くという。
ミラ北部にある要塞都市の一つを目指すとのこと。
『せっかくだし、君も一緒に行くかい?』
安は、丁重に断った。
彼らと一緒に行くメリットはあっただろう。
が、その決断には至らなかった。
胸騒ぎがしたからだ。
リンジたちの目的地はヨナトである。
話に出た北の街道。
そこを抜ければヨナトに辿り着く。
彼らは……引き返してくるだろうか?
あるいはそのまま北を目指しただろうか?
街道の金眼が、彼らの方へ移動しているかもしれない。
いや……。
あの人たちは強い。
だから大丈夫なのではないか?
戦力として自分がどれほど彼らの役に立つかもわからない。
それに……。
今から戻ってどうする?
綺麗な形で別れを済ませてきたのに――
(……いや)
安は、顔を上げた。
もうそういうのはいい。
脳裏に浮かんだのは、自分を送り出してくれた人たちの顔だった。
リンジの、
ユーリの、
彼女の母親の。
杞憂なら杞憂でいい。
無事な姿を遠目に確認できれば、それでいい。
「…………」
だけど。
もし。
彼らに危険が及んでいたなら。
自分は――死ぬほど後悔するのではないか。
十河綾香への謝罪はもちろんしたい。
でも今の安智弘には。
彼らの無事を確認する方が、大事に思えた。
(行こう)
安は、馬を北へと走らせた。
彼らと別れた廃村に辿り着くと、そこにひと気はなかった。
やはり北の街道へ向かったのだろうか。
その時、安は地面に残された足跡や車輪の跡に気づいた。
多分……まだ新しい。
痕跡を調べてみる。
馬車や馬が移動した形跡……。
方角……。
地図を確認する。
(方角的に……北の街道の方には向かっていない?)
馬に乗り、痕跡を辿ってみた。
(あっちの森の方に向かってる……?)
近づいていくと、痕跡が林道に入っていっているのがわかった。
「…………」
日が、傾きかけている。
夜になってこの中にいたら危ないかもしれない。
彼らに追いつける保証もない。
それから――なんとなく。
第六騎兵隊。
彼らに”やり込められた”あの森を、思い出した。
安は、ぶるりと身震いした。
でも――確認したい。
合流しなくてもいい。
彼らが無事であるのをただ、確認したい。
この胸騒ぎを鎮めるために。
安は警戒しながら馬を進め、林道の中に入った。
橙の細い光が差す中、馬を走らせていると――
(何か、声が……)
魔物の声だろうか?
いや、
(誰かが……戦ってる?)
安は馬の速度を上げ、そちらへ向かった。
戦っていたのは、リンジたちだった。
それを襲っているのは金眼の魔物たち。
馬車の姿がない。
状況から見て……。
彼らが金眼をここで引き受け、馬車を先に行かせたのか?
わからない。
ともあれ――リンジたちは劣勢に見える。
迷いはなかった。
安は一度馬から降りた。
固有スキルで、馬を驚かせる恐れがあるからだ。
数匹の金眼が安に気づく。
やや遅れて、リンジも気づいた。
「どうしたんだ兄ちゃん!? なんで、ここに――」
(か――)
「加勢、します……ッ!」
「き、気持ちは嬉しいが――加勢たってよ、確か兄ちゃんの荷物には短剣一本しか……くっ! おい誰か、近づけるなら予備の剣を貸して――」
「【剣眼ノ黒炎】」
▽
金眼の9割は、安の黒炎が焼き尽くした。
今や彼らの周りには、消し炭と化した金眼たちが転がっている。
この黒炎は便利だ。
木々に燃え移らないように安の意思で調整できる。
ゆえに対象以外の者たち――リンジたちに火が燃え移る心配もない。
リンジたちの方で負傷者は二人のみ。
命にも別状はなさそうとのこと。
リンジがようやく現実に戻ってきたみたいな表情で、
「お、驚いたな……」
「すみません……その……」
「!」
リンジの表情が、急速に険しさを増した。
まるで、世界で最も重大な危機でも思い出したみたいに。
「――た、頼む! おれたちはまだ戦えるが……さっきの金眼どものせいで、馬が逃げちまった! すぐに使えるのは兄ちゃんの乗ってきたあの馬しかない! 大丈夫だとは思いたいが、もしっ……もし、先に行かせた馬車が凶悪な金眼どもに襲われてたら、単独であいつらを守れるのは――」
リンジは縋るような目で、
「その力を持ってる、兄ちゃんしかいない」
リンジはこう説明した。
自分たちは互いの連携によって何倍もの力を発揮する。
特に、集団対集団においては絶大である。
負傷者の少なさもそのおかげだ。
しかし――単独でとなると、対集団では心許ない。
「もしまだ馬車の方が無事だったとしても、兄ちゃんが一緒にいてくれればおれたちも安心してあいつらを追える……さっきのがどんな力なのかはわからねぇが――あいつらのことを、頼めねぇか。この通りだっ」
リンジが安の両肩を掴み、頭を下げた。
「今回のことは、おれが判断を間違った結果かもしれねぇんだ……ッ、……頼むッ」
リンジのその姿は。
自責の念という重しのせいで項垂れているようにも見えて。
安は、妙な気分だった。
こうして頼まれること以上のことを。
自分は、彼らにしてもらったのに。
彼らは、
”だから借りを返せ”
とは言わない。
そして、思った。
戻ってきてよかった。
最悪の事態にならなくてよかった、と。
だから、
「わかりました」
安は、再び馬を走らせた。
▽
そうして――――現在。
金眼の猿たちに襲われていた馬車隊のところへ安は辿り着いた。
安はユーリとその母親の前に立ち、燃えさかる金眼猿と相対している。
黒い毛の猿がその燃えさかる金眼猿を見てギャアギャア喚いている。
――ボオォウツ!――
安の両肩から黒い炎が逆巻き、翼のように広がっていく。
翼はすでに円の中に侵入していた猿たちへと炎を燃え移らせていく。
猿たちがなすすべなく炎に包まれ悲鳴を上げる。
やがて悲鳴は聞こえなくなり、黒焦げになった猿たちが倒れていく。
猿たちはゆっくりと、消し炭へと変わり果てていった。
「おに、ちゃ……」
震えた声。
おにーちゃん、と言おうとしたのだろう。
安は振り返る。
努めて、笑みを浮かべて。
「大丈夫、だから……この悪い猿たちは――僕に、任せて」
「……ぅん。……うん!」
涙ぐみながらだったが。
力強い返事。
「あのっ……」
母親が呼びかけてきた。
膝をつき娘を抱き締める彼女のそばには。
ナイフが、落ちていた。
安は一つ頷いて見せてから、
「ユーリちゃんを、お願いします」
言って、安は円の外にいる猿たちに向き直る。
猿たちは戦意を――殺意を、剥き出しにしている。
一匹、でかい猿がいた。
安から見ればもはや巨人と言ってもいい。
「ボぉオおン、ぼボん」
巨大猿は余裕綽々という様子である。
炎に怯んだ様子はない。
……メキ、メリ……
巨大猿が木を一本、根っこごと引っこ抜く。
また、もう一方の手には人の頭部の倍くらいある岩を手にしている。
二つを見比べて選別しているようだ。
岩で視線を止め、にんまりと巨大猿が笑む。
笑みは、安に向けられていた。
”岩なら、燃やせまい”
「――――」
――、……怖い。
足が竦んでいる自分に気づく。
巨大猿が、黒毛猿が、嗤っている。
多分。
怖がっているのを、見透かしている。
膝が、折れる。
片膝が地面につく。
土の上に手を置き、身体を支える。
(僕は――)
□
何も、変わってなんかいない。
臆病で。
卑屈で。
変わったのではなく。
戻っただけ。
第六騎兵隊から、心身共に拷問まがいのことをされて。
虚勢が剥がれれば、こんなもの。
蠅王――ベルゼギアの姿が脳裏をよぎった。
あの人なら、もっと堂々としているのだろう。
自信満々なのだろう。
怯えなど感じないのだろう。
自分なんかより、スマートにやれるのだろう。
そう。
最果ての国の城内で、あの人に告白した通りだ。
あんな風に、なりたかった。
なれるものなら。
この力だって、自分の努力で得たものじゃない。
借り物の力。
誇ることなんて、できない力。
この炎があの巨大猿に効くかどうかも、わからない。
不安になる。
足が竦む。
怖い。
恐ろしい。
重なった。
猿たちにオモチャにされていた傭兵たちの姿が。
第六騎兵隊に拷問まがいのことをされていた時の自分に。
猿たちと第六騎兵隊が――ダブって感じられた。
震えが、足から顔まで這い上がってくる……。
…………。
人は、変わることなんかできない。
”人は変われる”
そう励ましてくれる誰かは、あるいはいるのかもしれない。
変われる人もいるのかもしれない。
でも。
少なくとも僕は――変われるとは思えない。
僕は、僕のままでしかない。
怖いものは怖いし。
急に聖人君子なんかには、なれない。
変れや、しない……でも――――
選ぶことは、できる。
臆病で、卑屈だけれど。
変わることなんて、できないけれど。
僕は僕でしかないけれど――
この人たちを守ると決めた。
守りたいと、思った。
ベルゼギアと握手した時、自分はこう言った。
『……元勇者の、安――トモヒロ・ヤスです』
桐原拓斗のようには、なれない。
高雄聖のようにもなれなければ。
十河綾香のようにもなれない。
彼らは正しく勇者なのだと思う。
魔王を打ち倒す素質を持った勇者たち。
彼らのような勇者には、自分はなれない。
けれど。
あの時ベッドの上で、自分はベルゼギアにこんなことを言った。
『ほんの少しだけでいいから――自分を、好きになりたい。好きになれてから、ちゃんとみんなに謝りたい。そして――誰かの、力になりたい』
”誰かの、力になりたい”
安智弘にとっての――自分にとっての、勇者とは。
誰かのために、勇気を振り絞ることができる者。
虚勢でいい。
この怯えを少しでも取り去ってくれるのなら。
だから。
今だけ。
この今だけ――
僕は、勇者になる。
▽
地面に手をついたまま――安は、汗まみれの顔で猿を睨みつける。
気圧されるな。
気持ちで、負けちゃだめだ。
少しだけでいい。
どんな手段でもいい。
今は、少しばかりの――勇気を。
「この人たちは、おまえたちのような悪辣なる者が手をかけていい人たちではない……いいか、よく聞け――我が名は、トモヒロ・ヤス……異界の、勇者だ。化け物ども……これ以上、彼らに――人間たちに手を出すならば、その命……ないものと、思うがいい……ッ」
ひどく芝居がかっていても。
せめてもの――少しばかりの、勇気を。
「もし引かぬなら、この黒炎の勇者の……漆黒の炎が貴様たちを――焼き尽くす……ッ」
自分のためではなく。
誰かのための、勇気を。
安は、猿たちの様子を見た。
雰囲気が変わっている。
安の怯えを察してか、全体的に余裕が戻ってきている風にも見える。
「……引く気は――ない、ようだな。いいだろう……」
唾を、飲み込む。
呼吸が荒くなっていくのがわかる。
と、巨大猿が岩を投擲してきた。
肩から伸びる炎翼が、絡み合う大蛇のように岩に襲いかかる。
岩が、燃え尽きた。
「ブぁァあアあアあアあアあ――――ッ!」
巨大猿が不快そうに叫び、思いっきり両足で踏ん張った。
おそらく。
高くジャンプし、炎の壁を乗り越えるつもりだ。
が、
「ギぃェえエえエえ――――ッ!?」
巨大猿が足もとから、燃え上がった。
「!?」
他の金眼猿たちが、何が起こったのかと巨大猿を驚いて見上げる。
安は事前に、地面についた手の先から炎の筋を放出していた。
その炎を地中に潜らせ、巨大猿の足もとまで移動させていたのである。
気づかれぬよう慎重にやっていため、到達がやや遅れてしまった。
が、間に合った。
「グぎギぎッ……きョアあアあア――――っ!」
最初の猿を焼き殺して以降、ひと際怒りを露わにしていた黒毛猿。
金切り声で喚き、勢いよく指で安を差す。
”あいつを殺せ!”
とでもいうかのように。
他の猿も、怒りに沸騰したような様子だった。
ああ、と。
安は理解した。
自分たちより下だと思っていた相手。
そんな相手から尻尾を巻いて逃げるのが――嫌なのだ。
自分も、つまらないプライドの持ち主。
気持ちがわかる気もする。
相手が自分より強いかもしれない。
でも、引き下がれない。
十河綾香や桐原拓斗に食ってかかっていた時の自分も、そうだった気がする。
つまらないプライドは、本当にいつも、大切なことの足を引っ張る。
しかしこちらも――
ここは、引き下がることはできない。
ボス猿らしき巨大猿が倒されたことで、逃げてくれればよかった。
炎は基本、安の意思で動かさねばならない。
自動で猿を攻撃してくれるわけではない。
一斉にジャンプし360度の周囲から襲いかかられたら。
対処し切れるだろうか?
でも。
やるしかない。
来るなら――戦うまで。
呼吸を、整える。
地面に膝をついたまま。
冷や汗と脂汗がまじり合ったような感覚のまま。
燃え盛る巨大猿を背に、殺意を燃やす黒毛猿を――真っ直ぐに見据える。
互いの目が、合った。
「はっ――はっ……すーっ、すぅーっ……」
短い呼吸の間隔を、長くしていく。
静めていく。
落ち着け。
落ち着いて、対処しろ……。
守る。
守るんだ。
絶対。
安の背の黒炎翼がひと際――火勢を、増す。
「すぅー……ふぅー……、ふぅぅぅぅ……――」
呼吸が、整った。
「――――来い――――」
▽
彼らは、暗い林道を進んでいた。
馬車は一台のみ。
老人や子どもは馬車に乗っている。
他の者は馬に乗っており、残りの者は歩いていた。
戦える者たちは、馬車を守るようにして歩いている。
その中には、安もいた。
「まさか、兄ちゃんが異界の勇者様だったとはなぁ」
しみじみとあごを撫でるのは、リンジ。
あのあと、安は猿たちをすべて固有スキルで始末した。
言葉通りみんなには指一本触れさせなかった。
負傷した傭兵たちに治癒スキルを使いながら、彼らはリンジたちを待った。
日が落ちて森が暗くなった頃――リンジたちが、追いついてきた。
松明の明かりを目印にしてきたらしい。
金眼を呼び寄せる可能性もあった。
が、リンジらのために目印は必要と判断した。
それに、安がいれば対処できるだろうとも判断されたらしい。
「だ、黙っててすみませんでした……」
「へへ。なんだよ、照れてんのか――ええっと……」
「トモヒロおにーちゃんだよ」
安の横を歩くユーリがそう言って、安の腰に抱きついた。
ユーリは子どもだが、安と一緒に歩きたいとダダをこねた。
母親は苦笑しながら「すみません、お願いします」とユーリを預けて馬車に入った。
「そうそう、トモヒロだ……よくよく考えりゃあ、まだ兄ちゃんの名前も聞いちゃいなかったんだよな」
そうは言うけれど。
多分リンジは、あえて聞かなかった。
いや。
名前だけではない。
思えば道中、詳しい身の上話なんかも聞かれなかった。
気を遣ってくれていたのだろう。
「いやしかしすまねぇ……あそこでミラに引き返すのも、やっぱアリだったのかもしれねぇな……なのに、おれの方針のせいで……」
「まー仕方ないですよ」
そう会話に入ってきたのは、オウル。
「白人間を率いてるのがあの剣虎団だ、なんて話を聞いちゃったんですから」
「……まあ、な」
ばつが悪そうに、リンジが言った。
安にとっては、思わぬところで聞き覚えのある名が飛び込んできた。
不思議そうな顔の安の心情を察してか、オウルが言う。
「いや、実はリンジさんとおれたちの一部は元剣虎団なんだよ」
「え、そうなんですか」
「といっても、剣虎団を裏切って抜けたみたいなもんだからなぁ……」
そうか。
他のミラの者たちと一緒に南へ行かなかったのは。
元剣虎団という話が下手に広がると面倒だと感じたからなのかもしれない。
「グアバンのやつも怒ってるだろうからなぁ……もし剣虎団に捕まって身バレしたら、タダじゃ済まねぇと思ってな」
「けどリンジさん、今はグアバンの娘の……ほらあの子――リリちゃんが団長やってんじゃなかったでしたっけ?」
「その娘がグアバンの野郎からおれたちをぶっ殺すよう吹き込まれてたら、やばいだろ」
剣虎団の人たち。
まだ訓練やら何やらでアライオンにいた頃。
今の自分の視点で振り返れば、いい人たちに見えたけれど。
まあ――リンジたちにも事情があるのだろう。
向こうも深追いしてこなかったのだ。
自分も、深くは踏み込まないようにしよう。
「ただ、町のみんなもおれについてくるなんて言って……これがまた決意が固くてよぉ。こっちとしては重圧が半端じゃねぇんだ……」
「そんだけリンジさんは好かれてるし、信頼されてるってことですよ。それにほら、ついて来た連中はもう家族みたいなもんじゃないですか」
「まあ、な……」
リンジは苦笑顔から切り替えるようにして、
「ま、とりあえずここまで来ちまったんだ。もうおれたちは、ヨナトに行くしかねぇよな!」
「それに、こっちには今や異界の勇者様がついてますからねっ」
そんな二人に対し照れまじりの苦笑で応える安。
そういえば。
あの芝居かかった言い回し。
意外にも、聞いていた皆には好評だったらしく。
状況が状況だったからだろうか?
小馬鹿にされることもなく。
むしろ――賞賛されてしまった。
以前は、その賞賛が何よりも欲しくて。
以前なら、鼻高々だったのかもしれない。
だけど今は。
なんだか――照れくさい思いがした。
「この林道を抜けて少し行きゃあ、いよいよヨナトだ」
十河綾香に会うことを、諦めるつもりはない。
必ず会って、謝りたい。
力にもなりたい。
けれど。
まず、この人たちを無事に、安全な場所まで送り届けたい。
たとえ、借り物の力であっても。
彼らを守りたい。
だから今は、北へ――――
ヨナトヘ。
次話は9/15(金)21:00頃を予定しております。
そして時間軸も含め、トーカ視点に戻ります(ちなみに今回のエピソードは、時間軸的には前節のラスト付近より少し前の話となっています)。




