動く、盤面
桐原拓斗の伝書は、このような内容だった。
□
大魔帝はこのオレが討ち取った。
そして、オレは新たなるスキルによって金眼の魔物を従える力を手に入れた。
魔族や魔物といった大魔帝の下僕たちは今、このオレに従属している。
いや、今や人面種すらもこのオレの従属下にある。
現在、オレは魔群帯の魔物を下僕としてこのオレの軍勢に取り込みながら、魔群帯を突き進み、愚かな戦争を始めたミラ帝国を目指している。
オレの王威を示すために、まず、ミラを滅ぼすことにした。
だが、慈悲がなくはない。
以下の条件を満たせば全面降伏を認め、キリハラの支配下とする。
一つは、ミラが迎え入れた蠅王ノ戦団の蠅王を拘束し、このオレに引き渡すこと。
それは、完全な捕縛でなくてはならない。
もう一つは、セラス・アシュレインが間違いを認め、蠅王ノ戦団と完全に決別し、このオレに永遠の忠誠を誓うこと。
こちらは簡単すぎる。
ただ返してもらうだけの話だからな。
これは、元の鞘に納まるだけの話でしかない……。
以上の条件が達成された事実をオレが確認できない限り、人面種どもを筆頭に、オレはオレの軍によるミラへの侵攻を継続せざるをえない。
当然のように、期限も設ける。
王がいつまでも待つのだと大間違いに思われてはならない。
引き渡し場所は、オレさえ納得すればおまえたちが指定した場所でも許すことにした。
寛容すぎる自分に、恐怖するほどだ。
あえて断っておいてやるが、愚かなことは考えるな。
約束を違え、もしオレを出し抜こうとすれば、おまえたちは真のキリハラを知ることになる。
浅はかな愚行の先にあるのは、強力無比な後悔でしかない。
後悔したくなければ。
命が惜しければ。
救われたければ。
この寛容と譲歩のかたまりでしかない完全なる王命に、従うしかない。
今やオレは、事実として、神にすら等しい存在となっている。
蠅王などという紛い物とは違う。
どちらが上かは……言うまでもなさすぎる。
オレはおまえを認めない。
分不相応は、許されてはならない。
この意味……わかるやつにはわかる。
おまえだ。
いいか。
オレは、この世界をただす。
すべてを正しき姿へ。
――――――――――――――――新たなる北の地の王 桐原拓斗
▽
今、俺は軍議を行う一室にいた。
セラスとムニンは、俺の左右の席に腰を下ろしている。
卓を挟んで対面の席には狂美帝。
その左右には、ルハイトとカイゼが座っている。
狂美帝が伝書を置き、俺に尋ねた。
「どう思う?」
「白状しますと……実はワタシは、最果ての国に関係する者と特殊な遠距離間のやりとりによって、魔群帯の事情をある程度なら知ることができます。特殊な軍魔鳩のようなものとお考えください。その者の素性や連絡手段を明かすことはできません。そのような能力を持つと露見すると、その者の身に危険が及ぶためです。ただし……こうして得た情報を伝えることはできます」
俺はそんな感じに、エリカとその使い魔の情報をフェイクをまぜて明かした。
ヴィシスのスパイがいる可能性を考えると”禁忌の魔女”の情報は伏せておきたい。
狂美帝が問いかける目で、俺を見据える。
「つまり……」
「ええ、伝書にあった人面種を含む金眼の群れの大移動は――確認されております」
カイゼが鋭い視線を俺に向ける。
「そいつらはやはりミラへ?」
「ええ。このままの進路から推測するならば」
「しかも、聞けばその、深部である北方魔群帯の……」
「はい。魔群帯に詳しい最果ての国の者から聞いた話によれば、北方魔群帯は、最も危険な金眼たちの棲む地域とのことです」
陛下、とルハイトが静かに呼びかける。
「大魔帝はこのタクト・キリハラによって討たれたと見て、よさそうでしょうか?」
「アヤカ・ソゴウが倒した可能性も残ってはいる。しかし、彼女が女神と共にアライオンを発った日付の報告を見ても……余は今のところ、キリハラと見る」
俺も、同意を示す。
「現状においては、ワタシもそう思います」
……大魔帝を倒したのは桐原か。
思案ポーズで唸るカイゼ。
「金眼を従属させる力……蠅王の話を聞く限り、信じるしかないようだな。まさか、異界の勇者が金眼を従属させる力を手に入れるとは……」
「タクト・キリハラの外見の特徴はコバト・カシマから聞いております。例の者の報告によれば、魔群帯内で目撃された魔物の操作者と思われる者と、特徴が一致しております。ほぼキリハラで間違いないかと」
「……まずもってこの男、正気とは思えません」
そうぽつりと言ったのは、ルハイト。
「所々がそうですが、特に後半が……支離滅裂に思えます。何を言っているのか、よくわからない……”新たなる北の地の王”などと名乗っているのも、私には理解が追いつかず……何かこう……理性を逸脱した、偏執狂的なものを感じます」
桐原拓斗。
廃棄寸前の記憶。
それを、引っ張り出す。
さらに――修学旅行のバス内。
もっと遡り、学園生活をしていた頃……。
俺の知る桐原拓斗と、何か、違う気もする。
安智弘と同じか。
異世界に来て――何かが、壊れたか。
あるいは俺のように。
生来備わっていた”何か”が、引きずり出されたのか。
カイゼが尋ねる。
「陛下、魔群帯の金眼たち我がミラへ向かっているのは事実のようです……いかがいたしますか?」
狂美帝は肘をつき、こめかみの辺りの髪を手でくしゃりとやった。
「……大魔帝の生み出した金眼の邪王素による影響が消えたゆえ、新たに生み出された金眼どもと戦いやすくなったのは事実だ。しかし、人面種が脅威であることは変わらない。ネーアやバクオスが出てきた東の対ウルザ戦に、先日の帝都襲撃による被害……ここへ魔群帯からの魔の軍勢が加わるとなると――ちと、厳しい戦いとなるか」
ちら、と狂美帝が俺とセラスに視線を飛ばす。
「あの二人を差し出せば……防げる、か。だが――」
狂美帝はどこかふてぶてしく頬杖をつき、
「余は、このような条件を呑むつもりはない」
ルハイトは微笑み、ええ、と首肯する。
「ここでキリハラの条件を呑み、すべてを差し出して、仮にキリハラを凌いだとしても……女神が健在な以上、我が国の行く末は暗いかと」
「蠅王は今や対女神戦力として欠かせぬ存在、と余は思っている……それに、ここでその場凌ぎの生け贄とすれば、最果ての国との同盟も失うこととなろう」
ですが、と腕組みするカイゼ。
「対応策はどういたしますか? 今、ミラにキリハラと魔の軍勢を引き受けるだけの余裕はありません。ようやく帝都へ集結させた虎の子の”予備戦団”を使っても、防ぎ切れるとは思えませんが……」
予備戦団。
実は、ミラは亜人を西部に隠れ住ませているという。
大分前にミラとヨナトは亜人に寛容な国と聞いた記憶は、ある。
亜人の多くは最果ての国に隠れている。
また、大半のエルフは大幻術と呼ばれる結界の向こうに籠もったという。
しかし、豹人のスピード族のように残った者たちもいる。
けれど到着直後、帝都で亜人を見かけたことはなかった。
ミラの領内でもだ。
ヨナトは殲滅聖勢の一員になるならば、と亜人を受け入れている。
聖勢になればそれなりの待遇とのことだ。
ただし数はそう多くないと聞く。
で、ミラである。
ミラは、亜人たちに隠れ里を与え保護しているそうだ。
この方針は、禁字族を呼び込む意図もあったのだろう。
ちなみに待遇はよいらしく、けっこういい暮らしができているとか。
そして――
ミラに保護される際、提示される条件の中に含まれているのが、予備戦団への参加である。
来たる決戦の時、予備戦団が呼び寄せられる。
特徴的なのは、その参集への拒否権があることかもしれない。
正当な言い分だと認められれば予備戦団への参加は免除されるそうだ。
ただ、
”ミラが滅べば、次は自分たちなのではないか?”
そう思うゆえか。
あるいは、最果ての国との同盟を結んだ話が広がったからか。
戦える者は、そのほとんどが今回の参集に応じたという。
ヨナトも聖騎兵とかいう隠し球があったようだが。
ミラにもそういう隠し球があったわけだ。
確かにこの頃、亜人の姿をぽつぽつ見かけるようになっていた。
しかし、
「そうだな……予備戦団では、キリハラの軍勢の相手は無理であろう」
「魔の軍勢の操作能力を持つキリハラを――」
俺がしゃべり出すと、三兄弟の注意が一気にこちらへ注がれた。
「――倒してさえしまえば、ミラへ向かっている金眼たちもすべて止めることができるのではないか……ワタシは、そう考えますが」
ややあって。
狂美帝が息をつく。
「……すまぬな。そちの口から、言わせてしまった」
「お気遣いなく」
そう。
気遣いは必要ない。
「やれるか?」
「ワタシ以外には難しいとお考えだからこそ、陛下もワタシに頼むおつもりだったのでしょう?」
「……まあ、な」
それに。
これは、俺が処理する案件に思える。
理由は――桐原拓斗が憎悪を向けている対象である。
まず、憎悪の対象が狂美帝ではなく”蠅王”な点だ。
さて。
なぜ憎悪の対象が蠅王だと思うのか?
差し出せと要求している拘束対象が、狂美帝ではないからだ。
なぜか、蠅王なのである。
もっと言えば、だ。
ミラへ侵攻すると言っているわりに伝書内に狂美帝への言及が一切ない。
個人としての言及は蠅王とセラス・アシュレインのみ。
つまり――この二名に対し、桐原は何か執着がある。
ならば、
『おれはおまえを、許さない』
この一文の“おまえ”は、狂美帝ではなく蠅王のことではないか。
では、桐原は蠅王の何を“許さない”のか?
何を”認めない”のか?
蠅王としてこの世界で名が上がっていること?
視線を隣へ移す。
あるいは、桐原がほしがっているらしい――
「?」
セラス・アシュレインが、隣にいるからか。
……許さない、か。
文章から滲み出すこの、
”すべてを手に入れるに値する今の自分”
そんな、ドロドロとした筆圧……。
「…………」
今ではもう、手垢まみれで陳腐化した感はあるのかもしれないが……
俺のいた世界に”承認欲求”というワードがあった。
他者から承認されたい。
認めてほしい。
注目を集めたい。
すごくなったはずの自分を、認めてほしい。
”大魔帝を倒したオレは誰よりもすごい”
モブとしてずっと潜んでいたかった三森灯河。
正体を偽り、コソコソと飛び回っていた蠅の王。
桐原拓斗は――真逆、と言えるのか。
承認欲求のバケモノ。
「…………」
ったく。
セラスあたりでも隣に置かなきゃ……
自分の価値も、自覚できねぇってか。
幸せと不幸。
価値の判断。
勝ちと負け。
……相対的、ってのはな。
悪くすりゃ人の精神を蝕み、果てには殺すぜ――桐原。
俺は、言った。
「大魔帝を倒し、果てには金眼を従属させる能力を手に入れたことで、今のキリハラは全能感を得ているのかもしれません」
ここで一つ気になるのは、クソ女神の動きである。
ヴィシスは桐原を始末していない。
今の桐原はヴィシスより強いのか?
存外、ヴィシスも手を焼いてたりするのか?
どうも――あのクソ女神の動きが見えない。
裏にいるヴィシスの存在は、常に頭の隅に置いておくべきだろう。
この桐原暴走の局面で、あいつが何も動かないはずはない。
あるいは。
桐原を、暴走させておく理由があるのか。
俺は続ける。
「タクト・キリハラは、セラス・アシュレインを欲している。世界を救った自分には世界一と言われる美貌を”所有”する権利がある――そう思っている。そして、そのセラスを”所有”する蠅王が気に入らない……つまりこれは、ワタシがこの国にいることで起きている厄介ごとでもあります。ならば、ワタシが責任をもって彼を止めるべきでしょう」
「そこは少し違うな、蠅王」
狂美帝が言った。
「責任だと? そちやセラスが原因のような言い方を認めるわけにはいかぬな。そちたちを味方に引き入れる決断をしたのは余だ。つまらぬことを言うな」
「もちろん、陛下ならばそうおっしゃってくださると思っておりました」
「ふん……、――意地の悪い男め」
……へぇ。
狂美帝もあんな顔をするんだな。
少し、面白いものを見た。
「ワタシとしても、本番である対女神戦の前にミラに沈んでもらっては困ります。女神が率いるアライオンに対抗するには、ミラの戦力が必要ですから」
何より。
桐原が蠅王を憎んでいる以上、放置したら対女神戦で横槍を入れてくる可能性は高い。
こんな危うい不確定要素は早めに潰しておくべきだ。
うん、とルハイトが一つ頷いた。
「そうですね……もし、蠅王がキリハラとその軍をどうにかしてくれるなら……我々は予定通り、東へ――」
バァン!
勢いよく、両開きの部屋のドアが、開け放たれた。
「悪いが、邪魔するよ」
ドアを開けた男は、ハウゼン・ディアス。
選帝三家の一つであるディアス家の当主。
若い頃はかなり美男子だったと思われる、あの老人である。
そして彼の横から伝令が一人、蹴躓きそうになりながら入ってきた。
狂美帝が尋ねる。
「合図があるまで決して入るなと言いつけてあったが……あのハウゼン・ディアスに入室の手伝いを頼んででも報告したいことが起こった、か――何ごとだ?」
伝令が肩で大きく呼吸をしながら、
「は、敗走です、陛下ッ!」
「東の軍がか? とすれば……我らも早く赴かねばならぬか。して、軍はどの辺りまで――」
「敵軍は、ミラの国境を越える勢いです!」
ガタッ!
反射的に腰を浮かせたのは、カイゼ。
「なんだと!? あそこまで押し込んでおいてか!?」
ルハイトも眉根をきつく寄せている。
いつもの柔和さがない。
「女王カトレアと今の黒竜騎士団が加わっただけで、そうなるとも思えませんが……」
「となると――」
「勇者……アヤカ・ソゴウです!」
出てきたのか?
対人間のこの戦争に?
あの十河綾香が?
不確定要素。
振れたか、そっちに。
俺が狂美帝を見ると、向こうもこっちを一瞥する。
「アヤカ・ソゴウだけか?」
「い、今のところ勇者は一人しか確認されておりません! そして各将に加え、チェスター様が囚われの身に!」
場に一瞬、沈黙がおりる。
時間が停止したような間があって、
「東のミラ軍の総指揮官が――囚われたというのか!?」
悪い冗談でも聞いたかのように、カイゼが言った。
東のミラ軍の情報は事前に聞いていた。
東の軍の総指揮官を務めているのがチェスター・オルド。
選帝三家であるオルド家の次期当主だという。
戦上手で名高く、戦士としての腕もずば抜けていると聞いたが……。
「戦局は……ア、アヤカ・ソゴウの参戦によって一変したとのことです!」
カイゼが両手を卓につき、
「馬鹿なッ! 大魔帝や女神、あのシビト・ガートランドならともかく……勇者とはいえ、たった一人で戦局を左右するなど――」
ぐっ、とそこで言葉に詰まるカイゼ。
たった今、魔の軍勢を率いる勇者の話をしていたのだ。
「ぐ……S級勇者、か」
さらに場を騒然とさせる報告が続く。
カイゼはもはや、唖然とした状態になっていた。
「し、死者を極力出さないように戦っている……だと? 指揮官級の者が次々と捕虜になり……兵には撤退を促し、捕まった者も解放し……それでも最後まで抵抗する捕虜の兵は、ウルザに捕虜として留められている……? ば、馬鹿な……戦争、だぞ……」
伝令は思い出したように膝をつき、震えた声で答える。
「兵たちの多くは……奇妙な魔法生物らしき騎士姿の者たちに気絶させられるか、その騎士姿の者たちの妨害によって……む、無力化されるなりしており……」
そして伝令は、不気味なほどの死者の少なさについて語った。
両軍の死者数が極端に抑えられている理由……。
主な要因は、謎の銀の軍勢。
銀。
連想されるのはやはり十河綾香の固有スキル。
ただ……。
俺の知る情報では、軍勢を生み出すスキルなどなかったはず。
スキルの進化か。
伝令は項垂れるように俯き、震えるこぶしを床についた。
「せ、戦場をこうも掻き乱され続けては……も、もはや戦も何もないかと……全体の士気も日に日に目に見えて下がっているとのことで……くだんの勇者……こちらが倒せそうとはまるで感じられず、しかし、向こうからは殺意も感じられず――あ、あまつさえ! 自分のした行為を、しゃ、謝罪までしてくるようなのですっ! 加えて敵の混成軍は明らかにカトレア・シュトラミウスが出てきたことで、全体の動きが格段に見違えております! 黒竜騎士団の黒竜の使い方も、見事というほかなく――ただ、やはり……アヤカ・ソゴウ! あれだけは……あれ、だけは――」
伝令が顔を上げ、
「シビト・ガートランドの再来……あるいは、それ以上なのではないかと! 無茶苦茶です! 単騎でやってきて、くだんの銀の軍勢を出現させ……一直線に、指揮官級の者めがけて突っ込んでくるのですッ!」
ルハイトが尋ねる。
「先ほど次々と捕虜に、と言いましたが……指揮官級の者は、殺されてはいないのですか?」
「い、今のところ殺されたという報告はありませんっ……一つもですっ。あ、いえ……報告の通り、戦いの中でもちろん戦死者は出ているのですが……その……アヤカ・ソゴウが直接敵を殺したのを見た者もいないらしい、と……」
ルハイトは伝令を見て、
「その銀の勇者……もはや、手の打ちようはないのですか?」
「……と……止められません、誰も。どんな武将を……どんな人数をぶつけてもです。罠にもかかりません。なんというか……とある輝煌戦団の者の話によれば、あれは勇者の特別な力というより……何か、戦う人間として……て、天性の……」
今さらながら、疑問がよぎった。
十河綾香の強さ。
それは……。
勇者としての力だけのもの、なのか?
それとも。
あの委員長自体が、そもそも何か――。
伝令は再び面を伏せると、心情を吐露するように言った。
「恥ずかしながら……わ、私は恐ろしくなりました! 何か、は、謀られているのではないかと……自分がこうしてしゃべっている内容に、も、もはや現実味が……」
狂美帝が尋ねた。
「その銀の軍勢……先日の白き軍勢とは違うものなのか?」
これにはハウゼンが答える。
「先ほど事前に聞いたところですと、その銀の軍勢は、先日の白いのとはどうも別物のようですな。金眼ではないし、死んだ際の気味の悪いお手々繋ぎもないようですし……」
ハウゼンは、さらに特徴を報告した。
ふむ、と狂美帝が情報を整理する。
「アヤカ・ソゴウから離れすぎると原型を保てぬらしい、か。確かに違うな。この前の白き軍勢は、主と思われる追放帝から離れてもかなりの広範囲で活動していた。こちらの活動範囲が狭い点という点は、まだ救いかもしれぬ。しかしその一方で、先日の白き軍勢と比べると、殺して無力化するというのが難しい相手のようだな。さらに……戦っても先日の白き軍勢より手強いらしい、か。つまり……」
内心は、わからない。
しかし狂美帝は、落ち着いた声音で続けた。
「アヤカ・ソゴウ――東の戦い、このS級勇者を無力化せねば光明は見えまい。今こそ……アレらの出番か」
厳かに椅子へ背を預け直し、狂美帝は言った。
「アサギ・イクサバを呼べ」




