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ソウルイーター


 遺跡帯を出た俺は上のエリアへ向かった。


「魂喰い、か」


 最強と称された暗黒の勇者。

 その人物が勝てなかった魔物。

 まあ、魔物かどうかも今は不明なのだが……。

 暗黒の勇者は遺跡エリアで力尽きていた。

 魂喰いと遭遇し傷を負った彼は、あの部屋まで逃げてきた。

 で、力尽きた。

 状況から察するに、そんな感じか。

 魂喰い。

 かなりヤバそうな魔物なのは想像がつく。

 遭遇せずに脱出は可能だろうか?


「多分できるなら、暗黒の勇者ならやってるよな……」


 大賢者と呼ばれていたくらいだし。

 俺より頭の回る人物だったはずだ。

 だから遭遇は避けられないと考えておくべきだろう。

 手に視線を落とす。


「この状態異常スキルで、やれるといいけど」


 もし魔法に対する抵抗力みたいなものが存在するなら……。

 抵抗力を貫通できなければ効果は出ない。

 女神に効かなかったあの一件が引っかかる。

 果たして状態異常スキルが効かないのは女神だけなのか?

 最強の男を追い詰め、死に至らしめた相手。

 魂喰い。

 逆に考えると、そいつに効くなら自信もつきそうだ。

 最強の男を死に至らしめた相手にも効くわけだからな。


「…………」


 この一戦、今後の重要な分水嶺となるかもしれない。


 俺の状態異常スキルが”どのレベル”にあるのかを示す、重要な分水嶺に。



     ▽



 二つほど階層をのぼった。

 魔物とはまだ遭遇していない。

 通路は石造りだった。

 自然に形成されたものではない。

 不自然な通路。

 つまり人の手の加わった文明の通路だ。

 二つのエリア間には階段も確認できた。

 さっきの遺跡帯もだったが、人の営みの残滓がある。

 元々は廃棄目的の場所ではなかったのだろう。


「この遺跡も、廃棄遺跡なんて名づけられてハズレくじを引かされた気分だろうな――っと……」


 通路の壁に背を密着させる。

 首を出し、様子をうかがう。

 開けた場所。

 闇に閉ざされていない。

 微妙にだが壁が光っているのか……。

 素材が魔素に反応している、とかか?

 とにかく灯りいらずの場所のようだ。

 遺跡と言われて納得できる建造物がぐるりと一帯を囲んでいる。

 地肌の剥き出しになっている土壁。

 剥がれ落ちた人造の壁面が地面にたくさん落ちていた。

 小さな地震でも起こったあとみたいな光景。


 それと――人骨。


 四人分くらいだろうか。

 過去にここへ辿り着いた廃棄者は少なくとも四人いた。

 いや――暗黒の勇者を含めれば五人か。

 暗黒の勇者の仲間だろうか?

 あるいは別々にのぼってきたのだろうか?

 適した戦闘能力と食料さえあれば一応のぼってはこられるだろう。

 俺の場合、戦闘はスキル頼みだったが……。

 まあ戦わずとも、便利な魔術があれば魔物から逃げ延びることもできたはず。

 とはいえ、


「…………」


 無念だったと思う。

 ようやく、ここまでのぼって来たのに。


 俺は首を振った。

 だから感傷的になっている場合じゃない。

 観察を続ける。

 奥の方に上へ続く階段が見えた。

 階段の先には大きな扉が確認できる……。

 あそこから地上へ繋がっているのだろうか?

 しかし、だとすると――


 


 魂喰い。


 しかし――どこにいる?

 名前からして霊体っぽいやつなのか?

 様子をうかがっても、それらしき魔物はいない。

 覗きこむように首をもう少し出す。


 となると、あっちか。


 奥まった場所に別のエリアがあるらしい。

 ここからだと角度的に見えないが……。

 発光の残る皮袋を俺は通路の向こうに置いた。

 そうしてさっきの通路へ戻る。

 目立たぬよう、壁際に沿って移動を開始する。

 何ごともなく別エリアの近くに到着。

 少し顔を出せば壁の向こう側を覗ける位置。


 静かだ……。

 壁越しにゆっくり顔を出して覗き込む。

 こっちのエリアは、どうなって――


「!」


 なんだあれ?

 顔、か?

 たとえば、そう――仏像とか聖母像。

 最初にまず浮かんだのはそれだった。

 巨大な石像の顔が土の壁に埋まっている。

 額に金色の宝石っぽいものが嵌め込まれているが……。

 ハッとして振り返る。

 さっきの階段の先にある閉ざされた扉の中心。

 あの窪みの形……。

 再度、石顔せきがんの額を確認する。

 なるほど。

 扉を開くためには、額のあの石を嵌め込めってことか?


「…………」


 小さく息を吐く。

 つーか……決まりじゃねぇか。

 どう考えてもアレが――魂喰い。

 宝石を取りに行けば動き出す。

 絶対、動き出す。

 動き出さないわけがない。

 俺は角から少しだけそっと半身を出した。

 腕を出すために。

 手を石顔の方へ突き出す。


「【パラ――」


 ビシュゥンッ!


「――ッ!? ……ぁ゛、――ぁあ゛ッ!?」


 反射的に身を隠す。


「く、ぁっ!? ぁ゛――ッ!?」


 ポタッ、ポタタッ……


 血が数滴、地面に落ちる。


「――っ、……ってぇな……くそ……っ」


 嫌な感じがして、感覚的に手を引っ込めたが。

 少しでも遅れていたら、


 肘から先を――失っていたかもしれない。


 出血した場所を確認する。

 ……よし、大丈夫だ。

 指先の爪と肉を少しもっていかれただけだ。

 せいぜい生爪が剥がれた程度の痛み。

 ズキズキするだけだ。

 生爪を剥ぐ痛みは実の親にやられて経験済みだしな……。

 所詮、既知の痛み。

 用意していた布きれをポケットから取り出し、素早く指先を縛る。


 キュッ


 で――今の攻撃はなんだ?

 桐原の固有スキルに少し似ていた。

 ビームのような攻撃。

 一瞬、土の壁の中が光ったように見えた。

 そうしたら急に撃たれた。

 まさに一瞬の出来事。

 光の速さ、とでも言えばいいのか。

 俺が固有スキル名を言い切る前に撃ってきた。

 読んでいるのだ。


 俺が向こうの動きの予兆を、感ずるように。

 向こうもこちら側の予兆を、察知してきた。


 逆に、


 


 俺が攻撃の意思を持った瞬間にあのビームが発動する。

 あれではこちら側が得られない。

 攻撃のための――空隙を。

 どうする?

 脱出にはあの宝石の入手が必須のはずだ。

 人面石を殺せればまず入手できるだろう。


 だが、あのビーム相手では固有スキル発動のための過程を終えられない。


 発動にはスキル名称の口頭発声が必要となる。

 ある程度の声量も必要とされる。

 これらは上へのぼる途中に行った検証で明らかになっていた。


 どうする?

 打開策は今以上のステータスのアップか?

 レベリングを再開しに遺跡エリアへ戻る?

 あるいはスキルレベルのアップを試みる?

 覚えるかわからない新スキルに賭けて、また下層でレベリングを再開するのか?

 いや――そもそもスキルが発動できないのだ。

 となると、まず俺自身のレベルを上げて【速さ】を伸ばす?

 俺以外の気配がなくなったエリアへ戻って……一日中、魔物を捜し続けるのか?

 それとも、経験値が低くなる下へさらに戻る?

 戻るって――どこまで?


「あるいは――」


 遺跡の住人になって暮らす?


「……ねぇな」


 あの遺跡エリアでのんびり暮らすなんてのはごめんだ。

 対女神用の力を手に入れて、あのクソ女神をぶっ潰す。

 その達成のためには、まず地上へ出ないと話にならない。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……


 ん?


「なんだ?」


 地鳴り……?

 エリアの石の壁面の一部が、さらに振動で剥がれ落ちていく。


 出て、きやがったのか。


 俺の方に動きがないためだろうか?

 埋まっていた場所から移動し始めたらしい。


「…………」


 光速と思えるあの迎撃速度。

 ステータスで言えば【速さ】の値が桁違いなのだろうか?

 下層で培われた俺自身の反射神経をも上回る反射性能。

 腕を向けた瞬間、即迎撃される。

 いわば意識の空隙がミチミチに埋まっている状態。


 要するに、隙がない。


 ズキズキと痛む指先を見る。


 ここまで辿り着いた廃棄者たちは、ステータスで言えば相当な実力者だったはずだ。

 だが彼らもアレにやられた。

 アレは最強と呼ばれた男すらをも退けた。


 魂喰い。


 おそらくは廃棄者の生存率をゼロたらしめた存在。

 間違いない。

 遺跡の主は、あいつだ。


 だからこれは、きっと――


「廃棄遺跡での、最後の生存競争になる」


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