間章.根源なる邪悪の地
前回更新後、1件レビューをいただきました。ありがとうございます。
そして、毎度ながら新刊の発売時期の関係で……申し訳ございません、8巻の時ほど長ったらしくはならないと思うので、まえがきでの新刊告知をさせていただきたく……。
本日6/25(土)に『ハズレ枠の【状態異常スキル】で最強になった俺がすべてを蹂躙するまで』9巻が発売となりました。
9巻も細かな書き分けなどを行いつつ、追加の書き下ろしコンテンツを収録しております。
「最果ての国にいる時、蠅王装を縫っていたセラスが以前からずっと抱いていた悩みをトーカに打ち明けるシーン」
「帝都ルヴァの迎賓館に到着したあと、疲労困憊になったムニンとトーカが二人で会話するシーン」
「セラスが、ムニンと二人で迎賓館のお風呂に入るシーン」
主なシーンを挙げると、以上の3シーンとなるでしょうか。
特に一つ目のシーンでは、セラスがこれまでずっと個人的に抱え続けていたものが語られています。セラスのこのシーンがあることで、9巻内のとあるシーンの彼女の見え方も少し違ってくるところがあるかもしれません。このシーンが物語の結末を分岐させるかまでは不明ですが、セラス・アシュレインとしての(そして、三森灯河としても)一つの大きな告白であることは確かだと思います。
他にも(ほんの数行ですが)再会した小山田翔吾とニャンタン・キキーパットが言葉を交わしたり、ニャンタンが剣虎団のリリと会話しているシーンも追加されています。また、作中の一部表現はWeb版の方が若干マイルドになっているところもあります。シーンによっては、書籍版とWeb版で説明量が増減しているシーンもございます(どこまでどれをどう説明するかも、テンポや尺の問題で取捨選択が難しいところではありますね)。
収録されているカラーイラストは、セラスがずっと抱えてきたものをトーカに打ち明けた時のワンシーン(書き下ろしシーンに対応したイラストとなります)、トーカの前で服を着替えようとするムニン(とそれを慌てて止めるセラス)、そして、小説版ではビジュアル初お目見えとなる小山田翔吾&トーカのイラストとなっております。
挿絵の方は、今回もなかなかばらけた印象ですね。そういえば安智弘も、小説版ではこの巻でビジュアルとしては初登場でしょうか。初登場といえば、個人的にリリ・アダマンティンの挿絵はとても好きでした。他には、セラスとムニンが一緒にお風呂に入っている追加シーンなども挿絵になっております。
9巻は一つの決着がつく巻でもあり、同時に次の決着へ向かっていく流れの作られた巻ともいえるでしょうか。
相変わらず何かといっぱいいっぱいで試行錯誤の日々ではございますが、どんな形であれ、最後までどうにか踏ん張って書き切りたいと思っております。ご購入くださっている皆さまのお手もとに最終巻をお届けできるよう、がんばります。
◇【大魔帝】◇
キリハラがこの地に来て、どのくらい経っただろうか。
大陸最北の根源なる邪悪の地。
航海不能海域に囲われた不毛の大地である。
空はほぼ厚い積乱雲に覆われ、光も差さぬ地。
険しい山脈がヒトの地とここを隔て、辿り着く手段も限られている。
その地には朽ちた古城があった。
もはや一階部分しか残っていない。
天井の残る場所など、数えるほどしかない。
キリハラは今、ここからやや離れた場所で金眼の魔物を殺している。
魂力――経験値を得るために。
提案したのはキリハラ。
大魔帝が魔物を生み出し、キリハラが殺し経験値を得る。
キリハラはそれで強くなる。
彼の生活は占領した大誓壁から運んだ物資で賄われている。
これでキリハラは人らしい生活ができていた。
あの大砦は備蓄が豊富だった。
キリハラ一人賄うくらいは、なんの問題もない。
「今日の分は終わりだ」
灰色の空を望む古代の王の間に、キリハラが現れた。
キリハラが歩いてきて大魔帝の隣に座る。
元々それは大魔帝が使っていた椅子であった。
今、大魔帝は王女の座についている。
大魔帝はどちらの座であろうと気にしない。
しかしキリハラにはこだわりがあるようで、
『王の座だけがオレを、待ち続けている』
そう言って、あちらの王の座を望んだ。
「どうダ?」
「やはりレベルアップの伸びが鈍化してきている……これはヴィシスのところで不遇をかこっていた頃からすでに起こっていた。いよいよこのオレも天井、というわけか」
「伸び代がなくなってきている、ト?」
「おまえの視野の狭さには、驚かざるをえない」
「…………」
「なぜ王は王なのか……それは、真の王の伸び代が一つにとどまらないからだ。オレのレベルアップに終わりの気配が近づいてきていようと、それは単に一つの伸び代が”達した”にすぎない。他を伸ばすべき段階に辿り着いただけの話……おまえに王の素質があれば、理解できるはずだ」
「では他に、何が伸びル?」
「すべてだ」
「?」
「レベルアップの終焉とは、つまるところ土台が整ったことを示している……王の本番はそこからだ。まあ……スキルレベルは、まだ伸び代があるのかもしれないが」
「つまリ……」
「いまだオレには、伸び代しかない」
虚勢、ではない。
大魔帝にはわかる。
キリハラは言葉に違わず、心の底からそう確信しているのだ。
「真の王は偽る必要がない、そのままの姿で”すべて”だからだ……カ?」
「その調子でオレから学んでいけば、いずれおまえもオレに辿り着く……オレが世界の王になれば、すべてがオレになる。その時、完全な世界が生まれる」
大魔帝は真意を探るように、
「最後はすべてを――コすらも、排除するというのカ」
「違うとわかれ。おまえがキリハラになれば、おまえはおまえであると同時に、オレだということだ」
「?」
「たとえば思想に感銘を受けて染まるやつも同じだ。子どもにしてもな。親と生活していると合わせ鏡のように、表情や顔のつくり、声、考え方が酷似していく……同化だ。このままいけばおまえもいずれ、オレと遜色がなくなる」
「よく、わからぬガ……キリハラ、ソの望みはなんなのダ? コはそれを知りたい。ソはその強さを女神や勇者たちにわからせた果てに、何を望ム?」
「相手を知りたいと思うのは重要だぜ、大魔帝……オレのいた世界はどいつもこいつも自分のことばかりで、まともに人の話に耳を貸すやつなんて希少種だったからな。誰も本当の意味では人の話なんざ聞いちゃいない。右から左へ抜けてやがる。だからこそ人間は常に間違える。十河たちも間違えた……オレを学ぶしか、正解はなかった」
「……ゆえに知りたいのダ。ソの最終目標ヲ。ソはコに何を望み、最終的に何を果たしたイ?」
「今日も同盟者に探りを入れにくるか。おまえの疑り深さはつくづくか……どう足掻いても、疑うか――それがおまえの、王性か」
「教えて、くれぬカ」
「聞く姿勢を示した者には王も動かざるをえない……宿命だぜ。いいだろう。国を一つもらい、オレの国とする」
「コは神族と人を滅ぼすべく存在していル。生まれついた瞬間からそう宿命づけられているのダ。理由はなイ。神族と人を、滅ぼさねばならヌ……」
「例外なくか?」
「限られた例外ならば、作れぬこともないガ」
「ならいい」
「その先は、詳しく聞かぬのカ」
「まずオレはその例外で間違いない。そしてオレも例外を選ぶ……例外だけが生き残り、オレの国の民となる。そこになんの問題がある?」
「だが、最後は滅ぼす……猶予は与えることができるが、コが消滅するまでに神族と人はすべて滅ばねばならなイ。まさに、宿命づけられているのダ」
「おまえの寿命は何年もつ?」
「長ければ……500年くらい、とコは読んでいル」
「なら何も問題はない」
「?」
「オレが生きている間だけ、オレの国を存続させろ」
「なんだト?」
「オレが死んだあとのことなどオレの知ったことじゃねーな……オレのいた世界の大人どもを見てればわかる。自分の死んだあとの世界について本気で考え動くやつなど、どこを見渡してもいなかった。人間は常に自分をごまかそうとするが……結局、自分のためだけに生き、自分のためだけに死ぬ生き物だ。それに気づくやつと気づかないやつがいる……格別、それだけの話でしかない」
「ソの国を、ソが生きている間だけ保護すればよいのカ?」
「いや……オレの国以外に、もう一つ国を残す」
「なゼ?」
「オレを見せつける相手は残しておく必要がある。王の人生を紡ぐ”敵”も必要だ……半端じゃねーからな……」
「…………」
「あとは……オレが例外として生かすと決めた人間以外は、好きに殺せ」
「たとえば、どんな者が例外となル?」
「勇者連中や、他だと……セラス・アシュレインとかか。そう多くはない」
「ふム」
「この大陸には七つも国がある。うち五つはオレが死ぬのを待たず、好きに滅ぼすのを許可してやる」
「……よいのカ? 人間はソの同族であろウ? コらは人を苦しめて殺す……ソらからすれば、残虐性のかたまリ。そう行うよう本能が動いている……それでも、いいのカ?」」
「オレの王性を認める才能のないやつをオレは人間と認めるわけにはいかない。そんなやつらがどんな死を迎えようが、それは自業自得……むしろ、後悔するにはいい薬だ」
「……ソの国の子孫たちも、そんな風に滅ぼされてもよいのカ?」
「くどい。オレの消えた世界など、もはや世界として成り立ちようがない。このオレと切り離された時点で、世界なんてものは終わったにも等しい……」
「よくは、わからぬが……ソの考え方には何か……強固な信念があル。よかろう、ソの提案を受け入れよう。では……最後に一ツ」
「質問ばかりでいよいよ辟易がきてる。一つだけだ。オレこそが、ただ唯一だからな」
「元の世界へ戻りたくはないのカ?」
そこにも神や人間がいるのなら滅ぼしたいところだ。
が、神族を頼らなければならない時点で難度は高いであろう。
キリハラが髪を後ろへなでつけ、ため息をついた。
「あの時、十河の前で言った通りでしかない……オレのいた世界はもう終わってる。どれほど力をつけようが、得られるものなどたかが知れてる……あの世界では、誰もキリハラになることはない。永劫な」
「そうか、わかっタ。よかろウ」
「やれやれ……ようやくわかったか。よし……これで成立だ――何もかも」
大誓壁などから収奪した歴史書を読んだ。
過去、根源なる邪悪と手を取り合った勇者はいない。
ありうるのだろうか、と疑問に思う。
キリハラの言葉がすべて本心なのは間違いない。
これを”わかる”ように大魔帝はできている。
本気なのか。
本気でキリハラは、根源なる邪悪と共に世界を敵に回すつもりなのか。
信じられないが。
信じる要素しかない。
当然、味方になったと思わせ、隙を見て殺しにくるのも想定していた。
しかし嘘がない。
殺意も敵意もなければ、騙している気配もない。
むしろ大魔帝に好意すら覗かせている。
まったく奇妙だ。
この人間――キリハラは。
大魔帝の価値観。
それが、脆くも崩れ去りそうになっている。
キリハラはこれまで認識していた”人間”と何か違う。
当初は始末する手も考えていた。
でなくともあの危険な勇者――ソゴウへの盾となる。
キリハラを相手取った瞬間、ソゴウの動きは目に見えて鈍った。
あのソゴウという勇者は危険極まりない。
根源なる邪悪としての本能が、そう告げた。
そんな対ソゴウの駒として使えると判断した。
勇者に勇者をぶつけるというのも、また一興。
しかも大魔帝である自分にキリハラは本気で味方しようとしている。
使い道のある駒が手に入った、くらいの認識だった。
しかし、と大魔帝はキリハラを眺める。
少し改めねばならないのかもしれない。
人間に対する認識を。
大魔帝が認識していたよりずっと――
人間とは、侮れぬ存在なのかもしれない。
強さではなく、その精神性……。
自分が思うより人間の底は深い。
少し”人間”という存在に興味が出てきていたのも、事実だった。
もっと知ってみたい。
ふと、そう思わされてしまった。
王座から立ち上がるキリハラ。
――チャキッ――
キリハラが、カタナの柄に触れた。
「おまえは……ようやくキリハラにふさわしい相手かもしれねーな。いいだろう。世界に目にものを見せるぞ、大魔帝。目にものの大進撃が始まる――始めざるを、えない」
「よかろう……ソがコに何を見せてくれるのか、いささか楽しみにもなってきタ」
▽
キリハラの金眼の魔物殺しは続いた。
大魔帝もキリハラの経験値となる金眼を生み出し続けた。
経験値目的以外にも、再侵攻用の軍勢も吐き出し続けねばならない。
ほぼ休みなく生み出し続けているせいだろうか。
ソゴウから受けた傷の修復も遅い。
アイングランツに力を分け与えたのも、修復の遅い理由であろう。
ただ……。
報告によれば、人間側の方で内紛が起こっているらしい。
反女神の国が反旗を翻したという。
先日、大魔帝は軍勢の一部を大誓壁の南に集結させた。
女神の軍勢にこちらからも睨みをきかせる。
北の大魔帝勢力。
女神を裏切った西のミラ帝国。
さぞ女神も、戦力を動かしにくくなるであろう。
「例のキリハラの国以外で一つ残す国は、こたびの褒賞という意味で……そのミラとやらで、よいかもしれぬナ」
経験値を得てレベルが1上がったキリハラが、
「狂美帝とかいうやつの国か。オレとしてはアライオンを残したいところだが……まあ、ミラでもかまわない。サンドバッグの素質があれば、オレは認めるしかなくなる。結局のところな」
布で汗を拭いながら、そう言った。
今日も二人は王と王女の座に、並んで座っている。
「しかし……おまえの情報収集能力もそれなりで褒めるぜ、大魔帝。こっちの戦力も整ってきた。特に話が通じる魔族どもは使える……第四誓以下の連中も、配下としては悪くない点数を出せる……オレだけが、採点者だ」
大魔帝は、立ち上がった。
「キリハラ、コは――」
ドシュゥウ――――ッ!
「?」
胸元へ、視界を向ける。
突き出ていた。
刃が。
金色の光を、纏った刃。
「――【金色、龍鳴剣】――……」
ドシュゥウウッ!
全身を、痛みが、駆け巡った。
生まれて初めて味わう、凄絶な痛み……ッ!
「ぐ、ォ……ッ!?」
金眼を体内で操り背後へ移動させる。
その者しかいるはずがない。
だが、信じがたさゆえに目を移動させ、確認してしまう。
「キリ、ハラ……ッ、一体、何……ヲ……ッ」
「気が変わった」
「なん、だ……トッ!?」
ドシュゥウッ!
三度目――金色の撃光が、大魔帝の体内を駆け巡る。
「ぐ、おぉぉおおおオっ!?」
思わず大魔帝は、床に転がった。
這いつくばるような姿勢から、どうにか体勢を変えようとする。
「我が帝ッ!? に、人間……キリハラぁ、己ぇぇえええエ……ッ!」
「ぎャひルゃァぁアあアあ!」
側近級や魔族、金眼の魔物が、異変を察知し集まってくる。
この数の魔族と魔物を相手に勝てるはずはない。
MPとやらも切れるし、体力も尽きるであろう。
レベルアップはもう頭打ちと聞いた。
それによる不条理な回復とやらも、望めまい。
いくら最上等級の勇者と言えど――もう、終わりだ。
力が入らず震える手で、這って移動しようとする大魔帝。
完全なる不意打ち、だった。
キリハラは嘘がつけない。
すべて本心だったのは間違いない。
それゆえにかなり大魔帝の警戒心は薄れていた。
共に戦い――あの約束を、果たすつもりだった。
キリハラも、自分も。
が、
気が変わった、だト?
演技でもなく。
まるで脈絡のない――ただの、心変わり。
前触れも、何もなく。
ただ気まぐれに”気が変わった”と、言うのか。
攻撃を仕掛けるその直前で……。
そんなのものは――
真偽判定ができようが、なんの意味もないではないか。
「気が、変わった……だト? 何を、言っテ……」
「……土壇場で、気づいちまったわけだ。この世界で王になっただけでオレは本気で満足なのか……それは、元いた世界から逃げているだけじゃないのか……と。肯定、せざるをえない……オレは! この世界で王としての責務を、まっとうしたあとは! やはり元の世界でも王となるべく、その宿命に殉じるしかないらしい……ッ! キリハラは結局、キリハラから逃れられない運命――すべてが、キリハラだ!」
「わ、わか……らヌ……」
「我が帝!」
「や、やれ……ゾハク……総勢をもって、キリハラを……殺、セッ!」
「御意!」
側近級や魔物たちが高台から跳ね、襲いかかった。
「もはやこれまでの凡百なキリハラではない――まぎれもなく次のオレが、ここにいる。これが、王の器が辿り着いた極地の一つ……」
キリハラの身体から――
「 【金色龍鳴鎖】 」
百本にも迫ろうかという大量の金色の鎖が、放出された。
「な、ニ……ッ!?」
側近級や一部の魔物が反射的に防御姿勢を取る。
が、半透明の鎖は防御をすり抜け、それらの体内に吸収されていく。
「……すでに、効果は試してある。今日からおまえたちの主は大魔帝から変更になった……このオレだ。オレでしか、ありえない……鎖という絆が今、ここに生まれた……ッ! おまえたちは今からキリハラの礎であり――オレそのものへと近づくことを、許された」
側近級や魔物たちの攻撃動作が止まった。
それらは地面にそのまま着地し、キリハラを取り囲む。
だが、攻撃する気配はない。
「ぐ、ヌっ!」
キリハラは這いずる大魔帝を踏みつけ、
「オレの【金色龍鳴剣】……射程はまるで足りねーが、威力のケタが違うらしい……ふさわしい」
懐から、黒い水晶の首飾りを取り出した。
「オレもヴィシスから首飾りをすでに与えられている。誰が倒すかはわからねーわけだから……S級には案外、全員に配ってたのかもな。これも、摂理か」
「キリ、ハラ……ッ」
「謝罪しておく……おまえには見所が散見されていた。が……元の世界に戻るためにはおまえの心臓――特別な邪王素が必要になる。心からすまないと思っているぜ。しかしオレはやはり元の世界へ戻らざるをえない……この世界だけで王になっても、オレはオレを認められない。気づくのが必然だった。生まれたのが、必然だった」
そういうことカ、と大魔帝は気づいた。
不意打ちに反応できなかった、もう一つの理由。
敵意が。
殺意が。
なかったのだ。
今ですらそうだ。
向けられるのはただひたすらに好意……。
申し訳なさより、好意が勝っている。
おそらくはその純然すぎる好意が、他の感情を塗り潰している。
まるでそれは、王が優秀な配下に抱くような好意で。
この人間の男は――好意をもって、殺すのか。
平然と。
あれほど言葉を、約束を、交わした相手を。
「オレはおまえが好きだし認めている。もはや殺すしか道はない。確かな好意がある。そしてどうやら王の道は友の血で敷かれている……認めざるをえねーな、この摂理だけは」
血。
血だ。
血の涙を、流している。
側近級が。
金眼の魔物が。
我が仔らが。
何もできずに、啼いている……。
キリハラが四たび、大魔帝に刃を突き刺す。
「おまえがこれ以上苦しまずに済むよう、フルパワーでいく……おまえはある意味、オレにとって貴重な理解ある友だったかもしれない。オレは、おまえのことをおそらく嫌いにはなれない――――死ね」
「これが……人、間……なの、カ……キリ、ハ――」
「【金色、龍鳴剣】」
天まで届くほどに――大魔帝が、爆ぜた。
金色の光と、共に。
そうしてその場に残されたのは、タクト・キリハラと、生みの親の危機に何もできなかった側近級や魔物たち、そして――
大魔帝の、心臓であった。
◇【桐原拓斗】◇
彼の背後には、無数の魔族や金眼の魔物たちが、ずらりと並んでいる。
背後の軍勢は、そのずっと後ろまで続いている。
すぐ背面にいる側近級や魔物は歯を食いしばり、血の涙を流していた。
その前方で足を開き、床に置いた刀の先端を支えに王座につく――桐原拓斗。
「これで王の軍勢は……整った。大魔帝にはやはり感謝せざるをえない。時はきた……ここからついに、オレを始める」
数匹の金波龍を周囲に纏った桐原は鋭く、しかし静かに、大誓壁の方角を見据える。
「これより王の戦いを、次のステージへと進める」
新たなる金色の王は、何を見据え、何を成すのか――
「まずはヴィシス」