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少しばかりの休息を

 現在コミックガルド様にてコミック版の27話が無料公開されております。白足亭のエピソードとなりますね。27話は、トーカらしさを特に引き出していただけた回だとも感じております。また、28話は現在有料となっておりますが、こちらは所々の感情豊かなキャラクターの表情の楽しさもさることながら、人面種のデザインがとにかく素晴らしい回でございました……。







「勇者は説得し、こちらへ引き込む方針なのですね?」


 問うと、狂美帝は思考を巡らすようにして下唇を撫でた。

 やや間があってから、


「実はすでに余の手の者が、とあるS級勇者と裏で何度か接触をしている」

「…………」


 これには俺も、それなりに驚きを覚えた。

 どこかで接触を試みるだろうとは思っていた。

 が、すでに成功してたのか。


「この話は、特に内密に願いたい」


 狂美帝のトーンは今日の中で最も真剣味を帯びていた。


「承知しました。しかし、すでに接触に成功していたとは……」


 ”いよいよそれも明かすのですね?”


 そう言わんばかりに固唾をのむホークの横で、狂美帝は言う。


「大魔帝軍の大侵攻の予兆が出始めた頃から、アライオンの王都エノーへ間者かんじゃを放つのがそれなりに可能になってきたのだ。大魔帝が本格的に動き出したことで、どうやら女神も足もとを見ている余裕がなくなってきたらしい」


 女神にとって大魔帝は天敵と聞く。

 当然、意識を向ける優先順位は天敵の方が高くなるわけだ。

 ミラの反乱前なら、なおさら意識は向かなかっただろう。

 ……しかしS級勇者か。


「ワタシが面識があるのは、S級勇者ですとアヤカ・ソゴウという女勇者ですが……接触相手はその者でしょうか?」

「いや」


 となると……。

 桐原か、高雄姉のいずれかとなるが――


「その者の名は、ヒジリ・タカオという」


 高雄姉か。


「今のところ、手応えはありそうだ。どうもそのヒジリというS級勇者もあまり女神を信用できていないらしい。向こうからの返事が色よくなってきたのは”女神に頼らず元の世界へ戻る方法がある”と伝えてからだな。同じS級勇者のアヤカ・ソゴウにも機を見つつ話してみる――ヒジリ・タカオからは間者を通してそのような連絡を受けたところだ。次の報告は、まだ届いておらぬが……」


 十河も引き込もうとしてるのか。

 ……やれるかもしれない。

 高雄聖なら。

 上手く、やるかもしれない。


「報告を聞く限りヒジリは賢い人物に思える。A級の妹の方も、姉である自分についてくるだろうとのことだ。ただ……余もまだ完全にヒジリ・タカオを信用できているわけではない。アサギ・イクサバと違って直接会っていないのでな。S級勇者を抱き込もうとして逆にこちらが女神に踊らされるのは、避けねばならぬ」


「その話しぶりですと……陛下がアサギ・イクサバたちを味方に引き込んでいることは、まだヒジリ・タカオには伝えていないのですね?」

「アサギ・イクサバたちのことを明かすのはまだ早かろう。まずヒジリ・タカオに直接会って人物を見定めたいと余は考えている。本当に信用できるかどうかを、見極めるために」


 ……もし、説得が成功して。

 十河綾香が敵として立ちはだからず。

 高雄姉妹と共にこちら側につくのなら。

 女神討伐における障壁は一気に減る。

 懸念としての十河の存在が消えるのはでかい。

 が、あのクソ女神がS級勇者の裏切りをそう簡単に見過ごすだろうか……?

 ハードルは、高く思える。

 しかし高雄聖が動くなら……。

 2-Cの連中の方も案外、上手くおさまるかもしれない。

 つまり、


「不安要素の勇者をどうにかできれば……この戦いにおいて残る問題は、女神自身のみ」

「そうなるが、あの女神についてはわかっていないことも多い。であるからこそ、仕留めるなら確実にやらねばならぬ。失敗は許されない。ゆえに余は、禁呪の秘密を手に入れたい」


 ここで初めて狂美帝が視線を明確にムニンへ置いた。

 ムニンは姿勢よく、適度な緊張感を持ちつつふんわり座っている。


「そこで例の秘密の封印されたお部屋、ですね?」


 柔和に問うムニンに、狂美帝が首肯する。


「うむ……文献によれば、禁呪の中には女神を弱体化させるものもあるという」


 多分この前ムニンが習得した無効化の禁呪がそれだ。

 もちろん、また別種の弱体化の禁呪っていう線はありうるが。


「封印部屋にその禁呪の呪文書があれば、アサギ・イクサバの奥の手の確実性を高められる……余は、そう考えている」


 戦場浅葱の奥の手。

 固有スキル、か。

 ……探りを入れる頃合いかもな。


「奥の手、ですか。陛下は先の交渉時”あれも神をも引きずり降ろす力”とおっしゃっていましたが」

「そうだ、あの者の持つ奥の手はある意味……神をも殺すやもしれぬ」


 そこまで言わせるほどの固有スキルなのか。

 ……たとえば、だが。

 状態異常系統でなければ――


 あの忌々しい【女神の解呪(ディスペルバブル)】も、関係なく効果を及ぼせるのか?


 それなら禁呪がなくとも浅葱は固有スキルを女神に決められることになる。

 が、やはり狂美帝はその詳細な効果まで明かす気はなさそうだった。

 空気でわかる。

 なら、


「しかし驚きました。まさか異界の勇者が、女神を裏切るとは」

「つくづくあの女神は、信用がないらしい」


 アサギは勧誘を受けたのち、狂美帝にこう言ったという。


『女神ちんについてくよりはツィーネちんについてった方が、今のところうちのグループみんなが無事に元の世界へ戻れる確率高そうなんでー』


 浅葱らしいっちゃ浅葱らしいが……。

 ま、狂美帝がクソ女神より信用できそうってのは同意だ。

 ……戦場浅葱か。

 やはりあいつはどことなく俺に似てる気がしなくもない。

 たとえば、本来の自分とは違うキャラを演じている感じもあって。

 けど、あいつはそれだけじゃない。

 ただ状況に流されているだけのように見えて……


 実はすべてを計算し尽くしている感じも、なくはない。


 浅葱は何を考えているのか読みにくいところがある。

 常に曖昧なのだ。

 本意がどこにあるのかわかりにくい。

 感情も、読み取りづらい。


「…………」


 前から、ぼんやり感じていたのかもしれない。

 戦場浅葱に以前から覚えていたある種の違和感。


 普通に見えて”普通”じゃない。


 内心、ため息をつく。


 狂美帝。

 戦場浅葱。

 この国にいる間は、これまで以上に気が抜けないかもな……。


 そのあとは俺の使う呪術について狂美帝から尋ねられた。

 勇者の固有スキルとバレぬよう前から用意していた説明をする。

 嘘ではないが隠すべきところはごまかす、いつものやり方。

 他にはピギ丸の存在を明かしたりもした(狂美帝も気になっていたらしい)。


 ミラ周り関連についても狂美帝からいくらか話を聞けた。

 城についたあとの話も馬車内でホークから説明を受ける。

 そうして正午をすぎた頃――ようやく馬車は、城の門を潜った。



     ▽



 どこかロータリーを思わせる広場まで来て、馬車は停止した。

 出迎えの者がぞろぞろと城の扉から出てくる。

 まずはホークが下車した。

 次に狂美帝。

 続いて、俺が降りる。


 ここでやることは主に三つ。


 調印式。

 リストアップした大宝物庫の品を譲り受ける。

 そして、禁呪に関する封印部屋――その封印を解く。


 と、ついてきていたスレイが甘えるようにすり寄ってきた。

 ずっと馬車についてきていたが、ちょっと不安だったらしい。

 スレイを撫でてやりつつ視線を転じる。

 視線の先には、のぼってきたなだらかな石畳の坂が続いていて――

 今いる坂の上から、最初に入った詰め所のある帝都の東側が見渡せた。


 城壁を見るに帝都の防備は強固そうだ。

 帝都要塞といった趣である。

 ちなみに城が近づいてきた頃、狂美帝がカーテンを開けさせた。

 なので今以外にも帝都の様子を眺める機会はあった。

 一応戦時下のはずだが、思ったよりも空気はピリッとしていなかった。

 ま、イヴと会った頃のウルザ王都と比べたら緊張感はあったが。


 背後の城を振り返る。


 環状の城壁。

 物見の尖塔。

 矢狭間。

 石畳。


 そして――帝都中央にそびえる豪壮かつ絢爛な城。


 上空から見るとこの城は三重の防壁で囲まれる形になっているのだろう。


 外側から第三へき、第二壁、第一壁と中心へ向かっていき――


 中心に白亜の城が、鎮座している。


 元いた世界だと外側から三、二、一の郭――


 そんで本丸、って感じか。


 城の色調は全体的に白がベースになっている。

 が、何もかも白一色ってわけでもない。

 たとえば壁の溝部分は主に金銀に塗られている。

 それらがアクセントをつけるようにして、所々で白地を鮮やかに彩っていた。


 ……なんか洒落たデザイナーとかが作った城って感じだ。

 

 さて、そんな城のあるこの帝都は大きく三つの区画に分かれている。


 皇帝の居城やその血縁者、位の高い貴族の住まう中央区画。

 これが第一壁の内側にあるいわば”核”にあたる区画。


 その中央区画の外側に広がる区画には、そこそこの位の貴族や有力な商家――

 つまり、中堅の地位を持つ者たちが住んでいる。

 これが第二区画。


 そんな第二区画を守る第二壁の外側がそれ以外の住む第三区画、となるそうだ。


 で、壁の外にも農業、畜産、狩猟などを生業とする者たちが一部点在しているとか。


 大雑把に分ければ、そんな感じらしい。


 と、長衣を着た文官風の男が足早に狂美帝へ近づいていくのが見えた。


「陛下」

「急ぎか?」

「ハッ……少々問題が。あ、その……お耳もとを、失礼いたします」


 文官風の男は声量を落とし、耳打ちを始める。

 イヴの耳なら聴き取れたかもしない。

 が、さすがに俺の耳だと話の内容まではわからなかった。

 その時、おぉ、と周りで感嘆のさざ波が起こった。

 どうもムニンのあとに降りたセラスへの反応のようだ。

 ……狂美帝を見慣れてる連中でも、初めてセラスを生で見るとああなるもんか。


「ふふ。あなたも毎度ながら大変ね、セラスさん」


 降車時にセラスの手を取っていたムニンがくすりと微笑む。

 ほんのり朱を両頬に滲ませ、苦笑するセラス。


「私もやはり、仮面をつけるべきでしょうか……」


 と、


「失礼ながら、急用ができた」


 狂美帝がそう言うと、場の注目がセラスからそちらへ集まる。

 身を翻す狂美帝。


「ホーク、このあとの蠅王ノ戦団の案内は任せる」

「お任せを」

「すまぬな、ベルゼギア殿」

「いえ、今は戦時下にございます。こちらも、事態の急転は想定しておりますので」

「そう言ってもらえると助かる。ああ――例の件と大宝物庫の品の譲渡には問題ないゆえ、そこは案ずるな」


 例の件とは、封印部屋のことだろう。

 狂美帝はそのまま家臣と護衛を引き連れて城内へと消えた。

 ホークはそんな皇帝の後ろ姿を見送ってから、


「では、まず蠅王ノ戦団の方々にご滞在いただく迎賓館げいひんかんへご案内いたしましょう」



     ▽



「さすが、贅をつくした感じですね……」


 所在なさげに長椅子にちょんと座り、きょろきょろと室内を眺めるセラス。

 俺たちは館の一室に入ったのち、ようやく腰を落ち着けていた。

 ここは間取り的に――使い勝手としては、リビングみたいなもんか。

 俺たちが連れて行かれたのは、メインの城館の傍に建てられた館だった。

 イメージ的にはちょっと豪華な”離れ”って感じか。

 この館の周りにも、似た大小様々な館がいくつか点在している。


「ピギー! ピギ! ピギ! ピギー! ピニュイー!」


 室内でそこかしこを跳ね回っているのはピギ丸。


「ポヨンポヨン! ポヨヨーン!」


 広さのせいか、豪華さのせいか。

 やたらとテンションが高い。

 ……どうした、ピギ丸。

 ちなみにホークは城内で過ごす際のあれこれを説明したのち、先ほど辞去した。

 なので今ここには蠅王ノ戦団の面々しかいない。

 俺も長椅子に腰掛ける。


「セラスも昔は王宮暮らしだったんだろ? そのセラスから見ても、そんなそわそわする感じなのか?」


 感触を確かめるように長椅子の羽毛を撫でるセラス。


「手のかけ方が、まるで違いますね……素材一つとっても……噂には聞いていましたが、これほどとは……」

「案外、一番いい館を割り当ててもらったのかもな」


 実際、一番でかい館だしな。

 と、荷物を置いたムニンがふらふらと寄ってきた。

 そのまま倒れ込むようにして羽毛を張ったソファに座り、


「はぅん」


 と、背もたれにしなだれかかる。

 ふぁさ、と長い銀髪が清流のように流れた。


「大分お疲れだな」

「ごめんなさい……翼の収納をしてると、やっぱり疲れやすいみたいで……およよ……」

「ここならカーテンを締めておけば、翼は出しててもいいんじゃないか? 翼を出してる姿はこの前の交渉でも晒してるわけだし……それこそ、俺たちしかいない場所なら問題ないだろ」


 そう、翼の収納は負担がある。


「休める時は、休んでおいた方がいい」

「そう? わーい♪ なら早速、翼を出しておけるこっちの普段着に……」

「ちょっ――ム、ムニン殿ッ!?」

「あらセラスさん? 何かしら?」

「お着替えになるのでしたら、せ、せめて我が主に見えないところで――が、よろしいかと……ッ!」

「――はっ!? そ、そうよねっ……やだ、わたしったら♪ すっかり主様に心を許してしまって……はぁー、恥ずかしいっ……」

「…………」

「うぅ……そ、そうよね……何より、ベルゼギアさんだってこんなおばさんの着替えを目の前で見せられても……きっと目に毒……ポイズン……」

「そんなことはないから、さっさと向こうで着替えてきてくれ」

「はーい♪」


 着替えを抱えて隣の部屋へ消えるムニン。

 パタンッ、とドアが閉まった。

 ひと息つくように、その閉まったドアを見つめるセラス。

 彼女は、フォローするみたいな微笑みを浮かべた。


「ム、ムニン殿は無邪気で茶目っ気があると言いますか……とても、純真な方ですよね……」

「……苦手なタイプだ」


 カチャッ!


「ちょっと、主様っ!? もしかして今、わたしの陰口を言ってたんじゃありませんこと!? もう! だとしたらひどいわ!」


 肩の辺りが微妙にはだけたムニンが、ドアから半身を覗かせている。


「あんた、全部わかった上で言ってるだろ……」

「ふふふ、バレてしまっては仕方がない♪ ふふ……すぐに着替えてしまうから、ちょっとだけ待っててね?」


 パタンッ、と。

 再び、ドアが閉じられる。 

 あれはあれで……ほら、ムードメーカー的なとこがある。

 族長なんてのをずっとやってるからか。

 あえて空気が深刻になりすぎないように、俺たちに気を遣って――


「きゃー下がきつくて脱げない! あ、これはまずいわ! セラスさんお願い、脱がすの手伝っ――」


 カチャ


「ム――ムニン殿!? き、着替え途中で出てくるのはまずいかと! わ、私がそちらに行きますから!」

「セラスさんこれって……わたし、まさか太ったのかしら!? わたしの下半身、ふ、太くなったと思う!? セラスさん!?」

「そ、そんなことを私に聞かれましてもっ――」


 ……………………俺たちへの気遣い、だよな?



     ▽



 あのあと、俺たちは館内をざっとチェックし終えた。

 特に怪しいところはなさそうだった。

 普通に大事な客を招くための建物と見ていいだろう。


「自由に出歩いていい、と言われてたな」


 といっても、入ってはいけないと言われている場所も当然ある。

 窓際から俺は外庭を観察し、


「さすがに監視はつけてるか……のわりに、そう隠す気もなさそうだが」


 あの狂美帝だ。

 向こうも、俺が監視に気づくのは織り込み済みなのだろう。


「……少し、その辺を散策してくる。二人は疲れてるだろうから、休んでおけ」


 セラスと視線を交わす。


「承知いたしました。では、私はムニン殿とここでお待ちしております」


 ムニンは背もたれつきのソファに寝そべり、寝息を立てている。

 ここまでの旅でそれなりに疲労を溜めているのは気づいていた。

 慣れない外の世界だ。

 俺たちとは比べものにならない情報量が、ドッと流れ込んでくるわけで。

 メンタル的にも疲れたに違いない。

 当人は悟られないように振る舞っていたようだが。

 声の調子や会話の反応速度から、疲労は察していた。

 なので、ムニンはしばらく休ませた方がいい。

 が、クロサガである彼女を一人にするわけにもいかない。

 セラスはそれをすぐ察してくれたらしい。

 ……ま、動き回るにも俺一人の方が動きやすい。

 三人でぞろぞろ行っても今は悪目立ちするだけだ。

 セラスの真偽判定は欲しい気もするが……ここは、ムニン優先だろう。


「頼んだ、セラス」

「お気をつけて」



     ▽



 館を出た俺は、花壇と植え込みの横を抜けてそのまま石畳の上を進んだ。

 迎賓館のエリアを出て、右手に折れる。

 その先にあった小さな庭を抜けると、渡り廊下に入った。

 廊下の先には扉があり、衛兵が二人立っている。

 兵たちはいささかの緊張をもって、


「蠅王ベルゼギア様でございますね? 何か、ご用でしょうか?」

「城内を見学したいと思いまして。ご存じかもしれませんが、陛下の許可はいただいております」

「ええ、あなたが来られた時にはお通しするよう言われております――どうぞ」


 兵が扉を開き、すんなり城内に足を踏み入れることができた。

 絨毯の敷かれた長い廊下。

 床はこれ……大理石か?

 掃除の行き届いた大きなガラス窓。

 窓枠一つとっても上質な素材っぽいのがわかる。

 まだ外が明るいからか、等間隔に壁に配された掛け燭に火は灯っていない。

 廊下の壁に一度背を預け、懐から城内の見取り図を取り出す。

 ホークから渡されたものだ。

 入ってもいいエリアが色分けされている。

 ま、そもそもこの城内の見取り図は”客用”だろう。

 そんな客用の見取り図に、城内のすべてが素直に網羅されているはずもない。

 当然、封印部屋らしき場所もこの図の中にはなさそうだ。


「…………」


 監視は……三人か。

 気配を消すのが上手いのが一人いる。

 が、イヴほどじゃない。

 そんなに気にする必要はなさそうだ。

 俺は気づいた素振りを見せず、廊下を進む。

 開けた場所に出た。

 天井の高い広い空間である。

 象牙色をした手すりの階段があって、上の階へと続いている。

 この広間は、二階まで吹き抜けになっていた。

 で、


「…………」

「おり?」


 階段をのぼった先――二階部分。

 ちょうど階段を降りようとしていたらしき人物が、俺に気づいた。


「だりかと思えば。その悪堕ちヒーローみたいなお姿は、蠅王ちん」

「ああ、確かあなたは……」


 俺はその方向を見上げたまま、その名を口にする。



「アサギ・イクサバ殿」





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― 新着の感想 ―
[良い点] ムニンおばさん好き。
[気になる点] ムニンの性格が変わった??
[気になる点] >そのあとは俺の使う呪術について狂美帝から尋ねられた。 >勇者の固有スキルとバレぬよう前から用意していた説明をする。 >嘘ではないが隠すべきところはごまかす、いつものやり方。 具体的に…
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