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「ベルゼギア様――ッ」


 出やがった。


 姿を、現した。


 やはりスキルは食らってなかったようだ。

 と、再び男は姿を消した。

 ヤツが姿を現したのは【スロウ】の効果範囲ギリギリ。

 効果範囲のいわば”端っこ”だった。


 ……野郎。

 効果範囲に入った瞬間、違和感を覚えやがったか。

 姿が消える時、ヤツは後ろへ”離れて”いった。

 近づいてくる、のではなく。


 刹那、風切り音が”出現”し――


 キィン!


 剣。

 剣だ。

 姿を消したまま――剣を、投擲してきやがった。

 【スロウ】効果で剣は”遅く”なっている。

 セラスがそのまま、飛んできた剣を弾き飛ばす。

 ……こちらの【スロウ】の正体を探ってやがる。

 このまま時間が経てば――MP5000分は、底をつく。


「…………」


 しかし。

 一つ、不思議なことが起こった。

 初めての攻撃時……。

 ヤツが姿を現したのは約五メートル先だった。

 が、さっきは【スロウ】の範囲ギリギリに姿を現したのだ。

 五メートルどころじゃない、ずっと先で出てきたのである。

 あそこで姿を現す必要はないはず……。

 そう、出てくるメリットなど考えつかない。

 ではなぜ?

 一時的に解除された?

 何が原因で?


 ……動揺?


 確かに初めて【スロウ】を体験すれば驚くだろう。

 性質を即時に理解できるヤツほど”ヤバい”と思うはず。

 だからヤツは一瞬で後方へ”離脱”した。

 もしかすると、姿を消し続けるには……


 精神集中した状態でなくてはならない? 

 【スロウ】の範囲に入った瞬間、ヤツの意識が乱れた?

 精神的な揺さぶりをかけられれば、ヤツの能力を……”解除”できる?


 それに、精神集中し続ける必要があるなら……。

 通常より他へ意識を割きにくいとも言える、か。

 そこに、


 ヤツの空隙(スキ)を見つけるチャンスが、ある……?


 この間、敵は完全に【スロウ】の性質を理解したらしい。

 何本か投擲された剣をセラスが叩き落とした。

 直後――攻撃が、ピタリと止んだ。

 ステータス画面を一瞥。


「…………」


 時間切れ。

 MP5000分が、消費された。

 【スロウ】が解除される。

 ここからはクールタイム。

 しばらく【スロウ】は、使用できない。


 時間が、流れていく。


 耳が拾うのは、第六の連中の耳障りなうめき声だけ。


 ――ヒュッ――


 再び、剣が投擲された。

 これもセラスが叩き落とす。

 今回……剣は、遅くなっていない。

 明白だ。

 今のは、効果が持続してるかを確認するための一撃。


 しかし【スロウ】のおかげで。

 敵能力の性質は把握できてきた――気がする。

 攻略の糸口は”逆手”かもしれない。

 そう、ヤツの能力によって生じるアレを逆手に取れれば……


「…………」


 そして、


 


 俺は、とある記憶を探り出した。


「セラス」

「はい」

「防御を……任せていいか」

「はい。私は――」


 セラスの氷剣の霜が、濃度を増す。


「そのための、あなたの騎士です」


 出、現。


 斜め、後方――


 いち早くセラスが反応する。

 素早く腰を捻り流し斬りを浴びせかける。

 が、結果としてセラスのその攻撃は”防御”となった。

 彼女の刃がジョンドゥの剣を受け止める。

 俺は、


「――ク】」


 【ダーク】を使用。

 所持スキルの中だと、決め手としてはやや弱いスキル。

 たとえば、相手が目を閉じても戦える場合などには無意味と言える。

 が、三文字で言い終えられる最速のスキルでもある。

 しかし――言い終える前に、ジョンドゥは姿を消していた。

 【ダーク】でも間に合わねぇか。


 ”視認”

 ”腕を向ける”


 これを確保してから、スキル名を口にする。

 腕の向きは多少、当てずっぽうが成立したとしても。


 視認→口頭によるスキル名


 やはりこの過程がどうしてもネックとなる。

 続けざま、ジョンドゥは攻撃を仕掛けてきた。

 今回もギリギリ、どうにかセラスが防ぐ。


「ピピー!」


 ピギ丸も必死に感知しようとしていた。

 姿が見えないとなると、どうしても後方が気になる。

 が、敵はそれを理解した上で攻撃を組み立てている感じだ。

 だから前方や左右からの攻撃も混ぜてきている。

 しかし――感覚が、おかしくなりそうだ。

 姿を消した後は、まったく何も存在していないに等しい。

 言うなれば、存在と不存在が交互に明滅しているような感覚である。


「…………」


 にしても、こいつ……。

 俺はジョンドゥに、ある一つの奇妙さを覚えていた。

 と、




 ジョンドゥが、出現。




 刹那、



 パァン!



 弾けた。


 


 野、郎――


「くっ!?」


 セラスがどうにか反応。

 が、今回は完全にギリギリだった。


「大丈夫か」

「ぅ……申し訳ありません。これは、少々」

「――目かッ」


 野郎。

 地面に倒れている兵を”踏み潰し”やがった。

 飛び込んで踏み込む際、あえて頭部を踏み潰したのだ。

 血や色々なものが、勢いで破裂的に飛び散った。

 破裂した血や何やらが、一瞬、視界を奪ったのである。

 そして、セラスが飛散したその血で目をやられた。


 カシャッ


 セラスの額当てのバイザー。

 それが、下がった。

 久しぶりにこの機能を見た気がする。


「ですが……大丈夫です。私にとっては、目に映るものだけがすべてではありません――いけますッ」


 事実、


()ッ」

「【ダ――


 キィン!


 セラスは、次の攻撃を防いだ。

 防ぎやがった。


 ”視界に頼らない方が神経が研ぎ澄まされ、気配に敏感になる”


 いわゆるバトル漫画とかでよく見るアレだ。

 実際にそれをやるヤツが、目の前にいるわけか……。

 これには一瞬、さしものジョンドゥも驚きによって、動きが止ま――


――ーク】」


 ……ら、ねぇか。

 ジョンドゥは、すでに離脱している。

 激しい動揺はなかったようだ。

 状態異常スキルは……やはり、間に合わない。


「チッ」


 にしても――ここまで、速いか。

 斬り込んだ直後の離脱。

 直後っつーか……

 もはや攻撃と離脱を同時にやっているレベル。

 離脱がここまで速いってのは異常すぎる。

 敵は気配を消せるだけじゃない。

 あの速度も、ジョンドゥの強力な武器の一つか。


 ……しかし、だ。


 今のでほぼ、確定した気がする。

 ジョンドゥ、




 




「……………………」


 あると、するなら。

 そこが――




 ヤツの、空隙(スキ)か。








 前回更新後に新しく1件、レビューをいただきました。ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] トーカは17歳の知力ではないねぇ〜。
[良い点] 緊張感のある、面白い展開です。続きが気になります
[良い点] セラスがトーカが絡むバトルでちゃんと役に立ってるのは珍しい
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