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完全なる微笑


 前話の終盤ですが、意味合いが意図と変わっていたこともあり一部描写を修正しました。


 それと……本作のポイントが、400000ポイントを突破していました。ありがとうございます。こちらについては、今章が終わった時に改めて感謝を申し上げられればと思っています。


 ちなみに今話ですが、今話のとあるシーンは是非とも挿絵やカラーイラストで見たいような気がいたしますね……。


 それでは、引き続きお楽しみいただけましたら幸いでございます。









 射程圏内に――第六騎兵隊が、入った。


 が、ここだと全員を範囲に収められない。

 今回は一撃で決める必要がある。

 そのためには、もっと近づかなくてはならない。


「そういえばー……質を確かめることの他に、おれたちに会いたかった理由があると言ってたなー? なんだー? 気になるー」


 食いついた。


「とあるダークエルフの集落の噂を耳にしまして。その確認を、と」


 この話題。

 こちらから露骨に出すのは避けた。

 先ほどは、さりげなく餌を撒いた。

 第六の方から食いつくのを待ったのだ。


 ”相手から切り出してきた”


 より、


 ”気になって自分から尋ねた”


 の方が、疑念を薄くできる。


「ダークエルフー?」

「シャナティリス族という名に、心当たりは?」

「……あー、あれかー。あったなー。懐かしいなー……で、それがどうしたー?」

「シャナティリス族とは浅からぬ因縁がありまして……我々は、実は彼らに復讐する機会を狙っていたのです。正確には復讐を考えていたのは彼女──セラス・アシュレインですが」


 俺は、隣のセラスを示す。


「そいつが噂のセラス・アシュレインかー。ネーアで騎士団長をしてた美人で有名なハイエルフだったなー……で、それがどうしたー?」

「なぜ彼女が、ネーアへ身を寄せていたと?」

「知らないー。ネーアにいる理由には、口を閉ざしていると聞いたがー」

「追放されたからです」

「追放かー」

「彼女は生まれた国を追放され、ネーアに身を寄せたのです。そしてその追放の原因となったのが、とあるダークエルフの部族だったのです」

「――シャナティリス族、でありますか」


 ”ジョンドゥ”が言った。 


「なるほど、繋がったー。国に戻れなくなったなら、恨んでも仕方ないー。しかし隊長ー?」

「そうでありますな。シャナティリス族は我々第六が殲滅したであります。しかし……ベルゼギア殿が我々のところへ来たということは、つまり……」


 ”ジョンドゥ”が、セラスを見る。

 質問に答えるように、セラスは言った。


「はい。第六騎兵隊がシャナティリス族を滅ぼしてくださったと耳にし……それが真実か、確認しに来たのです」


 セラスの言葉を、俺が引き継ぐ。


「見捨てる前にミカエラからも確認を取りましたが、やはり当人たちに直接会って確認せねばならない。そして……せめて当人たちに礼の一つでも、と思ったわけです」


 偽りであっても、セラスの言葉にはやや悲痛がまじっていた。

 こんな話を口にすること自体、辛いのだろう。

 となると、セラスが喋る頻度は少ない方がいいか。

 ただまあ……声にかすかにまじるその悲痛さは、


 ”追放に苦しんだ自身の身の上を思い出しているため”


 とでも思わせればいいかもしれない。


「律儀だなー。確かに、あいつらはおれたち第六が全滅させたー」


 当人から、言質を取った。


「しかし、そういうことならもっと痛めつけて殺すべきだったんだなー。隊長も”楽に殺してやったのは失敗だった”って、言ってたしなー」


 セラスが、膝をつく。


「ですが……これでようやく胸のつかえが取れた気分です。あなたがた第六騎兵隊の皆さまには、心よりの礼を」


 続けて俺も、一礼。


「実は……セラスが恩人一人一人に”礼”をしたいと言っていまして」


 立ち上がるセラス。


「……はい。言葉ではなく、行動で……私なりの”感謝の意”を、示したいのです」


 ここで、兵たちの反応に変化があった。

 唾をのむ者がいて。

 セラスの身体を見る目にも変化が起こる。

 舐めまわすようにジロジロと眺める者が明らかに増えた。

 想定外の棚ぼた、とでも思っているのだろう。

 フェルエノクですら、強く唾をのみ下したのがわかった。

 兵が交わす控えめな声……


「あのセラス・アシュレインが、おれたちに……?」

「美貌で高名なあの姫騎士が……な、何をしてくれるというのでしょうか?」

「ごく……よく見れば実にそそるカラダをしていますよ、彼女……」

「顔が、見たいぞ」


 が、一人だけ。

 ”ジョンドゥ”だけが、変わらない。

 これは――ミスと言える。


 モブになり切るのなら。

 その他大勢に、なり切るのなら。

 相手に、舐められたいのなら。


 他の兵と同じ反応を示すのが、正解だった。

 ですが、と切り出すセラス。


「私が”感謝”を示すのは、あくまでシャナティリス族の襲撃に加わった方のみと考えています。申し訳ありませんが、襲撃に参加していない方には”感謝”を示すことができません」

「――全員参加であります」


 被せるように”ジョンドゥ”が言った。


「第六騎兵隊がここまで少数精鋭なのは、発足当初から人員を補充していないからであります。新しい顔ぶれを入れると純度が落ちる……これが、我々第六の考え方であります」


 ニヤ、と。

 フェルエノクが細めた目でセラスを見る。


「つまりー」

「全員、参加であります」



 ――決まりだ。



 セラスが、蠅騎士の面に指をかけた。


「承知、いたしました」


 皆の視線がセラスへ集中する。


 ”大陸全土に響き渡るその美貌”


 今、実物を目にできる。

 しかもこのあとには、その美貌の持ち主による妖しげな”感謝”まで待っている気配がある。


 セラスが、マスクを――脱ぐ。


 彼女は髪を軽く振り、マスクを手に第六騎兵隊を見た。



 そして、誘い込むように。

 が、備わった上品さを決して損なうことなく。

 セラスは、誰もがその心を奪われるほどの……

 そう、ある種の恐ろしさすら覚える――





 嫣然えんぜんとした微笑みを、浮かべた。





「――――――――」


「では、皆さま……これよりわたくしセラス・アシュレインより、この身をもって――「【パラ――ライズ】」――心よりの”感謝”の意を、示したく思います」


「すぐに、この二人を殺――」



     △



『トーカ殿』

『ん?』

『その、あの……私は……』

『なんだよ、言い辛い話か?』

『そんなにも、美しいでしょうか?』

『へぇ……珍しいな。セラスがそんな風に言うなんて――で、本題は?』

『ふふっ……さすがでございます。実は、ご相談したいことが』

『おまえもか』

『?』

『いや……で、相談ってのは?』

『あ、はい。私のこの顔や……この肢体の魅力を使い、敵の気を惹けるのでしたら……た、たとえばそれを利用して敵の気を逸らすなどは……可能、なのでしょうか? その……客観的な意見を、いただきたくて……』

『ま……やり方によっちゃ可能だろうな。けどそういうのは、おまえの流儀には合わないんじゃないか?』

『……さすがに、今回ばかりは許せないのです』

『竜煌兵団の件か』

『シャナティリス族の件もです。私は心から――彼らが、許せません』

『……おまえから、そういう案が出てくるとはな』

『ふふ――あなたに、染められたのかもしれません』

『だとしても、染まり切る必要はないさ。おまえにはおまえのよさがある。それを捨てちまうのは、もったいない』

『だとしても、今回は――』

『わかった。とすると、その美貌を活かすなら……蠅騎士のマスクが使えるかもしれない。ここぞという時まで隠されてる方が、効果は高い』


 そしてあとは、セラスなりの演技力で――



     ▽





 ――――――ピシッ、ビキッ――――――ピシッ――





 俺以外の誰もが。


 見惚れていて。

 見蕩れていた。


 心を、奪われていた。


 完全に。


 希代の美貌を備えたハイエルフの姫騎士。


 セラス・アシュレイン。


 覚悟を決めた――その一世一代の 演技 (微笑み)


 あの時、感情を露骨に表には出さなかった。

 が、セラスも豹兵と同じだったのだ。

 第六騎兵隊を、どうしても許せなかった。

 自分の流儀を曲げてでも、倒したかった。


「目……的は……なん――だぁー……? なん、だぁ……これ、はー?」



 非致死、設定。



「――【ポイズン】――」



 関係、ねぇ。


「お、まえぇー……ここ、で……裏切る、の……かぁー……ぐ、えぇー……」


 どれだけ、強かろうが。

 これさえ決めちまえば、いつだって”終わり”。

 本物のジョンドゥがどこに紛れていようと関係ない。

 ここにいるヤツら、全員まとめて麻痺させちまえば――



 それまで。



 全員を射程範囲に収める――まとめて終わらせるための、この距離。


 そう、


 激戦も、

 死闘も、

 必要ない。


 騙し、

 欺き、

 不意、打って――



 にハメちまえば、すべてそれまで。



 この枠外の――ハズレ枠の状態異常スキルは”そういうもの”。


 早速、俺は合図の音玉を――


「…………」

「やりましたね、我が主」

「――――」

「あ、あの……?」


 俺は、


 何を――見落としている?


 何か、妙だ。

 そう、何か……、


「……フェル、エノク」

「?」


 俺の戦意に気づき、あの中で真っ先に反応した者……。


 副長のフェルエノク。


 フェルエノクは俺の異変にいち早く気づいた。

 戦意に気づき、俺たちを殺せという命令へすぐさま転じた。

 結果としてはこちらの方が速かったわけだが……。

 瞬時に異変を感じ取り、唯一、反応してみせたのだ。

 この中で、そう……


 


 しかし、だ。


 ジョンドゥがいたなら……。

 反応していなければ、おかしいのではないか?

 隊長のジョンドゥが副長より鈍い?

 反応速度だけは、副長の方が優れている?

 どうにも――しっくりこない。

 それとも……考えすぎか?

 この【パラライズ】を食らった中に、普通にいるのか?

 本物のジョンドゥが。

 いや、どうも……違う気がする。

 何か――妙な。

 違和感が、あって。


「セラス……周囲を、警戒しろ」

「え? は、はいっ」

「ピギ丸、後方を頼む」

「ピッ!」


 この見晴らしのいい地形……。

 隠れる場所などない。

 どこから襲ってきても奇襲にはなりえない――はず。

 あるとすれば、超遠距離からの攻撃か。

 が、それならセラスが反応できるだろう。

 おそらく【スロウ】も間に合う。

 ただ、見方を変えればこの状況……


「セラス」

「――はい」

「隊長のジョンドゥは元々、こいつらの中にはいなかったのかもしれない」

「え? と、いいますと……?」

「ここには例の神獣もいなかった……ジョンドゥは、神獣と一緒に別行動を取っている可能性がある」


 敵にとって、神獣は扉を開く唯一の鍵。


「まさか……第六騎兵隊を囮にして、隊長のジョンドゥは扉の中へ!?」

「ありうる」


 こうなると……。

 こいつらに早くとどめを刺し、すぐに戻るべき――






「――――――――――――」






 こい、つ……



 



 



 五メートルほど先。



 男が、

 なんの前触れもなく、

 突如、




 




 男を認識した瞬間。


 俺はほとんど反射的といっていい動作で、腕を向け――


 いつだ?

 一体、いつ?




 




 この、距離――


()ッ――

「【スリー――




















 ◇【ジョンドゥ】◇



 第六騎兵隊は、どうでもいい。


 が、





 









 この辺りはあまり間を空けず更新できればと思っています。


 次話更新は、8/11(水)21:00頃を予定しております。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊迫感、溢れる描写。 思い返せばトーカって何度も死線をくぐってきてますけど、本当の意味で命を脅かされるギリギリの戦いと言えたのは、能力に慣れきってない廃棄遺跡と魂喰い、シビトと初期ぐらいで…
[一言] まぁ、メタ的な事言っちゃうと、同作者のソード・オブ・ベルゼビュートに主人公が最強の一角タグが付いていて ハズレ枠には主人公最強タグが付いている ベルゼビュートは超強いイメージでハズレ枠は主…
[一言] ステータスにふれてる感想あるけどボーナス値のみ公開で基準値が非公開だからほぼ意味ないのでは
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